所蔵楽譜(2024.7.6更新)

[注意]音楽之友社より出版されているポケットスコアの一部はマーラー協会全集版によるものだが、すべてではない。(特に歌曲は協会全集の 刊行が遅れており、最近ようやく出たものもあるので協会全集とは異なる。)。 「改訂版」「決定版」という言い方は、第一義的には同一出版社から出ている以前の版との区別が目的であり、マーラー自身の改訂作業の 反映という意味ではないようだ。(もっとも以下に見るように、一見した限りではよくわからないものもある。ご存知の方がいらっしゃったら是非 ご教示いただきたい。)
また、マーラー協会全集はその後も改訂を続けているので、最新の協会全集と同じであるとは限らない(交響曲は「再」改訂がすでに行われている ものが多い)。最新の協会全集についての情報は、国際マーラー協会のページを参照のこと。 「再」改訂には、―これは改訂後の「声明」のかたちで出されたのだが―第6交響曲の中間楽章配置に関するエルヴィン・ラッツの校訂の否定をはじめ、 インパクトがあるものもある一方で、当然のことではあるが最新の改訂版の判断が「常により妥当」とは限らない―少なくとも首を傾げる判断が ないわけではない。また、第10交響曲に対する扱いも含めて、マーラー協会全集版の―つまるところ当時にあってはラッツの方針に対する異議も比較的 早くから存在していることにも留意すべきである。(クック他の第10交響曲「実用版」の作成や、レートリヒの校訂方針など。) 一方で、ラッツ後の マーラー協会全集の方針もまた変わってきていて、それはラッツのいわゆる「決定稿=最終稿主義」とでもいうべき姿勢が奇妙な結果を生んだ「嘆きの歌」の 本来の姿である初稿の刊行や、第1交響曲の初期形態などに対する姿勢に現われている。(私個人の評価はまた別の話で、マーラー協会全集の方針や、 学問としての「音楽学」の観点からの「あるべき」論―これはこれでとても大切なことで、これ無しには以下に述べるような「選り好み」の前提自体が 成り立たない―とは別に、全ての形態に「等しい」価値を認めるという姿勢をところ構わず適用することにもまた、留保をつけたい気持ちを持っている。 要するにある形態の価値は、それこそケース・バイ・ケースで個別に判断していくしかないし、「作曲者自身の意思」についても、無条件に墨守すべきとは 思わないが、あたかもそれがなかったかのように無視してしまうのもどうかと思う。)

一方Doverの楽譜は権利の切れた古い版のリプリントであり、全集版で見られる改訂が反映されていない箇所が確認できる。ただし、 第1交響曲や第2交響曲についてはDoverの主張にも関わらず、それぞれの初版(第1交響曲は1899年、第2交響曲は1897年の版)のリプリントでは ないし、第3交響曲は逆にUniversalに権利が移動した後の改訂版ではなく、Weinbergerの1898年の初版であるというのが私の認識である。さらに 第5交響曲は1904年の初版ではなく、恐らくは1919年の改訂版ではないかと思われる。 Dover版を使われる方に注意を喚起しておきたい。

またEulenburg版は近年全音楽譜出版より第1,4,6交響曲が入手できるようになったが、上でも触れたレートリヒが校訂した版であり、その校訂方針の 是非はおくとしても、版の問題についての記述が含まれていて有用である。第4,第6交響曲については校訂報告も含まれる。なお、全音版ではレートリヒの 序文は日本語訳されているのだが、この日本語訳、特に第6交響曲の序文の訳はかなり問題があるので注意が必要である。 もっともわざわざレートリヒの版を参照するような方は日本語訳の間違いに気づく程度の知識はお持ちのことだろう。ドイツ語ないし英語を正しく読めるか どうかもさることながら、知識があれば犯すはずのない間違いや校正不足と思われる部分(要するにまともな日本語になっていない部分)が頻出するなど、 かなり杜撰なもので、せめて元のドイツ語・英語も載せておいてくれれば良かったのにと思うほどである(私は第6交響曲についてはやむなくオリジナルの版を入手し、 始めからそうしなかったことを後悔した)。ちなみに全音は、以前から出版されている第2,3,5交響曲についてはそのまま元の版を残しているが、 それらについてはここで主題的に扱うつもりはないし、一切説明のないその版の由来について追跡するつもりもない。 かつて(もう30年近くも前のことだが)はこの全音版しか目にすることができなかったため、 子供であった私は第2交響曲については全音版を買ったのだったが、その後は高くても、手間がかかってもUniversal社のものを入手するようにした。ましてや 他の選択肢がある今となってはこの版をわざわざ選択する意義は(この版が出版され、流通したという事実の確認が目的であれば別だが)ほとんど 存在しないように感じられる。序文の分析はオリジナルのようだが、(試案に過ぎないと断っている点を勘案してもなお、)かなり妥当性が怪しいような部分も見受けられ、 かえって混乱を招くのではとさえ思われる。まあもっとも、最後の点については(実際、そのように断ることにより予防線も張られているのだが)そもそもマーラーの 交響曲の形式は極めてポレミカルなので、私の見解と立場を同じくしていないというだけかも知れないが。

一般に、出版譜における改版経緯というのは思ったよりはるかに情報が乏しい。ド・ラ・グランジュの伝記には自筆譜や、出版譜にマーラーが書き込んだ 修正の情報はあっても、出版譜については少なくとも整理されたかたちでは情報はないし、色々な文献を比較してみると、初版の出版年すら 一致していない場合が少なからずあって辟易させられる。マーラーが出版後も執拗に改訂を行ったのは「伝説」並みに知られているのに、実証的な 情報については極めて乏しいというのが偽らざる印象である。

第10交響曲のいわゆる「クック版」も改訂を重ねているが、現時点では以下のものが最も新しい版である。

また最近はWeb上にIMSLPという著作権の切れた楽譜をPDF化して利用可能にするプロジェクトがあり、マーラーの場合にもDoverがリプリントを出している ような権利が切れた古い版についてはオンラインで取得できるようになっている。また、近年では第10交響曲の自筆スケッチの画像が参照できるように なっており、その価値はますます高くなっている。著作権は属地主義によっていて、保護期間は地域によりまちまちなため、 Webでの公開には困難が付き纏うと想像されるが、マーラー協会全集後の時代にいる愛好家にとってマーラーの生前に刊行された形態を比較的容易に対照 できるようになったことは意義は大きいと思う。特にマーラーの場合には最初の出版以降もマーラー自身が改訂を続けたから、却って初期の出版譜を参照できる メリットを見出すことができるのではないか。今後のプロジェクトの発展と更なる情報の充実に期待したい。

また以下にはある時期までのマーラー受容の重要な通路であった交響曲のピアノ連弾などへの編曲についても、その意義に鑑み、所蔵しているものについては記載することにした。 (現在のところ他人の編曲によるものは第1、第2のワルターによる4手ピアノ版、第2のベーンによる2台ピアノ版、第5のシュトラーデルによる4手ピアノ版とジンガーの2手ピアノ版、 第6のツェムリンスキーによる4手ピアノ版、第7のカゼッラによる4手ピアノ版、そしてフォン・ヴェスによる第3, 第4, 第8, 第9の4手ピアノ版および大地の歌、 嘆きの歌、第8交響曲のヴォーカル・スコアが該当する。)
  • 交響曲第一番
    • 交響曲第一番, Universal Edition UE 13820 / 2931 マーラー協会全集版第I巻(1967)。
    • 交響曲第一番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1446 (Universal Edition UE 2931(parititur) のリプリント):マーラー協会全集版第I巻(1967)による。
    • 交響曲第一番, Dover (1987):Weinberger の初版(1899)のリプリントで1906年の改訂前の形態とのことだが、第1楽章呈示部の反復は追加されており、 金子「マーラーの交響曲」の記述とは矛盾するし、奥付の記載を見る限り、少なくともUniversalに権利が移った後のものであるようだ。 従って私見では誤認があると考える。(2024.7.6追記)しかしながら、第2楽章の練習番号29の4小節後のティンパニはハンブルク・ワイマール稿(所謂交響詩「巨人」)の名残を留めていることが確認できる。ここの箇所に限れば、バルビローリのニューヨーク・フィルとのライブはこちらの形態での演奏である。
    • 交響曲第一番, Eulenburg/Zen-On, E.E.6347:レートリヒ校訂。Universal Editionの1910年の改訂版をベースにした独自の校訂版であるが、 いわゆるクリティカル・エディションではないとレートリヒ自身がはっきりと断っている。にも関わらず、レートリヒによる序文は一読の価値がある。
    • 交響曲第一番(4手ピアノ用編曲:ブルーノ・ワルター), Universal-Edition 947
    • 交響曲第一番, 各楽章に標題が追加され、全曲の末尾に1893年1月19日の日付を持つ自筆フルスコア(いわゆるハンブルク稿)
    • 「花の章」, 末尾に1893年8月16日の改訂日付を持つ自筆フルスコア(いわゆるハンブルク稿)
    • 「巨人」, 大管弦楽のための2部5楽章からなる交響曲形式の音詩, Universal Edition UE 36514, ラインホルト・クビークおよびステファン・E・ヘフリング校訂(2019) : 解説によれば、ソースとしてブタペストで演奏されたライプチヒ版(1,3,5楽章のみ)といわゆるハンブルク・ワイマル稿、および比較資料として4楽章版の第1交響曲の清書楽譜を用いて校訂されたものとのこと。
  • 交響曲第二番
    • 交響曲第二番, Universal Edition UE 13821 / 2933 マーラー協会全集版第II巻(1970)。
    • 交響曲第二番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1395 (Universal Edition UE 2933(parititur) のリプリント):マーラー協会全集版第II巻(1970)による。
    • 交響曲第二番, Dover (1987):Weinberger の1897年の初版のリプリントとのことだが、全集版と器楽法に若干の違いがあるが、初版総譜にマーラーが書き込んだ 修正は既に反映されており、私見では誤認があるのではないかと思われる。その一方で、1908年頃マーラーが出版譜に対して行い、1910年の改訂版に反映された 箇所は反映前である。
    • 交響曲第二番, 全音楽譜出版社(1971):日本語による解説つきだが、その内容は充分に批判的な視点をもって読むべきである。楽譜自体の由来の 説明は一切無く、校訂についてのコメントもない。利用にあたってはこうした点に留意すべきだろう。
    • 大管弦楽のための交響詩「葬礼」, 第2交響曲第1楽章の初期稿(1888), Universal Edition UE 13827, 1988 :マーラー協会全集版補巻I, ルドルフ・シュテファン校訂
    • 交響曲第二番(4手ピアノ用編曲:ブルーノ・ワルター), Universal-Edition 949
    • 交響曲第二番(2台ピアノ用編曲:ベーン), Universal-Edition 2937
    • 交響曲第二番 マーラー自身による修正や挿入を伴うコピイストによる写譜(第4楽章を除く),1895年
  • 交響曲第三番
    • 交響曲第三番, Universal Edition UE 13822 / 2939 マーラー協会全集版第III巻(1974)。
    • 交響曲第三番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1468 (Universal Edition UE 13822(parititur) のリプリント):マーラー協会全集版第III巻(1974)による。
    • 交響曲第三番, Dover (1989):奥付によればUniversalの初期の版のリプリントとのことだが、金子「マーラーの交響曲・2」にもあるように、 1898年初版のWeiberger版出版譜にマーラーが書き込んだ器楽法の変更が反映されていない。従って私見では誤認があるのではないかと思われるが、 こちらは第一交響曲、第二交響曲と異なって、初版の1898年のWeinberger版が確認できることになる。 なお、初版の年は1898年とする資料と1899年とする資料が混在する。渡辺「マーラー事典」の記述(1902年)は単なる誤りだろう。
    • 交響曲第三番, 全音楽譜出版社(1971):日本語による解説つきだが、その内容は充分に批判的な視点をもって読むべきである。楽譜自体の由来の 説明は一切無く、校訂についてのコメントもない(一瞥して、Universalの初期の版に基づいているらしいことは直ちにわかるが)。だが実際には独自の、しかも不可解としか 思えない「校訂」がなされているのが確認できる。例えば、p.191の第3楽章のトランペットの音型やp.211の第4楽章のヴァイオリン・ソロの音型について欄外に 1906年版の音型が掲げられたり、あるいはpp.144,145の第2楽章の括弧つきのテンポ指示について1906年版によるという注記があったりと、より古い版に基づく校訂が されているのが確認できるし、脚注形式の注意も古い版のものが採用されている〈例えば第1楽章冒頭p.25や第2楽章冒頭p.127〉。p.27の第1楽章練習番号2番の ティンパニの部分では、元となる版にはついていた注を削除した形跡が窺えるし、p.247の第6楽章練習番号25番の5小節目のテンポ変化の脚注はつけられているが、 練習番号26番の第1トランペットの旋律をB管コルネットで代替しても良いとの指示はないといった具合で、ベースとなったより新しい版から追加された改訂を削除し、 より古い版にあった注を復活させて存在意義が定かでない「独自の版」を何の断りもなしに作り上げているとしか見えない。なお、金子「マーラーの交響曲・2」を 信頼すれば、注に掲げられた1906年版のヴァリアントと称するものはいずれも寧ろ1898年のWeinberger版に遡るものであり、これは上記のDover版のリプリントで確認できる。 そればかりか、p.87の第1楽章練習番号47の最初の小節のヴィオラの音型の欠落からすれば、全音版のベースこそが1906年のUniversal版ということになってしまう。 利用にあたってはこうした点に留意すべきだろう。
    • 交響曲第三番(4手ピアノ用編曲:フォン・ヴェス), Universal UE 951 :番号から1906年Universal出版の管弦楽総譜に対応するリダクションと見做されそうだが、 実際には今日ではDover版で確認できる1898年のWeinbergerからの初版ベースのリダクションである。
  • 交響曲第四番
    • 交響曲第四番, Universal Edition UE 13823 / 2944 マーラー協会全集版第IV巻(1963ラッツ/1995フュッスル)。
    • 交響曲第四番(決定版), 音楽之友社 OGT 1214 (Universal Edition UE 952(Studienparititur) のリプリント):マーラー協会全集版第IV巻(1963)による。 これを改訂版と呼ばずに決定版と呼ぶのは、1906年に改訂版が出版されて以降、その改訂版が1910年、1925年、1952年と同じUniversal Editionより 再版されているので、それと区別するためであろうが、それ以上に、この版の元となっているマーラー協会全集版第IV巻(1963)が、 1910年にマーラーが企図した「決定稿」作成のための改訂を反映したものだからということらしい。 なお、第4交響曲の「決定稿」にまつわる議論は、ZychowiczのMahler's Fourth Symphony (2000)、特に第9章に詳しい。
    • 交響曲第四番, Dover (1989):奥付のUniversalの初期の版のリプリントというのは恐らく第4交響曲についてのコメントであろう。だが、残念なことに、 日付のないUniversalの版というのは、1901年ないし1902年にDoblingerから出版された初版の権利がUniversalに移行した際のもの(Pl. no. 31)、 1906年の改訂版(U.E.952 Studienpartitur)、更に1910年(資料によっては1911年とするものもあり)の再版(U.E.2944 Partitur)と3種類あるのだ。 ただし、長木「グスタフ・マーラー全作品解説事典」の記載には疑問がある。 まず実際には存在が疑わしい(なぜならDoblingerからUniversalへの権利譲渡が1903年と推測されるし、単なる権利譲渡による再版と改訂版は 区別されるべきだから)の改訂新版が1902年に出ているという記述があるし、1906年に改訂版が出たというのは事実だからいいとしても、 1911年に再改訂版が出たという記述は、こちらもまた単なる再版なのか更なる改訂があったかについての誤認を含むように思われる。(ちなみに権利譲渡や 改訂が同様に存在したはずの第3交響曲についての記述の方は1906年の改訂にしか触れておらず、この点での長木の著作の資料的価値は極めて疑わしい。) 従ってDover版についての問題は、1906年の改訂の前のものか後のものかという点に絞られる。最終的な判断を下すための資料は現在取り寄せ中だが、 恐らくは1910年のU.E.2944(Partitur)なのではないかというのが現時点での推測である。
    • 交響曲第四番, Eulenburg/Zen-On, E.E.6448:レートリヒ校訂。様々な出版譜の差異についてのコメントと校訂報告を含む、独自の校訂版。 出版譜の差異については、レートリヒ自身が断っている通り完全ではないようだが、貴重な情報が含まれており、一読の価値がある。 レートリヒのコメントを信じれば、何と音楽之友社版として入手できるマーラー協会全集版第IV巻(1963)による筈のポケットスコアにも修正漏れが存在する ことになる。(第1楽章コーダのホルンパートの修正に関して。厳密を期するならば、直接ラッツ校訂の全集版にあたるべきだろう。)一方Dover版は、 やはり推測の通り1906年の改訂よりは後の版らしく、U.E.2944ではないかという推測はどうやら正しかったようだ。(こちらはレートリヒが指摘している 第3楽章コーダのハープのパートの誤植が決め手となるように思われる。)
    • 交響曲第四番, Universal Edition 13823 (1963) , マーラー協会全集版, ベースはU.E.2944 Partiturのようだ。 オイレンブルク版のレートリヒの記述にも関わらず、第1楽章ホルンパートの「修正」は確認できず、音楽之友社 OGT 1214 としてリプリントされている ポケットスコアと同一である。
    • 交響曲第四番(4手ピアノ用編曲:フォン・ヴェス), Doblinger 33
    • 交響曲第四番, バイエルン州立図書館所蔵の第1楽章、第2楽章、第3楽章の自筆スコアおよびスケッチ(日付無し。1899–1901年頃)
    • 交響曲第四番, オーストリア国立図書館所蔵のスケッチ(日付無し。1899–1901年頃)
  • 交響曲第五番
    • 交響曲第五番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1458 (C.F. Peters 版のリプリント):マーラー協会全集版第V巻(1964)による。
    • 交響曲第五番, Edition Peters 9015, 1904:全集版と比較すると、第2楽章呈示部に繰り返し記号がある他、楽器法にはかなり大きな隔たりがあることが確認できる。
    • 交響曲第五番, Edition Peters Nr. 3087:プレート番号8951。学習用スコア。全集版と器楽法の細部に差異が認められ、以下のDover版〈リプリント〉との違いは確認できない。また 全音楽譜出版社版もこの版に基づいているようだ。
    • 交響曲第五番, Dover (1991):1904年のPeters版によるとのことだが、第2楽章呈示部の繰り返し記号はない。一方で全集版との楽器法の隔たりもあり、幾つかの 点から、中間の版、恐らくはマーラーの生前の改訂指示が反映された1919年の改訂版であると推定される。ちなみに1904年に出版されたPeters版の楽譜は実は2種類ある。 最初にいわゆるStudy Scoreが初演に先立って出版され、初演後にfull scoreが出版されたらしい。そして両者の間に既に異同があるようなのである。 従って1904年のfull scoreである可能性が全く無くなったわけではないが、私の手元の資料ではこれ以上のことはわからない。
    • 交響曲第五番, 全音楽譜出版社(1972):日本語による解説つきだが、その内容は充分に批判的な視点をもって読むべきである。楽譜自体の由来の 説明は一切無く、校訂についてのコメントもない。そればかりか脚注は全て削除されてしまっていて、楽譜本体との対応が喪われていて不完全な状態になっている。 こうした問題はリプリントには多かれ少なかれ付き纏うものだが、この場合は不注意による部分的な欠落では説明が付かず意図的な削除であろう。 利用にあたってはこうした点に留意すべきだろう。
    • 交響曲第五番(2手ピアノ用編曲:オットー・ジンガー), Edition Peters 10264
    • 交響曲第五番(4手ピアノ用編曲:オットー・ジンガー), Edition Peters 8988
    • 交響曲第五番(2台ピアノ用編曲:アウグスト・シュトラーデル), Edition Peters 10486
    • 交響曲第五番第四楽章、自筆フルスコア
    • 交響曲第五番、自筆フルスコア、1903年10月ウィーン
  • 交響曲第六番
    • 交響曲第六番, C.F.Kahnt KT 4526 マーラー協会全集版第VI巻(1963ラッツ/1998フュッスル&クビーク)。
    • 交響曲第六番(改訂版), 音楽之友社 OGT 95 (C.F.Peters版のリプリントだが、元はC.F.Kahnt 4526):マーラー協会全集版第VI巻(1963)による。
    • 交響曲第六番, C.F.Kahnt 4526, 1906:マーラー協会全集版も同じ番号(やはり4526)を持っているが、この版は楽章順序だけでなく楽器法にもかなりの違いがあることが比較するとわかる。フィナーレのハンマーは3回で順序はアンダンテ→スケルツォ、練習番号もアンダンテ→スケルツォの順なので、初演後の第2版と推測される。
    • 交響曲第六番, Dover (1991):1906年の C.F.Kahnt社出版の版によるとのこと。実は第6交響曲に存在する幾つかの版はプレート番号が同じであるため、 プレート番号のみでは区別がつかないという厄介な問題がある。この版では楽章順はスケルツォ→アンダンテで練習番号もスケルツォ→アンダンテの順であり、 ハンマーは3回。楽器法は古い形態を示している。従ってこれは第1版であると推定するのが妥当であろう。なお、第3版は全集版の元となった形態で、 楽章順はアンダンテ→スケルツォでハンマーは2回の形態である。
    • 交響曲第六番, Eulenburg/Zen-On, E.E.6520:レートリヒ校訂。第2楽章スケルツォ、第3楽章アンダンテ、ハンマーは3回で1906年の C.F.Kahntによる 最初の出版(Dover版で見ることができる)をベースに、更に独自の校訂をした版のようだ。日本語訳はこなれていない上に誤りと思われる箇所も散見するので注意が必要。 レートリヒの見解への賛否はあろうが、その序文は一読の価値はあろう。一応校訂報告がつけられているが、内容のほとんどは第3版での変更点を 列挙したものであり、些か中途半端な感を否めない。
    • 交響曲第六番(4手ピアノ用編曲:アレクサンダー・ツェムリンスキー), C.F.Kahnt 4649/ Universal-Edition 2775
  • 交響曲第七番
    • 交響曲第七番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1473 (Bote & G. Bock 版のリプリント,):以下のマーラー協会全集版第VII巻(1960)と同一のようだ。 最初の版も同じBote & G. Bockで1909年出版だが、それとは器楽法に違いがあるので、「改訂版」なのは確かである。 この版についてはBote & G. Bock 版での番号すらないが、アドルノの論の参照を含む序文を読む限りでは、そんなに以前の版には見えない。
    • 交響曲第七番, Bote & G. Bock 16867b (769), (1960) , マーラー協会全集版。この版以前に、1939年にも版権が更新されていることが 窺えるが、1909年版と1939年版との間の違いの有無についての詳細は確認できていない。
    • 交響曲第七番, Dover (1992):これは上記の音楽之友社版とは器楽法に差がある。Bote & G. Bockで1909年に出版された初版とのことだが、 確かにそのようである。
    • 交響曲第七番, Eulenburg E.E.3669 (1965):レートリヒ校訂。Bote & G. Bockで1909年に出版された初版こそがマーラーの意図を反映したものである というレートリヒの見解に基づくもので、その後の修正を取り入れたマーラー協会による批判全集版とは立場を異にする。レートリヒによる序文は、その立場の 是非はおいて、一読の価値がある。
    • 交響曲第七番(ファクシミリ版), Rosbeek Publishers (1995):1995年にアムステルダムでコンセルトへボウが開催したマーラー祭に際して出版されたファクシミリ版。 1920年にメンゲルベルクがやはりアムステルダムのコンセルトへボウで開催したマーラー祭に際して、スコアの自筆譜がアルマよりメンゲルベルクに譲られ、それをメンゲルベルクが コンセルトへボウの手に委ねたという経緯があり、コンセルトへボウが所蔵している自筆譜をファクシミリ版として出版したもの。 Donald MitchellとEdward R. Reillyが編者であり、ファクシミリ本体とコメンタリーの2分冊よりなる。出版に際して資金的なサポートをしているベルナルド・ハイティンクと ミッチェルとの対談がコメンタリーに収められている。
    • 交響曲第七番(4手ピアノ用編曲:アルフレート・カゼッラ), Bote & Bock / Universal Edition 2984
    • 交響曲第七番、オーストリア国立図書館所蔵のアルマの筆写フルスコア(日付なし、1904~1906頃)、初演にあたってのマーラーの書き込み含む。
  • 交響曲第八番
    • 交響曲第八番, Universal Edition UE 13824 / 2772(Partitur) / 3000(Studienpartitur) マーラー協会全集版第VIII巻(1977フュッスル)
    • 交響曲第八番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1490 (Philharmonia版、Universal Edition UE 2772 / 3000 のリプリント,):マーラー協会全集版第VIII巻(1977)に基づく版のようだ。最初の版は1911年に同じUniversal Editionから出ている。全集版以前の改訂の有無については調べられていない。
    • 交響曲第八番, Universal Edition UE 2772(Partitur)/ 3000(Studienpartitur):マーラー協会全集版第VIII巻(1977)との違いや、1911年に同じUniversal Editionから出た初版との 違いについては調べられていない。
    • 交響曲第八番, Dover (1989):モスクワのMuzyka出版社の1976年の版のリプリントとのこと。上記のUniversal版とは組み方が違っている。 器楽法などの点での違いはほとんどないようだが、それでも若干の相違は確認できる。この曲のスコアの出版は1911年2月、いわゆる学習用スコアの出版はマーラーの没後数週間後であるとの記述がレートリヒ「ブルックナー/マーラー」にあるが、だとすればこれはそのうちのいずれかに基づいた版である可能性もあるだろうが調査できていない。ただし演奏者への注意(特に第1部練習番号38のところ)などを比較すると、こちらの方が上記の版に先行する形態であるように見受けられる。 指揮者への注意を後になって削除するのは考えづらいので、注記が多い方が後の版だと推定できるのではないかというのがその理由なのだが、 その一方で、Muzyka版が新たに組まれたもので、その際に指揮者への注意が脱落するなどの相違が紛れ込んだ可能性や、 Dover版の作成にあたってMuzyka版ベースで注釈の英訳を追加したりという編集作業が行なわれているようだから、その作業の際に紛れ込んだ 可能性もありうるわけで、確定には現物に基づく照合が必要である。
    • 交響曲第八番(テキスト付きのピアノ用編曲:フォン・ヴェス), Universal (1910) UE 2660 :いわゆるヴォーカル・スコア。フォン・ヴェスによる1台ピアノ伴奏用編曲。レートリヒ「ブルックナー/マーラー」によれば、ヴォーカル・スコアは初演に間に合うように1910年に先行して出版されたとのこと。アルマへの献辞はこのヴォーカル・スコアの初版にもあることが確認できる。
    • 交響曲第八番(4手ピアノ用編曲:フォン・ヴェス), Universal (1910) UE 3390 :フォン・ヴェスによる4手ピアノ用編曲。アルマへの献辞はこの版にもあることが確認できる。
    • 交響曲第八番, バイエルン州立図書館所蔵の自筆フルスコア(日付なし、1906~1907頃)
  • 交響曲「大地の歌」
    • 大地の歌 Das Lied von der Erde, Universal Edition UE 13826 / 3392(Partitur) / 3637(Studienpartitur) マーラー協会全集版第IX巻(1964ラッツ/1990フュッスル)
    • 大地の歌 Das Lied von der Erde, 音楽之友社 OGT 1217 (Philharmonia版、Universal Edition UE 3392(Partitur) / 3637(Studienpartitur)のリプリント):マーラー協会全集版第IX巻(1964)による。最初の版は1912年にUniversal Editionから出ているのに、これを「改訂版」と呼ばないのは何故?
    • 大地の歌 Das Lied von der Erde, Dover (1988):Universal Edition UE 3392(Partitur), 1912のリプリント。マーラー自身は改訂はおろか、初演すらできなかったから校訂上の差異以外、 全集版と大きな違いはないが、それでも強弱法をはじめとして、様々な符号の有無など細かい違いが見受けられる。
    • 大地の歌  Das Lied von der Erde für höhere und tiefene Singstimmme mit Klavier, Vergelegt von Stephan E. Hefling, Neue kritische Gesammtausgabe, Supplement Band II, Universal Edition UE 33906, 2012 マーラー自身による高声および低声用・ピアノ伴奏版。マーラー協会新批判版全集補巻II。ステファン・E・ヘフリング編。
    • 大地の歌(テキスト付きのピアノ用編曲:フォン・ヴェス), Das Lied von der Erde, Klavierauszug mit Text, arr by J.W. von Wöss, Universal Edition 3391:ヴォーカル・スコア。フォン・ヴェスによる1台ピアノ伴奏用編曲。
  • 交響曲第九番
    • 交響曲第九番, Universal Edition UE 13825 / 3395 マーラー協会全集版第X巻(1969ラッツ)。
    • 交響曲第九番(改訂版), 音楽之友社 OGT 1472 (Philharmonia版、Universal Edition UE 3395(Partitur) のリプリント):マーラー協会全集版第X巻(1969)による。 ちなみにこれは「改訂版」というのは同じ出版社より1912年に出た版との区別のためで、―第7交響曲以降はそうだと思うが―マーラー自身が改訂したわけではないので、「校訂版」と呼ぶのが適当に思える。
    • 交響曲第九番, Dover (1993):Universal Edition, 1912:初期の版のリプリント。マーラー自身が改訂したわけではないから当然かも知れないが、 初期や中期の交響曲の版に見られるような楽器法のはっきりとした違いはないが、その一方で奏法指示や強弱記号など、細部での違いはかなりある。 最も目立つのはハープが2台の指定になっていて、パートの使い分けがなされていることだろうか。(全集版では1台で2台目はオプション扱いのようだ。)
    • 交響曲第九番(4手ピアノ用編曲:フォン・ヴェス), Universal Edition UE 3397 (1912)
  • 交響曲第十番
    • 管弦楽のための交響曲第十番(遺作), Associated Music Publishers, Inc. (1951) : 第1楽章と第2楽章プルガトリオ(煉獄)よりなる。クシェネクの補筆に基づく。いわゆるヨークル校訂版。
    • 大管弦楽のための交響曲第十番からアダージョ, Universal Edition UE 13880, 1964 :マーラー協会全集版第XIa巻, エルヴィン・ラッツ校訂
    • 交響曲第十番からアダージョ(4手ピアノ用編曲:エルヴィン・ラッツ), Universal Edition UE 13879 (1973)
    • a performing version of the draft for the tenth symphony prepared by Deryck Coock in collaboration with Berthold Goldschmidt, Colin Matthews, David Matthews, Faber Music / Associated Music Publishers, 1989 (AMP-7001):いわゆる「クック版」の最新版。初版は1979年。第1楽章アダージョのみの マーラー協会全集版XIa(1964)とは勿論異なる。
    • 交響曲第十番 アダージョ, 解説:谷口昭弘, スコア校訂・校閲・製作:渡辺純一, 全音楽譜出版 (2011)  : エルヴィン・ラッツ校訂のマーラー協会全集版第XIa巻を基に、X. Symphonie : Faksimile nach der Handschrift / Gustav Mahler, herausgegeben von Erwin Ratz, W. Ricke, 1967を参考資料とし、クック版も参考にしつつ独自に作成された版、 簡単な校訂報告つき。
    • 交響曲第十番, オーストリア国立図書館所蔵の自筆のフルスコア(第1~3楽章)およびショートスコア(5楽章全て)の草稿、 およびバイエルン国立図書館(ミュンヘン)所蔵の自筆スケッチ断片(第1楽章3種、第3楽章、第4楽章各1種)
    • 交響曲第十番,ファクシミリ版, アルマ・マーラー序文, Paul Zsolnay, 1924
  • カンタータ「嘆きの歌」
    • 嘆きの歌(改訂稿) Das klagende Lied in Full Score, Dover, 2000 (Universal Edition 1901年版のリプリント):いわゆる改訂版(2部よりなる)。
    • 嘆きの歌 Das klagende Lied, Universal Edition UE 16814 / 2969(Partitur) / 5390(Studienpartitur) マーラー協会全集版第XII巻(1978)。
    • 嘆きの歌(1880年稿) Das klagende Lied, Erstfasssung in drei Sätzen (1880), Universal Edition UE13840, 1998:マーラー協会全集版補巻IV, ラインホルト・クビーク校訂。いわゆる初稿版(3部よりなる)。
    • 嘆きの歌〈テキスト付きのピアノ用編曲:フォン・ヴェス) Das klagende Lied, Klavierauszug mit Text, arr by J.W. von Wöss, Universal Edition 1694:いわゆる改訂版(2部よりなる)のヴォーカル・スコア。フォン・ヴェスによる1台ピアノ伴奏用編曲。
  • 歌曲
    • さすらう若者の歌 Lieder eines fahrenden Gesellen für eine Singstimme mit Orchester, Partitur, Josef Weinberger J.W.4296 マーラー協会全集版第XIV巻第1分冊(1982)。
    • リュッケルトの詩による歌 Lieder nach Texten von Friedlich Rückert für eine Singstimme mit Orchester, Partitur, C.F.Kahnt CFK 9256 マーラー協会全集版第XIV巻第4分冊(1984)。
    • 子供の死の歌 Kindertotenlieder für eine Singstimme mit Orchester, Partitur, Neue Ausgabe, C.F.Kahnt C.F.K.9220, 1979:マーラー協会全集版第XIV巻第3分冊。
    • 子供の死の歌 Kindertotenlieder, Eulenburg E.E.6417 (1961):レートリヒが序文を書いている。なおEulenburgはその後新しい版を出しており、最新の版とは異なる。
    • Lieder und Gesänge für eine Singstimme und Klavier, Heft 1 (hoch), Schott
    • Songs of a Wayfarer & Kindertotenlieder in full score, Dover, 1990 (Lieder eines fahrenden Gesellen, Josef Weinberger 1897 および Kindertotenlieder von Rückert, C.F. Kahnt 1905のリプリント)
    • Ten Songs from Des Knaben Wunderhorn in full score, Dover, 2001 (Universal Edition 1905年版のリプリント。もともとは音楽之友社版 OGT 1219, 1220にみられるように2巻に分かれて出版された。)
    • The Rückert Lieder and other orchestral songs in full score, 2002 (元の版の記載はないが、音楽之友社版 OGT 1253の元である C.F.Kahnt 版の「最近の7つの歌」と実質的に同一?):リュッケルトによる5つ歌曲および「起床合図」「少年鼓手」。「美しさゆえに愛するなら」はマーラー自身ではなく、マックス・プットマンによる管弦楽版。
    • Three song cycles in vocal score, Dover, 1991 (Lieder eines fahrenden Gesellen, Josef Weinberger 1897, Kindertotenlieder von Rückert, C.F. Kahnt 1905, Das Lied von der Erde. Klavierauszug mit Text, arr by J.W. von Wöss, Universal Edition, 1913のリプリント。)
    • Des Knaben Wunderhorn and the Rückert Lieder for Voice and Piano, Dover, 1999 (14 Lieder und Gesänge (aus der Jugendzeit) von Gustav Mahler, B Schott's Söhneのうち、 第2,3集の9曲、12 Gesäng aus "Des Knaben Wunderhorn"の12曲、Sieben Lieder aus letzer Zeit, C. F. Kahnt Nachfolgerの7曲のリプリント。)
    • Wie genissen die Himmlischen Freuden, Sopransolo aus der IV. Symphonie, Universal 2946, 上記のピアノ伴奏版歌曲集に含まれていない「我々は天国の喜びを享受する」単独のピアノ伴奏版。
  • ピアノ四重奏曲楽章
    • ピアノ四重奏曲 Klavierquartett, Hans Sikorski, 1973:ペーター・ルジツカ校訂。
    • ピアノ四重奏曲第1楽章, 自筆スコア, カバーにアルマによる「初期作品  / ピアノ四重奏曲 第1楽章 / 1876 / グスタフ・マーラー作」との書き込みあり。自筆譜カバーページに出版社テオドール・レティヒの印あり。自筆カバーページにも第1楽章とあるが、末尾の2ページに鉛筆書きによるスケルツォのスケッチが含まれる。

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