お詫びとお断り

2020年春以降、2024年3月現在、新型コロナウィルス感染症等の各種感染症の流行下での遠隔介護のため、マーラー祝祭オーケストラ第22回定期演奏会への訪問を例外として、公演への訪問を控えさせて頂いています。長期間に亘りご迷惑をおかけしていることにお詫びするとともに、何卒ご了承の程、宜しくお願い申し上げます。

2020年3月8日日曜日

MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その3:補遺 2021.6.17更新)

MIDIファイルを入力とした分析の一環として、和音(コード)の出現頻度に基づくマーラーの交響曲作品50ファイル(楽章単位)の他の作品71ファイルとの比較を試みた結果を「MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2020/02/midi.html)として報告し、次いでその第2報として比較対象となる作品数を増やして、マーラーの作品50ファイルに対して、他の作曲家の作品200ファイルの合計250ファイルでの分析結果について「MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その2:拡張版)」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2020/02/midi2.html)として報告しました。2つの報告でマーラーの作品の和音の出現分布に一貫した一定の傾向があることが浮かび上がってきたことを受け、それを確認するために非常に簡単ではありますがデータ分析を行ったので、その結果を報告します。 

 今回の分析は手法としては極めてシンプルな単なる集計に過ぎず、むしろ前2回の分析に先立って報告されるべき基礎的なものかも知れませんが、いずれにせよ、前2回の分析結果で浮かび上がってきた特徴の一部を非常にわかりやすい形で示しているように思えましたので、補遺として公開することにしました。(2020.3.8記)

(2021.6.17追記:集計プログラムの制約で、対象作品のMIDIデータの各ファイルに含まれる最初の1591拍分のみが分析対象となっていることがわかりました。各ファイルは概ね交響曲作品の楽章単位であることから、楽章の長さに応じて、全てが対象となっている場合もあれば、前半の1591泊目までが対象となっている場合もあることになります。この点についての記載が漏れていたことにつき、お詫びして追記します。なお、この制約をなくした分析を、今後実施の予定です。仮に両者に違いが確認できるのであれば、それ自体、音楽作品の時系列の構造の特性が反映したものである可能性が考えられます。)

1.対象としたデータ

使用したデータは以下の通りです。

「MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2020/01/midi2020128.html)で行った和音のラベリング(131種類)の結果について、各和音毎の出現頻度を以下の3つのグループ毎に算出。なお、131種類の和音での被覆率は100%ではありませんが、最終的に上位の20種類を抽出したこともあり、結果への影響はほぼないものと考えます。(例えばマーラーの交響曲のグループについては総数58586に対して概ね1%以上の出現頻度の和音が対象となっており、未分析の和音でそれだけの頻度のものはありません。)

A.マーラーの交響曲(「大地の歌」、第10交響曲クック版を含む全11曲50ファイル)の各拍頭に出現する131種類の和音の出現割合

B.最初の報告で比較対照に用いた作品(71ファイル)
 すなわち以下の作品の各拍頭に出現する131種類の和音の出現割合
  アイヴズ 答えのない質問
  シベリウス 交響曲第2番、7番、タピオラ
  ヴェーベルン パッサカリア
  ショスタコーヴィチ 交響曲第10番
  スクリャービン 交響曲第3番
  シュニトケ 交響曲第5番=合奏協奏曲第4番第1楽章
  ブラームス 交響曲第2番、3番、4番
  ブルックナー 交響曲第5番、7番、9番
  フランク 交響曲
  スメタナ わが祖国
  ハイドン 交響曲第104番
  モーツァルト 交響曲第38番、39番、40番、41番 
  シューマン 交響曲第3番

C.第2報で比較対照に用いた作品(200ファイル)
 すなわち以下の作品の各拍頭に出現する131種類の和音割合
  アイヴズ 答えのない質問
  シベリウス 交響曲第2番、7番、タピオラ、5番3楽章、6番4楽章、3番2楽章
  ブラームス 交響曲第1番、2番、3番、4番
  ブルックナー 交響曲第1番、4番、5番、7番、8番、9番
  ショスタコーヴィチ 交響曲第10番
  モーツァルト 交響曲第38番、39番、40番、41番 
  シューマン 交響曲第1番、3番
  スクリャービン 交響曲第3番
  スメタナ わが祖国
  フランク 交響曲
  ハイドン 交響曲第83、88、92、96、99~104番
  シュニトケ 交響曲第5番=合奏協奏曲第4番第1楽章
  ヴェーベルン パッサカリア
  バルトーク 管弦楽のための協奏曲
  ベートーヴェン 交響曲第3、4、5、6、7番
  ベルリオーズ 幻想交響曲
  ドヴォルザーク 交響曲第8、9番
  エルガー 交響曲第1、2番
  メンデルスゾーン 交響曲第3番
  ワーグナー パルジファル前奏曲
  ラフマニノフ 交響曲第2番
  シューベルト 交響曲第8、9番
  チャイコフスキー 交響曲第4、5、6番

B,Cについては様々な傾向の作品が含まれていますが、今回の集計では個別の作品の差異は無視されて71ないし200ファイルの全体での出現頻度を基に割合を計算しているので、全体を平均化した割合を比較することになります。

2.集計結果

上記3つのそれぞれについて出現割合の降順に並べて上位20種類を抽出し、グラフ化したものを以下に示します。
グラフの縦軸が出現割合、横軸が和音の種別になります。和音の種別の番号は「MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化」で用いたものと同じですが、「MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品」で分析対象としたものを含めて、「MIDIファイルを入力とした分析の準備:調性推定と和音のラべリング」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2020/01/midi2020128.html)でラベリング対象にした和音について示せば以下の通りです。

  3 :五度 5 :長二度 9 :短三度 17 :長三度 33 :短二度 65 :増四度
  25 :短三和音 19 :長三和音 77 :属七和音 93 :属九和音
  27 :付加六 69 :イタリアの増六 73 :減三和音 273 :増三和音
  51 :長七和音 153 :トリスタン和音 325 :フランスの増六 
  (ここまでが前2回の分析の対象)
  585 :減三+減七 89 :減三+短七 275 :増三+長七 281 :短三+長七

A.マーラーの交響曲(50ファイル、total=58586)

B.比較対象1(71ファイル、total=81576)

C.比較対象2(200ファイル、total=222903)


3.集計結果から読み取れること

・19、25は長三和音、短三和音であり、1は単音であるから、それを除くとマーラーの交響曲で比較グループとの比較において目立つのは、3:完全五度、27:付加六、51:長七和音の和音の割合が高く、77:属七和音の割合が低いことでしょうか。これらは(完全五度については特に言及しませんでしたが)前2回の分析でも傾向として浮かび上がってきた点だと思います。
・73 :減三和音、585 :減三+減七といった比較グループ1,2の平均では第10位までに入っている和音が、マーラーの場合は16位、20位であり、出現頻度が低いことがわかります。このうち585:減三+減七は前2回の分析対象には含まれていませんでしたが、この和音を追加して分析を行うべきだったかも知れません。
・7や11は前2回の分析対象にも、和音のラベリング対象にも含まれていませんが、マーラー、比較グループのいずれでも20位までには入っています。11の順位には大きな差はありませんが、7はマーラーでは9位を占めており、この和音(いわゆるサスペンションコード)は分析に含めることが考えられます。
・順位は低いですが、マーラーにおいて20位までに出現して、比較グループで出現しないのは29(マーラーで17位、比較グループ1で26位、比較グループ2で24位)、その逆は589(比較グループ1で19位、2で20位、マーラーでは33位)です。
・20位までの和音の被覆率については、マーラーの交響曲では比較グループいずれと比べても7%程度低く、両者に共通の上位の3種(長三和音、短三和音、単音)の被覆もマーラーでは30%程度なのに対し、比較グループは40%程度であり、有意な差がありそうです。ただし比較グループは様々な様式の作品の平均であり、古典的作品と非古典的な作品のバランス等が影響している可能性があるため、この点については比較グループをさらに分割して比較するのが適当に思われます。

和音の種類を追加する、ないし入れ替えて分析を行うことに関して言えば、上で候補となった和音がいずれも全体に占める割合が低いことから、分散が大きくならないため単純に追加しただけでははっきりとした結果が出ないことが予想されますし、そもそも順位差が有意であるかどうかもありますので、統計的に扱うためには検討が必要と思われます。

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。
(2020.3.8公開)