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アマチュア・オーケストラ演奏頻度を2025年の公演の集計を追加して更新しました。(2025.12.25)

2021年12月4日土曜日

MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.4.1.累計和音出現割合に基づく交響曲の分類)

2.分析結果の検討(承前)

2.4.交響曲の分類 

2.4.1.累計和音出現割合に基づく交響曲の分類 

2.4.1.1階層クラスタ分析

以下の3種の分析方法によるクラスタリング結果のデンドログラム共通のレジェンドは以下の通り。

  • m1~m10:第1交響曲~第10交響曲
  • erde:「大地の歌」
結果を後掲する3分析とも、階層の順序には異同があるものの、分類の傾向には一貫した共通性があり、以下のような区分が比較的安定であることが確認できる。
  • 第1~第4および第7交響曲のグループ(右寄りのクラスタ)
  • 第5と「大地の歌」および第9と第10のサブグループからなるグループ(complete法、average法では中央、ward法では左寄りのクラスタ)
  • 第6交響曲と第8交響曲のグループ(complete法、average法では左寄り、ward法では中央のクラスタ)
今回の分類にあたって事前に検討した第1、第2~4、第5~7、第8、第9と第10という分類は、本クラスタ分析の結果を確認する限りでは和声の出現頻度との関わりがないとは言えないまでも、正確な対応が見られるものではないように見受けられる。

 一方で例えば、マイケル・ケネディが第7交響曲について、特に近年では物議を醸すことの多い終楽章のロンド=フィナーレについて「「魔法の角笛」の素朴さへの、突然で極めて感動的な逆戻り」があると述べている(邦訳ではp.189)ことに対して、ここでの分類結果を突き合わせてみるのであれば、第7交響曲全体ではなく、今一度楽章単位での比較分析に立ち戻るべきかも知れない。

 第5交響曲と「大地の歌」が枝の末端で同じサブクラスタに分類されるという結果が得られた点も直観的には理解し難いが、最大の問題は第6交響曲と第8交響曲が比較的上位の階層でクラスタとして切り出されている点だろう。一見したところこの2曲は正反対の性格をおり、マーラー作品の肯定と否定の両端であるというのが一般的な了解であってみれば、ここで取り出された共通性の由来は突き止めてみるべきように感じられる。

(a)complete法


(b)average法


(c)ward法


       

2.4.1.2.主成分分析

寄与率・累積寄与率を確認すると以下の通りであった。


上記より累積寄与率が90%を超える第4主成分迄を対象にプロットを行い、得点と負荷を確認することとした。この分析では上位成分から、37%、31%、13%で第1主成分と第2主成分があまり変わらないのに加えて、両者で累積70%に満たず、下位主成分の寄与分がかなり残されているため、この点に留意して分析結果を検討する必要がある。

以下に第1主成分を横軸・第2主成分を縦軸にとったbiplotを示す。
ラベルの意味はこれまでのクラスタリング結果と同様で、以下の通り。
  • m1~m10:第1交響曲~第10交響曲
  • erde:「大地の歌」
以下では分析対象の各交響曲を時代区分によってクラス分けしたものについて、ggbiplotで第1,2主成分、第2,3主成分、第3,4主成分でプロットした結果、および第1~第4主成分の主成分得点・負荷を示す。以下のグラフ共通でクラスと色、およびクラスに帰属するグループの対応を示すと以下の通りである。
  • sym1(黄土色):第1交響曲
  • sym2-4(緑色):第2~4交響曲
  • sym5-7(青):第5~7交響曲
  • sym8(紫):第8交響曲
  • LE_9_10(赤):「大地の歌」・第9,10交響曲

負荷は転回や解離を除いて和音をビット列化したものの十進数表現であり、代表的なものを示すと以下の通りである。

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音、273(dim3) :増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)、585 :減三+減七、89 :減三+短七、275 :増三+長七、281 :短三+長七

 (a)第1主成分(横軸)・第2主成分(縦軸)


大まかに下側やや右寄りに比較的固まってプロットされているのが第2~第4交響曲(緑)、左下に孤立している点が第1交響曲(黄色)、左上の赤い楕円が第9、第10、「大地の歌」のグループ、右上の孤立した点が第8交響曲(紫)であり中央に広がる青色の楕円が第5~第7交響曲である。上述の階層クラスタ分析の結果から想定されるように第5~第7交響曲のうち、右上の第8交響曲の近傍の点が第6交響曲で、左下側の2点が第5、第7交響曲である。この平面で見る限りは、大地の歌と第5交響曲が同じサブクラスタに分類された階層クラスタ分析の結果の要因は見当たらないのに対し、第6交響曲と第8交響曲が比較的上位の階層で1つのクラスタに分類されるのは両者が近接していることから、本分析を出発点とした検討で要因を探ることができる可能性がありそうである。また第7交響曲が第2~第4交響曲のクラスタに含められる点についても、上記の第1主成分・第2主成分の平面において第7交響曲のプロットされている位置が、第3交響曲との距離と第5交響曲との距離とがあまり変わらない位置であることを思えば、理由がないことではなさそうである。


(b)第2主成分(横軸)・第3主成分(縦軸)

第2主成分を横軸、第3主成分を縦軸とする平面への上記のプロット結果を先行する第1主成分を横軸、第2主成分を縦軸とする平面へのプロット結果と照合させると、クラスタ分析における第7交響曲の角笛交響曲群への分類も、第5交響曲と「大地の歌」の同一サブクラスタへの分類も或る程度納得がいくものとなる。この平面では、第7交響曲は第5交響曲、第6交響曲より第3交響曲に明らかに近いし、第5交響曲も「大地の歌」の歌との距離と第6交響曲との距離がさほど変わらない(ついでに言えば第7交響曲との距離も同様である)ことが確認できるからである。しかも主成分の寄与率は、上位成分から、37%、31%、13%で第1主成分と第2主成分があまり変わらないのに加えて、両者で累積70%に満たず、下位主成分の寄与分がかなり残されていることが確認されているので、この平面での距離がクラスタ分析での分類に寄与していることは考えられそうである。

(c)第3主成分(横軸)・第4主成分(縦軸)


(d)第1主成分得点・負荷

第1主成分得点がプラスのグループは第8交響曲(紫)と第6交響曲、角笛交響曲群(第2~第4交響曲:緑)、第1,5,7,9,10交響曲と「大地の歌」がマイナスとなっている。

各和音の負荷を見ると、プラス側が大きさの順に19:長三和音、27:付加六の和音などであり、マイナス側は1:単音が最大で17:長三度、9:短三度と続く。強いて言えばマイナス側は単音・重音が優勢であるのに対して、プラス側には77:属七和音、51:長七和音といった四和音も含まれていることから、音の厚みの厚さのようなものが関わっているのだろうか、という仮説がまずは思いつく。確かに第8交響曲はマーラーの中でも最大の編成の作品だし、第6交響曲も編成の大きさもさることながら、総じて音が厚い作品であるということは言えるのかも知れないが、実はそれ以外については第2主成分と一緒に見ないで音の厚さと解釈すると矛盾が生じることになるのであって、別の解釈が必要となるのである。そこで第2主成分を確認した上で改めて検討をすることにしよう。


(e)第2主成分得点・負荷

第2主成分の得点を見ると、第7交響曲を除く第6交響曲以降の後期交響曲がプラス、逆に初期交響曲と第7交響曲がマイナスという結果となっていて、中間の第5交響曲が中立という見立てができるだろう。

各和音の負荷を確認すると、19:長三和音、25:短三和音、1:単音、5:長二度、一つ飛ばして9:短三度、17:長三度と頻度の上位の三和音および重音が軒並みマイナスなのに対して、プラス側は27:付加六を先頭に、89:減三+短七、77:属七、51:長七といった四和音が並んでいる。音の厚さのコントラストという点では第1主成分と同様だが、そうした観点で見る限り、第一主成分との違いは、長三和音と短三和音が音の厚い側に属するか、少ない方に属するかであるように思われる。第6交響曲と第8交響曲は一貫して音の厚い側なので問題ないが、それ以外の作品については単純に音の厚さと捉えてしまうと、第1主成分とは逆の評価となり矛盾が生じてしまう。

寧ろここでは特に長三和音への固執の強さとか、長調・短調のコントラストの強さを第1主成分が表しているのに対し、第2主成分の方は長短三和音が軸ではなく、付加六の和音が優位になるような第2の別の調的システムの働きを表すものと見做すのが一つの解決の方法のように思われる。

この考え方に立てば、どちらもプラスの第8交響曲と第6交響曲は、2つのシステムがどちらも機能して拮抗しているのに対して、第1主成分がプラス、第2主成分がマイナスの作品は長調・短調のコントラストの原理が専ら優勢なグループで、これには角笛交響曲(第2~第4交響曲)が該当する。それとは逆に第1主成分がマイナス、第2主成分がプラスの作品は、長調・短調のコントラストが弱くて、付加六の和音が中心となる別の原理が優勢であるグループで、これには「大地の歌」以降の後期交響曲が属することになる。第1交響曲はどちらもマイナスなので、第8交響曲と第6交響曲といわば対偶の位置にあることになり、敢えてこれまでの説明を敷衍すれば、長調・短調のコントラストの原理も弱ければ、それに替わるシステムが機能しているわけでもない状態ということになるだろうか。そしてこの点では第1交響曲と共通する特性を持つのは第7交響曲であることなる。

これまでの議論をまとめると、以下のように整理することができるだろう。

上記を踏まえるならば、マーラーの作品創作の展開のプロセスは、第1交響曲を出発点として、一旦、角笛交響曲(第2~第4交響曲で)長・短調のコントラストの原理に基づいた後、長・短調のコントラストとは別の原理が登場して拮抗するようになった後、前者が放棄されて後者が優位に立つというものになるだろう。

もともとマーラーは古典派の作品の、長調中心・ドミナント優位な原理ではなく、それとは異なる長・短調のコントラストの原理が優越している点は夙に指摘されてきたことでもあり、また聴いていても感じ取れることだが、そこから新ウィーン楽派的な無調に近接する、だが、十二音技法的のような方向性とは明確に異なる、或る、ユニークな原理が優位になっていったと考えることはさほど突飛なことではないのではなかろうか?それはマーラー独自の小説的な構造を可能にする原理であり、その後の音楽が放棄してしまった時間性を備えたものであったように思われる。

ところでそうした原理をより具体的な形で突き止めようとした時、今回の分析の枠組みには限界があって辿り着けない可能性がある。それは分析の対象とした和音が、実際にマーラーの作品の中で生じる全ての和音ではなく、依然として古典派的な機能和声に典型的な和音が中心となっていることに存する。一方で、本分析と並行して行った他の作曲家との比較とは異なって、特にポピュラーな20種程度の和音の頻度に限定せず、マーラーの作品における出現頻度の高い40種の和音に基づいた点では、マーラーに固有な音調を捉えうる方向性にはあったと言えるかも知れない。だかしかし、それを徹底しようとしたら、特に後期作品に出てくる和音の拾い損ないをなくし、寧ろ後期作品に出現する和音を完全に被覆するように集計を行うことが必要となるように思われる。

これまでの分析の記事のうち、頻度をカウントする対象とする和音の制限については、MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化の中で説明しているが、たかだか直観的に頻度が高そうなもの130種類位が頻度計算の対象であり、用意した130くらいのパターンで、バッハから古典期にかけての作品は、あくまでも選択された作品の範囲ではあるがほとんんど分類可能であるのに対し、マーラーの場合はラヴェルやシュトラウス程ではなにせよ、一定量の未分類の和音が残っていること、年代区分としては、後期にいくに従い未分類の和音が増加する傾向が認められることを述べている。

結局、本分析においても、上記記事でコメントした通り、マーラーが全音階的とはいっても、和声の種類について言えば保守的でもなければ単純というわけでもなく、特に後期に顕著になっていくマーラー固有の特徴を表すものが何なのかを突きとめるには、対象とする和音の被覆率を上げることが、少なくとも必須の必要条件であることを再確認したことになりそうである。以下に今回の分析の被覆率を示すが、後期に行くほど未分類の和音数(延べ数で種類数ではない)が増え、分類進捗率が低くなっていることが確認できる。


以下、第3主成分と第4主成分については主成分得点・負荷の分析結果だけを示すことにしたい。


(f)第3主成分得点・負荷


(g)第4主成分得点・負荷



[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.11.24 暫定版公開, 11.26仮公開, 11.27公開, 11.28分析コメントを追記)


MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.3.和音出現頻度分布)

2.分析結果の検討(承前)

2.3.交響曲各曲の和音出現頻度分布

MIDIファイルは楽章であり、以下の集計方法での集計結果を示す。

  • 各交響曲毎の和音出現頻度分布をbloxplotで表示した。
  • 比較の参考として、交響曲全体での和音出現頻度分布を最初に示した。

グラフのラベルは和音の構成音を乖離・転回を無視してビット列表現したものの略号であり、定義は以下の通りである。

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音、273(dim3) :増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)

(0)交響曲全体

(1)第1交響曲

(2)第2交響曲

(3)第3交響曲

(4)第4交響曲


(5)第5交響曲
 

(6)第6交響曲



(7)第7交響曲

(8)第8交響曲


(9)「大地の歌」


(10)第9交響曲


(11)第10交響曲(クック版、5楽章)


[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.12.4公開)


MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.2.2.平均和音出現順位)2022.1.27修正版公開

 2.分析結果の検討(承前)

2.2.交響曲各曲の和音出現順位

2.2.2.楽章毎の和音出現割合を曲単位で平均した平均和声出現割合での順位

※以下の画像データに含まれる第3,4,5,6,7,9,10交響曲および「大地の歌」の頻度情報の和音パターンのラベルの並びに誤りがありました。修正版に差し替えましたので、古い画像をご利用の方はお手数でも差し替えをお願いします。(2022.1.27)

MIDIファイルは楽章単位であり、各ファイル毎の和音出現割合を曲単位で平均した平均和声出現割合の集計結果を降順ソートした順位を示す。

比較の参考として、マーラーの全交響曲(第1~第10交響曲クック版および「大地の歌」)の平均和声出現順位を最初に掲げた。

グラフのラベルは和音の構成音を乖離・転回を無視してビット列表現したものの十進表現であり、主要なものを示すと以下の通りである。

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音、273(dim3) :増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)

(0)マーラーの全交響曲(第1~第10交響曲クック版および「大地の歌」)



(1)第1交響曲



(2)第2交響曲


(3)第3交響曲


(4)第4交響曲


(5)第5交響曲


(6)第6交響曲


(7)第7交響曲


(8)第8交響曲


(9)大地の歌


(10)第9交響曲


(11)第10交響曲(クック版、5楽章)



[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.12.4公開, 2022.1.27画像を修正版に差し替え)

MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.2.1.累計和音出現順位)2022.1.27修正版公開

 2.分析結果の検討(承前)

2.2.交響曲各曲の和音出現順位

2.2.1.楽章毎の和音出現頻度を曲単位で累計した累計和声出現割合での順位

※以下の画像データのうち第2,3,4,5,6,7,9交響曲および「大地の歌」の和音パターンの出現頻度の順位づけに誤りがありました。修正版に差し替えましたので、古い画像をご利用の方はお手数でも差し替えをお願いします。(2022.1.27)

MIDIファイルは楽章単位であり、各ファイル毎の和音出現頻度を曲単位で累計した累計和声出現割合の集計結果を降順ソートした順位を示す。

比較の参考として、マーラーの全交響曲(第1~第10交響曲クック版および「大地の歌」)の累計和声出現順位を最初に掲げた。

グラフのラベルは和音の構成音を乖離・転回を無視してビット列表現したものの十進表現であり、主要なものを示すと以下の通りである。

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音、273(dim3) :増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)

(0)マーラーの全交響曲(第1~第10交響曲クック版および「大地の歌」)



(1)第1交響曲





(2)第2交響曲



(3)第3交響曲



(4)第4交響曲



(5)第5交響曲



(6)第6交響曲



(7)第7交響曲



(8)第8交響曲



(9)「大地の歌」



(10)第9交響曲



(11)第10交響曲



[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.12.4公開, 2022.1.27画像を修正版に差し替え)


MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.1.2.平均和音出現頻度)2022.1.27修正版公開

2.分析結果の検討(承前)

2.1.マーラー各交響曲の和音出現頻度

2.1.2.和音出現割合の平均による平均和音出現頻度

※以下の画像データに含まれる第3,4,5,6,7,9,10交響曲および「大地の歌」の頻度情報の和音パターンのラベルの並びに誤りがありました。修正版に差し替えましたので、古い画像をご利用の方はお手数でも差し替えをお願いします。(2022.1.27)

楽章毎の和音出現割合を作品単位で平均した平均和音出現頻度を以下に示す。

 ヘッダ1行目は各グループラベル

  • gm_sym:交響曲全体
  • gm_sym1~10:第1~10交響曲
  • gm_symLE:「大地の歌」

 ヘッダ2行目の左は対象ファイル数(=楽章数)、右側が合計拍数

 本体の左は和音パターン、右側が100拍毎の出現頻度


(a)交響曲全体と第1~5交響曲



(b)交響曲全体(再掲)と第6~10交響曲




[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.12.4公開, , 2022.1.27画像を修正版に差し替え)



MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.1.1.累計和音出現頻度)2022.1.27修正版公開

 2.分析結果の検討

2.1.マーラー各交響曲の和音出現頻度

2.1.1.和音出現回数の単純合計による累計和音出現頻度

楽章毎の和音出現回数の単純合計による累計和音出現頻度を以下に示す。

※以下の画像データに含まれる第2,3,4,5,6,7,9交響曲および「大地の歌」の頻度情報の和音パターンのラベルの並びに誤りがありました。修正版に差し替えましたので、古い画像をご利用の方はお手数でも差し替えをお願いします。(2022.1.27)

 ヘッダ1行目は各グループラベル

  • gm_sym:交響曲全体
  • gm_sym1~10:第1~10交響曲
  • gm_symLE:「大地の歌」

 ヘッダ2行目の左は対象ファイル数(=楽章数)、右側が合計拍数

 本体の左は和音パターン、右側が100拍毎の出現頻度


(a)交響曲全体と第1~5交響曲


(b)交響曲全体と第6~10交響曲





[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2021.12.4公開, 2022.1.27画像を修正版に差し替え)



MIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 1.再分析の方針と結果の要約)2022.1.27修正版データ公開

1.再分析の方針

 これまでMIDIファイルを入力とした和音(コード)の出現頻度に基づマーラーの交響曲作品の分析の一環として、マーラーの作品間の比較をMIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その6:全拍対象・マーラーの作品間の比較)において実施した。そこでは出現頻度の高い和音40種の出現頻度のデータに基づく分類を行うにあたり、作曲時期別に初期(第1~4)交響曲・中期(第5~7)交響曲・後期(第8~10と大地の歌)交響曲という区分との関連を確認したのだが、おおまかな傾向として、作曲時期によって和声の使用頻度の分布が変化していることは確認できたものの、一部の作品は、中間的ないし複合的な傾向を持つこともまた浮かび上がってきた。そこで、ここではマーラーの交響曲の分類において、以下の観点で改めて分析を行った結果を報告する。


1.1.交響曲の区分の見直し

 今回はまず、従来、研究者によって行われてきたマーラーの交響曲の区分について思いつくままに俯瞰してみることにした。例えばマイケル・ケネディは、第1交響曲/第2~4交響曲(「角笛の交響曲」)/第5~7交響曲(「リュッケルト交響曲」)/第8交響曲/「大地の歌」/第9,10交響曲という分類に基づきデント社のシリーズの一冊であるマーラーについてのモノグラフ(Kennedy, Michael, Mahler (The Master Musicians), J.M.Dent, 1975、邦訳は中河原理訳、芸術現代社、1978)の作品篇の章立てを行っており、またフィリップ・バーフォードは第1交響曲/第2,3,4交響曲/第5,6,7交響曲/第8交響曲/最後の段階(「大地の歌」および第9,10交響曲)といった区分で同様にBBCミュージックガイドシリーズのマーラーの巻(Barford, Philip, Mahler Symphonies and Songs, (BBC Music Guides, 1970), University of Washington Press, 1971、邦訳は砂田力訳、河村譲二補訳、日音プロモーション、1987)の章立てを行っている。デント社のシリーズとして、ケネディの著作の前の世代にあたり、ブルックナーと組み合わせて一冊となっていたレートリヒの著作(Redlich, Hans F., Bruckner and Mahler, J. M. Dent, 1955, rev. ed.,1963、邦訳はクシェネクの伝記と併せて、和田旦訳、みすず書房、1981)では、「さすらう若者の歌」と第1交響曲/《不思議な角笛》交響曲と歌曲/交響曲第5番、第6番、第7番とリュッケルトの詩による歌曲/愛の讃歌:交響曲第8番/死後出版の3つの交響曲という区分けとなっており、これはバーフォードのものと同じであり、「大地の歌」を独立させるかどうかの違いを除けば、ケネディもほぼ同様と見ることができる。

 一方で柴田南雄さんが岩波新書の一冊として執筆した著作(柴田南雄, グスタフ・マーラー:現代音楽への道, 岩波書店, 1984)では、「ボヘミアからウィーンへ」の章で少年時代の伝記的記述に続いて「嘆きの歌」ととともに第1交響曲が論じられた後、「新しい世界への出発」の章で第2,3,4交響曲が、「成就と崩壊の始まり」の章で第5,6,7交響曲が取り上げられ、更に「背後の世界の作品」として第8交響曲、「大地の歌」、第9交響曲を取り上げた後で、第10交響曲は未完であることを踏まえて「開かれた終末」の章で、その後の世代への影響とともに一章を構成している。

 もともとマーラーの交響曲の区分としては、パウル・ベッカーの4区分が有名であろう(Bekker, Paul, Gustav Mahlers Sinfonien, Schuster & Loeffler, 1-3 Tausend, 1921)。これは第1~4交響曲/第5~7交響曲/第8交響曲/「大地の歌」第9,10交響曲という区分けを行っており、例えばシュライバーがロ・ロ・ロ伝記叢書の一冊として執筆した著作(Schreiber, Wolfgang, Gustav Mahler, Rowohlt Taschenbuch, 1971、邦訳は岩下眞好訳、音楽之友社、1993)は明示的にベッカーを参照しつつ、この区分に従っている。

 日本におけるマーラー紹介の嚆矢であった石倉小三郎の著作(石倉小三郎, グスターフ・マーラー, 音楽之友社, 1952)は、シュペヒトのマーラーについての1913年初版の著作(Specht, Richard, Gustav Mahler, Schuster & Loeffler, 1-4 Auflage Mit 90 Bildern, 1913)の祖述がベースとなっているが、シュペヒトは第1の三部作として第1,2,3交響曲を、所謂「間奏」として第4交響曲を単独で取り上げた後、第2の三部作として第5,6,7交響曲を扱った後は、第8交響曲、「大地の歌」、第9交響曲についてはそれぞれ一章を割いているという点で異色である。なお第10交響曲は、シュペヒトの執筆の時期から考えても対象にはなりえなかったであろう。草稿のファクシミリ(交響曲第十番,ファクシミリ版, アルマ・マーラー序文, Paul Zsolnay)が出版されたのはようやく第1次世界大戦が終わった後の1924年になってからであり、いわゆるクシェネク・ヨークル版と呼ばれる第1、第3楽章のみのスコア(管弦楽のための交響曲第十番(遺作), Associated Music Publishers, Inc.)の出版は第2次世界大戦後の1951年まで待たなくてはならない。

 ところで前回(その6:2020.7)の分析においては、この項の最初で述べた通り、些かアドホックなかたちで、初期(第1~4)交響曲・中期(第5~7)交響曲・後期(第8~10と大地の歌)交響曲という区分を設定して結果を確認することにしたのだが、前回の分析で最もはっきりとした分類が得られたのは、以下にその第1主成分と第2主成分によるプロットを再掲するA-b.主成分分析(スケーリングなし)の結果であると思われる。この結果における最大の問題は、中期のうち第6交響曲と後期のうち第8交響曲の位置関係によって、両者がクロスするような形になっている点であろう。それに対する区分変更の対象は、データ分析の結果からすれば第6交響曲でも第8交響曲でも良さそうだが、そもそもの目的が時期別の特徴を捉えるということにあったことを踏まえれば、中期の真ん中にある第6交響曲の区分を変更するのは不自然であるのに対して、第8交響曲は後期の前端であり、こちらの区分変更は自然に行える。従って第8交響曲を後期から独立させるのが適当であるということになろう。更に上記に比べれば大きな問題ではないが、初期グループについて見ると第2~4交響曲が比較的まとまっているのに対して第1交響曲だけは稍々孤立しているように見えるので、こちらについても第1交響曲を独立させることが考えられる。


 上記の通り、思いつくままに取り上げた幾つかの論者の見解と、前回のデータ分析における問題点とを考え併せ、以下の見直しを行うことにした。

  1. 初期に属していた第1交響曲を単独のグループとして第2~4交響曲から分離する。
  2. 後期に属していた第8交響曲を単独のグループとして「大地の歌」、第9,10交響曲から分離する。

結果として今回採用したマーラーの交響曲の区分は以下の5区分となる。

  • sym1:第1交響曲
  • sym2-4:第2~4交響曲
  • sym5-7:第5~7交響曲
  • sym8:第8交響曲
  • symLE-9-10:「大地の歌」および第9,10交響曲

 諸家の見解と比較すると、これはレートリヒ及びバーフォードの区分と一致していることになる。なおこの分析では当初より第10交響曲についてはデリック・クックによる演奏会用バージョン全5楽章を対象としており、この点に関してはケネディの立場に近い。

 交響曲の区分についての以上の検討は何ら網羅的なものではないが、それでも一応検討討内容を表にまとめると以下のようになる。(表中のLEは「大地の歌」)



1.2.特徴ベクトルの選択

 前回の分析では、MIDIファイル毎の和音の出現頻度の特徴ベクトルを用いて比較を行い、それをグルーピングして検討を行ったが、本分析は前回の問題点を受けての改善であるため、特徴ベクトルについては前回と同一のものを用いた。即ち特徴ベクトルの作成単位も前回同様、交響曲の作品毎とし、頻度の集計対象となる和音の種類も前回と同様とした。

 まず上記の入力となるMIDIファイルは楽章毎であるから、和声の出現頻度のベクトルがMIDIファイル毎に得られる。全交響曲・全楽章の和声の出現頻度を和声毎に単純合計し、合計値で和音を出現頻度の昇順に並べて上位40種類の和音を抽出する。抽出された和音のみを対象として、今後はMIDIファイル毎の長さ40の和音の出現頻度のベクトルの各要素について、曲毎に単純合計して作品毎の出現頻度のベクトルを求め、最後に100拍あたりの出現回数に規格化したものを分析の対象とした。これを累計和音出現割合と呼ぶことにする。

 上記の処理によって得られた特徴ベクトルの要素となる、分析対象とする和音の種類はマーラーの交響曲全体での出現頻度の昇順に以下の通りで、繰り返しになるが、これは前回と同じである。

   19 25 1 3 27 9 17 77 51 7
   23 13 89 11 5 15 73 29 69 31
   585 57 273 83 39 277 21 93 81 281
   589 55 49 59 201 35 33 275 101 65

 参考として以下に、一般に良く用いられて名称が与えられている代表的な和音について、和音コード(和音の構成音をビット列で表現したものを10進化した値)、名称、ラベルを示す。

1:単音(mon)、3 :五度(dy:5)、5 :長二度(dy:+2)、9 :短三度(dy:-3)、17 :長三度(dy:+3)、33 :短二度(dy:-2)、65 :増四度(dy:aug4)、25 :短三和音(min3)、19 :長三和音(maj3)、77 :属七和音(dom7)、93 :属九和音(dom9)、27 :付加六(add6)、69 :イタリアの増六(aug6it)、73 :減三和音(dim3) 、273:増三和音(aug3)、51 :長七和音(maj7)、153 :トリスタン和音(tristan)、325 :フランスの増六(aug6fr)、585 :減三+減七、89 :減三+短七、275 :増三+長七、281 :短三+長七

 照合すればわかる通り、マーラーの交響曲全体を対象とした場合、出現頻度の上位40種に上記の代表的な和音が全て含まれるわけではないが、一部を除くと概ね含まれていることがわかる。そしてこうした出現頻度の分布はそれ自体がマーラーの作品の特徴の表れであると考えることができる。実際、本分析と並行して実施した他の作曲家との比較においては、比較対象の和音を選択する際に基準として用いている。しかしながら、ここでの目的はあくまでもマーラーの交響曲群の内部での分類なので、マーラーの交響曲全体で出現頻度の高い和音を対象に分析を行うことには一定の合理性があると考える。 

 今回は更に、上記の累計和音出現割合に加えて、各交響曲毎に当該交響曲を構成する楽章のMIDIファイルについて楽章単位で和音の出現割合を計算し、それの交響曲毎の平均をとる、平均和音出現割合を計算し、これに基づく和音出現頻度の順位付け、上位40位までの切り出しを行って、累計和音出現割合と同様の分析を実施した。

 平均和音出現割合を用いた分析は、累計和音出現割合と比べた時、大きな傾向は同じであっても、楽章の規模の大小を問わずに楽章毎の割合の平均を取るため、規模の大きさ(ここでは和音をサンプルした拍数の数)に応じた割合ではなく、規模の大小を問わずに楽章を独立の単位として同じ重みで割合を集計することになるので、結果として和音出現順位の細部で入れ替わりが起こりうる。単純に曲内の和音の頻度に基づく累計和音出現割合に対して、楽章毎のまとまりを重視した集計方法であると言えるだろう。

実際に上位40種として選択された和音は、頻度の降順に以下の通りであり、累計和音出現割合と選択された和音は同一だが、順位が異なっている。

19    25    1      3      27     9      17    77    51    7
23    13    89      15    11      5      73    29    69   31
39    57    273    21    585    83     81   277  281  93
49    35    275    55    589    201   33   59    101  65


1.3.分析手法の選択

 上述の通り、今回の分析対象は全交響曲(「大地の歌」と未完の第10交響曲のデリック・クックによる5楽章の演奏用補筆版を含む)11種類の特徴ベクトルであるのに対して、各ベクトルの要素数は上記の40種の和音であり、比較対象が少ないことから、因子分析と非階層クラスタ分析は用いず、主成分分析と階層的クラスタ分析(方式としてはcomplete法, average法, ward法の3種)のみを行うことにした。


1.4.分析に用いたツール・ライブラリ

 分析はすべてR言語(version 4.1.0 (2021-05-18版)を用いて行った。
 分析履歴を保存した。

   A.階層クラスタ分析:hclustを使用。
  complete法, average法, ward法の3種類を使用。
 B.主成分分析:prcompを使用。
  特徴ベクトルの作成にあたって規格化済であることから、scale=F。
  累積寄与率95%を目安として、第4主成分までについて負荷と主成分得点を計算。
  結果のグラフ表示には、ggplotライブラリのggbiplotを使用。
  負荷と主成分得点はbarplotでグラフ化。    
 

1.5.分析結果の要約

1.5.1.累計和音出現割合に基づく分析の結果

 階層クラスタ分析の結果から、今回の分類にあたって事前に検討した「第1、第2~4、第5~7、第8、第9と第10という分類は、和声の出現頻度との関わりがないとは言えないまでも、正確な対応が見られるものではないことが確認できた。

 そこで事前に用意した分類に基づきつつ、それこ拘らずに主成分分析の結果に基づいて検討した結果、導かれた分類は、長調・短調の対比の原理と、それとは別の原理の2つが併存・拮抗するというもので、各曲における2つの原理の状態を示すと以下の通りとなる。


 上記を踏まえるならば、マーラーの作品創作の展開のプロセスは、第1交響曲を出発点として、一旦、角笛交響曲(第2~第4交響曲で)長・短調のコントラストの原理に基づいた後、長・短調のコントラストとは別の原理が登場して拮抗するようになった後、前者が放棄されて後者が優位に立つというものになるだろう。

 もともとマーラーは古典派の作品の、長調中心・ドミナント優位な原理ではなく、それとは異なる長・短調のコントラストの原理が優越している点は夙に指摘されてきたことでもあり、また聴いていても感じ取れることだが、そこから新ウィーン楽派的な無調に近接する、だが、十二音技法的のような方向性とは明確に異なる、或る、ユニークな原理が優位になっていったと考えることはさほど突飛なことではないのではなかろうか?それはマーラー独自の小説的な構造を可能にする原理であり、その後の音楽が放棄してしまった時間性を備えたものであったように思われる。

 そしてここでは「長調・短調の対比の原理とは別の原理」という言い方で、その存在を示すことしかできず、その具体的な内容については本分析からは充分な手がかりが得られなかった原因について考えてみると、分析の対象とした和音が、実際にマーラーの作品の中で生じる全ての和音ではなく、依然として古典派的な機能和声に典型的な和音が中心となっていることが原因となっているように思われる。

 頻度をカウントする対象とする和音の制限については、以前の記事 MIDIファイルを入力とした分析の準備作業:和音の分類とパターンの可視化の中で報告しており、そこでは、たかだか直観的に頻度が高そうなもの130種類位に限り頻度計算の対象としている結果として、マーラーの場合には一定量の未分類の和音が残っており、しかも年代区分としては、後期にいくに従い未分類の和音が増加する傾向が認められることを述べ、具体的に以下の表によって未分析データの存在状況について報告した。


 上記を踏まえ、特に後期作品に出てくる和音の拾い損ないをなくし、寧ろ後期作品に出現する和音を完全に被覆するように集計を行った結果により再分析を実施することが、今後、更に分析を進めて「長調・短調の対比の原理とは別の原理」の実質をデータから探るための出発点となるように思われる。

 なお、具体的な分析結果の検討については、本ブログの後続する以下の記事を参照されたい。また、分析結果の詳細については、以下の1.6.アーカイブファイルに含まれるファイルの説明の項に記載の通り、結果をアーカイブ化したものがダウンロード可能である。
1.5.2.平均和音出現割合に基づく分析の結果

詳細はMIDIファイルを入力とした分析:和音の出現頻度から見たマーラー作品(その7:交響曲分類の再分析 2.4.2 平均和音出現割合に基づく交響曲の分類)を参照して頂きたいが、特に累計和音出現割合に基づく分析との対比で平均和音出現割合に基づく分析結果の特徴を要約すると、以下のようになるだろう。

  • 階層クラスタ分析の結果としては、末端の枝の末端部分である第2,3交響曲+第4交響曲/第6交響曲と「大地の歌」/第5,7交響曲、第9,10交響曲というグループは相対的には安定しているが、それより上位の階層の構造は手法によって差があり、不安定であるが、これは上記のグループ間の距離が主成分平面においてほぼ同じであることに拠るものであり、上記のグループについては相対的に安定していることの裏返しである可能性がある。
  • 主成分分析では、第1、第2主成分平面上での各交響曲のプロットの傾向は階層クラスタ分制と整合しており、そこでの傾向を裏付け、説明するものであることがます挙げられる。
  • 一方で第2主成分は、時系列に沿った得点の漸進的な変化が特徴であり、マーラーの交響曲の創作時期に沿った漸進的な変化を捉えていると見做すことができ、古典的な調性感が明確な作品から、調性の拡大へと向かう方向性を示す成分であると言えそうである。
  • 第3主成分はマイナス側に肯定的なイメージが強い作品が集中しており、短調優位がどうかを表しているように思われる。
全体としては、分析の主要な面では累計和音出現割合に基づく分析の方が、明確で安定した分類が得られたのに対して、平均和音出現割合に基づく分析は、分析の一部において特徴や傾向が鮮明に表れているケースがあり、結果の解釈が相対的に容易な側面があった。


1.6.アーカイブファイルに含まれるファイルの説明

1.6.1.累計和音出現割合に基づく分析の結果

交響曲分類_再分析_累計和音出現割合版.zip の中には以下のファイルが含まれます。

(1)入力データ
 cfreq9A.csv:分析対象の和音(コード)の出現割合
 col_cfreq9A.csv:対象作曲家の色指定
 class_cfreq9A.csv:対象作曲家の時代別分類

(2)主成分分析系
 prcomp_F.pdf:主成分分析(scale=F)結果のbiplotグラフ
 gg_prcomp_F_12.pdf:主成分分析結果(第1,第2成分)のggbiplotグラフ
 gg_prcomp_F_23.pdf:主成分分析結果(第2,第3成分)のggbiplotグラフ
 gg_prcomp_F_34.pdf:主成分分析結果(第3,第4成分)のggbiplotグラフ
 pr_score-[1-4].pdf:主成分得点のbarplotグラフ
 prcomp_PC[1-4].pdf:主成分負荷量のbarplotグラフ

(3)階層クラスタ分析系:
 hclust_complete.pdf:complete法での分類結果
 hclust_average.pdf:average法での分類結果
 hclust_wardD2.pdf:ward法での分類結果
  
(4)分析履歴
 hist.txt:R言語を用いた分析履歴。各分析の数値的な結果を含む。


1.6.2.平均和音出現割合に基づく分析の結果

交響曲分類_再分析_平均和音出現割合版.zip の中には平均和音出現割合による分析に関する、以下のファイルが含まれます。

(1)入力データ
 cfreq9A_ave.csv:分析対象の和音(コード)の平均出現割合
 col_cfreq9A.csv:対象作曲家の色指定
 class_cfreq9A.csv:対象作曲家の時代別分類

(2)主成分分析系
 prcomp_F.pdf:主成分分析(scale=F)結果のbiplotグラフ
 gg_prcomp_F_12.pdf:主成分分析結果(第1,第2成分)のggbiplotグラフ
 gg_prcomp_F_23.pdf:主成分分析結果(第2,第3成分)のggbiplotグラフ
 gg_prcomp_F_34.pdf:主成分分析結果(第3,第4成分)のggbiplotグラフ
 pr_score-[1-4].pdf:主成分得点のbarplotグラフ
 prcomp_PC[1-4].pdf:主成分負荷量のbarplotグラフ

(3)階層クラスタ分析系:
 hclust_complete.pdf:complete法での分類結果
 hclust_average.pdf:average法での分類結果
 hclust_wardD2.pdf:ward法での分類結果


1.6.3.各交響曲の和音出現割合の基礎データ

和音出現割合_各交響曲.zipの中には以下のファイルが含まれます。

※曲(楽章)毎の和音出現頻度のグループ合計に基づく和声出現割合の和音出現頻度表(gm_cfrq_sym.pdf)および曲(楽章)毎の和音出現割合のグループ平均に基づく和音出現割合(gm_cfrq_sym_ave.pdf)の内容に誤りがあったため、修正版に差し替えました。古いバージョンをダウンロードしてご利用されている方は、お手数でも差し替えを御願いします。(2022.1.27)

  (1)和音出現頻度表
  • gm_cfrq_sym.pdf:曲(楽章)毎の和音出現頻度のグループ合計に基づく和声出現割合
  • gm_cfrq_sym_ave.pdf:曲(楽章)毎の和音出現割合のグループ平均に基づく和音出現割合
  (2)和音出現頻度分布の箱ひげ図
  • boxplot_cfrq_gm_sym.pdf:マーラーの交響曲全体のboxplot
  • boxplot_cfrq_gm_sym[1-10].pdf:第1~10交響曲のboxplot
  • boxplot_cfrq_gm_LE.pdf:「大地の歌」のboxplot

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。

(2021.11.22-24 暫定版公開, 11.26仮公開, 11.27公開, 11.29分析結果の要約を追加, 12.4 2.1~3節を追加し、平均和音出現割合に基づく分析結果を追記して再公開, 2022.1.27交響曲分類_再分析_累計和音出現割合版.zip の差し替え版公開。)