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2021年12月4日土曜日

MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.4.2 平均和音出現割合に基づく交響曲の分類)

 2.分析結果の検討(承前)

2.4.交響曲の分類 

2.4.2.平均和音出現割合に基づく交響曲の分類

平均和音出現割合に基づく交響曲の分類結果について以下で報告する。累計和音出現割合に基づく分析と比べたとき、分類においては明らかに不安定である一方で、主成分分析においては、累積寄与率の観点では概ね同様であるものの、それによる分類は累計和音出現割合に基づく分析とはやや異なるものとなった。分析方針の項で述べたように、平均和音出現割合では、楽章の規模の大小が考慮されず、どちらの割合も同じ重みづけで平均されるため、30分を上回る楽章があるかと思えば数分の楽章もあるといった楽章規模の分散が大きいマーラーの交響曲の場合には、累計和音出現割合に基づく分析との差が出やすいという予想が成り立つ。そしてこの分析結果はその傾向が顕れたものである可能性があるが、それを確認するには、より詳細な累計和音出現割合に基づく分析との比較が必要だろう。


2.4.2.1階層クラスタ分析

complete法、average法、ward法の3種の分析方法によるクラスタリング結果のデンドログラムは後掲の通りだが、以下はそれらに共通のレジェンドとなる。

  • m1~m10:第1交響曲~第10交響曲
  • erde:「大地の歌」
3つのグラフを比較すると直ちにわかる通り、枝の末端部分については3種の手法とも共通であり、第2,3交響曲+第4交響曲/第6交響曲と「大地の歌」/第5,7交響曲、第9,10交響曲というグループは相対的には安定しているが、それより上位の階層の構造は手法によって差があり、不安定な様子が窺える。そしてこの安定したグループは累計和声出現割合の場合と概ね共通していることが確認できる。

(a)complete法


(b)average法


(c)ward法


2.4.2.2.主成分分析

寄与率・累積寄与率を確認すると以下の通りであった。


上記より累積寄与率が90%を超える第4主成分迄を対象にプロットを行い、得点と負荷を確認することとした。この分析では上位成分から、41%、31%、12%で第1主成分と第2主成分があまり変わらないのに加えて、両者で累積70%を超える程度であり、下位主成分の寄与分がかなり残されているため、この点に留意して分析結果を検討する必要がある。


以下に第1主成分を横軸・第2主成分を縦軸にとったbiplotを示す。
ラベルの意味はこれまでのクラスタリング結果と同様で、以下の通り。
  • m1~m10:第1交響曲~第10交響曲
  • erde:「大地の歌」

ここで確認できるのは、第1、第2主成分による平面上のグループ分けとしては以下が妥当に思われるということである。

第1交響曲(右上隅)/第2,3,4交響曲(上側左寄り)/第5,7交響曲(中央やや右寄り)/第9,10交響曲(右下隅)/「大地の歌」、第6交響曲、第8交響曲(左側下寄り)

そしてこのグループは、階層クラスタ分析において相対的に安定していた下の階層の枝の末端の部分に対応していることがわかる。上記のグループを更に統合して、上位のグループを作ろうとすると、それぞれの独立性が高くてグループ間の距離に差がないことが、上位の階層における分類が安定しない理由であることがわかる。

更に言えば、上述のグループ分けは時代区分によるクラス分けと概ね一致するが、左側下寄りの「大地の歌」、第6交響曲、第8交響曲のグループは時代区分に関しては横断的であるため、時代区分毎に分類されるという累計和音出現割合の分析結果のようにはならないことが想定される。

以下では分析対象の各交響曲を時代区分によってクラス分けしたものについて、ggbiplotで第1,2主成分、第2,3主成分、第3,4主成分でプロットした結果、および第1~第4主成分の主成分得点・負荷を示すことにする。

以下のグラフ共通でクラスと色、およびクラスに帰属するグループの対応を示すと以下の通りである。
  • sym1(黄土色):第1交響曲
  • sym2-4(緑色):第2~4交響曲
  • sym5-7(青):第5~7交響曲
  • sym8(紫):第8交響曲
  • LE_9_10(赤):「大地の歌」・第9,10交響曲

 (a)第1主成分(横軸)・第2主成分(縦軸)

「大地の歌」と第6交響曲の距離が近いため、中期(青)と後期(赤)の楕円の径が大きくなり、かつクロスしてしまっていることがわかる。寧ろ「大地の歌」と第9交響曲の間に区分を置いた方が、この平面での分割に対しては自然のようである。


 (b)第2主成分(横軸)・第3主成分(縦軸)


第2主成分(ここでは横軸)は、概ね時代区分に沿っており初期から後期へ概ね右から左へと変化していくと捉えることができるだろう。一方第3主成分(縦軸)で中期(青:上側)と後期(赤:中央)という傾向が見られるため、結果としてこの平面の方が、第1、第2主成分平面よりも時代区分に沿った分類が得られている。


 (c)第3主成分(横軸)・第4主成分(縦軸)


第3、第4主成分は合わせても2割程度の寄与率にしかならず、かつこの平面でのプロットは、時代区分との対応は見出し難い。第4主成分(縦軸)側については、大きく上側中央付近と下側の隅寄りに分離する傾向が認められるだろう。


 (d)第1主成分得点・負荷

負荷は転回や解離を除いて和音をビット列化したものの十進数表現であり、代表的なものを示すと以下の通りである。

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音、273(dim3) :増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)、585 :減三+減七、89 :減三+短七、275 :増三+長七、281 :短三+長七


この成分の負荷の特徴は、マイナス側を構成する主要な和音が、長短三和音と付加六であるのに対して、プラス側は、単音・重音が目立つ点である。長調/短調のコントラストが明確な上に、付加六が加わることで、長調と短調を宙吊りにする傾向もあって、音が厚くて調的なコントラストが鮮明な作品がマイナスということだろうか。得点上、マイナス側が優位なのは、第6交響曲、第8交響曲と「大地の歌」であり、確かに明暗のコントラストがはっきりとした作品ということは言えそうである。また曲全体のイメージとしてはぞれぞれ短調・長調・付加六がその曲を代表する和音である点は興味深い。

 
(e)第2主成分得点・負荷

平均和音出現割合で時代区分に忠実なのはこの第2主成分であり、第5交響曲を境界として、初期がプラス、後期がマイナスの傾向が明確である。なおかつ大地の歌を除けば、プラス・マイナスの大きさについても時系列に沿ったものとなっており、マーラーの交響曲の創作時期に沿った漸進的な変化を捉えているものと言えるのではないか。
この成分の特徴は、第1主成分とは異なって、長・短調の三和音と付加六で正負が分かれている点であり、これを時代区分に合わせるならば、古典的な調性感が明確な作品から、調性の拡大へと向かう方向性を示す成分であるということになろうか。


 (f)第3主成分得点・負荷


第3主成分の特徴は、強いて言うならば、短調的な要素の優位ということになろうか。これは得点がマイナス方向に振れているのが振れ幅が大きい順に第8交響曲、第4交響曲、第1交響曲という順番で、イメージとしては明るくて肯定的なイメージが強い作品であることからも窺える。一方でプラス方向の最大は、「悲劇的」という副題を持つ第6交響曲ではなく、葬送行進曲とそれに後続するソナタ楽章を第1部に持つ第5交響曲であるという点は興味深い。この点は楽章の規模による偏りが分析対象の特徴量に反映されない平均和音出現割合の特性である可能性が考えられるが、この点については累計和音出現割合での結果との比較などの検討を行う必要があるだろう。


 (g)第4主成分得点・負荷


第4主成分では、マイナス側の第4,5交響曲と大地の歌に対し、残りの曲はわずかだがプラス側となるが、負荷のバランスをどう解釈するかは現時点までで結論に至ることができていない。

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.12.4 公開)




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