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2008年10月7日火曜日

作品覚書(15)リートと歌第2,3集

リートと歌と題された3集よりなるマーラーのピアノ伴奏歌曲集は、内容上は、第1集と 第2,3集の2つに分かれる。第2,3集は出版の便宜上分けられてはいるものの、 いずれも「子供の魔法の角笛」に付曲した作品のみからなっており、しかも、それぞれが 独立の作品であるから、順序にしても第2,3集のいずれに帰属するかについても、 別段の意図はないことになる。第2,3集については出版も1892年に同時に行われており、 ひとまとめとして扱うのであれば、ピアノ伴奏版のみが存在する「魔法の子供の角笛」 歌曲群として9曲をひとまとめにするのが適当だろう。

マーラーは管弦楽法の大家ということになっていて、歌曲においても管弦楽伴奏であることが 特色として挙げられることが多い。そうした中で、このピアノ伴奏の9曲は、同じ「角笛」歌曲でも 管弦楽伴奏を持つ他の作品に比べて、注目される機会は決して高くはないというのが実情かも知れない。

そこで問題になるのは、マーラーの創作の中でこのピアノ伴奏歌曲が占める位置である。 なぜマーラーはこれらの曲に管弦楽伴奏をつけなかったのか。時期の問題というのはありえない。 先行する「さすらう若者の歌」の管弦楽伴奏版の成立過程ははっきりとしない部分があるようだが、 それでも1891年から1893年くらいのことと考えられていて、1888年から1890年くらいに作曲された と考えられているこの「角笛」の9曲だって、その気になれば「後から」管弦楽伴奏版を作ることは 可能だったはずなのだ。マーラーはこれらの9曲については管弦楽伴奏版を作る価値を認めなかったの だろうか。この後、マーラーはアルマへの「私信」の性格があると考えられる「美しさゆえに愛するなら」を 除いて、全ての歌曲について管弦楽伴奏版を作っていて、そういう意味ではこの9曲は寧ろ「例外」の 側に属するといっても良いのである。この点で興味深いのは「夏の交替」で、第3交響曲第3楽章に 素材を提供したにも関わらず、この歌曲自体は管弦楽伴奏版が作られることはなかったようだ。 (2008.10.7 この項続く)

形式の概略(長木「グスタフ・マーラー全作品解説事典」所収のもの)
悪い子たちをおとなしくさせるには前奏「快活に」13E
前半(第1,2節)419
間奏2022
後半(第3,4節)2338
後奏3941
緑の森を愉快な気分で歩いていったら第1節「夢見るように、総じて優しく」128D
第2節2957
第3節「少しより遅くして」5880G
第4節「テンポI」81108D
終わっては!終わっては!第1節「大胆な行進曲のテンポで」110Des
第2節1118B
第3節1928Des
第4節2940A
第5節4148Des
第6節「嘆くように(パロディを伴って)」4966B
第7節6779Des
たくましい想像力前奏「非常にゆったりと、ユーモラスな表現で」12B
第1節311
第2節1220
シュトラスブルクの城塁に立つと前奏「民謡の調子で(感傷なしに、非常にリズミカルに)」14fis
第1節516
第2節1726
第3節2738
第4節3961H-h
夏の歌い手交代前半「ユーモアを伴って」131b
後半3258B
後奏5967b
別れさせられ遠ざけられるのは第1節「快活に」145F-F/f
第2節4681f-F
もう会えない!第1節「憂鬱に」116c
第2節1726
第3節2740
第4節4151
第5節5268C-c
自惚れごころ前半「不機嫌な調子で」126F
後半2757

2008年5月24日土曜日

私のマーラー受容:リートと歌第2,3集・子供の魔法の角笛

「子供の魔法の角笛」歌曲集も「子供の死の歌」同様、最初はLPレコードではなくカセットテープで、 シャーリー=カーク、ノーマン、ハイティンク・コンセルトヘボウのものをずっと聴いていた。 リートと歌第2,3集は音源にめぐり合えないかわりに楽譜を持っていて、これまた 自分で楽譜を読んで発見した感じが強い。個別の曲について言えば、「私は緑の森を歩いた」はマーラーがピアノロールに残した 演奏を聴いていたこともあり、また「夏の交代」は、第3交響曲第3楽章との関係のせいで印象が特に強い。 「子供の魔法の角笛」歌曲集もピアノ伴奏版の楽譜を手に入れた。(ただし全曲ではなかったと思う。)

「角笛歌曲集」については、昔よりも今のほうが一層、色々なニュアンスが感じ取れるように なったと思う。昔から親しんでいたけれど、少なくともそのうちの幾つかはどちらかといえば大人の音楽だろう。 まだまだきちんと聴けていないように感じていて、寧ろこれからじっくり聴いていきたいと思っている。 その独特の醒めた感じやイロニー、そして意識的なアナクロニスムといった、角笛歌曲集に顕著な特性は マーラーを「意識の音楽」と捉える上で鍵となるものであり、また、マーラーによる歌詞の改変の様相が 最も顕著な形で観察できるのもこの曲集で、色々な意味でマーラーの持っている一面を窺い知る 格好の場であることは疑いないだろう。

2008年3月15日土曜日

所蔵録音覚書:リートと歌第2,3集 (2021.8.16 更新)

  • リートと歌第2,3集より4曲(夏の交替, シュトラスブルクの砦で, もう会えない, 別離と忌避), ゲンツ(Br.) / ヴィニョルズ(Pf.), 2003.1.13/17, (1:37, 3:28, 3:35, 2:16), STEREO, Hyperion
  • リートと歌第2,3集(私は緑の野を楽しく歩いた, たくましい想像力, うぬぼれ, もう会えない, いたずらっ子をしつけるために, 外へ!外へ!, シュトラスブルクの砦で, 別離と忌避, 夏の交替), ベイカー(MS.) / パーソンズ(Pf.), 1983.2.24/25, (4:02, 1:03, 1:32, 4:30, 1:46, 2:25, 3:40, 2:26, 1:23), STEREO, Hyperion
  • リートと歌第2,3集(いたずらっ子をしつけるために, 私は緑の野を楽しく歩いた, 外へ!外へ!,たくましい想像力,シュトラスブルクの砦で,夏の交替, 別離と忌避, もう会えない,うぬぼれ), フィッシャー=ディスカウ(Br.) / バレンボイム(Pf.), 1978.2.5/10, (1:50, 3:50, 1:56, 1:04, 3:52, 1:39, 2:17, 4:51, 1:53), ベルリン、ジーメンス・ヴィラ, STEREO, EMI
  • リートと歌第2,3集より7曲(もう会えない, シュトラスブルクの砦で, 別離と忌避, うぬぼれ, いたずらっ子をしつけるために, 夏の交替, 私は緑の野を楽しく歩いた), フィッシャー=ディスカウ(Br.) / バーンスタイン(Pf.), 1968.11.5-6, (5:16, 4:32, 2:35, 2:01, 1:53, 1:32, 5:15), ニューヨーク, STEREO, SONY
  • リートと歌第2,3集より7曲(もう会えない, シュトラスブルクの砦で, 別離と忌避, うぬぼれ, いたずらっ子をしつけるために, 夏の交替, 私は緑の野を楽しく歩いた), フィッシャー=ディスカウ(Br.) / バーンスタイン(Pf.), 1968.11.8(Live), (5:14, 4:28, 2:28, 1:58, 1:34, 1:31, 4:56), ニューヨーク、リンカーン・センター、フィルハーモニーホール, MONO, MYTO
  • リートと歌第2,3集より5曲(別離と忌避, もう会えない, 私は緑の野を楽しく歩いた, 夏の交替, たくましい想像力), ハルバン(Sp.) / ワルター(Pf.), 1947.12.16, (2:18, 3:29, 3:13, 1:18, 1:03), ロスアンジェルス, MONO, Columbia / Naxos Historical
  • リートと歌第2,3集より4曲(うぬぼれ, もう会えない, シュトラスブルクの砦で, 夏の交替, いたずらっ子をしつけるために、管弦楽伴奏編曲:ハロルド・バーンズ), ヴァイクル(Br.) / シノーポリ, フィルハーモニア管弦楽団, 1985.1.28-29, (1:58, 5:46, 3:59, 1:33, 1:40), ロンドン、ワトフォード・タウン・ホール, STEREO, Deutsche Grammophon
  • 私は緑の森を楽しく歩いた, シュトゥックゴルト(Sp.) 管弦楽伴奏, 1921, (3:47), MONO, Deutsche Grammophon / Naxos Historical
  • ピアノロールに記録されたマーラーの演奏 (私は緑の野を楽しく歩いた), マーラー(Pf.), 1905.11.9, (3:12), The Kaplan Foundation / Golden Legacy
  • 「私は緑の野を楽しく歩いた」, カールソン(MS.), マーラー(Pf. ピアノロール), 1992.11.16, (3:12), ニューヨーク、マスターサウンドスタジオ, The Kaplan Foundation / Golden Legacy
  • 別離と忌避, エルフリーデ・トレッシェル(Sp.) / リヒャルト・クラウス(Pf.), 1949, (2:54), , MONO,HÄNSSLER
  • 別離と忌避, 私は緑の野を楽しく歩いた, ハンスとグレーテ, 春の朝(ロベルト・ハーガー、ロタール・ヴィントシュベルガー(私は緑の野を楽しく歩いた)管弦楽編曲), アニー・フェルバーマイヤー(Sp.) / プロハスカ, ウィーン国立歌劇場管弦楽団, 1953, (2:24, 3:55, 2:03, 1:41), ウィーン, MONO, Vanguard
  • 夏の交替, ドンファンのファンタジー, 別離と忌避, いたずらっ子をしつけるために, 思い出, たくましい想像力, アニー・フェルバーマイヤー(Sp.) / ヴィクトル・グレーフ(Pf.), 1952, (1:46,2:46,2:32,1:44,3:22,1:13), ウィーン, MONO, Vanguard
  • シュトラスブルクの砦で, ドンファンのセレナーデ, 春の朝, 外へ!外へ!, うぬぼれ, もう会えない, 私は緑の野を楽しく歩いた, ハンスとグレーテ, アルフレッド・ポエル(Bs.) ,ヴィクトル・グレーフ(Pf.), 1952, (3:38,1:57,1:59,2:01,1:46,4:17,3:47,2:14),ウィーン, MONO, Vanguard   
  • 私は緑の野を楽しく歩いた, ハンスとグレーテ, 春の朝, いたずらっ子をしつけるために, クリスタ・ルートヴィヒ(MS.) / ジェラルド・ムーア(Pf.), 1959.5.3-5, (3:40,2:10,1:55,1:40), ロンドン、アビーロードスタジオ, MONO, EMI
  • 春の朝, ハンスとグレーテ, 私は緑の野を楽しく歩いた, この歌をひねり出したのは誰, ユディト・ラスキン(Sp.) / ジョージ・シック(Pf.), 1965.6.3-9, (2:03, 1:47, 4:03, 1:54), ニューヨーク、30番街スタジオ, MONO, EPIC
  • シュトラスブルクの砦で,もう会えない,別離と忌避, 夏の交替, いたずらっ子をしつけるために, うぬぼれ, フィッシャー=ディスカウ(Br.) / バレンボイム(Pf.), 1971.9.14(Live), (4:29, 5:13, 2:46, 1:49, 1:48, 1:49), ベルリン, STEREO, Audite
  • もう会えない, ルイス・マーシャル(Sp) / ウェルドン・キルバーン(Pf.), 1962.10.16, (4:19), モスクワ、モスクワ音楽院, MONO, モスクワ音楽院
  • もう会えない, レギーナ・レズニク(Sp) / リヒャルト・ヴォイタッハ(Pf.), 1968.3.11, (5:15), ニューヨーク、30番街スタジオ, STEREO, SONY
  • 別離と忌避, もう会えない,  いたずらっ子をしつけるために, 私は緑の野を楽しく歩いた, たくましい想像力, アンナ・レイノルズ(Sp) / ジェフリー・パーソンズ(Pf.), 1969, (2:47, 5:05, 1:51, 3:55, 1:00), , STEREO, OISEAU LYRE
  • 外へ!外へ!, たくましい想像力, うぬぼれ, トーマス・ハンプソン(Br.) / デイヴィッド・ルッツ(Pf.), 1992.1, (2:13, 1:10, 2:04), ロンドン, 聖アウグスティヌス教会, STEREO, Teldec
  • 私は緑の野を楽しく歩いた, 別離と忌避(ルチアーノ・ベリオ管弦楽編曲), トーマス・ハンプソン(Br.) / ルチアーノ・ベリオ、フィルハーモニア管弦楽団, 1992.10, (4:19, 2:08), ウィーン, カジノ・ツォーゲルニッツ, STEREO, Teldec
  • 夏の交替, シュトラスブルクの砦で, もう会えない, いたずらっ子をしつけるために(ルチアーノ・ベリオ管弦楽編曲), トマス・ハンプソン(Br.) / ルチアーノ・ベリオ、フィルハーモニア管弦楽団, 1992.10, (1:31, 4:10, 5:02, 1:42), ウィーン, カジノ・ツォーゲルニッツ, STEREO, Teldec

リートと歌第2,3集の歌詞は子供の魔法の角笛に基づくものだが、ピアノ伴奏版のみでマーラー自身による管弦楽伴奏版は作られなかった曲集である。 ただしその中には「夏の交替」のように交響曲楽章との連関があるものも含まれるし、マーラーがピアノロールに遺した記録のうちに「私は緑の野を楽しく歩いた」が 含まれるなど、この曲集のマーラーの作品に占める位置は決して過小視されるべきではないし、フィッシャー=ディースカウやベイカーなど、マーラーを得意とした歌手による優れた演奏記録が存在する。更にこの曲集の場合には、管弦楽伴奏の曲集に比べると男声で歌われるか女声で歌われるかの自由度が大きいように 思われる。実際には男声・女声は勿論、声部指定がないという点ではどちらも同じなのだが。上記のように所蔵録音は男声・女声の両方があるが、 その一方で偶々どちらも中声(女声はメゾ・ソプラノ、男声はバリトン)の歌唱によるものである。カールソンの歌唱はマーラーの演奏のピアノロールの再生に合せたもので、いわゆる普通の意味でのピアノ伴奏による歌唱とは全く異質のものである。ワルターの伴奏で歌っているデジ・ハルバンはマーラーがウィーン宮廷歌劇場に呼び、マーラーの下で歌ったゼルマ・クルツの娘であるが、ゼルマ・クルツもまたグートハイル=ショーダーなどとともにマーラーの歌曲を歌ったことを思えば興味深いものがある。