2024年7月7日日曜日

MIDIファイルを入力とした分析:エントロピー計算結果の同時代以降の作品との比較について

1.はじめに

  マーラーの交響曲のエントロピー計算結果についてマーラーの同時代以降の作品との比較の可能性について検討した結果を公開します。本件については、2023年11月の最初の公開後直ちに、比較対象とした同時代以降の作品の集計結果に重大な制限があり、比較分析を行うには適当でないと判断し、記事を撤回することにしましたが、その後の検証で、判断の材料とした未分析の和音の出現頻度の集計に問題があり、必ずしもそこで不適当と判断した作品の全てについて判断が妥当であった訳ではないことを確認しました。

 具体的には判断の材料とした未分析の和音の出現頻度の集計は、マーラーの作品における未分析の和音を解消した時点の集計ではなく、マーラーの作品においてすら、特に後期作品に未分析の和音が残る状態で分析を行っていた事典(記事MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめを参照)での集計でした。その後マーラーの作品については未分析の和音が解消されましたので(記事MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 補遺(1):未分析和音の解消を参照のこと)、現時点ではマーラーの作品については、出現する全てのピッチクラスの集合を扱った集計・分析が可能であり、そのことを踏まえた上で、既に後期作品にフォーカスした分析を行った結果を報告してきた(記事2つの旋法性?:MIDIデータを入力とした分析続報(2):全音階・五音音階・全音音階を巡って参照)訳ですが、他の作品についても、改めてマーラーの作品における未分析の和音を解消した時点での集計を用いると、未分析の和音の出現頻度が分析に支障ない程度にまで下がっている作品もあることがわかりました。

 そこで撤回の記事の方を改めて撤回し、以下では未分析の和音の出現頻度の変化についての報告をした上で、状態遷移パターンの比較に用いた作品についての集計結果のみを公開し、それ以外の同時代以降の作品との比較については、改めて後日を期することにします。

 なお、今後、これらの作品の未分析和音を解消すべくパターン・マッチング処理を拡張するかどうかについては否定的であるという判断の方には変化はありません。あくまでも本ブログでの集計・分析はマーラーの作品を対象としたものであり、他の作曲家の作品は比較対象としてのみ意味を持つこと、マーラーの作品について、更に集計・分析をすべき課題は山積しており、そちらを優先して実施する関係上、他の作曲家の作品には手が回らないことがその理由です。

2.未分析の和音の出現頻度

 以下、

作曲家、作品:マーラーの作品に未分析の和音が残る状態の時点での未分析の和音の出現頻度/系列長 (出現頻度の順位/パターン数) →マーラーの作品については未分析の和音が解消された時点での未分析の和音の出現頻度/系列長 (出現頻度の順位/パターン数) 

という書式で記載します。なお、未分析の和音という定義上、その中に、何種類の和音が区別されて含まれるのかはわかりませんので、その点はご了承頂けるようお願い致します。(仮にそれが単一の種類の和音であるならば、エントロピーの計算上も問題ないことになりますが、頻度が高い場合については、その確率は極めて低いものと思われます。逆に、全てが互いに異なる和音で、それぞれの出現頻度は1であるというケースについても同様です。)

  • マニャール、歌劇「ベレニス」序曲:1/367 (38/42)→0/367(-/42)
  • ヴェーベルン、パッサカリア:49/411 (1/46)→0/427(-/127)
  • ストラヴィンスキー、詩篇交響曲:65/901 (1/100)→1/916(106/146)
  • †シュトラウス、アルプス交響曲:407/2459 (1/115)→76/2679(6/281)
  • シェーンベルク、「浄夜」:9/1754 (34/90)→0/1754(-/93)
  • スクリャービン、交響曲第3番:20/1776 (17/77)→0/2478(-/102)
  • †シュニトケ、交響曲第5番=合奏協奏曲第4番第1楽章:93/359 (1/84)→32/543(1/204)
  • ?アイヴズ、「答えのない質問」:21/123 (1/39)→2/144(15/72)
  • ホルスト、「惑星」組曲:86/2898 (8/90)→0/2910(-/119)
  • ショスタコーヴィチ、交響曲第10番:50/1867 (7/104)→1/2526(120/154)
  • ?バルトーク、オーケストラのための協奏曲:150/2065 (2/113)→10/2189(42/198)
  • ?ペッテション、交響曲第6~16番、ヴァイオリン協奏曲第2番、交響的断章: 8760/65405 (1/121)→651/73694(24/317)
 マーラーの作品に未分析の和音が残る状態では、マニャールの「ベレニス」序曲とシェーンベルクの「浄夜」以外は未分析の和音の割合が高く、未分析の状態を解消しなければエントロピーや状態遷移パターンの集計・分析を行うことが難しそうですが、マーラーの作品については未分析の和音が解消された時点では、大幅に未分析の和音の出現頻度は低下していることがわかります。
 シュニトケは未分析の和音の頻度が順位でももっとも高く、数としても1割弱を占めていますし、シュトラウスもまだ数にして3%弱が未分析ですので、依然としてエントロピーや状態遷移パターンの集計・分析を行うことについては慎重であるべきでしょうが、アイヴズ、バルトーク、ペッテションについては、以下の比較分析対象としているラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲と同程度まで下がっていますし、他の作品についてはエントロピーや状態遷移パターンの集計・分析を行っても支障ない結果と考えられます。
 特にまとまった数の作品数があり、マーラーの交響曲との比較を検討していたペッテションについては、未分析の割合が全体の1%を切ったこともあり、比較分析を試みてもいいように感じており、改めて後日の課題ということで判断を訂正したいと思います。

3.状態遷移パターンの比較対象のうちマーラーの作品と同時代以降の作品との比較

 状態遷移パターンの比較に用いた作品について、未分析和音の頻度の集計結果を記載し、その上で、MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率に注目した予備分析にて比較対照した結果を、マーラーの作品と同時代以降の作品に絞って再掲します。

  • ヤナーチェク、シンフォニエッタ:0/1412 (-/78)
  • タクタキシヴィリ、ピアノ協奏曲第1番:0/1804 (-/114)
  • ラヴェル、左手のためのピアノ協奏曲:1/1290 (103/140)
  • ラヴェル、ピアノ協奏曲ト長調:1/1150 (106/137)
  • ラヴェル、優雅で感傷的な円舞曲:1/1289 (141/186)
  • ラヴェル、「ダフニスとクロエ」第2組曲:14/1737 (32/241)
  • シベリウス、交響曲第2番:0/2763 (-/121)
  • シベリウス、交響曲第7番:0/2072 (-/171)
  • シベリウス、「タピオラ」:2/1780 (109/170)
 MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率に注目した予備分析にて比較対照した他の作曲家の作品のうち、マーラーの作品と同時代以降の作品との比較
  • 単純マルコフ過程としてのエントロピーおよび状態遷移パターン出現確率分布のエントロピー(深さ0~5)

  • 状態遷移パターン数/系列長比率(深さ0~5)


公開したアーカイブファイル gmsym_control_cdnz3_pcls.zip には以下のファイルが含まれます。
  • 入力ファイル(比較対照の作品のみ)
    • *_A_cdnz3_pcl.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ0~5)
    • *_A_cdnz3_pcl_transition,csv:単純マルコフ過程としての状態遷移マトリクス
  • 結果ファイル(マーラーの交響曲および比較対象の作品の集計結果)
    • _control_pcl_summary.xlsx
      • 単純マルコフ過程としてのエントロピー
      • 状態遷移パターン出現確率分布のエントロピー(深さ0~5)
      • 総拍数
      • 状態遷移パターン数(深さ0~5)
      • 系列長(深さ0~5)

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。
(2023.11.9, 2024.7.7 記事撤回の判断に誤りがあったことが判明したため全面改訂して再公開)

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