この演奏の存在は実はもう20年も前から知っていたのだが、マーラーをほとんど
聴かなくなってから、ようやくBBCのLEGENDシリーズの一部としてリリースされた
ものを聴くことができるようになった。
この曲の説得力のある演奏はほとんどないように思える。特に厄介な第5楽章に
ついては、意図してか、そうでないかは問わず、聴いていてうんざりするような
演奏が多い。しかもそれは合奏の精度や、音響的なバランスの良し悪しとは
あまり関係がないように思われる。ましてや、交響曲全体の一貫性を感じ取れる
ような演奏はほとんどない。場合によっては、そうした一貫性ははじめからない
ものとして、分裂した状態で音楽を放置することを正当化したり、あるいは
第5楽章をあからさまなパロディとして、不愉快さがあたかも予期されたもので
あるかのような解釈が良しとされることもあるようだ。
しかしバルビローリの演奏は、一貫性に欠けることもないし、第5楽章が
見かけの壮大さを裏切って空虚に響くこともない。それは真正なフィナーレで
あり、しかも音楽の経過の上で、第1楽章のほの暗い序奏から出発する過程の
説得力ある帰結となりえていると感じられる。この第5楽章は決して紛い物の
書割の下で演じられているのはない。マイケル・ケネディがその著書で何故、
あんなに力強くこの作品の頂点がロンド・フィナーレにあると断言できたのか、
私はこの演奏に接してよくわかったし、勿論、彼の主張は正しいと思う。
実演を幸運にも経験できた会場の感動は明らかで、50年も前、自分が生まれる
以前の異郷の地の感動をこうして共有できるのは、大変に素晴らしい経験だ。
録音のバランスも必ずしも良くなさそうだし、演奏そのものもライブ故、
かなり傷があるのだが、そうした点はこういった説得力を奪ってしまうような
ものではないように思える。勿論、細部の正確さ、楽譜に書かれている音が
どれだけ聞えるかという情報量の問題、そしてパートのバランスの問題
(録音による部分も含めて)など、音響面が気になる人や、演奏の完成度を
問題にする人は、この演奏を聴く必要はないかもしれない。いまやこの
曲の演奏の録音も数多く存在し、そうした点において勝っている演奏は
幾らでもあるからだ。それでも混成オーケストラによる一発取りという条件や、
当時この曲がどの程度オーケストラのレパートリーとして定着していたかを
思えば、バルビローリの解釈の実現という点では驚異的といっても良いほどの
演奏だと感じられる(単純な比較はできないが、ベルリン・フィルのライブに劣ることは
ないと断言できる)。徹底したフレージング、そしてとりわけこの演奏でも頻繁に
起きるテンポの交代への反応をとっても、この演奏が如何に徹底した準備の上で
為されているかがはっきりと伺える。何よりもこの演奏では、解釈上の巨視的な設計の
巧みさが際立っていて、この曲にあっては例外的な一貫性の達成を強い説得力を
もって感じ取ることができるわけで、それのみをもってしても、この曲の屈指の名演と
言えると私は思う。
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