2022年5月16日月曜日

MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 補遺(2):同一作品の異なるMIDIファイルの比較

 Webで公開されているマーラー作品のMIDIデータを用いたデータ分析については、和音の出現頻度にフォーカスした分析を行った結果を、昨年末に記事「MIDIファイルを入力とした分析:データから見たマーラーの作品 和声出現頻度の分析のまとめ」にて要約したが、これまでの分析は、Webからダンロードして利用可能なマーラー作品のMIDIファイルのデータのうち、「大地の歌」と第10交響曲のクック版を含む全交響曲の各楽章のデータ1種類か、分析によってはそれに一部の歌曲のデータを加えたものに限定していた。

 その理由は主として分析における技術的な問題で、元々DTMの一環として、MIDIシーケンサソフトを使って手入力されたか、MIDIキーボードを用いた演奏をMIDIファイル化したもので、ここで行われているような分析目的で作成されたわけではなく、再生して楽しむために作成されたものであるため、楽譜の情報に忠実に作成されているとは限らず(入力ミスやミスタッチもあるが、自然に聞こえることを重視した結果として、必ずしも譜面通りになっていない場合があることにも留意すべきだろう)、もっと言えば元にした楽譜のエディションも不明なので(あくまでも分析の目的に照らしてだが、)信頼できる楽譜に基づいているかどうかもわからない。結果として同一曲・同一楽章の異なるMIDIファイルから抽出した分析対象となる情報にはかなりのばらつきが生じることになり、特に各拍で鳴っている和音を抽出しようとすると、MIDIキーボードの演奏に基づくファイルのデータの場合、しばしば分析対象としての適切さについて疑念が生じるような事態に繰り返し遭遇した。そのため、分析を進める上での方針として、任意の抜き取り調査のようなものを行って、再生結果の音響としての出来は問わず、比較的楽譜に忠実に入力していると判断できる作成者を同定し、その作成者のデータで可能な限り被覆率を上げるようなMIDIファイルの選択を行った。

 実際に集計や分析を実施して見て感じたことは、少なくともこれまでに行ってきた分析の範囲では、機能和声や対位法、楽式論などの知識を総動員して行われる楽曲分析とは異なって、音楽作品の持つ情報の中のごく限られた特徴量をテクスチュアに相当するような極めて肌理の粗いレベルで眺めているだけなので、多少の誤差は問題にならないと考えることもできそうだということであった。逆に言えば、抜き取り調査レベルのチェックで複数のファイルの中から或るファイルを選択して、そのファイルのみを対象とすることの根拠もさほど強いものではない。データ分析の対象となる他のドメインと異なり、ここで対象としているのは楽曲の構成音なので、本質的に統計的なゆらぎを持っているわけではないので、複数の版の平均をとるというやり方は馴染まないが、その一方で唯一の正解があるとするのは、それはそれで現実的ではない。典拠となる筈の楽譜についても、単純な誤植は措くとしても、単一の作品に対して様々なエディションが存在する。(であるからこそ批判校訂版全集のようなものが意味を持つことになっている訳である。)更には作品によっては初稿の初演・出版後に、作曲者自身によって行われた改訂版もある。更にマーラーの作品の場合なら、歌曲ならピアノ伴奏と管弦楽伴奏の2つの版がもともと存在している作品も少なくないし、交響曲についても作者自身によるものではないけれどもピアノ編曲版が存在する。それとは別に第10交響曲のような未完成作品の場合、補筆完成版の形態は、控え目に言っても初めからあり得たかもしれない可能性のひとつに過ぎないだろう。

 ということで最初の方針で分析対象として選択したファイルについて一通り眺めた現時点では、選択されなかった他のファイルだったらどうなのかについて確認することも一定の意味があると考え、交響曲については前回までは対象としていなかった他のMIDIファイルを対象に含めることにした。交響曲について今回対象とするMIDIファイルは、基本となる分析の単位が曲毎となることを考慮し、或る曲について全楽章のファイルが揃っているものを対象とすることにし、個別の楽章のみのMIDIファイルは対象から除外した。

 以下に今回分析対象とする作品のMIDIファイルを示すとともに、取得元サイトとそのURLを示した。(同一のものが、ダウンロード可能なアーカイブ中にも含まれるので、そちらも参照されたい。)背景色が黄色のものが今回分析の対象である。


1.アーカイブファイルの内容

公開済アーカイブファイル gm_sym_all_A_seq2.zip には以下のファイルが含まれる。
  • gm_sym_all_A_seq2.csv:ファイル(=楽章)単位の出現頻度集計結果(和音パターン番号順)
  • cfrq_sym_all.pdf:曲毎・出現頻度順の平均累計出現頻度の集計結果(以下の2.A.1)
  • cfrq_sym_all_all.pdf:MIDIファイルの異稿単位・出現頻度順の平均出現頻度の集計結果(以下の2.B.1)
  • sym_all_cfrq.pdf:曲毎・和音パターン番号順の平均累計出現頻度の集計結果(以下の2.A.2)
  • sym_all_cfrq_all.pdf:MIDIファイルの異稿単位・和音パターン番号順の平均出現頻度の集計結果(以下の2.B.2)
  • sym_all_MidiFileName.pdf:分析対象のMIDIファイルの情報

2.集計結果概要

A.曲毎の平均累計和音出現頻度

A.1.曲毎の出現頻度順



A.2.曲毎の和音パターン番号順





B.MIDIファイルの異稿単位の累計和音出現頻度

B.1.MIDIファイルの異稿単位の出現頻度順







B.2.MIDIファイルの異稿単位の和音パターン番号順





 [ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。  

(2022.5.16公開)


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