2021年12月24日金曜日

MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめ

和声出現頻度の分析の位置づけ

  • 音楽の構造の中でも和音の種類や変化に注目。音楽の全体を対象としていないことは前提。

  • 最初の一歩。自分が既にやったことのある方法でできる範囲で。

  • 最終的には調的な遷移の特徴を捉えたい。

  • 最初の第一歩として、簡単にできるところから…

  • 和声出現頻度:状態遷移を捨象した量だけでわかることは?


関連する話題(分析のスコープは遥かに限定的なので部分的にしか一致しないが…)


  • アドルノ他の指摘をデータから裏付けることができるか?
  • 創作時期による変化をデータ上の変化で確認できるか?
  • 発展的調性をデータから特徴づけることができるか?
  • 古典的なパラダイムからの「逸脱」がデータから読み取れるか?
  • ドミナントシステムの代替パラダイムの手がかりが具体的に得られないか?

分析内容の概要


  • 分析対象 

    • 作品間の比較:創作時期:マーラーの交響曲の区分(角笛交響曲…)

  • 他の作曲家との比較:時代区分

  • 分析単位

  • MIDIファイル毎(概ね楽章単位だが稀に作品全体や楽章の一部の場合もあり)

  • 作品単位(特徴量の平均の計算が必要:平均の仕方に選択肢あり)

  • 作品群単位(特徴量の平均の計算が必要:平均の仕方に選択肢あり)

  • 分析対象の特徴量

  • 拍毎に和音をサンプリング(小節拍頭でのサンプリングも実施)

  • 対象となる和音:単音・重音含む・全ての和音を対象としていない

  • 20種類程度の主要な和音

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音(dim3) 、273:増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)、585 :減三+減七、89 :減三+短七、275 :増三+長七、281 :短三+長七

  • 出現頻度の上位を占める和音(対象に依存)

  • 分析手法:

    • 階層クラスタ分析

    • 非階層クラスタ分析

    • 主成分分析

  • 結果の表示方法

    • 箱ひげ図

    • デンドログラム

    • 主成分平面へのプロット

    • 主成分得点・負荷量のグラフ


和声出現頻度の分析で何がわかったか?

  • 和音出現頻度という音楽学的見地からすれば粗雑な特徴量でも作品についての一定の特徴が抽出できたと考える。以下にその一部を示す。

  • 他の作曲家の作品との比較については、非階層クラスタ分析、階層クラスタ分析、主成分分析のいずれの結果においても和音の出現頻度という特徴量によってマーラーの作品を他の作曲家から独立した一つのまとまりとして分類することができた。
  • 本分析に際して事前に設定した時代区分に概ね沿った分類結果が得られたが、必ずしも完全に対応しているわけではなく、一部では揺らぎが発生している。ただし各分析間の結果での揺らぎのパターンは同一であり、矛盾は発生しておらず、分類の安定性は高いと考えられる。
  • マーラー/ロマン派/古典派の区分が明確な点は各分析の結果に共通するが、単一の成分のみだと上記の区分までは行えても、概ね世代を同じくする作曲家(ここではシベリウスとラヴェルが該当する)との区別は明瞭でなく、以下の図に示すように、縦横の軸に対応する2つの成分の組み合わせによってマーラーの他の作曲家の作品と比較した時の特徴が説明できる。(左上の緑の楕円:マーラー、中央上の青の楕円:ロマン派、右上の黄土色の楕円:古典派、下の水色の楕円:近現代) 

  • 第1の横軸の成分と第2の縦軸の成分の組み合わせでマーラーの特徴づけを試みるならば、古典派と比較した場合には横軸の第1の成分により、古典派的な機能和声によるドミナントシステムとはやや異なった調的システムの機能がより優位であり、それが付加六の優越ということに繋がっていそうである。 
  • 以下に見るように、第1の成分についてはマーラー(緑)は全てマイナスで、マーラー同様にマイナスなのは同じく左側にプロットされていたシベリウスとラヴェルであること、逆にプラス方向なのは右側にあったペルゴレージ(赤)と古典派(橙色)であり、ロマン派(青)は中央にあって、総じてプラス寄りではあるが中立的、近現代(水色)でもスクリャービンとショスタコーヴィチもロマン派同様中立的であることがわかる。 
  • 一方マーラーを特徴づけていると考えられる和音の種類を負荷によって確認すると、最も大きいのが付加六(add6)で、長七和音(maj7)、空虚五度(dy:5)が続くことがわかる。一方でペルゴレージ(赤)と古典派(橙色)を特徴づけるのは、単音(mon)は措くとして、長三和音(maj3)と長三度(dy:+3)が多く、それに続くのが短三度(dy:-3)、属七(dom7)であることがわかる。


  • 概ね世代を同じくする作曲家との区別については縦軸の成分において行え、ここでは3和音・4和音が優位なマーラーに対して、そうではない近現代の他の作曲家との区別が可能に見える。(ただし注意すべきは、上記が今回分類の対象とした和音に限定した結果であり、特に近現代の他の作曲家の作品では未分類の和音が存在する点であり、機能和声においてポピュラーな和音ではない複雑な和音を使っていることが原因である可能性があることだ。)
  •  この成分でマーラー(緑)同様にプラスの傾向を持つのは、主として古典派(黄色)であり、ロマン派(青)は傾向が内部で分裂している。逆にマーラーとは対立するマイナス方向の傾向を持つのは、ラヴェルも含めた近代のグループ(水色:ショスタコーヴィチ、スクリャービンとラヴェル)とペルゴレージ(赤)であり、シベリウス、シューマンはグルックとともに中立的であると見ることができそうである。
  • 負荷の側を見てみると、プラスの寄与が大きいのは長和音(maj3)・属七(dom7)であり古典的ドミナントシステムを示唆するが、その一方で付加六(add6)もまたここではややプラスで、その点が第1の成分との差であるとともに、全般に見た時、寧ろ単音・重音が優位か、三和音、和音が優位かという点にこの成分の大きな特徴があるように窺える。

 
  • 以上より、マーラーの特徴づけとしては、典型的に古典派的なドミナントシステムに対して付加六の使用を中心とした別のシステムが存在することを窺わせる一方で、古典的なシステムが機能しなくなったわけではなく、機能和声で用いられる三和音・四和音が依然として用いられている点では古典派と共通しており、近現代におけるような複雑な和音の割合が高くなっているわけではないということが言えるのではないか、という点が本分析の結果から導かれると考える。
  • 本分析においては優越した2つの成分によってマーラーの特徴が取り出せることが確認できたものの、それぞれの成分が持つ意味については、上述の仮説として提示しうるレベルには到達できなかったため、その点を今後の課題としたい。


  • マーラーの作品内での区分については、これまでの分析結果や諸家の分類を本に区分を設定し直したが、和声の出現頻度との関わりがないとは言えないまでもきれいな対応は得られなかった。(角笛交響曲はコヒーレントなグループを形成しているが、中期交響曲は多様性を示しており、グループを形成しているとは認めがたい。後期は中期に比べれば一定の共通性を持つが、角笛交響曲程ではない。



  • 全体としてみた場合には中期交響曲のコヒーレンスの問題は残るが、分析の一部においては時代区分に沿った分類が得られたり、時代の推移に応じた特徴の変化が読み取れる結果も得られている。



  • 上の主成分分析結果で、大まかに下側やや右寄りに比較的固まってプロットされているのが第2~第4交響曲(緑)、左下に孤立している点が第1交響曲(黄色)、左上の赤い楕円が第9、第10、「大地の歌」のグループ、右上の孤立した点が第8交響曲(紫)であり中央に広がる青色の楕円が第5~第7交響曲である。 
  • 一方、頻度の平均の仕方を変えて行った以下の主成分分析結果で確認できるのは、グループ分けとしては以下が妥当に思われるということである。


第1交響曲(右上隅)/第2,3,4交響曲(上側左寄り)/第5,7交響曲(中央やや右寄り)/第9,10交響曲(右下隅)/「大地の歌」、第6交響曲、第8交響曲(左側下寄り)
  • 上述のグループ分けは時代区分によるクラス分けと概ね一致するが、左側下寄りの「大地の歌」、第6交響曲、第8交響曲のグループはが時代区分に関しては横断的である点が最初に示した主成分分析との違いとなっている。(寧ろ、第7交響曲が例外的という見方も可能かも知れないが。)

  • 上記の主成分平面において特に縦方向の成分は、時代区分に概ね忠実であり、得点を確認すると以下のように、第5交響曲を境界として初期がプラス、後期がマイナスの傾向が明確で、一部に例外はあるがプラス・マイナスの大きさについても概ね時系列に沿ったものとなっており、マーラーの交響曲の創作時期に沿った漸進的な変化を捉えているものと言える。
  • この成分の負荷の特徴は、長・短調の三和音と付加六で正負が分かれている点であり、これを時代区分に合わせるならば、古典的な調性感が明確な作品から、調性の拡大へと向かう方向性を示す成分であるということになりそうである。



  • 上記のような分析結果から、長調・短調の対比の原理とそれとは別の原理の2つが併存・拮抗するという傾向が確認できた。

  • ここで得られたマーラーの作品創作の展開のプロセスの仮説は、第1交響曲を出発点として、一旦、角笛交響曲(第2~第4交響曲で)長・短調のコントラストの原理に基づいた後、長・短調のコントラストとは別の原理が登場して拮抗するようになった後、前者が放棄されて後者が優位に立つというものになる。だが、長・短調のコントラストの原理に替わる原理が何であるかについては、更に分析が必要であり、今後の課題としたい。




まとめと今後の課題:

  • 上記を踏まえるならば、マーラーの作品創作の展開のプロセスは、第1交響曲を出発点として、一旦、角笛交響曲(第2~第4交響曲で)長・短調のコントラストの原理に基づいた後、長・短調のコントラストとは別の原理が登場して拮抗するようになった後、前者が放棄されて後者が優位に立つというものになるだろう。

  • もともとマーラーは古典派の作品の、長調中心・ドミナント優位な原理ではなく、それとは異なる長・短調のコントラストの原理が優越している点は夙に指摘されてきたことでもあり、また聴いていても感じ取れることだが、そこから新ウィーン楽派的な無調に近接する、だが、十二音技法的のような方向性とは明確に異なる、或る、ユニークな原理が優位になっていったと考えることはさほど突飛なことではないのではなかろうか?それはマーラー独自の小説的な構造を可能にする原理であり、その後の音楽が放棄してしまった時間性を備えたものであったように思われる。

  • ところでそうした原理をより具体的な形で突き止めようとした時、今回の分析の枠組みには限界があって辿り着けない可能性がある。それは分析の対象とした和音が、実際にマーラーの作品の中で生じる全ての和音ではなく、依然として古典派的な機能和声に典型的な和音が中心となっていることに存する。一方で、本分析と並行して行った他の作曲家との比較とは異なって、特にポピュラーな20種程度の和音の頻度に限定せず、マーラーの作品における出現頻度の高い40種の和音に基づいた点では、マーラーに固有な音調を捉えうる方向性にはあったと言えるかも知れない。だかしかし、それを徹底しようとしたら、特に後期作品に出てくる和音の拾い損ないをなくし、寧ろ後期作品に出現する和音を完全に被覆するように集計を行うことが必要となるように思われる。

  • これまでの分析の記事のうち、頻度をカウントする対象とする和音の制限については、過去の記事「MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化」の中で説明しているが、たかだか直観的に頻度が高そうなもの130種類位が頻度計算の対象であり、バッハから古典期にかけての作品は、あくまでも選択された作品の範囲ではあるが用意したパターンでほとんど分類可能であるのに対し、マーラーの場合はラヴェルやシュトラウス程ではなにせよ、一定量の未分類の和音が残っていること、年代区分としては、後期にいくに従い未分類の和音が増加する傾向が認められることを述べている。

  • 結局、本分析においても、上記記事でコメントした通り、マーラーが全音階的とはいっても、和声の種類について言えば保守的でもなければ単純というわけでもなく、特に後期に顕著になっていくマーラー固有の特徴を表すものが何なのかを突きとめるには、対象とする和音の被覆率を上げることが、少なくとも必須の必要条件であることを再確認したことになりそうである。以下に今回の分析の被覆率を示すが、後期に行くほど未分類の和音数(延べ数で種類数ではない)が増え、分類進捗率が低くなっていることが確認できる。

  • 上記より今後の課題としてはまず、未分析の和音を集計・分析対象とすることが挙げられる。と同時に和音の転回の区別を意識することで、和音の持っている機能的側面を反映した分析が可能となる可能性があるため、最低限でも主三和音については転回形を区別した分析をすることが考えられる。


参考文献


Walter B. Hewlett, Elenanor Seldridge-Field, Edmund Conrreia, Jr.(Eds.), Tonal Theory for the Digital Age, Computing in Musicology 15 (2007-08), 2007, Center for Computer Assisted  Research in the Humanities, Stanford University

Graeme Alexander Downes, An Axial System of Tonality Applied to Progressive Tonality in the Works of Gustav Mahler and Nineteenth-Century Antecedents, 1994, University of Otago, Dunedin, New Zealand

Barford, Philip, Mahler Symphonies and Songs, (BBC Music Guides, 1970), University of Washington Press, 1971

Kennedy, Michael, Mahler (The Master Musicians), J.M.Dent, 1975

Redlich, Hans F., Bruckner and Mahler, J. M. Dent, 1955, rev. ed.,1963

Bekker, Paul, Gustav Mahlers Sinfonien, Schuster & Loeffler, 1-3 Tausend, 1921

Schreiber, Wolfgang, Gustav Mahler, Rowohlt Taschenbuch, 1971

Specht, Richard, Gustav Mahler, Schuster & Loeffler, 1-4 Auflage Mit 90 Bildern, 1913

石倉小三郎,『グスターフ・マーラー』, 音楽之友社, 1952

柴田南雄『 グスタフ・マーラー:現代音楽への道』, 岩波書店, 1984


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[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。  

(2021.12.24公開, 12.28追記)

2021年12月19日日曜日

MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 これまでの作業の時系列に沿った概観(2022.5.20更新)

これまでこのブログにおいてはMIDIファイルを入力としてマーラーの作品の分析を行う試みについて断続的に報告してきたが、最初の記事の公開から既に5年が経過し、記事数も30件に達したところで、これまでの作業を時系列に沿って振り返ってみたい。


A.これまでの作業の時系列に沿った概観

2015年頃にマーラーの作品のMIDIファイルのWeb上での公開状況について調査し、データ収集に着手し、その結果を2016年初頭に記事として公開した。(1.調査報告・資料:分析の入力となるMIDIファイルの状況について)

その後、MIDIシーケンサーなどの調査と並行して、MIDIファイルを解析した結果を集計・加工する環境をExcelマクロとC言語のプログラムでWindows上に構築し、更に統計分析用の言語であるR言語およびそのプラットフォームであるR StudioやRinean Graph 3Dといった作図ツールによるデータ分析環境を整備して、データ分析を行うとともに、その結果の一部については断続的にWeb上で公開してきた。(2.データ公開:基本データとその解析結果について)

一方、データ分析を行う当初の動機が、マーラー作品の調的な遷移のプロセスを可視することであったので、最初に行ったのは、各拍あるいは各小節頭拍の和音の重心を五度圏上に定義し、その軌道の遷移の様子を可視化することであった。(3.五度圏上の重心計算について)

その結果に基づき、続いて各拍あるいは各小節頭拍に出現する主要な和音の分類とパターンの可視化を試みるとともに(4.和音の分類とパターンの可視化)、並行して行った先行研究の文献調査などを踏まえて、予備作業として和音の自動ラベリングと調的遷移の推定を行った(6.和音の分析への準備)後、一旦は動的な遷移プロセスではなく、和音の出現頻度という特徴量に基づく分析を進めながらマーラーの作品のデータ分析のあり方を検討し、その検討の経過を備忘を兼ねてWeb上に公開して、一旦、作業を終えた(5.考察:マーラー作品のありうべきデータ分析について)のは、丁度新型コロナウィルス感染症の蔓延による影響が様々な活動に出始めつつある時期であった。

その後、繰り返される新型コロナウィルス感染症の流行の波の中で、一旦終了した作業について結果をWeb公開することにして、当初、小節頭拍のみを対象としていた分析を、全拍対象に拡大しながら、それら分析の成果をWebに公開する作業を進め(7.和音の出現頻度から見たマーラー作品)、2020年7月にその作業を完了した。

それから1年程経過し、一旦日本国内での新型コロナウィルス感染症の流行が概ね収束に近づいた(実際にはその後新たな流行の波に曝されることになったが)2021年後半になり、Google Magentaを用いた機械学習の実験データとしてMIDIファイルを活用すべく予備的な調査や実験を行っていく中で、和声の出現頻度の分析結果を見直していくうちに、基本的には同じ手法を用いながら、若干分析の条件を変化・拡大させ、かつ集計・分析結果の表示手段として幾つか従来とは異なったツールを利用した再分析を実施することになった(8.再分析)。またそれと並行して、当初よりの課題であった時間方向の動的な遷移のプロセスの分析に向けての準備作業として、まずは長三和音と短三和音のみに注目して、その交替の頻度に対象を限定した分析を実施(9.長短三和音の交替から見たマーラーの交響曲)し、再分析の結果とともに記事として公開した。

[以下、2022.5.20追記]

2021年の年末に、厚意により私的な場ではあるが有識者に対してzoomで報告をする機会を設けて頂き、これまでの作業のうち、和声の出現頻度の分析を中心に、五度圏上の重心計算にも触れる形で報告させて頂けたことから、そこでの報告のために整理した内容に基づき、これまでの作業の時系列に沿った概観(本稿)と、和声の出現頻度の分析のまとめを2022年の年初に公開した。(10.これまでの作業の時系列に沿った概観)

その後、報告において今後の課題として掲げた点の中で、未分析の和音の解消について取り上げるとともに、それまでのデータ分析では用いてこなかったMIDIファイルを含めた分析用データを作成・公開(10.)するとともに、特に歌曲のMIDIファイルで多く見られ、拍頭ないし小節頭で鳴っている和音を分析するというここでの分析にとっては妨げとなっていた拍頭の音のずれを、MIDIファイルから抽出したデータに対して後処理として補正した上で、歌曲について分析データを作成した結果を報告している。(11.補遺:未分析和音の解消と同一曲の別データとの比較、歌曲の分析)


B.マーラー作品の分析にMIDIファイルを用いることの可能性

まずもって音楽の総体の中から、MIDIファイルのフォーマットで表現されている対象とする範囲を限定して分析をすることが、音楽の中でも、その作品の構造的な側面に関心を限定したものであることは言うまでもない。更にここでは、複雑な音楽作品の構造の中から基本的ではあっても極めて限定された特徴量だけを抽出して分析しているに過ぎないことから、分析を通してわかることには自ずと制限があるのは明らかなことだろう。また使用した分析手法の種類も一般的なもの数種に限られており、結果として多くは期待できず、ほとんどの場合、データ分析のようなアプローチを経ずとも明らかなことを追認するに過ぎないだろうが、それでもなお、多くの場合、マーラーの作品の構造についての言説が多くの場合、データ分析のようなアプローチによる裏付けを経ずに、優れた分析家の直観に基づいて行われていることを思えば、データ分析を行うことで裏付けが得られることそのものにも一定の意味があるのではないかと考える。

ことマーラーの作品に関して言えば、その作品規模の大きさ・複雑さを勘案すれば、他の作曲家に比べても比較的MIDIデータの整備が進んでいるようには見受けられても網羅的とは到底言えないし(マーラーに限って言えば、目下のところ最大の欠落は「嘆きの歌」だろう)、これまでのところその蓄積は主として個人のDTMの活動の中で、いわばボランティアとして打ち込まれたものに拠るもので、それも一時期に比べると寧ろ近年は退潮気味にすら感じられ。更にはこの5年間のうちに幾つかのWebページが閉鎖され、以前は公開されていたMIDIファイルが既にWeb上での入手が不可能になっているようであることを踏まえれば、当初はそのような意図はなかったのだが、放置すれば情報ネットワークのエコシステムの中で忘れ去られていきかねない状況の中で、蒐集して手元に保管しているMIDIファイル自体は著作権などの問題もあり簡単には行かなくとも、それを利用した分析を行って、たとえささやかなものであってもその結果を公開すること自体に意味があるようにも思えるのである。

と当時に、これまで個人のDTMベースでWeb上で公開されてきたMIDIファイルをデータ分析に用いることの限界についても指摘しておきたい。最大の問題は、分析目的での利用を行おうとした場合のデータとしての正確さ・精度にある。MIDIファイルの作成のされ方としては大きく、(1)MIDIキーボードでの人間の演奏を保存するか、(2)MIDIシーケンサーソフト等を用いて入力していくかのいずれかと思われるが、特に前者の場合には、演奏上のミスタッチの発生や、楽譜上の小節の区切りや拍と記録されたサンプルの対応づけの困難さがあって、今回の分析のように小節頭拍や各拍における和音をサンプリングを行おうとした場合、現実の演奏におけるずれやゆらぎのせいで、譜面上「正しい」和音が認識できない場合が多い。後者の場合には、現実の演奏のずれやゆらぎのレベルの問題は起こらないが、その一方で、しばしば誤入力が見られるし、マーラーではごく普通の変拍子に忠実な小節の設定をするのは煩瑣な作業となることが避け難い。この点は既述のMIDIファイルの作成過程を考えれば無理のない側面もあって、(1)におけるアコースティック楽器の録音の代替であったり、(2)における実際の楽器を用いた演奏の代補として用いられる限りにおいては、分析の場合に必要となる正確さは必ずしも必要とされないであろうから、それをデータ分析という別の目的で利用とした時に限界があるという指摘は、或る種の無い物ねだりに他ならないのである。信頼性の高い本格的な分析を行おうとするならば、そのための条件を満たしたMIDIファイルを整備していく必要があり、これまでは専ら楽譜というフォーマット上でのみ行われてきた校訂が、MIDIファイルという媒体においても行われるようにならないだろうか、というのが実際にWebから入手したMIDIファイルを分析に利用するために調査を行っての、偽らざる実感である。

上記のような問題はあるにせよ、MIDIファイルの活用の可能性は狭義のDTMの領域を超えて広がっており、その存在価値は増えこそすれ減ることはないように思われる。Google Magentaについては既に触れたが、そこでは深層学習のための時系列ネットワーク(LSTM)への入力として主としてMIDIファイルが用いられている、ここで振り返る各種の集計・分析に利用したことがあるMIDIファイルから比較的簡単に実験用のサンプルデータを作成することが可能であった。未だ試行段階ではあるものの、既にGoogle Magentaで用意された幾つかのモデルを用いた検証には着手している。ここで振り返ったデータ分析同様、今後、その結果に基づいた方針検討を行った上で多少なりとも実験を実施し、結果が得られた折にはこちらも同様に記事として公開することを目指しているが、このような形で活用の成果を公表することが、MIDIファイルを利用させてもらう立場として可能な「応答」の一つの方法ではないかと考えている。

上述のような様々な制約はあるものの、それでは分析しても意味のある結果が得られなかったかと言えば、必ずしもそうとは考えない。(もし、本当にそのように判断したのなら、公開は控えることにしたであろう。)繰り返しになるが、これまでマーラーの作品について指摘されてきた特徴が、データ分析の結果と整合的であることが確認できれば、それだけでもデータ分析を実施した意義は充分にあると考えるし、非常に限定され、単純化された特徴量からさえ、そうした手がかりのようなものが確認できたことに寧ろ驚きを感じた程であった。

実際に和音の出現頻度にしても、長短三和音の交替にしても、マーラーの音楽が持つ複雑で重層的な構造のほんの一断面に過ぎない。和音については(実際には、基本データとしては推測を行った結果が存在するのだが)、解離・密集の区別も、転回形の区別もないし、機能和声において基本中の基本である筈のドミナントとトニックの区別すら行っていない。ごく基本的なこととして、和音の機能を特定するためには主音がわかっている必要があるが、現象論的にアプローチする限り主音の決定の方が和音のパターンの遷移から浮かび上がってくるものであるという循環があるのに対して、ここでは後者のアプローチを採用しているためである。勿論、分析する人間が外から主音が何であるか、調性が何であるかを与えることは可能だが、ここでの関心は、そうした知識なしでデータから何が導き出されるかの方にある。専門の音楽学者の指摘は、非常に高度な前提知識の上に成り立っているから、その指摘をそのままデータ分析によって検証するのは困難であるので、遥かに肌理の粗い特徴量を通して、そうした指摘と矛盾せず、寧ろその傍証となるような傾向が発見できればここでの目的は達成されたことになると考える。

一方において、これまで指摘されたことのないような結果が得られた場合に、それをどのように解釈するかというのも問題含みであり、それが意味のない偶然なのか、それとも一見したところでは気付かれないような隠れた特徴を捉えたものであるのかの判断もまた難しく、結果的に私にできることと言えば、とにかくも、ある条件下で集計・分析を行ったら、しかじかの結果が得られたという事実を記録して公開することに留まらざるを得ない。ここでは分析結果について、分析の入力となったデータとともにR Studioを用いた分析のログを含めているが、それは私個人では判断できず、他者の判断を仰がざるを得ないものについて、他者による検証ができるように分析の具体的な内容をアーカイブすることが私のなしうる最善であるという認識によっている。既にどこかで高度な分析が行われていて、単に私がそれにアクセスできないだけかも知れないが、現実問題として知る限り、ここで行っているような報告に接する機会はないのであれば、結局私にできることは、将来そのような分析がマーラーの作品に対して行われるまでの間の繋ぎとして、自分が確認した内容を報告することの他ないのである。あわよくば将来行われるであろうより高度な分析の呼び水となれば、ここでの報告はその役割を十二分に果たしたことになると考える次第である。

(2021.12.19-20記)


[参考]これまでの作業成果の公開経過

1.調査報告・資料:分析の入力となるMIDIファイルの状況について(2016.1)



2.データ公開:基本データとその解析結果について(2019.9/2020.2)

3.五度圏上の重心計算について(2019.9)



4.和音の分類とパターンの可視化(2019.11)

5.考察:マーラー作品のありうべきデータ分析について(2019.11~2020.1)
6.和音の分析への準備(2020.1)



7.和音の出現頻度から見たマーラー作品
7.1.その1~3:小節頭拍対象(2020.2~3)



7.2.その4~6:全拍対象(2020.7)




8.2.その8:他の作曲家との比較の再分析(2021.11~12)

9.長短三和音の交替から見たマーラーの交響曲(2021.12)
11.補遺:未分析和音の解消と同一曲の別データとの比較、歌曲の分析

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。  

(2021.12.19公開, 2022,5,20その後の経過を追記)


2021年12月17日金曜日

MIDIファイルを入力とした分析:長短三和音の交替から見たマーラーの交響曲 3.他の作曲家の作品との比較

1.分析の概要

1.1.分析対象の作品

従来の分析同様、マーラーの交響曲全曲(第1交響曲~第10交響曲および「大地の歌」)を対象とした。なお、第10交響曲はクックによる5楽章版を対象とした。

1.2.分析対象の特徴量と分析環境・手法

 作品を構成する楽章・曲単位に作成されたMIDIファイル毎に、各拍において長三和音、短三和音の出現状況に注目して、以下の特徴量を集計した。出現頻度については、長三和音・短三和音の出現回数、長三和音⇔短三和音の交替頻度のいずれについても曲の長さ(拍数)の違いを吸収するために出現回数を総拍数で割って単位拍数あたりの割合(それぞれmaj, min, mod)とし、更に交替頻度については長短三和音の出現回数(maj+min)で割った割の合(以下のmod_frq)も計算した。また、曲頭において先に出現するのは長三和音・短三和音のどちらか(in)および曲尾において後に出現するのは長三和音・短三和音のどちらか(out)の判定も行った。従って特徴量は以下の6種類となる。

  • 長三和音の出現頻度(maj):単位拍数あたりの割合
  • 短三和音の出現頻度(min):単位拍数あたりの割合
  • 長三和音⇔短三和音の交替頻度1(mod):単位拍数あたりの割合
  • 長三和音⇔短三和音の交替頻度2(mod_frq):長短三和音の出現回数(maj+min)あたりの割合
  • 曲頭において先に出現するのは長三和音(1)・短三和音(-1)のどちらか(in)
  • 曲尾において後に出現するのは長三和音(1)・短三和音(-1)のどちらか(out)
これらの特徴量について、対象となる交響曲毎の平均値を計算して各交響曲の特徴ベクトルとし、これに加えてマーラーの交響曲全体の平均値、これまで分析対象としてきたマーラーの作品全体(全交響曲に若干の歌曲を加えたもの)の平均値、更に今回は現在手元にあるマーラーの作品のMIDI全体の平均値も計算して、以下の3つを交響曲単位の特徴ベクトルに加えて分析対象とした。
  • gm:これまで分析対象としてきたマーラーの作品全体(全交響曲に若干の歌曲を加えたもの)の平均値
  • gm_all:現在手元にあるマーラーの作品のMIDI全体の平均値
  • gm_sym:マーラーの交響曲全体の平均値
比較対象のための対照群としては、本ブログでこれまでに公開してきた和音出現頻度に基づく分析で使用した以下の作曲家の作品のデータを利用した。実験群同様、対象となる各作曲家の作品全体の平均値を計算し、これを対照群の特徴ベクトルセットとした。

  • ペルゴレージ(ファイル数:28, のべ拍数:8019)         
  • グルック(ファイル数:19, のべ拍数:4791)
  • ハイドン(ファイル数:110, のべ拍数:123061) 
  • モーツァルト(ファイル数:957, のべ拍数:636619) 
  • シューマン(ファイル数:102, のべ拍数:133234) 
  • ブラームス(ファイル数:132, のべ拍数:188627) 
  • ブルックナー(ファイル数:70, のべ拍数:61947) 
  • フランク(ファイル数:62, のべ拍数:59554) 
  • シベリウス(ファイル数:17, のべ拍数:17769) 
  • スクリャービン(ファイル数:62, のべ拍数:18640) 
  • ラヴェル(ファイル数:55, のべ拍数:39135) 
  • ショスタコーヴィチ(ファイル数:71, のべ拍数:39229)

1.3.分析手法と分析環境 

 分析方法および分析環境についても従来の分析を引き継ぎ、R言語(version 4.1.0 (2021-05-18版)を用いて以下の分析を行い、履歴を保存した。

A.非階層クラスタリング:kmeansを使用。

  •   結果のグラフ表示には、clusterライブラリのclusplotを使用。  

B.階層クラスタリング:hclustを使用。

  •   complete法, average法, ward法の3種類を使用。

C.主成分分析:prcompを使用。

  •   特徴ベクトルの要素間のスケールに違いがあるため、scale=T。
  •   説明率90%を目安として負荷と主成分得点を計算。
  •   結果のグラフ表示には、ggbiplotライブラリのggbiplotを使用。
  •   負荷と主成分得点はbarplotでグラフ化。

1.4.アーカイブファイルの内容

アーカイブファイル長短交替_他の作曲家の作品との比較.zip中には以下のファイルが含まれる。

分析条件・履歴

  • 入力ファイル:gm_control_sheet12.csv
  • 色指定ファイル:gm_control_sheet12_col.csv
  • ラベルファイル:gm_control_sheet12_label.csv
  • 履歴:hist.txt

階層クラスタ分析

  • hclust_complete.pdf:complete法でのクラスタリング結果のデンドログラム
  • hclust_average.pdf:average法でのクラスタリング結果のデンドログラム
  • hclust_ward.D2.pdf:ward法でのクラスタリング結果のデンドログラム

非階層クラスタ分析(kmeans法、クラスタ数=6)

  • kmeans6.pdf:分類結果の主成分平面へのプロット
  • kmeans6.csv:分類結果の出力
主成分分析
  • prcomp_T.pdf:主成分分析(scale=T)の結果
  • ggbiplot12.pdf:第1・第2主成分空間へのグループ表示つきプロット
  • ggbiplot23.pdf:第2・第3主成分空間へのグループ表示つきプロット
  • ggbiplot34.pdf:第3・第4主成分空間へのグループ表示つきプロット
  • pr_score-1.pdf:第1主成分得点
  • pr_score-2.pdf:第2主成分得点
  • pr_score-3.pdf:第3主成分得点
  • pr_score-4.pdf:第4主成分得点
  • prcomp_PC1.pdf:第1主成分負荷
  • prcomp_PC2.pdf:第2主成分負荷
  • prcomp_PC3.pdf:第3主成分負荷
  • prcomp_PC4.pdf:第4主成分負荷

2.分析結果
2.1.階層クラスタ分析
(a)complete法


(b)average法

(c)ward法

2.2.非階層クラスタ分析(k-means法, クラスタ数=6)

                 1 2 3 4 5 6
  baroque   0 0 1 0 0 0
  classic      1 0 0 0 2 0
  gm           1 0 2 0 0 0
  gm_sym   1 1 1 4 2 2
  modern    0 0 2 0 0 1
  romantic1 4 0 0 0 0 0
  romantic2 0 0 1 0 0 0

    gm gm_all gm_sym   erde   sym1   sym2   sym3   sym4   sym5   sym6 
      3      1          3           6        4        4         1          3         5         2 
  sym7   sym8   sym9  sym10    wam    jbp     ab    asc     cf   dsch 
      4      6          5         4           5        3        1      3      1      3 
   fjh     jb     js     mr   rsch   chwg 
     5      1      3      6      1      1 


2.3.主成分分析

scale=Tでのprcompのsummaryは以下の通り

Importance of components:
                                   PC1      PC2     PC3      PC4
Standard deviation       1.5417 1.1941 1.0753 0.8232
Proportion of Variance  0.3962 0.2377 0.1927 0.1129
Cumulative Proportion  0.3962 0.6338 0.8265 0.9395

第4主成分(PC4)までで累積寄与率が90%を超えるので、第1主成分から第4主成分まで(PC1~PC4)のプロット、主成分得点・負荷を以下に示す。

(A-1)第1・第2主成分平面でのプロット


(A-2)第2・第3主成分平面でのプロット

(A-3)第3・第4主成分平面でのプロット


(B-1)第1主成分得点・負荷



(B-2)第2主成分得点・負荷



(B-3)第3主成分得点・負荷

(B-4)第4主成分得点・負荷


[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。  

(2021.12.17公開)


MIDIファイルを入力とした分析:長短三和音の交替から見たマーラーの交響曲 2.作品間の比較(楽章単位)

1.分析の概要

1.1.分析対象の作品

従来の分析同様、マーラーの交響曲全曲(第1交響曲~第10交響曲および「大地の歌」)を対象とした。なお、第10交響曲はクックによる5楽章版を対象とした。

1.2.分析対象の特徴量と分析環境・手法

 作品を構成する楽章・曲単位に作成されたMIDIファイル毎に、各拍において長三和音、短三和音の出現状況に注目して、以下の特徴量を集計した。出現頻度については、長三和音・短三和音の出現回数、長三和音⇔短三和音の交替頻度のいずれについても曲の長さ(拍数)の違いを吸収するために出現回数を総拍数で割って単位拍数あたりの割合(それぞれmaj, min, mod)とし、更に交替頻度については長短三和音の出現回数(maj+min)で割った割の合(以下のmod_frq)も計算した。また、曲頭において先に出現するのは長三和音・短三和音のどちらか(in)および曲尾において後に出現するのは長三和音・短三和音のどちらか(out)の判定も行った。従って特徴量は以下の6種類となる。

  • 長三和音の出現頻度(maj):単位拍数あたりの割合
  • 短三和音の出現頻度(min):単位拍数あたりの割合
  • 長三和音⇔短三和音の交替頻度1(mod):単位拍数あたりの割合
  • 長三和音⇔短三和音の交替頻度2(mod_frq):長短三和音の出現回数(maj+min)あたりの割合
  • 曲頭において先に出現するのは長三和音(1)・短三和音(-1)のどちらか(in)
  • 曲尾において後に出現するのは長三和音(1)・短三和音(-1)のどちらか(out)
これらの特徴量について、対象となるファイル毎(楽章毎に相当)に計算した結果を分析対象とした。

1.3.分析手法と分析環境 

 分析方法および分析環境についても従来の分析を引き継ぎ、R言語(version 4.1.0 (2021-05-18版)を用いて以下の分析を行い、履歴を保存した。

A.非階層クラスタリング:kmeansを使用。

  •   結果のグラフ表示には、clusterライブラリのclusplotを使用。  

B.階層クラスタリング:hclustを使用。

  •   complete法, average法, ward法の3種類を使用。

C.主成分分析:prcompを使用。

  •   特徴ベクトルの要素間のスケールに違いがあるため、scale=T。
  •   説明率90%を目安として負荷と主成分得点を計算。
  •   結果のグラフ表示には、ggbiplotライブラリのggbiplotを使用。
  •   負荷と主成分得点はbarplotでグラフ化。

1.4.アーカイブファイルの内容

アーカイブファイル長短交替_作品間比較_楽章単位.zip中には以下のファイルが含まれる。

分析条件・履歴

  • 入力ファイル:gm_sym_sheet12.csv
  • 色指定ファイル:gm_sym_sheet12_col.csv
  • ラベルファイル:gm_sym_sheet12_label.csv
  • 履歴:hist.txt

階層クラスタ分析

  • hclust_complete.pdf:complete法でのクラスタリング結果のデンドログラム
  • hclust_average.pdf:average法でのクラスタリング結果のデンドログラム
  • hclust_ward.D2.pdf:ward法でのクラスタリング結果のデンドログラム

非階層クラスタ分析(kmeans法、クラスタ数=4)

  • kmeans4.pdf:分類結果の主成分平面へのプロット
  • kmeans4.csv:分類結果の出力
主成分分析
  • prcomp_T.pdf:主成分分析(scale=T)の結果
  • ggbiplot12.pdf:第1・第2主成分空間へのグループ表示つきプロット
  • ggbiplot23.pdf:第2・第3主成分空間へのグループ表示つきプロット
  • ggbiplot34.pdf:第3・第4主成分空間へのグループ表示つきプロット
  • pr_score-1.pdf:第1主成分得点
  • pr_score-2.pdf:第2主成分得点
  • pr_score-3.pdf:第3主成分得点
  • pr_score-4.pdf:第4主成分得点
  • prcomp_PC1.pdf:第1主成分負荷
  • prcomp_PC2.pdf:第2主成分負荷
  • prcomp_PC3.pdf:第3主成分負荷
  • prcomp_PC4.pdf:第4主成分負荷

2.分析結果
2.1.階層クラスタ分析
(a)complete法

(b)average法

(c)ward法


2.2.非階層クラスタ分析(k-means法, クラスタ数=4)

       1 2 3 4
  I    2 1 1 0
  II   2 2 1 0
  III  1 1 4 0
  IV   2 0 1 1
  IX   1 0 2 1
  LE   2 1 3 0
  V    1 0 3 1
  VI   0 1 1 2
  VII  3 1 1 0
  VIII 1 0 1 0
  X    3 1 1 0

erde_1_B erde_2_B erde_3_B erde_4_B erde_5_B erde_6_B   m1_1_B   m1_2_B 
       2        1        3        3        3        1        1        3 
  m1_3_B   m1_4_B   m2_1_B   m2_2_B   m2_3_B   m2_4_B   m2_5_B   m3_1_B 
       2        1        2        3        2        1        1        3 
  m3_2_B   m3_3_B   m3_4_B   m3_5_B   m3_6_B   m4_1_B   m4_2_B   m4_3_B 
       3        2        1        3        3        1        1        3 
  m4_4_B   m5_1_B   m5_2_B   m5_3_B   m5_4_B   m5_5_B   m6_1_B   m6_2_B 
       4        4        1        3        3        3        4        2 
  m6_3_B   m6_4_B   m7_1_B   m7_2_B   m7_3_B   m7_4_B   m7_5_B   m8_1_B 
       3        4        1        2        1        3        1        3 
  m8_2_B   m9_1_B   m9_2_B   m9_3_B   m9_4_B   m101_B   m102_B   m103_B 
       1        1        3        4        3        3        1        1 
  m104_B   m105_B 
       2        1  



2.3.主成分分析

scale=Tでのprcompのsummaryは以下の通り

Importance of components:
                                  PC1      PC2     PC3    PC4     
Standard deviation       1.4708 1.2027 1.0966 0.8514
Proportion of Variance  0.3605 0.2411 0.2004 0.1208 
Cumulative Proportion  0.3605 0.6016 0.8021 0.9229


第4主成分(PC4)までで累積寄与率が90%を超えるので、第1主成分から第4主成分まで(PC1~PC4)のプロット、主成分得点・負荷を以下に示す。

(A-1)第1・第2主成分平面でのプロット



(A-2)第2・第3主成分平面でのプロット



(A-3)第3・第4主成分平面でのプロット



(B-1)第1主成分得点・負荷



(B-2)第2主成分得点・負荷



(B-3)第3主成分得点・負荷



(B-4)第4主成分得点・負荷




[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。  

(2021.12.17公開)