はじめに
これまで本ブログでは、長期に亘って、MIDIファイルを用いたマーラーの作品、特に交響曲についてのデータ集計・分析を行い、その結果を公開してきました。マーラーの作品のMIDI化の状況(Webでパブリックドメインで公開されているものに限定されますが)の報告(2016)から始まって、和音の出現頻度の分析(2020~2021)に至るまでの全体の振り返りは、2021年末に公開した記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 これまでの作業の時系列に沿った概観」で行っていますが、おおまかな流れのみ再掲すると、以下のような経過を辿りました。
- 分析の入力となるMIDIファイルの状況についての報告
- 基本データとその解析結果を公開
- 五度圏上の重心計算
- 和音の分類とパターンの可視化
- マーラー作品のありうべきデータ分析についての考察
- 和音の分析への準備作業
- 和音の出現頻度から見たマーラー作品についての報告
- 長短三和音の交替から見たマーラーの交響曲について報告
なお、和音の出現頻度の分析のまとめは記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめ」で行っており、以下の項目よりなります。
- 和声出現頻度の分析の位置づけ
- 関連する話題
- 分析内容の概要
- 和声出現頻度の分析で何がわかったか?
- まとめと今後の課題
- 参考文献
- 関連記事一覧(2021年末時点)
その後、補遺として、未分析和音の解消と同一曲の別データとの比較、歌曲の分析などを行った上で上記のまとめ記事を更新(2022年5月)し、更に、2021年12月23日に行った私的な発表「MIDIファイルを用いたデータ分析について」のために用意した報告メモを2023年3月15日に更新・公開して、一区切りとしました。この報告メモは、上記のまとめ記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめ」の内容を拡張したものとなっており、以下の項目よりなる他、より包括的な参考文献リストと、2023年3月時点での関連記事一覧、元となった報告の説明やお世話になった先生方への謝辞を含みます。
- これまでに実施・公開してきた音楽関係のデータ分析の概観
- データ分析の動機・理由づけについて
- データ分析結果の公開に拘る理由
- 本日の報告対象:和声出現頻度と長短三和音の交替を位置づけ
- 関連する話題:分析のスコープは遥かに限定的なので部分的にしか一致しない
- データ分析の限界
- 分析内容の紹介(インフォーマルな説明)
- 分析で何がわかったか?
- 今後の課題:5.関連する話題の節に記載の論点へのアプローチを継続
また上記の分析と並行して、2021年8月くらいから調査を開始し、その後1年近くに亘って準備を行ってきた、Google MagentaのPolyphony RNNモデルを用いた機械学習の実験の結果を2022年7月7日に公開していますが、これもMIDIファイルを入力として用いた実験で、集計・分析ではなく、機械学習にMIDIファイルを用いたものです。
集計・分析については、その後2023年5月に、それまでとはアプローチを変えて、五音音階や全音音階といった旋法性にフォーカスした分析結果を以下の3記事に分けて報告した後、
2023年7月より、ようやく本来なら本題の第一歩である筈の和音の状態遷移パターンについての集計・分析に着手し、2023年12月に至るまで断続的に実施した結果を随時公開してきました。
- MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開
- MIDIファイルを入力とした分析の準備(4):状態遷移の集計結果の公開(続き)
- MIDIファイルを入力とした分析の準備(5):状態遷移の集計結果の公開(補遺)
- MIDIファイルを入力とした分析の準備(6):状態遷移の集計結果の公開(補遺その2)
- 後期マーラーの「挑戦」?:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの多様性に注目した予備分析
- MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率に注目した予備分析
- MIDIファイルを入力とした分析:マルコフ過程としてのエントロピー計算結果
- MIDIファイルを入力とした分析:マルコフ過程としてのエントロピー計算結果(続)各小節頭拍の場合
- MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移のエントロピーに基づく分析
- MIDIファイルを入力とした分析:マルコフ過程としてのエントロピー計算結果(補遺)創作時期別集計
- MIDIファイルを入力とした分析:未分析の和音の出現頻度―エントロピー計算結果の同時代以降の作品との比較の記事撤回について
- MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較
- MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較(2) 他の作曲家の作品との比較
- MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較(3)マーラーの交響曲間の比較(続報)
本稿では、和音の状態遷移パターンの集計・分析を行うことを通じて、それまでは気づいていなかった観点で見えてきたことがあったことから、一連の分析を振り返り、そこでわかったことを確認するとともに、改めてMIDIファイルを入力とした分析全体を通して、どのような意味を持つのか、集計・分析の結果をどのように受け止めるべきかについて考えてみたいと思います。具体的には以下のような点についてまとめる予定です。
- 先行研究について
- マーラー作品のMIDI化状況について
- 和音の定義について
- 和音の抽出方法について
- 集計対象となる和音の範囲について
- 状態遷移パターンの定義について
- MIDIファイルのデータとしての信頼性について
- 分析の前提となるモデルについて
- 分析手法について
- 分析の目的について
個々のトピックについては上記の個別の報告の際に触れているものが多いですし、特に重要と考えた点については、集計・分析結果の報告とは別に、考察の記事を執筆・公開してきましたが、MIDIファイルを入力とした分析の記事がかなりの分量となり、記述が分散して全体が掴みにくくなっていることもあり、重複は厭わない代わりに、詳細な議論は割愛し、できるだけ網羅的・俯瞰的に観点を示すことを心がけようと思います。
(本文(暫定版)に続く)
(2024.1.8 暫定公開, 1.10,14,18,19,21更新)
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