これまでのマーラー作品のありうべきデータ分析についての検討を踏まえ、MIDIファイルを入力とした分析の第一歩として、クラムハンスルの調的階層に基づく調性推定を行い、以前「MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2019/11/midi2020128.htmlにて報告した和音のラべリングの結果と対比できるようにしましたので、その結果を公開します。以下では調的推定について背景およびここで採用したデータ分析の概要、および結果の見方についての説明を行います。和音のラべリングについては、上記の記事をご覧いただけますようお願いします。
なお、この文章の末尾にも記載していますが、公開するデータは、あくまでも実験的な試みを公開するものであり結果の正しさは保証しません。実際に、検証を進めるにつれて、入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違いがファイルによってはかなり存在することがわかっています。また、他のデータを公開した時にも述べた通り、分析プログラムの仕様の制限で、MIDIファイルによっては期待される結果が得られない場合があることも判明しています。(調性推定と和音のラべリングを比較すると、その手法上の特性から、調性推定の方がデータの誤りに対して相対的にはロバストではないかと想定されます。従って特に和音のラべリングは、手法自体は単純なものでありながら、楽譜の通りの結果になっていない場合が多いことを申し上げざるを得ない状況です。)
公開する結果が学術的な観点からは極めて信頼性の低いものと言わざるを得ないことは大変残念ですが、フリーで公開されているMIDIファイルを利用している以上、しかも、マーラーの作品が大規模で時間的にも長大で複雑であることを考慮すれば、已むを得ない部分が大きいと考えます。これも以前、マーラー作品のMIDI化状況を紹介する際に記載した通り(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2016/01/midi.html)、学術的な目的で信頼できるデータが必要とされる場合には、まず信頼のおけるデータを作成するところから始めなくてはならないと思われます。同一作品の異なるMIDIファイルのデータがどれくらい異なっているかを確認する目的で、現時点で私の保有している、Web経由で無償で入手できたマーラー作品の全MIDIファイル(231ファイル)の解析を実施済で、その結果が手元にはありますが、公開はしないことにしました。検証可能性・再現可能性という観点からは、本来は使用したMIDIファイルそのものを添付して公開することが望ましいのでしょうが、再配布についての規定が明らかでないこと、Webで無償で入手したものばかりであることから、入手元を示すことでその替りとさせて頂くことにしました。
今のところ、そのための時間が取れないという現実的な理由からMIDIデータ自体の作成は考えていません。そのかわりにプログラム上の工夫によってカバーできる点は、プログラムの改良によって改善していきたいと考えていますが、自ずと限界もあろうかと思います。私がこのようなことをやっている間には、マーラー作品の信頼できるデジタル・ライブラリーが利用できるようなことにはならないかも知れませんが、いつの日かそういう日が来ることを願いつつ、今の時点では以上の点をご留意の上、ご覧いただけますようお願い致します。
[2020.3.7付記] 実験結果の再現・検証を行えるようにするという目的から、分析の入力とするためにMIDIファイルを解析して、そのデータの一部を抽出してテキストファイルに出力したものを「MIDIファイルの分析:MIDIファイル解析結果(2020.2.29)」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/p/midimidi2020229.html)で公開することにしました。MIDIファイルに含まれるデータのうち、どの部分を分析に用いているかも明らかとなり、実験結果の再現・検証という目的からは十分であると考えます。公開しているファイルの詳細は、上記のページをご覧ください。
1.背景
マーラーの作品の特徴の一つとして、調的設計のユニークさが挙げられると思います。一つには平均律と機能和声のシステムが確立したバロック時代や古典期に遡る「調性格論(Tonartencharakteristik)」的な視点であり、各調性に固有の性格があるとするものです。平均律化とは一見矛盾するように見えますが、典型的な平均律楽器であり、奏法上の合理性で調性が選択される傾向すらあるピアノは措くとして、マーラーが作品の媒体とした管弦楽で用いられる楽器は、弦楽器にせよ管楽器にせよ、その楽器の特性から、平均律ベースの転調に対応するように改良されてきたとはいえ、基本的には基準となる音の低次の倍音で音が出やすく、高次倍音は正しいピッチをとること自体困難になるといった特性から、調性によって響きが異なるのが現実ですから、マーラーが同時代の作曲家と比べても全音階的であると言われる側面と相俟って、調性格論が成立する基盤を欠いているわけではないと思われます。もう一つは、古典期の規範上は「逸脱」と位置付けられる(例えばシェンカーの分析は、拡張は可能でしょうが、基本的には開始と終了の調が同一であることを前提としていることを思い出してもいいでしょう)作品の開始の調性と異なった調性で作品が終わるという、いわゆる「発展的調性(progressive tonality)」的な視点です。こちらはマーラーのいわゆる「進歩的」な側面に繋がると思われます。勿論、両者は組み合わさって、アドルノによって「小説」にも喩えられた音楽的時間構造を実現しているわけですが、ここでは特に後者の側面、即ち、作品の時間的経過を通じて調性がどのように移ろっていくかにフォーカスを当てて、マーラー特有の時間性を分析するための準備をしたいと考えています。
これまでもマーラーの個別の作品の調的プロセスの分析は行われてきましたし、特に「発展的調性」についてはDika Newlinの指摘以来、マーラーを語る際には欠かせないトピックとして議論されてきました。そしてそれらの多くは機能和声に基づく楽曲分析についての知識を備え、豊富な聴経験を持つ「規範的な聴き手」である「音楽学者」が楽譜を読み解いて、作品を特徴づける重要な要素を見抜き、抽象化する方法によって行われてきました。但し「発展的調性」に関する議論は、えてして非常にマクロな楽式レベルでの把握に基づく解説に留まりがちであり、それがミクロな調的遍歴とどう関わるのかについての実質的な分析は十分とは言えず、更には一般には機能和声の古典的な規範からの「逸脱」と看做される「発展的調性」が実際にはどのような動力学に基づくものなのかについて明らかであるとは言えないように思います。そしてこうした問題にアプローチをし、マーラーの作品の固有の力学を発見するためには、データに基づいた分析が適切なのではないかと思われます。
ここでは上記の課題にアプローチする第一歩として、MIDIファイルを入力とし、プログラムによってマーラーの作品の調的な遷移の過程を抽出し、分析の材料を提供することを試みました。
そもそも調性とは何か、調性を推定するというのはどういうことなのか、何を手掛かり調性の推定を行うことができるのかについては、それ自体様々な議論があり、音楽学・音楽についての認知心理学・音楽情報処理 といった分野での研究の蓄積があります。
ここで採用したのは、クラムハンスルによる「調的階層」を用いた調性推定のアルゴリズムです。詳細は、Carol L. Krumhansl, Cognitive Foundations of Musical Pitch. Oxford: Oxford University Press. 1990 の特に第2章 Quantifying tonal hierarchies and key distance および第4章 A key-finding algorithm based on tonal hierarchies をご覧頂くのが適当ですが、簡単に言えば、長調・短調それぞれについて12音の各音との相関を実験的に求めておき(これがクラムハンスルの「調的階層」と呼ばれるものです)、それをベースにして、個別の作品の或る区間に鳴っている音の分布と、24の調性を特徴づける分布との相関を求めるというやり方です。
上に簡単に要約した動機やアプローチ手法の検討(クラムハンスルの調的階層を用いることが何を意味するか)などの背景の詳細については、以下をご覧頂くこととして、ここでは改めて議論は行わず、抽出結果を提供することにします。
・「マーラー作品のありうべきデータ分析についての予想:発展的調性を力学系として扱うことに向けて」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2019/11/blog-post_10.html)
・「マーラー作品のありうべきデータ分析について:補遺」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2019/12/blog-post.html)
・「マーラー作品のありうべきデータ分析について:補遺への追記」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2019/12/blog-post_12.html)
2.データ分析の概要
まず、ここでのデータ分析のやり方を説明します。
対象となるMIDIデータは、これまで五度圏上の重心計算や和声の抽出や可視化を行ってきたマーラーの全交響曲と一部の歌曲(64ファイル)で、対象となる作品およびMIDIデータについての詳細は、重心計算の結果の紹介(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/p/httpsbox.html)に準じます。
公開しているExcelファイルにはMidiFileNameというシートを含めて、解析対象のMIDIデータと作品との対応、および各ファイルの入手元がわかるようにしました。
具体的な処理の手順は以下の通りです。
(1)マーラーの作品のMIDIファイルから、基本となる拍毎に、その拍の区間(拍の開始時刻から次の拍の開始時刻の間)で鳴っている音(ピッチクラス)およびその長さ(単位はMIDIデータで設定された基本単位)を取り出します。ピッチクラスなので音高が異なっても同じ音と看做し、同じ音が複数のパートで鳴っている場合には、音の重複は無視して、その中での最大の長さをそのピッチクラスの長さとします。その区間で鳴っている音の分布が、要素数12のベクトルで表現されることになります。
(2)(1)で求めたベクトルに対して、今度は小節毎に以下の処理を行います。
小節の頭拍では その拍のみのデータで、「調的階層」に基づく推定を行います。次の拍では、前の拍のデータとの和をとって「調的階層」に基づく推定を行います。小節の最後の拍では、その小節の区間内で鳴っている音の分布に基づいた推定が行われることになります。どの区間を対象に相関をとるのかは、調的変遷のプロセスを取り出す際の基本的な条件設定ですが、もともとは重心計算や和音の抽出同様、小節毎に行うことを考えていました。ただし重心や和音の抽出は、各小節の頭拍という断面において鳴っている音を対象としているのに対し、ここでは区間内の音の長さに基づく分布をとる点が異なります。(勿論、長さではない別の量で分布をみることも可能ですが、ここではクラムハンスルの手法に従います。また小節毎ではなく、より長い区間について分布をとることも考えられますが、ここでは一旦、他のデータに合わせて1小節を1区間としました。)従って、小節毎に計算しても良かったのですが、小節の途中での変化のプロセスを見れた方が、データとしては情報が豊富になるので、上記のようなやり方でデータを取りました。
結果は以下にExcelのBook形式で公開しています。zip圧縮してあり、解凍するとxlsx形式のExcelファイルが3つ出てきます。experimental_E_corel.xlsx, experimental_B_corel.xlsx, experimental.xlsです。特にexperimental_E_corel.xlsxはファイルサイズが35Mbyte程度あり、3ファイル合計で56Mbyte程度と大きめですのでご注意下さい。experimental_E_corel.xlsxが拍毎の調性推定結果を全て収めたもの、experimental_B_corel.xlsxが小節毎の調性推定結果のみを収めたもの,で、調性推定結果のみに限定すれば、後者は前者のサブセットであり、小節の途中でそれまでに出てきた音を累積しつつ、調性推定をしていく過程を省いて、各小節末時点でその小節に出て来た音の持続を累計した結果に基づく調性推定結果のみを収めたものになります。また、experimental.xlsはexperimental_B_corel.xlsxの結果に基づき、楽譜の小節との対応づけや、幾つかの文献に見られる楽章構成の情報を対比できるように追加したものです。
https://drive.google.com/file/d/18Bwr6tnFYOA3aHA3BBuNT-nNJGokXkE0/view?usp=sharing
ところで小節毎の解析は、MIDIデータで入力された小節の区切りの情報の正確さに依存します。そしてしばしば小節の区切りの情報は正しく入れられているとは限りません。これはMIDIファイルをこのようなデータ分析の目的ではなく、「再生し」、「聴く」ことを目的とした作成する場合には、小節の区切りを楽譜に忠実に入力することが必ずしも必要でないことを思えば仕方のないことです。特にマーラーの作品の場合には、楽章の途中で拍子が変わるだけではなく、変拍子もあれば第2交響曲フィナーレのフルート・ソロや『大地の歌』の「告別」におけるそれのように、レシタティーヴォ的な箇所で小節線が自由に扱われることもありますので、そうしたことがない作品に比べると問題が発生しやすいことは予想できますし、現実に問題が発生していることを確認しています。
なお拍毎のデータもまた、マーラーのように楽章の途中で拍子が切り替わり、拍の基本単位が変わる(四分音符、八分音符、更にはアラ・ブレーヴェでの二分音符)ことを考えれば、楽譜の通りの拍毎にMIDIデータが作成されることを期待すべきではないことがわかります。従って、個別のMIDIファイルにおいて、楽譜の特定の部分がどのように処理されているか、楽譜通りなのかそうではないのかは、個別にMIDIファイルの中を覗いて確認する他ありません。更には、MIDIファイルには、シーケンサーを使って手入力するやり方ではなく、MIDIキーボードでの演奏を元にしたものも存在しますが、後者の場合には、拍の位置と実際に音が鳴っている時点が一致するとは限りません。というより一般にはずれているもので、その程度のずれは人間の知覚上は問題にならないですし、それが極端なものであればテンポ・ルバートのような微妙なニュアンスとして捉えられるようなものでしょうが、機械で処理する上では致命的で、特に拍頭で鳴っている和音を抽出するようなタイプの処理の場合に、拍節の時間的な揺れを考慮した工夫が必要となります。これに簡単なプログラミングで対応するのには限界があり、本質的には寧ろAIに相応しい問題であるという見方もできるかと思います。
以上長々とデータの信頼性(の欠如)についての釈明のようなことを書き連ねましたが、それはひとえに、公開しているデータの信頼性の制限について、正確な情報を提供することを目的としています。ご利用にあたっては予め上記のような制限にご留意頂けるよう、重ねてお願いします。
以下、上記のファイルの収められた結果の見方を記しますが、結果を3Dグラフ表示したものを参考までに示します。重心の時と同様、RinearnGraph3Dを使用して描画しています。
最初が「私はやわらかな香りをかいだ」です。X方向が小節数、Y方向が調性で、0~11が長調(Gesからサブドミナント方向にDesまで)、13~24が短調。Z方向が相関です。色は相関の度合いを示し、青が高い正の相関を示し、黄色は負の相関を示します。概ね青い尾根をX方向に辿ると、調性の遷移の軌道の推定結果を表していることになります。
次は第8交響曲の第1部です。見方は上の例に準じます。小節数が多いためX方向はかなり圧縮されてしまっています。
Y方向は本来は両端のGes-Desをくっつけて五度圏に対応する円周とし、X方向に伸びる円筒として表示するのがより自然でしょうが、俯瞰性という点では円を切り開いて直線として並べた上記のやり方にも一定のメリットがあると思います。
他方、長調と短調を別々に併置するのは、同主調や並行調の近親関係を表現できていない点で問題ですが(こちらの方向ならば例えば、Krumhansl & Kessler (1982)で示された多次元尺度構成法によって求めた構造上に軌道をプロットすることなどが思いつきますが)、次元の数の制約もあり、ここでは推定された調性の軌道だけではなく、各調との相関を求めることで得られる地形を視覚化することに重きを置きました。例えば青色が濃い、高い尾根が続いているところは相関が高く、調性が明確な部分であるのに対し、濃い色がなく、薄い色の低い丘となっている箇所は調性が曖昧になっていると言えるでしょうし、時として丘が複数ある場合には、2つの調性の間で揺れ動いているような部分であるというように、調的プロセスが、単なる軌跡としてではなく、明瞭さや分裂・収斂といった様相といったものに対応した地形として表現されている点で、目的に適っていると考えています。
3.結果の見方
結果を収めたファイルの見方について以下で説明します。結果はシート毎に分かれており、1シート1ファイル、交響曲の場合は1楽章、歌曲なら1曲が1シートです。シートのラベルは重心計算結果と同じで、入力となったMIDIファイルのファイル名本体部分です。
experimental_B_corel.xlsxのシートの一部を示すと、以下のようになっています。以下は「やわらかな香りをかいだ」です。experimental_E_corel.xlsxでは一部が異なりますが、基本的なフォーマットは概ね同じです。
なお1行目は空行、2行目はヘッダなので3行目がMIDIファイルにおける曲の最初の拍ですが、ご注意頂きたいのは、3行目=楽譜上の最初の拍ではないことです。これはMIDIファイルの特性上、冒頭の空き部分に様々なパラメータ設定の情報を収めるコンベンションとなっているためで、ファイルの冒頭数拍は無音の区間になっていることが一般的です(勿論例外もありますが)。
また小節の区切りは利用したMIDIデータのものに依拠しますので、概ね小節の区切りが楽譜通りとなっており、小節数がほぼ等しいデータを用いていますが、 完全に楽譜通りかどうかは保証の限りではありません。ここでの分析の意味合いから考えると、小節の頭拍というのは、区間の区切りに過ぎません。勿論区切り方によっては区間内で調的変化が起きていしまって変化が明瞭に表れない可能性はありますが、小節の途中での計算結果である程度のことは把握できるのと、マーラーのみならず、必ずしも頭拍が和声的な変化の切れ目と一致しない場合もあるので、あくまでも目安に過ぎないと考えるべきかと思います。それを踏まえれば、概ね楽譜の小節の区切りに従った計算ができていれば、所期の目的は概ね達成できると考えていいように思います。
以下、列方向の意味を記載します。
A~L列:長調の各調性との相関。変ト長調~変二長調まで、 五度圏をサブドミナント方向に読んだときの音名の並び順になっています。文字色と背景色の意味は以下の通りです。
- 背景色がピンク色(ColorIndex = 38)で文字色が赤の箇所:相関が最大でかつ相関が0.5以上の調
- 背景色がサンゴ色(ColorIndex = 40)の箇所:相関が最大以外で0.5以上の調
- 背景色なしで文字色が赤の箇所:相関が0.5未満だが最大の調
M列: experimental_E_corel.xlsxでは小節頭は小節数を表し、それ以外は0を埋めてあります。既述の通り、MIDIデータの最初には無音区間が含まれることが一般的なため、0オリジンで付番していますが、楽譜上の小節数とは必ずしも一致しませんのでご注意ください。experimental_B_corel.xlsxでは相関を出力した拍の位置を表します。即ち、その拍までのMIDIデータについての相関を出力したことを意味します。上記の「私はやわらかな香りをかいだ」の例では、1行目は8ですが、これはその行が先頭から8拍目までのデータに基づく相関であることを表します。2行目は14ですので、その行が9拍目から14拍目までのデータに基づく相関であることを表します。experimental.xlsはexperimental_B_corel.xlsxと同一です。
N列~Y列:短調の各調性との相関。A~L列の長調における説明に準じます。文字色と背景色の意味は以下の通りです。
- 背景色が山吹色(ColorIndex = 44)で文字色が赤の箇所:相関が最大でかつ相関が0.5以上の調
- 背景色が薄黄色(ColorIndex = 36)の箇所:相関が最大以外で0.5以上の調
- 背景色なしで文字色が赤の箇所:相関が0.5未満だが最大の調
Z列:experimental_E_corel.xlsxの場合は拍の通し番号を、experimental_B_corel.xlsxの場合は小節番号を表します。ただし、いずれもMIDIファイル内における1オリジンの付番であり、MIDIファイルの最初にダミーの拍・小節がある場合、楽譜上のそれらとは一致しません。
AA列からAD列までは、調性推定の結果ではなく、調性推定の結果との比較の目的で、「MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化」(https://gustav-mahler-yojibee.blogspot.com/2019/11/midi.html)にて報告した、区間の先頭、即ち experimental_E_corel.xlsx の場合は各拍の頭、 experimental_B_corel.xlsx の場合は各小節の頭で鳴っている音についての情報を出力したものです。調性推定に用いた情報が拍ないし小節内で鳴っている全ての音の持続時間であるのに対し、こちらは拍ないし小節の頭で鳴っている単音ないし和音をラベルづけしたものであり、対象データが異なる点にご留意ください。experimental.xlsはexperimental_B_corel.xlsxと同一です。
AA列:区間先頭で鳴っている和音をビット列で表現したものを10進数化したものです。
AB列:区間先頭で鳴っている音のうちMIDIノートで最も小さい値=最も低い音の音名。
AC列:区間先頭で鳴っている音のうちMIDIノートで最も大きい値=最も高い音の音名。
AA列ではDesが最下位ビット、Fis=Gesが最上位ビットとしてビット列を定義しているので、数字と音名との対応は以下のようになります。鳴っている音が1、鳴っていない音が0です。例えば、Cを根音としてC-E-Gが区間先頭で鳴っているとすると、AA列は32(C)+512(E)+64(G)=608、AB列はc(=32)、AC列はg(=64)が表示されることになります。
Des 1
Aes 2
Es 4
B 8
F 16
C 32
G 64
D 128
A 256
E 512
H 1024
Fis 2048
AD列:AA列とAB列を用いて、その区間の先頭で鳴っている和音のうち、典型的なもののみ判定した結果を示しています。なお単音、2音の場合には、鳴っている音の音名を併せて表示しています。定義に基づき、1音の場合にはAB列・AC列・AD列は同じになります。一方2音の場合には必ずしもAB列・AC列とAD列は同じにはなりません(バスとソプラノでオクターブ異なる音が鳴っていて、内声でそれとは異なる音が鳴っている場合には、AB列・AC列の音名は同一ですが、AD列では、AB列・AC列の音名と内声の音名の2音が鳴っていると表示されます)。
背景色は以下を表します。
灰色 休符
ピンク 長三和音
山吹色 短三和音
なし 上記以外の単音・音程・和音
長三和音、単三和音については、AO列の最低音の音名から、各和音の基本形か第1転回形(6の和音)か第3転回形(4-6の和音)かを以下の文字色で表現しています。
黒=基本形
緑=第1転回形
赤=第2転回形
文字はその音名を主音とする長三和音、短三和音に相当する音の組み合わせがその小節の頭拍で選ばれていることを表す形式的なものであり、和声の機能を分析した結果得られた主音を意味している訳ではありません。つまり例えば、機能和声ではハ長調のドミナントと分析される和音について、ここではト長調の主三和音と表示されることになります。なお、長調は大文字、短調は小文字としています。
背景色が無い箇所の文字の意味は以下の通りです。以下は各行毎にラベルと意味のペアを表しています。
音名 単音
5:音名-音名 五度
2:音名-音名 長二度-3:音名-音名 短三度
3:音名-音名 長三度
-2:音名-音名 短二度
aug4:音名-音名 増四度
dom7 属七和音
dom9 属九和音
add6 付加六
aug6it イタリアの増六
dim3 減三和音
aug3 増三和音
Maj7 長七和音
tristan トリスタン和音
aug6fr フランスの増六
dim7 減三和音+減七度
dm7 減三和音+短七度
aug+7 増三和音+長七度
min+7 短三和音+長七度
以下の情報は、experimental.xlsのみに固有の情報です。AG,AH列は現時点では予約しているだけで未使用ですが、今後、利便性を高めるために情報を追加していく予定です(この作業はデータ処理の結果とは独立で、ユーティリティ的なものであるため、予告なく更新することがあります)。また、AI列~AL列は交響曲のみの情報です。比較的網羅的なものは既に掲出済なので、今後は個別の曲毎の追加になると想定していますが、更に列を増やして他の分析結果を追加することも予定しています。
AF列:楽譜の小節番号
AG列(予約:未使用):楽譜の練習番号(リハーサルマーク)
AH列(予約:未使用):発想表示等の補助情報
AI列:Graeme Alexsander Downes, "An Axial System of Tonality Applied to Progressive Tonality in the Works of Gustav Mahler and Nineteenth-Century Antecedents", 1994 所収の分析表に基づく区切り
AJ列:Henri Louis de La Grange, Mahler I~III, Fayard 所収の分析表に基づく区切り
AK列:長木誠司『グスタフ・マーラー全作品解説事典』立風書房, 1994 所収の分析表に基づく区切り
AL列:現時点では音楽之友社版ポケットスコアの序文にある分析表に基づく区切り(第1交響曲と第4交響曲のみ)
[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2019.12.15公開)
[2019.12.25]小節毎の調性推定結果のみを収めたexperimental_B_corel.xlsxを追加公開しました。
[2019.12.27]結果の3Dグラフ表示例を追加しました。
[2019.12.28]ファイルの画像を追加しました。
[2020.1.2]experimental_B_corel.xlsxのN列以降の相関の出力において、データによっては最初の行にゴミが出力されてしまうこと場合があるというプログラムの不具合を修正し、公開ファイルを差し替えるとともに、画像ファイルを差し替えました。またexperimental_B_corel.xlsxのZ列の説明が不正確であったため、訂正しました。
[2020.1.4]N~Y列およびAA列~AL列の色付けの定義を変更したバージョンに差し替えました。
[2020.1.6]experimental_B_corel.xlsxで、音の鳴っている最終区間の推定結果が出力されない場合がある不具合を修正しました。また併せて、区間内が無音(曲頭の余白か、曲中ではいわゆるゲネラルパウゼの箇所)の出力をスキップせずに、0を出力するようにして、基本的には小節単位の結果となるように仕様変更しました。更に、その一部を「MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化」で報告した、和音遷移を示す列を追加しました。
[2020.1.12]和音遷移を示す列でラべリングされる和声の種類を増やし、単音、2音の箇所については鳴っている音がわかるようにしました。また、従来表示していたバスの音に加えソプラノの音も表示するよう変更しました。更にexperimental_B_corel.xlsxで小節番号を表示するようにしました。
[2020.1.13]A~L列に表示していた相関計算の元となる音の出現頻度(長さ)および小節頭かどうかを表すM列を削除し、計算結果のみの表示としました。
[2020.1.16]experimental_B_corel.xlsxを元に、楽譜の小節との対応付けを行ったファイルを追加しました。
[2020.1.17]冒頭にデータの信頼性についての制限について追記。
[2020.1.18]現在保有している全ファイルの解析結果を公開。各ファイルに解析対象のMIDIファイル名と作品との対応、および各ファイルの入手元を記載したシートを追加。
[2020.1.28]全ファイルの解析結果の公開を中止。公開データを改訂版に差し替え。
[2020.2.1]冒頭の注記を改訂。
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