1.本稿の主旨
MIDIファイルを入力とした状態遷移プロセスの分析に着手すべく実施した状態遷移の集計手法の検討の内容および、それに基づいた集計結果について、前の記事「MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開」にて報告しました。
そこでは分析の条件として、同一和音の連続および無音の拍(小節)は対象外とした上で、各小節の頭拍を対象とした場合、各拍を対象とした場合のそれぞれについて、単音・重音の拍(小節)を対象に含めた系列を入力とするかどうかに加え、状態遷移パターンの集計における転回形の区別の扱い関して以下の3パターンについて集計を行ったことを述べました。
- 全ての和音について転回形を区別せず。(default)
- 長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
- 全ての和音について転回形を区別。(inv)
従って、前回の報告では、マーラーの交響曲の各曲について、以下の4パターンを入力とし、
- 各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外
- 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外
- 各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む
- 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む
それぞれについて、転回形の区別に関する上記3パターンの都合12パターンの集計を行い、その結果を公開しました。
ところで、前の記事をお読みになってお気づきになったと思いますが、転回形の区別に関する条件を、状態遷移パターンの集計のタイミングで適用するのでなく、入力となる系列を構成する際に適用することが考えられます。前回の考え方では入力の系列上は構成音(ピッチクラスの集合)、五度圏上の位置、バスの位置が区別されているものに対して、遷移パターンの計算にあたって、五度圏上の位置とバスの位置の相対関係で求めることができる転回の違いを区別して集計するかどうかを変えていたのに対し、入力系列を構成する際に、初めから構成音(ピッチクラスの集合)と五度圏上の位置の区別のみしかしないか、転回の違いを区別するかを変えて集計することも可能です。
結果として、前回の集計においては、遷移パターンにおいて転回の違いを区別しない場合に、遷移パターンとして、同一パターンの連続が出現しうるのに対し、入力系列を構成する際に転回を区別しないのであれば、位置の異なる同一の構成音(ピッチクラスの集合)の連続は同一和音の連続を対象外とするルールに従って除外されるため、入力の系列そのものが異なった長さを持つ、異なった系列となる一方で、同一パターンの連続は入力系列構成の段階で除外されてしまうため、遷移パターンとしては出現しないことになります。
なお入力系列を構成する際に転回の区別の条件を考慮した結果を前回公開した集計結果と比較した時、
- 全ての和音について転回形を区別せず。(default)
- 長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
- 全ての和音について転回形を区別。(inv)
以下、上記の考え方に基づく集計結果を公開します。
2.公開した集計結果の説明
以下、公開しているアーカイブファイルの内容について説明します。
本記事に関連するアーカイブファイルは以下の3種類です。
(1)対象データ
アーカイブファイル和音状態遷移元データ_全交響曲(2).zipには状態遷移パターンの出現頻度集計の対象データを含む、以下の12ファイルが収められています。既述の通り、全ての和音について転回形を区別(inv)して構成した対象データ(以下で"*"でマーキングしています)は前回公開したものと同一の入力データですが、割愛せずに含めました。
各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外
- sym_A_default_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_A_tonic_seq3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_A_inv_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外
- sym_B_default_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_B_tonic_seq3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_B_inv_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む
- sym_A_default_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_A_tonic_seq.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_A_inv_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む
- sym_B_default_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_B_tonic_seq.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_B_inv_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各ファイル共通で以下の12シートからなり、シート毎に各交響曲のデータが含まれます。
- m1:第1交響曲
- m2:第2交響曲
- m3:第3交響曲
- m4:第4交響曲
- m5:第5交響曲
- m6:第6交響曲
- m7:第7交響曲
- m8:第8交響曲
- erde:「大地の歌」
- m9:第9交響曲
- m10:第10交響曲
各シートのフォーマットも共通で、以下の通りです。
- 各列:各楽章・部・曲毎の対象データ
- 1行目:和音数(状態遷移の状態の数)
- 2~9行目:未使用
- 10行目以降:各状態における和音を上述の定義に基づき符号化したもの
アーカイブファイル和音状態遷移パターン出現頻度(2)_全交響曲.zipには和声の状態遷移パターンの頻度を集計した以下の12のファイルが含まれます。既述の通り、全ての和音について転回形を区別(inv)した結果(以下で"*"でマーキングしています)は、前回の集計結果と同一のものですが、割愛せずに含めました。
各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外
- sym_A_default_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_A_tonic_cdnz3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_A_inv_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外
- sym_B_default_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_B_tonic_cdnz3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_B_inv_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む
- sym_A_default_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_A_tonic_cdnz.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_A_inv_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む
- sym_B_default_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
- sym_B_tonic_cdnz.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
- *sym_B_inv_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
- m1:第1交響曲
- m2:第2交響曲
- m3:第3交響曲
- m4:第4交響曲
- m5:第5交響曲
- m6:第6交響曲
- m7:第7交響曲
- m8:第8交響曲
- erde:「大地の歌」
- m9:第9交響曲
- m10:第10交響曲
- sym_cdnz_summary2.xlsx
- B_cdnz3:各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外
- B_cdnz:各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む
- A_cdnzs3:各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外
- A_cdnz:各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む
- A列:集計対象の和音・状態遷移の種別
- seq:対象拍数(Aなら拍数、Bなら小節数に概ね等しい)
- inv_cseq:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
- inv:和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について転回形を区別
- tonic_cseq:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・長短三和音のみ転回形を区別
- tonic:和音種別/状態遷移パターン・長短三和音のみ転回形を区別
- default_cseq::対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別せず
- default:和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について転回形を区別せず
- B列:深さ(0~5)の区分
- 0:和音種別
- 1:状態遷移パターン・前→後
- 2:状態遷移パターン・2つ前、1つ前→後
- 3:状態遷移パターン・3つ前、2つ前、1つ前→後
- 4:状態遷移パターン・4つ前、3つ前、2つ前、1つ前→後
- 5:状態遷移パターン・5つ前、4つ前、3つ前、2つ前、1つ前→後
- C~M列:各交響曲の集計結果
- C列(m1):第1交響曲
- D列(m2):第2交響曲
- E列(m3):第3交響曲
- F列(m4):第4交響曲
- G列(m5):第5交響曲
- H列(m6):第6交響曲
- I列(m7):第7交響曲
- J列(m8):第8交響曲
- K列(erde):「大地の歌」
- L列(m9):第9交響曲
- M列(m10):第10交響曲
- 1行目:ヘッダー行
- 2行目~23行目:和音・状態遷移の種別(A列)/深さ(B列)の条件毎・曲毎の集計結果
- 2行目:seq/0:対象拍数(Aなら拍数、Bなら小節数に概ね等しい)
- 3行目:default_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別せず
- 4~9行目:default/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0 ~5)・全ての和音について転回形を区別せず
- 10行目:inv_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
- 11~16行目:inv/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・全ての和音について転回形を区別
- 17行目:tonic_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・長短三和音のみ転回形を区別
- 18~23行目:tonic/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・長短三和音のみ転回形を区別
[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2023.8.6公開)
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