お知らせ

GMW(Gustav Mahler Werke, グスタフ・マーラー作品番号:国際グスタフ・マーラー協会による)を公開しました。(2025.4.20)

2024年1月8日月曜日

備忘:MIDIファイルを用いた分析の振り返り:序文(2025.8.19改訂)

1,はじめに:これまでのデータ集計・分析作業の概観と和音出現頻度分析のまとめについて

 これまで本ブログでは、長期に亘って、MIDIファイルを用いたマーラーの作品、特に交響曲についてのデータ集計・分析を行い、その結果を公開してきました。マーラーの作品のMIDI化の状況(Webでパブリックドメインで公開されているものに限定されますが)の報告(2016)から始まって、和音の出現頻度の分析(2020~2021)に至るまでの全体の振り返りは、2021年末に公開した記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 これまでの作業の時系列に沿った概観」で行っていますが、おおまかな流れのみ再掲すると、以下のような経過を辿りました。

  • 分析の入力となるMIDIファイルの状況についての報告
  • 基本データとその解析結果を公開
  • 五度圏上の重心計算
  • 和音の分類とパターンの可視化
  • マーラー作品のありうべきデータ分析についての考察
  • 和音の分析への準備作業
  • 和音の出現頻度から見たマーラー作品についての報告
  • 長短三和音の交替から見たマーラーの交響曲について報告
 なお、和音の出現頻度の分析のまとめは記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめ」で行っており、以下の項目よりなります。
  • 和声出現頻度の分析の位置づけ
  • 関連する話題
  • 分析内容の概要
  • 和声出現頻度の分析で何がわかったか?
  • まとめと今後の課題
  • 参考文献
  • 関連記事一覧(2021年末時点)
 その後、補遺として、未分析和音の解消と同一曲の別データとの比較、歌曲の分析などを行った上で上記のまとめ記事を更新(2022年5月)し、更に、2021年12月23日に行った私的な発表「MIDIファイルを用いたデータ分析について」のために用意した報告メモを2023年3月15日に更新・公開して、一区切りとしました。この報告メモは、上記のまとめ記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめ」の内容を拡張したものとなっており、以下の項目よりなる他、より包括的な参考文献リストと、2023年3月時点での関連記事一覧、元となった報告の説明やお世話になった先生方への謝辞を含みます。
  1. これまでに実施・公開してきた音楽関係のデータ分析の概観
  2. データ分析の動機・理由づけについて
  3. データ分析結果の公開に拘る理由
  4. 本日の報告対象:和声出現頻度と長短三和音の交替を位置づけ
  5. 関連する話題:分析のスコープは遥かに限定的なので部分的にしか一致しない
  6. データ分析の限界
  7. 分析内容の紹介(インフォーマルな説明)
  8. 分析で何がわかったか?
  9. 今後の課題:5.関連する話題の節に記載の論点へのアプローチを継続
 ここ迄の和音出現頻度の分析の成果については、上記のまとめ記事に記載していますので、ここでは割愛します。

2.その後のデータ分析作業の概要と成果

A.Google MagentaのPolyphony RNNモデルを用いた機械学習の実験

 上記の分析と並行して、2021年8月くらいから調査を開始し、その後1年近くに亘って準備を行ってきた、Google MagentaのPolyphony RNNモデルを用いた機械学習の実験の結果を2022年7月7日に公開していますが、これもMIDIファイルを入力として用いた実験で、集計・分析ではなく、機械学習にMIDIファイルを用いたものです。デイヴィッド・コープの自動作曲研究を参照しつつ、題材として第3交響曲第6楽章を選択して「模倣」に挑戦しましたが、実験の途中で実験環境として利用していたGoogle Collaboratory上でMagentaがうまくインストールできなくなってしまったことから、ごく初期の不完全な成果の報告に留まっています。

 和音出現頻度に関する集計・分析については、その後2023年5月に、それまでとはアプローチを変えて、五音音階や全音音階といった旋法性にフォーカスした分析結果を以下の3記事に分けて報告しました。この一連の分析により、マーラーの交響曲を様々な時代の他の作曲家と比較した場合の特徴を浮かび上がらせるとともに、マーラーの交響曲作品における「後期様式」の特徴をデータ分析により浮かび上がらせることに成功したと考えます。

 その後2023年7月より、ようやく本来なら本題の第一歩である筈の和音の状態遷移パターンについての集計・分析に着手し、2023年12月に至るまで断続的に実施した結果を随時公開してきました。状態遷移パターン数の集計から始まって、状態遷移パターンの多様性の分析を経て、パターンの出現確率、エントロピー、マルコフ過程としてみた場合のエントロピー、カルバック・ライブラー・ダイバージェンス、相互情報量などを計算して結果を報告して来ました。系の複雑さを測る統計量としてはエントロピーが代表的ですが、エントロピーに関連した統計量は作品の長さの影響を受けてしまうことから、固定された有限の長さをもつ音楽作品の複雑さを測る場合に常に適切なものではありません。そうした事情から、これらの一連状態遷移パターンの多様性の分析の中では、状態遷移パターンの多様性の分析結果が最も興味深く、マーラーの作品が年代を経るにつれて和声的にますます多様で複雑になっていく様子を浮かび上がらせることに成功しており、マーラーが「発展的」な作曲家であり、「後期」においても挑戦を続けていることを示すことができたと考えます。

3.本稿の目的と内容

 本稿では、和音の状態遷移パターンの集計・分析を行うことを通じて、それまでは気づいていなかった観点で見えてきたことがあったことから、一連の分析を振り返り、そこでわかったことを確認するとともに、改めてMIDIファイルを入力とした分析全体を通して、どのような意味を持つのか、集計・分析の結果をどのように受け止めるべきかについて考えてみたいと思います。具体的には以下のような点についてまとめる予定です。

  1. 先行研究について
  2. マーラー作品のMIDI化状況について
  3. 和音の定義について
  4. 和音の抽出方法について
  5. 集計対象となる和音の範囲について
  6. 状態遷移パターンの定義について
  7. MIDIファイルのデータとしての信頼性について
  8. 分析の前提となるモデルについて
  9. 分析手法について
  10. 分析の目的について

 個々のトピックについては上記の個別の報告の際に触れているものが多いですし、特に重要と考えた点については、集計・分析結果の報告とは別に、考察の記事を執筆・公開してきましたが、MIDIファイルを入力とした分析の記事がかなりの分量となり、記述が分散して全体が掴みにくくなっていることもあり、重複は厭わない代わりに、詳細な議論は割愛し、できるだけ網羅的・俯瞰的に観点を示すことを心がけようと思います。

本文(暫定版)に続く)

(2024.1.8 暫定公開, 1.10,14,18,19,21更新, 2025.8.19改訂)


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