2.分析結果の検討(承前)
2.4.交響曲の分類
2.4.2.平均和音出現割合に基づく交響曲の分類
平均和音出現割合に基づく交響曲の分類結果について以下で報告する。累計和音出現割合に基づく分析と比べたとき、分類においては明らかに不安定である一方で、主成分分析においては、累積寄与率の観点では概ね同様であるものの、それによる分類は累計和音出現割合に基づく分析とはやや異なるものとなった。分析方針の項で述べたように、平均和音出現割合では、楽章の規模の大小が考慮されず、どちらの割合も同じ重みづけで平均されるため、30分を上回る楽章があるかと思えば数分の楽章もあるといった楽章規模の分散が大きいマーラーの交響曲の場合には、累計和音出現割合に基づく分析との差が出やすいという予想が成り立つ。そしてこの分析結果はその傾向が顕れたものである可能性があるが、それを確認するには、より詳細な累計和音出現割合に基づく分析との比較が必要だろう。
2.4.2.1階層クラスタ分析
complete法、average法、ward法の3種の分析方法によるクラスタリング結果のデンドログラムは後掲の通りだが、以下はそれらに共通のレジェンドとなる。
- m1~m10:第1交響曲~第10交響曲
- erde:「大地の歌」
(a)complete法
(b)average法
(c)ward法
2.4.2.2.主成分分析
寄与率・累積寄与率を確認すると以下の通りであった。
上記より累積寄与率が90%を超える第4主成分迄を対象にプロットを行い、得点と負荷を確認することとした。この分析では上位成分から、41%、31%、12%で第1主成分と第2主成分があまり変わらないのに加えて、両者で累積70%を超える程度であり、下位主成分の寄与分がかなり残されているため、この点に留意して分析結果を検討する必要がある。
- m1~m10:第1交響曲~第10交響曲
- erde:「大地の歌」
- sym1(黄土色):第1交響曲
- sym2-4(緑色):第2~4交響曲
- sym5-7(青):第5~7交響曲
- sym8(紫):第8交響曲
- LE_9_10(赤):「大地の歌」・第9,10交響曲
「大地の歌」と第6交響曲の距離が近いため、中期(青)と後期(赤)の楕円の径が大きくなり、かつクロスしてしまっていることがわかる。寧ろ「大地の歌」と第9交響曲の間に区分を置いた方が、この平面での分割に対しては自然のようである。
(b)第2主成分(横軸)・第3主成分(縦軸)
第2主成分(ここでは横軸)は、概ね時代区分に沿っており初期から後期へ概ね右から左へと変化していくと捉えることができるだろう。一方第3主成分(縦軸)で中期(青:上側)と後期(赤:中央)という傾向が見られるため、結果としてこの平面の方が、第1、第2主成分平面よりも時代区分に沿った分類が得られている。
(c)第3主成分(横軸)・第4主成分(縦軸)
(d)第1主成分得点・負荷
平均和音出現割合で時代区分に忠実なのはこの第2主成分であり、第5交響曲を境界として、初期がプラス、後期がマイナスの傾向が明確である。なおかつ大地の歌を除けば、プラス・マイナスの大きさについても時系列に沿ったものとなっており、マーラーの交響曲の創作時期に沿った漸進的な変化を捉えているものと言えるのではないか。
(f)第3主成分得点・負荷
第3主成分の特徴は、強いて言うならば、短調的な要素の優位ということになろうか。これは得点がマイナス方向に振れているのが振れ幅が大きい順に第8交響曲、第4交響曲、第1交響曲という順番で、イメージとしては明るくて肯定的なイメージが強い作品であることからも窺える。一方でプラス方向の最大は、「悲劇的」という副題を持つ第6交響曲ではなく、葬送行進曲とそれに後続するソナタ楽章を第1部に持つ第5交響曲であるという点は興味深い。この点は楽章の規模による偏りが分析対象の特徴量に反映されない平均和音出現割合の特性である可能性が考えられるが、この点については累計和音出現割合での結果との比較などの検討を行う必要があるだろう。
(g)第4主成分得点・負荷
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