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アマチュア・オーケストラ演奏頻度を2025年の公演の集計を追加して更新しました。(2025.12.25)

2023年9月3日日曜日

後期マーラーの「挑戦」?:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの多様性に注目した予備分析(2023.9.4更新)

1.はじめに

 これまで何回かに亘って、状態遷移の集計方法の検討を行い、検討内容に基づいた集計結果を公開してきました。状態遷移パターンについては今回初めて集計を行ったので、従来やってきた和音(といっても機能和声理論上のものではなく、寧ろピッチクラスセット上で定義される集合ですが)の出現頻度と異なって、土地勘のようなものが全くありません。そこで今後の分析のための予備作業として、集計した状態遷移パターンについて、個別のパターンに踏み込んだ分析を行う前に、記事MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開MIDIファイルを入力とした分析の準備(4):状態遷移の集計結果の公開(続き)およびMIDIファイルを入力とした分析の準備(6):状態遷移の集計結果の公開(補遺その2)において「和音・状態遷移パターン種別」として報告・公開しているデータを用いて状態遷移パターンの異なり数について確認してみたところ、マーラーの作品に関して興味深い特徴があるように思われたので、簡単な分析を行ってみました。以下でその内容を報告します。

2.本分析の背景

 「和音・状態遷移パターン種別」として公開しているデータにおいては、これまで集計・公開してきた複数の条件による状態遷移パターンの抽出結果について、遷移パターンの抽出対象となる和音の総数、和音の種類数(状態遷移パターンとしては深さ=0に相当)、深さ1~5までの状態遷移パターン数を集計しています。

 一般にパターン数は、対象となる和音の総数に相対的なものと考えられます。つまり短く小節数が少なく、拍数もまた少ない作品では、同じ複雑さであればパターン数は少なく、大規模になればパターン数が増加するものと考えられます。但しそれでは際限なく拍数を増やしていけばパターン数も比例して増加し続けるかと言えば、ここで対象としているタイプの音楽作品の場合にはそうではなく、同じパターンの繰り返しの割合が増えていくものと想定されます。一方で、反復繰り返しを多く含む作品の場合には、同じ拍数で出現するパターンの数はその程度に応じて少なくなるものと予想されます。このことは、分析の入力として使わせて頂いているMIDIの作り方に、ここで注目しているパターン数が影響を受けることもまた、意味しています。演奏においてもしばしばそうですが、特に古典派の作品の場合、ソナタ形式の楽章の提示部やメヌエットやスケルツォ楽章におけるDa Capoが典型的なように、リピート記号に忠実に繰り返すか省略するかについての選択には任意性がありますが、ここで注目している特徴量はその選択の影響を受けることになります。マーラーの場合に限れば、リピートが問題になるケースというのはあまりなく、第1交響曲第1楽章、第6交響曲第1楽章のソナタ提示部の繰り返しくらいでしょうか?(未完成作品まで含めれば、第10交響曲第3楽章のDa Capoが思いつきますが、これは文字通りの反復を嫌ったマーラー「らしくない」との嫌疑がかけられたりもして物議を醸してきた部分でもあります。更には第5交響曲第2楽章のごく初期の出版譜では提示部に反復記号があるのですが、この稿態が採用されることはまずないでしょう。)更に言えば、上記のような事情を踏まえると、仮に割合が同じだとしても規模が大きく異なる作品間の割合の比較には色々な意味で慎重さが要求されるということでもあると思います。また同様に、個別の作品(各交響曲)と作品全体(交響曲全て)の比較についても注意が必要です。各曲毎にその内部は多様性に富んでいても、「同じような」作品を繰り返し書けば、作品全体としてみれば反復が生じていることになり、単純な各曲における割合の平均にはならず、割合が下がることも考えられるからです。

 こうした事情を勘案すると、マーラーの作品についてはパターン数は多く、多様性に富んでいることが想像されるわけですが、実際にデータを眺めてみると、特に深さが増していくにつれてその傾向が極端になり、深さ4,5のパターンとなると、作品と抽出条件によっては複数回使用されるパターンがほんの僅かしかないことがわかります。特に最後に補遺2で追加した抽出条件のうち、転回形も五度圏上の位置の違いも区別する条件(trans_inではその傾向が著しく、繰り返し用いられるパターンに注目するようなデータ分析が実質的に無意味になってしまいかねない程です。(エントロピーという観点では限りなく1に近づいているということになります。)ここで対象にしているのが和音のパターンであるため、単独の和音パターンの種類数でも100を超えます。状態遷移パターンは最も単純な条件でも、深さをnとすれば和音パターン数のn+1乗の組み合わせが理論的には可能です。実際には深さ2くらいのレベルでは対象となっている拍の総数よりも遥かに小さいパターン数になりますが、深さが深くなるにつれてパターン数は増大していきます。深さ4,5になれば前の状態の理論的な組み合わせは天文学的な数字になるため、実質的は総拍数が上限となります。そこで多様性を測る最も簡単な尺度として、パターンの異なり数が総拍数にどこまで近づくか、という点に注目するやり方が考えられます。本分析では、まずはこの観点からデータを眺めて簡易的な分析をすることにします。

 本分析では、比較的区別が緩い抽出パターンとして、転回は区別せず、五度圏上の位置についても、状態遷移における移動の仕方が同じであれば同一のパターンと看做す条件(default)を用いて分析を行うことにします。

 以下は公開済のパターンの種類数の集計結果を元に、状態遷移パターンについては抽出対象とした三和音以上の和音の総数に対するパターンの種類数の割合を計算し、抽出対象とした三和音以上の和音の総数については、総拍数(休符や単音、重音の箇所も含む)に対する割合を計算した結果を示したものです。割合が1の時、全ての対象和音について全て異なった状態遷移パターンであり、繰り返し利用されるパターンが無いことを意味します。

 ここで割合が1に近いものを視覚的に読み取れるように、0.8以上、0.9以上、0.95以上、0.99以上について、それぞれ異なる背景色をつけてみました。


深さ3以上のパターンではほとんど全ての交響曲で0.8を超えていることが確認できますが、それだけではなく、第6交響曲を除くと、初期は割合が相対的に低く、後期になると高くなるという大まかな傾向が読み取れるように思われます。そこで、従来の和音の出現頻度の分析でも用いてきた創作年代区分で集計したらどうなるか?という疑問が自然に浮かびます。実際に集計をして、更に割合を求めた結果は以下に示す通りです。参考までに、パターン数の全交響曲の単純合計(のべに相当:sum)、全交響曲での集計結果(all)を第1~4交響曲(m1-4)、第5~7交響曲(m5-7)、第8~10交響曲(「大地の歌」を含む:m8-10)とともに示しました。(sumについては割合の計算は意味がないため行っていません。)



 まず全交響曲(all)の集計結果と割合について見て見ると、深さ1では明らかに、同じパターンが複数の交響曲で重複して出現していることが読み取れます(重複率は85%にも及びます。)しかし深さ2では50%近くまで下がり、深さ3では10%程度、深さ4,5では1%程度となり、ほとんど重複がないことがわかります。同じ和音を用いながら、状態遷移パターンとしては深さが深くなれば各曲毎に異なったパターンが用いられていることが窺い知れます。

 次に創作時期別の傾向を確認してみると、個別の交響曲毎に読み取れた傾向が時期毎の全体を対象にしたパターン抽出の結果からも読み取れることがわかります。状態遷移パターンの異なり数、つまりマーラーの場合、後期に行くに従ってパターンの多様性は拡大傾向にあるということが明確に読み取れると思います。各時期毎の対象拍数は大きく異ならず、相対的には初期が大きく、中期が小さく、後期がその中間ですが、深さ0にあたり和音単独でのパターンの割合はほとんど同じであるにも関わらず、状態遷移パターンについて言えば、深さが深くなるにつれて後期の方が多様性に富むという傾向は明らかなように思われます。

 これは少なくとも私にとっては驚くべき結果で、ここでもマーラーが、所謂「発展的な」作曲家であるということが、状態遷移パターンの多様性というシンプルが特徴量の上で明確に読みとれることがわかったことになります。これまでも状態遷移の分析にあたって参照してきた大黒達也さんの『音楽する脳』では、「ベートーベンの挑戦」と題された節(p.123)において、「脳の統計学習の計算モデルを用いて、ベートーベンの『ピアノソナタ』全曲の不確実性(情報エントロピー)を解析した」(同頁)結果が示されていますが、そこでは後期に至って飛躍的にエントロピーが増大するという結果を以て、「昔から新しい不確実な音楽への挑戦に非常に意欲的だったといわれてい」(同頁)るベートーベンが、実際に「生涯、常に新しい音楽を求めて曲を作り続けて来たのかもしれない」(p.124)とされていますが、本稿では、遥かに初歩的な集計結果の比較という、素朴なやり方ではありますが、状態遷移パターンの異なり数の比較を通して、マーラーもまた「発展的な」作曲家であったことの傍証となりうる結果が得られたのではないかと思います。分析の手法は異なりますが、アドルノが「後期様式」というものをとりわけてもベートーヴェンとマーラーについて述べたことが恣意ではなく、優れた音楽的資質に恵まれていたらしいアドルノの、その経験に基づく直観に根差した指摘ではなかったかとも感じました。

 なおここでは直接エントロピーの計算はしていませんが、マルコフ過程であれば多重度に相当する深さに応じた過去の値の系列(状態)から次の値への遷移の条件つき確率をベースに定常分布における状態の期待値の確率としてエントロピーが計算されることを考えれば、例えば出現頻度が1である状態がほとんどを占めるような系列は高エントロピーの系であると推測できます。更に創作時期を追う毎に異なるパターンの割合が増えていく傾向があるということから、マーラーの場合もベートーヴェンの場合と同様、創作時期を追う毎にエントロピーが増大する傾向であろうことも推測できます。勿論、厳密には計算が必要ですが、ここではエントロピーの肌理の粗い近似として状態遷移パターンの多様性を用いていることになるかと思います。

 さて、ここまではマーラーの作品間の比較を行ってきましたが、それでは他の作曲家の作品の場合はどうなのでしょうか?直近の、旋法性に関わる和音の出現頻度に関する分析において比較対照のために取り上げた作曲家・作品との比較がまず思い浮かびますが、ここでも状態遷移パターンについては初めて集計結果に接したこともあって、より広い範囲での展望を得ておきたく、時代を遡ってバロック期や古典期の作品ではどうであるかについても一瞥してみることにしました。結果として前回の実験と同じ作曲家の同じ作品に加えて、古典期とバロックの作品の例としてシュターミッツとゼレンカの作品を加えた以下のデータセットについて集計・分析を行うことにしました。(括弧内は以下に示す分析結果におけるラベルを表します。)

  • マーラー(mahler):第1~10交響曲、大地の歌(m1~10, erde)
  • ブラームス(brahms):第1,2,3,4交響曲(jb1,2,3,4)
  • ブルックナー(bruckner):第5,7,8,9交響曲,第9交響曲フィナーレ断片つき(ab5,7,8,9,9f)
  • フランク(franck):交響的変奏曲、交響曲 (cfVar,  cfSym)
  • ラヴェル(ravel):左手のための協奏曲、ピアノ協奏曲ト調、高雅で感傷的な円舞曲、ダフニスとクロエ第2組曲 (mr_leftpc, mr_pc, mr_vns, mr_dcl)
  • シベリウス(sibelius):第2,7交響曲、タピオラ (js2,7, jsTapiola)
  • タクタキシヴィリ(taktakishvili):ピアノ協奏曲第1番 (ot)  
  • ヤナーチェク(janacek):シンフォニエッタ (lj)
  • ドヴォルザーク(dvorak):第7,8,9交響曲 (dv7,8,9)
  • スメタナ(smetana):我が祖国 (bs)
  • カール・シュターミッツ(stamitz):クラリネット協奏曲第3番、第10番、2本のクラリネットと管弦楽のための協奏曲、フルート協奏曲ト長調作品29,、 ヴィオラ協奏曲ニ長調作品1 (st3cl, st10cl, stdpcl, stfscgd, stt_vacon)
  • ゼレンカ(zelenka):聖セシリアのミサ、 聖霊のミサ、信仰のミサ、慈善のミサ、ミゼレーレニ短調 (zwv1, 4, 6, 10, 56)
以下にまず集計結果を示します。まずブルックナーとブラームスです。


次いで、フランク、ラヴェル、シベリウス、タクタキシヴィリです。


最後に、ヤナーチェク、ドヴォルザーク、スメタナ、シュターミッツ、ゼレンカの結果です。


 まず今回追加したシュターミッツとゼレンカについて確認すると、古典期を切り開いたマンハイム楽派の代表的存在であるシュターミッツの方が、時代的には先行するが、しばしば同時代で交流もあったJ.S.バッハと比較されることもあるゼレンカの作品よりも状態遷移パターンに関してシンプルであると言う傾向が明確に読み取れると思います。

 ブルックナー、ブラームスはスメタナやドヴォルザークとともにマーラーに先行する世代ですが、ドヴォルザークの第7交響曲を例外として、後はいずれもシュターミッツ程ではないにせよ、状態遷移パターンに関しては相対的にシンプルであると言えそうです。一方でフランク、ラヴェル、シベリウス、タクタキシヴィリは相対的にパターンの多様性が確認できるグループですが、マーラーにおいては初期と同程度であるに過ぎず、マーラーの中期以降、特に後期の作品における多様性が際立つ結果となりました。実際マーラー以外では、ラヴェル、シベリウス、タクタキシヴィリの一部の作品の深さ5のパターンでようやく95%が出現する程度であり、マーラーのように深さ4,5が軒並み95%以上といった値は他には見当たりませんし、99%以上に達するケースはありませんでした。ヤナーチェクもマーラーとほぼ同時代の作曲家ですが、ここで取り上げたシンフォニエッタが典型的にそうであるように、短い動機や旋律の繰り返しを構成原理とする、どちらかというとミニマリズム的な傾向があることが、ここでは状態遷移パターンの相対的な少なさとして確認できるように思います。

 以上、ここまでは集計された状態遷移パターンの異なり数についての集計結果に基づく、ごく初歩的な確認によって、マーラーの交響曲間、マーラーと他の作曲家の作品間の比較において、比較的明確に区別ができそうな見通しが得られたと考えます。そこで以下では、これ迄に得られた見通しに基づいて、更に状態遷移パターンの異なり数に関するデータを用いたクラスタ分析・主成分分析を行った結果を報告します。

3.分析条件

 上記のような検討から、従来、和音の出現頻度に対して適用した統計分析を状態遷移パターンにも適用することとし、以下のようにレイアウトした分析を行うことにしました。

対象とするデータ:上記の検討において検討の対象としたデータには、状態遷移パターン抽出の対象である三和音以上の拍数に対する状態遷移パターンの異なり数の割合とともに、総拍数と三和音以上の拍数(=状態遷移パターン抽出の対象)の割合についての集計も含まれていましたが、これは意味的にはテクスチュアの厚みに関わる特徴量と捉えることができ、反復/多様性に関する特徴量である状態遷移パターンの異なり数とは意味的に異質の情報であると考えられます。そこで以下の分析においては、総拍数と三和音以上の拍数(=状態遷移パターン抽出の対象)の割合については分析対象から除外しました。状態遷移パターンについては深さ0(単独の和音に相当)~深さ5まで全てを用いました。

分析手法:従来和音の出現頻度の分析で用いたのと同じ、階層的クラスタ分析、非階層的クラスタ分析、主成分分析を行いました。階層的クラスタ分析としては、今回はcomplete法とward法の2種類、非階層クラスタ分析はk-means法を用い、Gap統計量に基づいてクラスタ数を指定しました。主成分分析に際しては、今回対象とする特徴量は全て同じ種類であり、かつ最大値1という点でも揃っていますが、状態遷移の深さが増すと増大する性質を持つため、標準化を行わないと深さの大きいパターンの寄与が大きくなってしまうことが予め予想されたため、標準化を行うモードで分析を行いました。

分析対象のデータ:上述の通り、前回の実験と同じ作曲家の同じ作品に加えて、古典期とバロックの作品の例としてシュターミッツとゼレンカの作品を加えた以下のデータセットについて集計・分析を行うことにしました。(括弧内は以下に示す分析結果におけるラベルを表します。)集計・分析は基本的には曲単位で行いました。

  • マーラー(mahler):第1~10交響曲、大地の歌(m1~10, erde)
  • ブラームス(brahms):第1,2,3,4交響曲(jb1,2,3,4)
  • ブルックナー(bruckner):第5,7,8,9交響曲,第9交響曲フィナーレ断片つき(ab5,7,8,9,9f)
  • フランク(franck):交響的変奏曲、交響曲 (cfsymvar,  cfsym)
  • ラヴェル(ravel):左手のための協奏曲、ピアノ協奏曲ト調、優雅で感傷的な円舞曲、ダフニスとクロエ第2組曲 (mr_leftpc, mr_pc, mr_vns, mr_dcl)
  • シベリウス(sibelius):第2,7交響曲、タピオラ (js2,7, jsTapiola)
  • タクタキシヴィリ(taktakishvili):ピアノ協奏曲第1番 (ot)  
  • ヤナーチェク(janacek):シンフォニエッタ (lj)
  • ドヴォルザーク(dvorak):第7,8,9交響曲 (dv7,8,9)
  • スメタナ(smetana):我が祖国 (bs)
  • カール・シュターミッツ(stamitz):クラリネット協奏曲第3番、第10番、2本のクラリネットと管弦楽のための協奏曲、フルート協奏曲ト長調作品29,、 ヴィオラ協奏曲ニ長調作品1 (st3cl, st10cl, stdpcl, stfscgd, stt_vacon)
  • ゼレンカ(zelenka):聖セシリアのミサ、 聖霊のミサ、信仰のミサ、慈善のミサ、ミゼレーレニ短調 (zwv1, 4, 6, 10, 56)


4.分析結果

(A)マーラーの交響曲間の比較

2つの階層クラスタ分析の結果は同一となり、大地の歌、第9,10交響曲の後期3作品とそれ以前の作品で大きく2つに分かれ、それ以前の作品は更に、ソナタ楽章の提示部反復を含む第1、第6交響曲がまず分かれ、残りが更に第2,3,8交響曲と第4,5,7交響曲に分かれる結果となりました。




次いで非階層クラスタ分析ですが、クラスタ数を決めるためのGap統計量は、何回かシミュレーションするとかなりの揺れを示しますが、概ね2,4あたりが常に小さい値となる傾向が見られたため、クラスタ数2の場合とクラスタ数4の場合の2パターンの分析を行いまいした。

クラスタ数=2の場合には、2種の階層クラスタ分析の結果と同様、(1)大地の歌、第9,10交響曲の後期3作品とそれ以前の作品である(2)第1~第8交響曲で大きく2つに分かれます。

      res
ans    1 2
symA 0 4 : 初期(第1~4交響曲)
symB 0 3:中期(第5~7交響曲)
symC 0 1:第8交響曲
symD 3 0:後期(大地の歌、第9,10交響曲)

m1   m2   m3   m4   m5   m6   m7   m8 erde   m9  m10 
   2      2      2      2      2      2     2     2      1      1      1 




クラスタ数=4の場合も2種の階層クラスタ分析の結果と同様の結果となっています。即ち、(1)大地の歌、第9,10交響曲の後期3作品のグループ、(2)第4,5,7交響曲のグループ、(3)第2,3,8交響曲のグループ、(4)第1,6交響曲のグループに分かれています。

        res
ans    1 2 3 4
symA 0 1 2 1 : 初期(第1~4交響曲)
symB 0 2 0 1:中期(第5~7交響曲)
symC 0 0 1 0:第8交響曲
symD 3 0 0 0:後期(大地の歌、第9,10交響曲)

  m1   m2   m3   m4   m5   m6   m7   m8 erde   m9  m10 
    4      3      3      2      2      4      2      3      1      1      1 


上掲のkmeans法によるクラスタ分析結果のclusplotによる表示は、主成分分析での第1主成分を横軸、第2主成分を縦軸としたものですが、主成分分析の結果を方を次に確認します。以下のprcompの結果は、第1主成分軸の正負が逆転しているため、clusplotの表示に対して左右が反転していますが、同様の結果が得られていることが確認できます。


                               PC1     PC2      PC3      PC4      PC5      PC6
Standard deviation       2.0935 1.1922 0.43063 0.09385 0.03863 0.01294
Proportion of Variance  0.7305 0.2369 0.03091 0.00147 0.00025 0.00003
Cumulative Proportion  0.7305 0.9674 0.99826 0.99972 0.99997 1.00000

 主成分分析のサマリーを確認すると、第3主成分までで累積が99.8%であり、それ以下の成分の寄与は実質的にほとんどないことから、以下では第1~3主成分までに絞って見ていくことにします。

 以下の横軸を第1主成分、縦軸を第2主成分としたggbiplotの表示では、時代区分毎に楕円で囲われるため、後期(大地の歌、第9,10交響曲)が比較的均質であるのに対し、初期と中期は第1交響曲、第6交響曲というソナタ提示部反復を持つ作品とその他の作品との距離が大きく、特に7割以上の割合を占める第1主成分側での違いが大きいために、それぞれの楕円は大きく横に広がる結果となっています。総体としては第1・第2主成分の組み合わせによって、中心より左上側に固まっている後期/右下側に広がっている初期・中期というように分類できそうで、この結果はクラスタ分析の結果とも一致しています。
以下は第2主成分を横軸、第3主成分を縦軸にした表示ですが、ここで興味深いのは、割合的には3%程度で限定されますが、第3主成分で初期と中期が中心の下側・上側に分かれる点が興味深く思われます。

上記を踏まえて、各主成分の得点と負荷を確認してみます。

まず得点ですが、第1主成分では大まかな傾向として、+方向の初期、ほぼ0に近い中期と-方向の後期という対照が見られるように思います。但し、第1、第6交響曲はソナタ提示部の反復などから点数が高くなっている点を考慮にいれるべきかと思われます。第2主成分については、第1、6と後期のグループ(+)と第2~5、第7、第8のグループ(-)とに分かれていることが確認できます。割合が小さいため得点の絶対値が小さくなってしまっていますが、第3主成分は、-方向の初期、+方向の中期に対し、後期は作品によってばらつくもののほぼ0に近いと捉えることができそうです。

一方負荷を見ると、第1主成分は、深さによらず状態遷移パターンの多様性が低いものの得点が高くなることがわかります。第2主成分は状態遷移パターンの深さ0から5に向けて負荷が+から-に変化しており、深さが浅いパターンの多様性が大きく、深さが深いパターンの多様性が小さければ得点が高くなることが読み取れます。つまり単純な和音単独の多様性や(前、後)という短い状態遷移パターンでより多様性が大きく、深さが増す(つまり状態遷移パターンの系列の長さが長くなる)に従って多様性が相対的には限定される傾向にあると点数が高くなるということで、多様性が局所的(浅い)なのか、大域的(深い)なのかに関わっているように思います。そしてこのパターンに当て嵌まるのが第1、6と後期のグループであり、第2~5、第7、第8のグループはこれに当て嵌まらない、言い換えれば和音のパターンや浅い部分の状態遷移パターンはそうでもないが、深くなると急激に多様性が増す傾向があることになります。それに対して第3主成分は同様にして、和音単独と深いパターンで多様性が低く、浅いパターンについて多様性が高いものの得点が高くなることが窺えます。

第1主成分得点



第2主成分得点


第3主成分得点

第1主成分負荷



第2主成分負荷



第3主成分負荷


(B)マーラーと他の作曲家の作品間の比較

 続けてマーラーの交響曲と他の作曲家の作品の比較結果を見ていきます。

 最初は階層クラスタ分析です。complete法の結果とward法の結果には細かいところでは差異がありますが、大きく、マーラーが含まれるグループとマーラーが含まれないグループに分かれている点、マーラーが含まれるグループには、フランク、シベリウス、ラヴェル(左手のための協奏曲除く)、タクタキシヴィリが含まれる点は共通しています。ドヴォルザークは第7交響曲のみマーラーが含まれるグループに含まれています。




非階層クラスタ分析のクラスタ数を決めるためのギャップ統計量の推計では、クラスタ数=4が比較的安定してギャップが小さいという結果が得られたため、クラスタ数=4でkmeans法によるクラスタリングを行いました。clusplotによるプロットを見ると明らかなように、後で見る主成分分析における第一主成分方向右から左に以下のように4つのグループが出来ています。第一主成分がどのような特徴を示しているかは、主成分分析の結果で確認することにします。

1:マーラー、フランク:交響的変奏曲、シベリウス第7、ラヴェル:ピアノ協奏曲、ダフニスとクロエ第2組曲
2:タクタキシヴィリ、ゼレンカzwv4,10,56、フランク:交響曲、ドヴォルザーク第7、マーラー第1、6、シベリウス:タピオラ、ラヴェル:高雅で感傷的な円舞曲
3:ブラームス、ブルックナー、スメタナ、ドヴォルザーク第8、ヤナーチェク、シュターミッツ:クラリネット協奏曲第3、フルート協奏曲、ヴィオラ協奏曲、ゼレンカzwv1,6、ラヴェル:左手のための協奏曲、シベリウス第2
4:シュターミッツ:クラリネット協奏曲第10、2本のクラリネットのための協奏曲、ドヴォルザーク第9

               res
ans               1 2 3 4
brahms          0 0 4 0
bruckner        0 0 5 0
dvorak           0 1 1 1
franck            1 1 0 0
janacek          0 0 1 0
mahler-early   2 1 0 0
mahler-late     4 0 0 0
mahler-middle 3 1 0 0
ravel              2 1 1 0
sibelius           1 1 1 0
smetana         0 0 1 0
stamitz           0 0 3 2
taktakishvili     0 1 0 0
zelenka           0 3 2 0

m1        m2        m3        m4        m5        m6        m7 
  2         1         1         1         1         2         1 
m8      erde        m9       m10       ab5       ab7       ab8 
  1         1         1         1         3         3         3 
ab9      ab9f       jb1       jb2       jb3       jb4     cfsym 
  3         3         3         3         3         3         2 
cfsymvar mr_leftpc     mr_pc    mr_vns    mr_dch       js2       js7 
  1         3         1         2         1         3         1 
jsTapiola        ot        lj       dv7       dv8       dv9        bs 
  2         2         3         2         3         4         3 
st3cl    st10cl    stdpcl   stfscgd stt_vacon      zwv1      zwv4 
  3         4         4         3         3         3         2 
zwv6     zwv10     zwv56 
  3         2         2 

主成分分析のサマリーを見ると、第1主成分で76%、第2主成分で20%、第3主成分で3%の割合を占め、この3つで99%以上の割合となっているので、この3成分に絞って調べていきます。以下のprcompの結果の第1主成分、第2主成分のbiplotによる表示、ggbiplotによる表示はいずれも横方向の第1主成分軸(左右)の方向について階層クラスタ分析と同じですが、第2主成分軸(上下)の方向については正負が逆転しています。ここではマーラーは中心から右上隅に集中しており、第1主成分、第2主成分の両方において明確な傾向があることが確認できます。


                               PC1     PC2      PC3      PC4      PC5      PC6
Standard deviation       2.1391 1.0858 0.46827 0.15237 0.05030 0.01415
Proportion of Variance  0.7626 0.1965 0.03655 0.00387 0.00042 0.00003
Cumulative Proportion  0.7626 0.9591 0.99568 0.99954 0.99997 1.00000

ggbiplotでは、緑色から青緑色の楕円がマーラーの作品を表しており、第1、第2主成分でのプロットでは第1象限(右上隅)に固まっていること、第2,第3主成分でのプロットでは第4象限(右下隅)に固まっている様子が窺えます。

そこで主成分得点、主成分負荷について確認すると、第1主成分負荷については、マーラー作品間の分析における第1主成分負荷と正負が逆転しているものの、ほぼ同様の傾向を示しており、特に状態遷移パターンが多様性に富んでいることを示しています。第1主成分得点について見ても、マーラーの作品の部分だけ見ると(正負は逆ですが)同じように後期作品になるとパターンの多様性が大きくなるという明確な傾向が見られます。ただし他の作曲家の作品との比較では、マーラーの作品全体が相対的に多様性が大きいため全てが正の得点を持ち、ブルックナー、ブラームス、シュターミッツ、ドヴォルザーク第8、第9、ヤナーチェクが負の得点を持つのと対照を示しています。

 第2主成分負荷について見ると、こちらもマーラー作品間の分析における第2主成分と似た傾向を持ち(ただし正負の向きは逆)、単独の和音のパターンを深さ=0の状態遷移パターンと見做すならば、状態遷移パターン多様性が、深さが深くなるにつれて増している場合に得点が高くなります。興味深いことに、第2主成分得点について見ると、第1主成分得点では同様の傾向を示していたマーラーとラヴェル、シベリウスの傾向がわかれ、マーラーは正の得点を持つのに対して、ラヴェルとシベリウスは大まかには負の得点を持っており、第1・第2主成分の組み合わせによって特徴づけることができそうです。即ち、

  • 全般に多様・深い程多様:マーラー(特に初期・中期)
  • 全般に多様・浅い方が多様:ラヴェル・シベリウス

という傾向が取り出せそうです。ただしマーラーについては、マーラーの作品間の分析でもその傾向が確認できたように、和音のパターンや状態遷移パターンの浅い部分が単純で、深くなると急激に多様性が増す初期・中期と、そうした傾向が強くは現れない後期の作品に明確に分かれていることも確認できます。シベリウスやラヴェルは、用いられている和音の種類は豊富で多様性に富みますが、状態遷移パターンが深くなる(より長い系列に注目する)とマーラーと比べた場合には、それほど多様性が増すわけではないことが確認できます。

 更に第3主成分について見ると、これも正負の逆転があるのでその点を考慮すると、細かい部分では差異があるもののマーラーの作品間の分析での第3主成分と大まかには似た傾向を示していることがわかります。つまり、単独の和音の多様性と状態遷移パターンの多様性を区別してみたときに、和音も多様で状態遷移パターンの深いところが多様な作品が正の得点を持ち、逆に和音の多様性よりも状態遷移パターンの浅いところの多様性が大きい作品は負の値と持つことになります。割合が3%と小さいため、得点の絶対値は小さなものですが、第3主成分方向に作曲家を分類すれば、大まかには以下のようになりそうです。

  • 和音も多様で状態遷移パターンの深いところが多様:シベリウス、ラヴェル、ゼレンカ、シュターミッツなど
  • 和音の多様性よりも状態遷移パターンの浅いところの多様性が大:マーラー、ブルックナー、ドヴォルザークなど

第1主成分得点



第2主成分得点



第3主成分得点

第1主成分負荷



第2主成分負荷



第3主成分負荷

5.まとめ

 本稿では、単独の和音や状態遷移パターンの多様性に注目して、マーラーの作品間の比較、マーラーと他の作曲家の作品との比較を行いました。その結果として、両方の分析に共通して、大まかに以下のような特徴が取り出せることがわかりました。(正負の向きは個別の分析では逆転する場合がありますが、ここでは個別の場合の向きは捨象して、以下に記載の方向に向きを統一して話を進めさせて頂きます。)
  • 第1主成分:全般的な多様性(+:多様/-:多様でない)
  • 第2主成分:状態遷移の深さと多様性の関係(+:深さに応じて多様性拡大/-:和音は多様だが、深くなっても多様性拡大せず)
  • 第3主成分:和音の多様性と状態遷移の多様性の関係(+:和音が多様で、深い状態性も多様/-:状態遷移の深さの浅い部分の多様性が大きい)
上記の3つの特徴について作曲家・作品についておおまかな傾向を整理すると、マーラーは他の作曲家との比較においては、全般的な多様性(+)、深さに応じて多様性拡大(+)、和声単独の多様性よりも状態遷移の深さの浅い部分の多様性が大きい(-)という特徴により他と区別できると言えそうです。一方で、マーラーの作品間の比較においては以下のように特徴づけられそうです。
  • 全般的な多様性:後期になると多様性が増大する傾向がある。
  • 状態遷移の深さと多様性の関係:第1、第6交響曲と後期作品は和音のパターンや浅い状態遷移パターンが多様であり、状態遷移パターンが深くなっても多様性が更に拡大することはないのに対して、その他の交響曲では深くなると多様性急激に拡大する傾向にある。ただし全般的な多様性との関係から、第1、第6では大規模な反復が存在するせいで深くなっても多様性が拡大しないのに対し、後期は既に和音のパターンや浅い状態遷移パターンで大きな多様性を示してしまっているために、深くなってもそれ以上多様性が拡大する余地がないのであって、第1、第6とは理由が異なる。
  • 和音の多様性と状態遷移の多様性の関係:初期は和音が多様で、深い状態性も多様なのに対し、中期は状態遷移の深さの浅い部分の多様性が相対的に大きい。
 全般として、マーラーの作品は状態遷移の多様性において際立っていますが、更に後期になればなるほど多様性が増大し、深い状態遷移パターンにおいては多様性が極限まで拡大していくという点がユニークな特徴であると言えるのではないかと思います。この点に関して思い浮かぶのは、本分析の背景のところで触れたことの繰り返しになりますが、大黒達也『音楽する脳』の「ベートーベンの挑戦」と題された節(p.123)において、「脳の統計学習の計算モデルを用いて、ベートーベンの『ピアノソナタ』全曲の不確実性(情報エントロピー)を解析した」(同頁)結果が示されていますが、そこでは後期に至って飛躍的にエントロピーが増大するという結果を以て、「昔から新しい不確実な音楽への挑戦に非常に意欲的だったといわれてい」(同頁)るベートーベンが、実際に「生涯、常井新しい音楽を求めて曲を作り続けて来たのかもしれない」(p.124)とされている点です。
 本稿では、多重マルコフ過程としてのエントロピーを計算することはせず、遥かに初歩的なパターンの異なり数集計結果の比較やクラスタ分析・主成分分析という素朴なやり方ではありますが、状態遷移パターンの多様性の比較を通して、マーラーもまた「発展的な」作曲家であったことの傍証となりうる結果が得られたのではないかと思います。
 個別の作品について見ると、ソナタ楽章における提示部反復が存在する第1交響曲、第6交響曲は、マーラーに先行する作品と共通する部分が大きく、「古典的」な傾向を持つのに対して、それ以外の作品は機械的な文字通りの反復を嫌い、有機体的な絶えざる発展を重んじたマーラー自身の意図通りに、その作品における状態遷移パターンは他の作曲家との比較においても極めて多様であること、更に全体として深さが深くなればなるほど(マルコフ過程としてみた場合には多重度が大きくなればなるほど)同一パターンが繰り返し使用される傾向が低くなる度合いが大きいという点において徹底している点が印象的です。しかも、その傾向が創作年代を追う毎に強くなり、マーラーの作品の中ではいわゆる「後期」作品の特徴、最近特に個人的に関心を抱いているマーラーにおける「老い」と関係した、ジンメル=アドルノの言うところの「後期様式」に関わる統計上の特徴が発見できたことは興味深く、正直に言えば、本稿で報告したような、状態遷移パターンの中身には立ち入らない、単なる多様性の分析のみで上述のような明確な結果が得られるとは予期しておらず、率直に言って驚きを感じました。アドルノは特にベートーヴェンとマーラーを対象として後期(晩年)様式について語り、大黒さんはベートーヴェンの後期ピアノソナタを対象にして、その「挑戦」を語りましたが、状態遷移パターンの多様性、エントロピーといった側面から、ベートーヴェンと同様にマーラーもまた「挑戦」を続けたことが示されたと言っていいのではないでしょうか?
 更に言えば、例えばマーラーの作品間、マーラーと他の作曲家の分析の両方において、主成分分析によって得られた上位3つの主成分が似た特徴を持っているという点は、単なる偶然である可能性も勿論否定できませんが、そのそれぞれが何等かの「意味」と関係している可能性も感じられ、更なる考察、分析を続ける価値があるように思っています。(2023.9.3公開, 9.4 主成分第2分析の第2主成分についてのマーラーの作品に関する記述を訂正するなど加筆。)

[付録]ダウンロード可能なアーカイブファイル和声状態遷移パターン数分析.zip の中には以下のファイルが含まれます。

(A)マーラーの交響曲間の比較(フォルダ名gm_sym)

(A1)入力データ
 gm_sym_cdnz.csv:分析対象の
 gm_sym_col.csv:対象作品の作曲家に対応した色(主成分得点グラフで使用)
 gm_sym_label.csv:対象作品の作曲家名ラベル

(A2)主成分分析結果
 eigen.jpeg:固有値のグラフ
 prcomp_T.jpeg:主成分分析(scale=T)結果のbiplotグラフ
 ggbiplot12.jpeg:主成分分析結果(第1,第2成分)のggbiplotグラフ
 ggbiplot23.jpeg:主成分分析結果(第2,第3成分)のggbiplotグラフ
 pr_score-[1-3]T.jpeg:主成分得点のbarplotグラフ
 prcomp_PC[1-3].jpeg:主成分負荷量のbarplotグラフ

(A3)階層クラスタ分析系:
 hclust_complete.jpeg:complete法での分類結果
 hclust_wardD2.jpeg:ward法での分類結果

(A4)非階層クラスタ分析系:
 clusGap.jpeg:ギャップ統計量のシミュレーション結果サンプル
 kmeans2.csv:kmeans法(クラスタ数=2)での分類結果
 kmeans2.jpeg:kmeans法(クラスタ数=2)での分類結果のclusplotグラフ
 kmeans3.csv:kmeans法(クラスタ数=3)での分類結果
 kmeans3.jpeg:kmeans法(クラスタ数=3)での分類結果のclusplotグラフ

(A5)分析履歴
 hist.txt:R言語を用いた分析履歴(Windows版R言語 ver.4.1.0をR studio上で実行)。
 主成分分析結果サマリを含む。

(B)マーラーと他の作曲家の作品の比較(フォルダ名gm+control)

(B1)入力データ
 gm_control_cdnz.csv:分析対象の和音形(maj, maj46, min, dom7, dom9, add6, penta, ganz, ganz-1, ganz-2) の分析対象作品毎の出現割合
 gm_control_col.csv:対象作品の作曲家に対応した色(主成分得点グラフで使用)
 gm_control_label.csv:対象作品の作曲家名ラベル

(B2)主成分分析結果
 eigen.jpeg:固有値のグラフ
 prcomp_T.jpeg:主成分分析(scale=T)結果のbiplotグラフ
 ggbiplot12.jpeg:主成分分析結果(第1,第2成分)のggbiplotグラフ
 ggbiplot23.jpeg:主成分分析結果(第2,第3成分)のggbiplotグラフ
 pr_score-[1-3]T.jpeg:主成分得点のbarplotグラフ
 prcomp_PC[1-3]T.jpeg:主成分負荷量のbarplotグラフ

(B3)階層クラスタ分析系:
 hclust_complete.jpeg:complete法での分類結果
 hclust_wardD2.jpeg:ward法での分類結果

(B4)非階層クラスタ分析系:
 clusGap.jpeg:ギャップ統計量のシミュレーション結果サンプル
 kmeans4.csv:kmeans法(クラスタ数=6)での分類結果
 kmeans4.jpeg:kmeans法(クラスタ数=6)での分類結果のclusplotグラフ

(B5)分析履歴
 hist.txt:R言語を用いた分析履歴(Windows版R言語 ver.4.1.0をR studio上で実行)。
 主成分分析結果サマリを含む。

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。


2023年8月27日日曜日

MIDIファイルを入力とした分析の準備(6):状態遷移の集計結果の公開(補遺その2)(2023.9.4更新)

    1.本稿の主旨

 MIDIファイルを入力とした状態遷移プロセスの分析に着手すべく実施した状態遷移の集計手法の検討の内容および、それに基づいたマーラーの交響曲のMIDIファイルを対象とした集計結果について、MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開およびMIDIファイルを入力とした分析の準備(4):集計結果の公開(続き)にて報告し、集計結果の公開を行ってきました。また補遺として、交響曲毎ではなく、全交響曲についての状態遷移の集計結果を記事 MIDIファイルを入力とした分析の準備(5):集計結果の公開(補遺) にて報告・公開しました。

 本稿では、状態や状態間の遷移の定義を改めて見直して、より基本的な情報として、五度圏上の位置や転回を区別しない音の組み合わせパターンとしての和音の遷移と、五度圏上の位置や転回を区別した(ただし密集・乖離の区別しない)和音のパターンの遷移の集計結果を公開します。以下、簡単にその背景を説明します。


   2.集計結果追加の背景

 上記の最初の記事でも述べたことですが、これまで公開してきた集計データでは、普通の状態遷移と異なって、例えばハ長調の主和音→ト長調の主和音という状態遷移と、ヘ長調の主和音→ハ長調の主和音という状態遷移が転調としては「同じ」遷移であるという捉え方をするために、単純に状態(ここでは和音)の系列として表現するのではなく、或る主和音から5度上の主和音に遷移、という「変分」を表現できるようなコーディングを採用してみました。従って、そこでの状態遷移パターンというのは、単純な状態(和音)の系列ではなく、寧ろ遷移の系列を表したものになっています。厳密な言い方をすれば、そこでのコーディングにおいては、どういう組み合わせで音が(ある時点で同時に)鳴っているかについての状態の系列となっており、その音の組み合わせが五度圏上のどの位置で鳴っているかについては、後の和音について前の和音との相対的な関係(変分)の系列となっています。例えば、状態の系列としては

(長三和音形・ハ調)→(長三和音形・ト調)

(長三和音形・へ調)→(長三和音形・ハ調)

であるものについて

(長三和音形)→五度上→(長三和音形)

という同一のパターンとして

(長三和音形・基準位置)→(長三和音形・五度上)

というように表現していることになり、状態の系列と変化(遷移)の系列が混在した表現になっています。遷移パターンの計算にあたり、転回を考慮する程度に応じて、以下の3種類の集計を行いましたが、そのいずれも上で述べた位置の移動(変分)は考慮しており、所謂「移置」を意識している点では共通しています。

  • 全ての和音について転回形を区別せず(=移置のみ)。(default)
  • 移置+長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
  • 移置+全ての和音について転回形を区別。(inv)
  •  その結果として、公開した集計結果のフォーマットは通常の状態遷移パターンと異なり、状態遷移パターンに含まれる状態は、計算の元となった系列に含まれる状態(ここでは和音) そのものではないという特徴を持ちます。つまり通常の状態遷移パターンに含まれる要素は、元となった系列の要素である状態そのものであり、(和音パターン・位置・転回)の並びとなるところ、上記のような変分を考慮したパターンでは、遷移パターンに含まれる各状態は、元の系列の各状態そのものではなくて、(最初の和音パターン・基本位置→次の和音パターン・前からの変分→次の和音パターン・前からの変分→…)というパターンになります。

     この記法で問題になるのは、遷移パターン中に出現する状態は、あくまでのそのパターンの内部での相対的な状態であり、元の系列の状態そのものではないため、普通状態遷移パターンの分析で用いられている色々なやり方がそのままでは使えないことだと思います。勿論、遷移パターン系列同士の比較はできるし、遷移パターン系列群の内部で共通する遷移を取り出して、確率を求めるといったことは可能です。とはいえ、公開したデータで通常、状態遷移パターンの分析で用いられる色々な方法を試みることができないのは集計結果の活用の仕方を制限してしまうことになります。問題は和音のパターンは状態の系列として表現されているのに、位置については変化の系列として表現され、それらが混在している点にあるので、論理的には全てを変化の系列として表現してしまうというアプローチもありうることになりますが、ある和音から別の和音への変化の「変分」を測るための「距離」をどのように定義するかは自明とは言い難く(和音の類似性のよう測度を考えることになり、これはこれで理論的には興味深い問題かも知れませんが、そのような定義がうまく定義できたとして、その「定義」が「意味」として自然なものになりうるかどうかを考えると容易なことではなさそうに感じられます)、こちらは現実的ではなさそうです。

     そこで一先ず、「変分」の共通性に拘った遷移パターンの集計結果のみを公開するのではなく、それらと比較対照ができるように、通常の状態の系列で表現可能な状態遷移パターンの集計結果を計算して公開することを思い当たったというのが背景になります。

     実は、通常状態遷移パターンを分析する際の処理を想定した時に、位置の移動(変分)の同型性を意識して状態の系列と変化(遷移)の系列が混在した表現と言う点はそのままの別の表記方法が思い浮かびました。

    (長三和音形)→五度上→(長三和音形)

    というパターンを

    (長三和音形(基準位置))→(長三和音形・五度上)

    と、前の状態を基準に、そこからの変分を次の出力値に埋め込んで表現するのではなく、

    (長三和音形・五度下)→(長三和音形(基準位置))

    というように、次の出力の側から見た時の変分を前の状態の一部として表現する方法が考えられます。こうすることで変分の情報は全て前の状態側に集められ、次の出力は単なる和音のパターンとなっており、取り扱いが容易になりそうです。またこうすることのメリットは、状態遷移をマルコフ過程として見た場合の単純マルコフ過程(大黒さんの著書を参照しつつ、ここで採用した言い方では、深さ=1に相当)よりも、多重マルコフ過程(深さ=2以上の相当)の場合により明らかに見えます。例えば二重マルコフ過程(深さ=2)の時、従来のパターンの表現では、

    (2つ前の和音(基準位置)→1つ前の和音・2つ前との変分)→(次の和音・1つ前との変分)

    となり、前の状態の側にも、次の和音の側にも変分が出現するだけでなく、前の状態の中で単なる和音と変分が埋め込まれた表現が混在することになります。実際には、系列の最初の2つ前の和音も更にもう一つ前の和音からの変分を持っている筈なのですが、その情報は含まれないことになります。これに対してここでの別案では、

    (2つ前の和音・1つ前との変分→1つ前の和音・次との変分)→(次の和音)

    となり、前の状態は変分つきの表現のみなのに対して次の状態は和音となるので形式的にもすっきりしているし、状態遷移確率として見た場合に「次に来る和音は何か?」についての不確実性の表現になっているように見えます。

     しかしながら上記の代替案に問題がない訳ではありません。なぜならば、単なる和音のパターンの継起としてではなく、位置の移動も考慮し、変分の共通性を意識した状態遷移パターンというデザインの主旨から考えた時、代替案には意味的な不自然さが生じてしまうからです。単純な例で示すために、再び単純マルコフ過程(深さ=1)を例にとります。

    (長三和音形・五度下)→(長三和音形)

    という表現が何を意味しているかと言えば、前の状態の和音のパターンは長三和音形であり、かつ位置に関して「次の和音の五度下」であると言っていて、これはつまり次の和音との関係の一部が先取りされてしまっていることになります。強いて言えば「前の和音が長三和音形で次が五度上に移動するとしたら、次の和音は何か?」ということになり、次の和音の相対位置が条件の側に含まれてしまっていることになります。この場合、「前の和音が長三和音形で次が三度上に移動するとしたら」というのは前の状態として別の状態として区別されることになります。勿論、そのような定義の状態遷移パターンとして、それに基づいた計算をすることは可能ですが、それは元の案とは異なった意味になり、意味に影響しない単なる形式的な変形ではありません。

     もう一度、元の案を確認してみましょう。

    (2つ前の和音→1つ前の和音・2つ前との変分)→(次の和音・1つ前との変分)

    もともと和音のパターンだけではなく、位置の移動の変分を考慮した状態遷移パターンであったので、寧ろ前の状態も次の値も、ともに和音のパターンと前との変分の組み合わせであるべきであり、従ってこちらの方が目的に適っていると見ることもできそうです。前の状態の最初の和音パターンからは、更に前との位置の変分は落ちてしまっていますが、基本的には「和音パターンと変分の組」によって状態が定義されていると考えるべきだということになります。

     そしてそう考えるのであれば本稿冒頭で提起した論点はそもそも問題ではなくなるわけですが、それでも単純マルコフ過程(深さ=1)での前の状態と次の間の非対称性は依然として残ってしまいます。それならばいっそのこと

    (1つ前の和音・2つ前との変分)→(次の和音・1つ前との変分)

    と、2つ前の和音との差分の情報を前の状態にも入れる方法も考えられます。それに対しては、例えばマルコフ情報源のエントロピーの計算にあたっては前の状態になりうる確率がわかれば良いのであって、それがわかれば(そして実際、集計結果に頻度は含まれるので)計算はできるので、非対称性は気にしなくても良いという考え方もあるかも知れません。一方で更にそれに対して、対称性が損なわれていることが問題になるケースが起こりうるかも知れないとして、従来の集計結果だけではなく、対称性があるような定義に基づいた集計結果をそれに加えて提示しておけばいいのではないかという意見もありそうです。

     それでは対称性があることを前提とした場合、どのような「状態」定義が考えられるでしょうか?これもまた様々な「状態」の定義の仕方が考えられるでしょうが、ここでは従来の定義からの延長として自然に思いつく以下の2つの定義を採用して、状態の系列の生成と遷移パターンの集計を行うことにしました。

    • 和音のパターン(例えば「長三和音形」)のみを状態とする(pcls)。
    • 和音のパターン・五度圏上での位置・転回の組み合わせ(例えばハ調の長三和音の第2転回形)を状態とする(trans_inv)。

    前者だと、機能和声上での同じ調領域での主和音・属和音の区別も転調も区別せず、密集・乖離のみならず、転回形の区別もない、単なるパターンの並びになります。それに対して後者では密集・乖離の区別はないものの、五度圏上の位置と転回については区別された状態の系列となりますが、その替わりにこれまで公開してきた集計結果で用いたコーディングでは可能であった、(長三和音形・ハ調)→(長三和音形・ト調)と(長三和音形・へ調)→(長三和音形・ハ調)の遷移としての同一性は扱えず、異なる状態遷移として扱われることになります。

     さらに上記2つの状態の定義を、これまで公開してきた集計結果で用いたられたものと比較してみます。従来の集計では、まず入力系列において、和音のパターン、五度圏上での位置の違いと転回形の区別を持った入力系列を生成し、状態遷移パターンの抽出において下記の3パターンのそれぞれの条件に従って集計を行ったのでした。

    • 全ての和音について転回形を区別せず(=移置のみ)。(default)
    • 移置+長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
    • 移置+全ての和音について転回形を区別。(inv)

     まず「和音のパターンのみを状態とする(pcls)」場合というのは、状態遷移パターン抽出にあたっての状態の定義上は上記の「全ての和音について転回形を区別しない(default)」場合比べたと同一ですが、遷移パターンの計算にあたって五度圏上の位置を区別するかどうか、つまり遷移上は「変分」を考慮するかどうかについて異なります。同様に違いは入力の系列の生成の方にもあって、従来は上記3つの集計方法を、和音のパターン、五度圏上での位置の違いと転回形の区別を持った入力系列に対して適用したのでした。そして入力の系列の生成にあたり、音がない(休符)場合や前の状態から変化がない場合は新たな状態とは看做さないという条件が適用される結果として、従来の「全ての和音について転回形を区別しない(default)」集計では、入力系列としては、位置の違い・転回形の区別によって前とは異なる状態として生成された状態が、遷移パターンの集計にあたっては同じパターンへの遷移、つまり変化なしとして扱われていたのですが、今回追加した「和音のパターンのみを状態とする(pcls)」条件での状態の系列の生成・遷移パターンの集計では、状態の系列の生成の際に同一パターンの連続と看做されれば、新たな状態とは看做されないことになるため、生成される系列の長さに違いが出ることになります。結果として出現する状態単独でのパターン(深さ0の遷移パターンに相当)の種類としては同一になりますが、生成された系列が異なり、かつ状態遷移パターンの計算にあたって、五度圏上の位置の移動(変分)を考慮するめ、状態遷移パターンは異なったものになります。

     一方で和音のパターン・五度圏上での位置・転回の組み合わせを状態とする(trans_inv)定義の方は、全ての和音について転回形を区別(inv)するのと、系列の生成についても、状態遷移パターンの集計についても見方は同じです。違いは状態遷移パターン上での区別の仕方にあって、従来のものは、位置の変化について変分が同じものは同一の遷移と見なしていたのに対して、今回追加の定義では、変分をパターンとするのではなく、あくまで前の状態と後の状態で位置が異なるものは、異なったパターンと看做されることになります。

     従って、系列の生成と遷移パターンの計算上の区別について、以下のような比較が成り立ちます。

    • 系列生成:pcls < default = tonic = inv = trans_inv
    • 遷移パターン計算:pcls < default < tonic < inv < trans_inv

    これは生成した状態の異なり数、和音毎・状態遷移パターンの異なり数の集計結果によって確認できます。公開ファイルのうち、(2)和音・状態遷移パターン種別がそれに該当します。

     (なお、こうして見るとpclsとdefaultの間にはギャップが存在するように見え、系列生成上はdefault以降と同じく位置・転回を区別しておいて、遷移パターン計算の際に位置・転回を無視して和音パターンのみで状態遷移パターンを作成するというやり方が考えられそうですが、これは状態遷移パターン上同一の和音パターンが連続しているパターンが生成されるが、実際にはそれは移置や転回を考慮すれば異なるパターンであるものが単に区別されていないためであるに過ぎず、そのような粗視化によって同一和音の連続がパターンに含まれることの意義が定かでないことから興味を惹くようなものではなく、トリヴィアルなものに感じられたため、(実際、計算は行って結果も得られているのですが)公開対象には含めないことにします。これについても今後、見方が変わって公開する意義があると判断したら追加で公開したいと思います。)

     上記の定義により、状態のコーディングに関しては以下のようにしました。

    • 和音のパターンのみを状態とする(pcls):和音のパターンを表す4桁の数値(定義は従来の集計では5桁目~8桁目と同じ)。従って10000倍すれば従来のコーディング体系と互換になります。当然、状態遷移パターンに含まれる各状態は、生成された系列の各状態そのものであり、普通の状態遷移系列としての取り扱いが可能です。
    • 和音のパターン・五度圏上での位置・転回の組み合わせを状態とする(trans_inv):こちらは従来のコーディングと同じです。8桁の数値で表現され、1,2桁目が転回を、3,4桁目が五度圏上の位置を、5~8桁目が和音のパターンを表します。詳細はMIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開を参照頂けますようお願いします。ただし、遷移パターンに含まれる各状態は、これまでの集計結果では生成された系列の各状態そのものではなくて、(最初の和音パターン・基本位置(下4桁0000固定)→次の和音パターン・前からの変分→…)であったのに対し、ここでは常に生成された系列の各状態そのものであり、(和音パターン・位置・転回)の系列になります。このことによって、変化の同一性が捉えられないという犠牲の見返りに、普通の状態遷移系列としての取り扱いを可能にしています。

       3.公開ファイルの内容

     以下、公開するファイルの説明を行います。従来とは異なり、今回は、以下の2パターンの和音(ピッチクラスの集合)の系列を入力として行いました。

    • 各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外(cdnz3)
    • 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外(cdnz3)

    つまりこれまでと異なって、単音・重音の拍を含めた集計は行っていません。これは理論的・技術的な理由によるものではなく、単に、今後の分析にあたり、まずは単音・重音の拍は対象外としたデータの分析を行う予定だからです。従来、出現頻度のみの集計・分析であれば、機能よりもテクスチュア、聴感を重視して、単音・重音も含めた集計を行ってきましたが、状態遷移のパターンについては、まずは機能和声で言うところのカデンツに相当する構造を抽出する方が、作品の特徴を捉える上で一層興味深く思われるため、まずは単音・重音の拍は対象外とした集計を行った次第です。(今後分析を進めていった結果、ここでの想定とは異なり、単音・重音の拍を含めた系列の分析がより興味深いということになるかも知れず、その場合には単音・重音の拍を含めた集計を行うことになるでしょう。)

     また、各拍頭(A)/各小節頭拍(B)の両方を集計しましたが、機能和声で言うところのカデンツに相当する構造を抽出するという観点から言えば、各拍頭(A)だと細かすぎて、楽曲分析上重要とは看做されない経過音のようなものを拾う可能性がある一方で、小節の途中でコード進行が起きるのはごく普通に起きることなので、各小節頭拍(B)だと今度は肌理が粗すぎるように思われます。(厳密に言えば、例えば緩徐楽章等ではしばしば拍と拍の間でコード進行が起こることを考えると各拍頭(A)でも粗すぎる場合があることになります。)要するにMIDIファイルを入力として単純に同時に鳴る音の並びを拾うだけでは、大黒達也さんが『音楽する脳』(朝日新書, 2022)で述べるところの音楽の「意味」としての「コード進行」(同書p.114参照)は取り出せず、その中から「意味」のあるパターンを抽出する操作によって「意味」としてのコード進行が抽出できるのであって、コード進行はデータに客観的な仕方で埋め込まれているのを読み出す仕方で取り出されるのではなく、能動的にモデルを持って推論しつつ、探して読み出していくものなのだと言うことだと思います。(突飛な連想かも知れませんが、物理的な音声データと「音素」の関係と構造的には共通しているように感じます。)

     いずれにしても、ここで行っているのは機能和声理論に基づく楽曲分析でも、「意味」としてのコード進行の読み取りでもなく、単に入力データに含まれるパターンを抽出したものに過ぎない点は確認しておきたく思います。


    (1)状態遷移パターン集計結果

    アーカイブファイル和音状態遷移パターン出現頻度(3)_全交響曲.zipには和声の状態遷移パターンの頻度を集計した以下の4ファイルが含まれます。

    各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外

    • sym_A_pcls3.xlsx:五度圏上の位置・転回形を区別せず
    • sym_A_trans_inv3.xlsx:五度圏上の位置・転回形を区別)

    各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外

    • sym_B_pcls3.xlsx:五度圏上の位置・転回形を区別せず
    • sym_B_trasn_inv3.xlsx:五度圏上の位置・転回形を区別

    各ファイル共通で以下の12シートからなり、シート毎に各集計対象ごとのデータが含まれます。このフォーマットはB列1行目に集計対象の和音の系列の長さ(=和音の総数)が追加された以外は、これまで公開してきた集計結果と同じです。

    • all:全交響曲
    • m1:第1交響曲
    • m2:第2交響曲
    • m3:第3交響曲
    • m4:第4交響曲
    • m5:第5交響曲
    • m6:第6交響曲
    • m7:第7交響曲
    • m8:第8交響曲
    • erde:「大地の歌」
    • m9:第9交響曲
    • m10:第10交響曲

    各シートのフォーマットも共通で、以下の通りです。

    • A,B列:深さ=0に相当する和音(A)と頻度(B)。A列1行目は和音の種別数。B列1行目は集計対象の和音の系列の長さ(=和音の総数)。
    • C~E列:深さ=1の状態遷移パターン(C~D)と頻度(E)。C列1行目はパターン数。
    • F~I列:深さ=2の状態遷移パターン(F~H)と頻度(I)。F列1行目はパターン数。
    • J~N列:深さ=3の状態遷移パターン(J~M)と頻度(N)。J列1行目はパターン数。
    • O~T列:深さ=4の状態遷移パターン(O~S)と頻度(T)。O列1行目はパターン数。
    • U~AA列:深さ=5の状態遷移パターン(U~Z)と頻度(E)。U列1行目はパターン数。




    (2)和音・状態遷移パターン種別

    アーカイブファイル 和音状態遷移パターン種別(2)_全交響曲.zip には和音毎・状態遷移パターンの異なり數(種別)を集計した以下のファイルが収められています。これは前の記事MIDIファイルを入力とした分析の準備(4):集計結果の公開(続き)での集計結果の更新版です。

    • sym_cdnz_summary2.xlsx

    以下、変更のあったシートについてのみフォーマットの説明をします。変更のないシートについては、前の公開時の記事MIDIファイルを入力とした分析の準備(4):集計結果の公開(続き)をご覧ください。

    ファイルは以下の4シートからなり、シート毎に以下の条件で集計した和音・状態遷移パターンの種別の集計結果が含まれますが、既述の通り、今回変更があったのは、★をつけた単音・重音の拍は対象外のシートです。

    • B_cdnz3:各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外(★)
    • B_cdnz:各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む
    • A_cdnzs3:各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外(★)
    • A_cdnz:各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む

    変更のあったシートのフォーマットは共通で、以下の通りです。追加された情報を★で示します。

    列方向:

    A列:集計対象の和音・状態遷移の種別

    • seq:対象拍数(Aなら拍数、Bなら小節数に概ね等しい)
    • pcls_cseq(★):対象状態数(単音・重音を含まない)・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別せず
    • pcls(★):和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別せず
    • default_cseq::対象状態数(単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別せず(移置のみ)
    • default:和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について転回形を区別せず(移置のみ)
    • tonic_cseq:対象状態数(単音・重音を含まない)・長短三和音のみ転回形を区別
    • tonic:和音種別/状態遷移パターン・長短三和音のみ転回形を区別
    • inv_cseq:対象状態数(単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
    • inv:和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について転回形を区別
    • trans_inv_cseq(★):対象状態数(単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
    • trans_inv(★):和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別

    B列:深さ(0~5)の区分

    • 0:和音種別
    • 1:状態遷移パターン・前→後
    • 2:状態遷移パターン・2つ前、1つ前→後
    • 3:状態遷移パターン・3つ前、2つ前、1つ前→後
    • 4:状態遷移パターン・4つ前、3つ前、2つ前、1つ前→後
    • 5:状態遷移パターン・5つ前、4つ前、3つ前、2つ前、1つ前→後

    C~M列:各交響曲の集計結果

    • C列(m1):第1交響曲
    • D列(m2):第2交響曲
    • E列(m3):第3交響曲
    • F列(m4):第4交響曲
    • G列(m5):第5交響曲
    • H列(m6):第6交響曲
    • I列(m7):第7交響曲
    • J列(m8):第8交響曲
    • K列(erde):「大地の歌」
    • L列(m9):第9交響曲
    • M列(m10):第10交響曲
    • N列(sum)(★):C~M列の単純合計
    • O列(all)(★):全交響曲での集計結果

    行方向:

    • 1行目:ヘッダー行
    • 2行目~23行目:和音・状態遷移の種別(A列)/深さ(B列)の条件毎・曲毎の集計結果
    • 2行目:seq/0:対象拍数(Aなら拍数、Bなら小節数に概ね等しい)
    • 4行目:pcls_cseq/0(★):対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別せず
    • 5~10行目:pcls/0~5(★):和音種別/状態遷移パターン(深さ0 ~5)・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別せず
    • 12行目:default_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別せず(移置のみ)
    • 13~18行目:default/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0 ~5)・全ての和音について転回形を区別せず(移置のみ)
    • 20行目:tonic_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・長短三和音のみ転回形を区別
    • 21~26行目:tonic/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・長短三和音のみ転回形を区別
    • 28行目:inv_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
    • 29~34行目:inv/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・全ての和音について転回形を区別
    • 36行目:trans_inv_cseq/0(★):対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別
    • 37~42行目:trans_inv/0~5(★):和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・全ての和音について五度圏上の位置・転回形を区別



    [ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2023.8.27公開, 9.4追記)

    2023年8月20日日曜日

    「私の一生は紙切れだった!」:アルマの『回想と手紙』にある病床でのマーラーの言葉

    アルマの『回想と手紙』にある病床でのマーラーの言葉(アルマ・マーラー『グスタフ・マーラー 回想と手紙』、1949年版原書pp.246-7, 1971年版原書(回想のみ)p.226, 白水社版邦訳(酒田健一訳)p.228)
    (...) "Wie Spinnen haben sie mich umstrickt! Sie haben mein Leben gestohlen! Man hat mich isoliert! Aus Eifersucht und Neid! Aber auch ich bin schuld. Warum habe ich es geschehen lassen? Ach, ich habe Papier gelebt!" und das sagte er immer wieder vor sich hin : "Ich habe Papier gelebt!"

    (…)「やつらは蜘蛛みたいに私をがんじがらめにした!やつらは私の人生を盗んだ!私を孤立させた!嫉妬と羨望からだ!だが私にも責任がある。なぜ私はそうなるまで放っといたのか?ああ、私の一生は紙切れだった!」彼はだれに聞かせるでもなく、何度もこの言葉をくり返した。「私の一生は紙切れだった!」

     これを病人の繰言と片付けるのは容易いことだし、一方でマーラーほどの立身出世をした人間の言葉とは思えないとして顔を顰めてみせることもできよう。 ごく控え目に言っても、これはあくまでマーラーの視点からの展望に過ぎず、他人から見ればまた異なった判断が為されるのだろう。 だが、仮にそれを認めてもマーラーの心の傷がなくなるわけではないし、恐らくは上記のマーラーの言葉には少なからぬ真実が含まれているのだろうと思う。

     こうした事柄はマーラーの遺した音楽を受け止めるにあたって取るに足らないことだろうか。他の作曲家への一般化はできないだろうし、安易な伝記主義も また問題だろうが、こうしたマーラーの反応は、その音楽の持つ表情と決して無縁ではないように思えてならない。例えばとりわけ第9交響曲に読み取れる 様々な情態の変転の中には、上記の言葉と響きあう調子が含まれているのではなかろうか。
     
     何と卑小な、芸術に相応しからぬ素材であることよ、と批判する向きもまた、あるだろう。そんな低次元の感情を音楽に持ち込むはしたなさを詰る人も いるに違いない。例えば「きわめて反抗的に」という指示を持つ音楽などに価値はない、というわけだ。 だがそういう人にとってはマーラーの音楽は無縁で価値のないものである、ということに過ぎない。そのような価値の体系が、マーラーの 音楽に意義を認める価値に比べて優れていると言い募る根拠となる尺度など、一体どこにあるのだろう。
     
     否、そんなことはどうでもいいのだ。私には「自分の人生は紙切れだった」と病床で語るマーラーの気持ちが、(私なりの矮小化されたかたちではあっても) とてもよく分かる気がする。若き楽長マーラーが直面した無理解と冷笑から始まって、こうした感じ方を抱く契機には事欠かなかった筈なのだ。 マーラーは決して狂信的な人間ではなく、自分がやったことを客観的に眺めることができたようだから、彼が時折或る種のシニシズムに陥ったとて、 それを責めることは私には到底できない。そして何よりも私にとってかけがえのないものに感じられるのは、それでいてマーラーが決して自分の価値観を 完全に相対化して解体してしまいはしなかったこと、自分の核にある「何か」を信じつづけたように思えることである。
     
     マーラーの場合、それは無意識的な原信憑ではなく、苦い批判と懐疑にさらされつつ守り続けたものなのだ。 私はそうした意識の働きに感動を覚え、共感する。遠い異郷の、過去の人だけれども、マーラーは出会って以来40年以上経ってなお、 自分にとってそれなしでは耐えて生きていくことのできない価値を共有する同伴者なのだし、その音楽はそうした価値の存在を身をもって 示しているように感じられる。恐らくその作品はマーラー自身にとっても、そうした価値を確認するための媒体であったのではないか。 そこに或る種の自家中毒の危険を嗅ぎ付けて批判する人の慧眼には敬服するけれど、私はそこまで怜悧であり続けることができない。 所詮はそうした循環の中を生きていくしかない。価値は天空のどこかから降ってくるわけではないのだから。
     
     クロップシュトックの賛歌に自ら詞を書き加えて以来、マーラーはある意味ではひたすら同じことを反復して確認し続けていたのだ という見方も成り立つだろう。そうした営為を愚かだと嘲笑したければすればいいのだ。私はそんなに聡明でもないし達観もできないから、 そうした強迫的な反復による確認の衝動の方がずっと自然に感じられる。「お前は無駄に苦しんだわけではないのだ。」という言葉は「私はこの世では幸せに恵まれなかった。」と言う言葉によって、打ち消されてしまうものなのか?マーラーは矛盾した態度を取り、かつての自分の答を否定してしまったのか?マイケル・ケネディの言う通り、「マーラーに演技者の要素があること、つまり確信からではなく、精神的な実験として態度を構えたことは確か」(マイケル・ケネディ『グスタフ・マーラー』, 中河原理訳, 芸術現代社, 1978, p.235)なのだろう。だが繰り返しになるが、それはマーラーが批判的な知性を有し、狂信的な人間ではなく、自分がやったことを客観的に眺めることができたこと、「一つの世界を構築すること」という自分の試みに対して意識的であったことの結果に過ぎない。一見してそう見えるような矛盾、対立などなく、その都度の絶え間ない懐疑と徹底した問い直しがあるばかりだ。「私の一生は紙切れだった!」も真実ならば、若きマーラーがゲーテの『ファウスト』第1部の地霊の科白に仮託して述べた「神の衣を織る」という信念、確認も真実なのだということは、1世紀後に極東の地方都市で生を享けた出会った平凡な子供にも、その後馬齢を重ねてマーラーその人の生きた年数を、年数だけは超えた後に自らも(彼我の間に横たわる余りに大きな差異にも関わらず同様に)「私の一生は紙切れだった」のではないかという後悔の念に囚われつつある初老の凡人にさえ、明らかなことに感じられる。何よりも彼が遺した「神の衣」に触れる都度、そうすること自体によってそれが事実であることを確認しているのだと感じられる。例えそのことをこのように証言することによってしか、その価値に与れないとしても。自らは「神の衣」を織ること能わずとも。

     第9交響曲の第4楽章の末尾には「何か」が残っている。 音楽は消え去るけれど、全くの無に帰するわけではない。何かが残っている。「紙くず」同然の生に勝り、それを耐え忍ばせ、剰えそうした生そのものに勝る何かが。 (2009.2.24公開, 2023.8.20タイトルを変更し、邦訳を追加して加筆。)

    2023年8月7日月曜日

    MIDIファイルを入力とした分析の準備(5):状態遷移の集計結果の公開(補遺)

       1.本稿の主旨

     MIDIファイルを入力とした状態遷移プロセスの分析に着手すべく実施した状態遷移の集計手法の検討の内容および、それに基づいたマーラーの交響曲のMIDIファイルを対象とした集計結果について、MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開およびMIDIファイルを入力とした分析の準備(4):集計結果の公開(続き)にて報告し、集計結果の公開を行ってきました。

     本稿では、前2回の内容をうけて、交響曲毎ではなく、全交響曲についての状態遷移の集計結果を報告します。単に交響曲単位であった前2回の集計結果をマージしただけではありますが、状態遷移のパターン数にして数万にもなり、それなりの規模のデータであること、交響曲全体での状態遷移パターンとその頻度(出現確率)があれば、個別の交響曲の特徴や、これまで和音の出現頻度を用いて行ってきたような、創作の時代区分に対応した傾向などといった分析を行うことができるなど、今後行っていく分析の基本データとして意義があるものと考えて、補遺として公開することとしました。

     (ここで本稿まで3回の記事で公開したデータを集計してみての素朴な感想を述べさせて頂くならば、和音の出現頻度の時と異なって、そもそもどれくらいの数の状態遷移パターンが出現しているのか、深さによってパターン数がどう変わっていくかなど、実際に集計してみるまで、定量的な側面について殆ど勘が働かない領域のデータ集計であり、分析以前に、集計結果に関するごく基礎的な特徴の把握自体、少なくとも私個人にとっては意味があるように感じられました。更に本稿で公開するデータは、マーラーの交響曲全体に関する、その音楽における和音の状態遷移パターンの出現頻度であり、大幅に単純化した上でとはいえ、まさしく「マーラー・オートマトン」の出力に他ならず、例えばこのデータに基づいた機械学習によって「マーラー・オートマトン」の主要な次元における軌道についてのシミュレータを作成できる可能性に繋がるといった具合に、様々な可能性を内蔵したデータであると思います。)

     分析の方針であるとか、条件であるとかについては、前2回の分析で述べたものと同一ですので、ここでは繰り返さず、上掲の前の記事を参照頂けるようお願いします。


       2.公開ファイルの内容

     以下、公開するファイルの説明を行います。従来通り、集計は以下の4パターンの和音(ピッチクラスの集合)の系列を入力として行いました。

    • 各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外(cdnz3)
    • 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外(cdnz3)
    • 各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む(cdnz)
    • 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む(cdnz)

     更に上記のそれぞれについて、まず入力系列においては、和音のパターン、五度圏上での位置の違いと転回形の区別を持った入力系列を生成し、状態遷移パターンの抽出において下記の3パターンのそれぞれについて集計を行ったものの集計を行いました(MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開で公開した集計結果に対応)…(1)
    • 全ての和音について転回形を区別せず。(default)
    • 長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
    • 全ての和音について転回形を区別。(inv)

     次いで上記の3つのパターンを入力系列を生成する際に生成する際の条件として、3種類の和音の系列を生成し、それぞれについて状態遷移パターンの集計を行いました(MIDIファイルを入力とした分析の準備(4):集計結果の公開(続き)で公開した結果に対応)…(2)

     本稿で公開するアーカイブファイルは以下の2つで、それぞれ4ファイルよりなります。

    (1)交響曲全体での和音遷移パターン出現頻度(1).zip

     和音のパターン、五度圏上での位置の違いと転回形の区別を持った入力系列に対する状態遷移パターン集計で転回形の区別に応じた3パターンでの集計を行った結果。

    • synall_A_inv_cdnz.xlsx:各拍頭/単音・重音の拍を含む。以下の4シートからなります。
      • sym_A_cdnz_inv_default:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_A_cdnz_inv_inv:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。
      • sym_A_cdnz_inv_tonic:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
      • sym_A_frq_inv:深さ0に相当する和音出現頻度
    • synall_A_inv_cdnz3.xlsx:単音・重音の拍は対象外。以下の4シートからなります。
      • sym_A_cdnz3_inv_default:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_A_cdnz3_inv_inv:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。
      • sym_A_cdnz3_inv_tonic:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
      • sym_A_frq3_inv:深さ0に相当する和音出現頻度
    • synall_B_inv_cdnz.xlsx:頭拍が単音・重音の小節を含む。以下の4シートからなります。
      • sym_B_cdnz_inv_default:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_B_cdnz_inv_inv:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。
      • sym_B_cdnz_inv_tonic:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
      • sym_B_frq_inv:深さ0に相当する和音出現頻度
    • synall_B_inv_cdnz3.xlsx:頭拍が単音・重音の小節は対象外。以下の4シートからなります。
      • sym_B_cdnz3_inv_default:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_B_cdnz3_inv_inv:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。
      • sym_B_cdnz3_inv_tonic:深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
      • sym_B_frq3_inv:深さ0に相当する和音出現頻度
    深さ1~5の状態遷移パターン出現頻度のシートのフォーマットは共通で、以下の通りです。
    • A,B列:未使用
    • C~E列:深さ=1の状態遷移パターン(C~D)と頻度(E)。C列1行目はパターン数。
    • F~I列:深さ=2の状態遷移パターン(F~H)と頻度(I)。F列1行目はパターン数。
    • J~N列:深さ=3の状態遷移パターン(J~M)と頻度(N)。J列1行目はパターン数。
    • O~T列:深さ=4の状態遷移パターン(O~S)と頻度(T)。O列1行目はパターン数。
    • U~AA列:深さ=5の状態遷移パターン(U~Z)と頻度(E)。U列1行目はパターン数。



    深さ0に相当する和音出現頻度のシートのフォーマットは共通で、以下の通りです。
    • A,B列:構成音(ピッチクラスの集合)、五度圏上の位置、バスの位置を区別した和音出現頻度。A列1行目はパターン数。
    • C.D列:構成音(ピッチクラスの集合)、バスの位置を区別した和音出現頻度。C列1行目はパターン数(invに対応)。
    • E,F列:構成音(ピッチクラスの集合)を区別し、長短三和音のみバスの位置を区別した和音出現頻度(tonicに対応)。E列1行目はパターン数。
    • G,H列:構成音(ピッチクラスの集合)のみを区別した和音出現頻度(defaultに対応)。G列1行目はパターン数。



    (2)交響曲全体での和音遷移パターン出現頻度(2).zip
      入力系列の生成で転回形の区別に応じた3パターンでの構成を行い、それぞれについて状態遷移パターンを集計した結果。
    • synall_A_cdnz.xlsx:各拍頭/単音・重音の拍を含む。以下の3シートを含みます。
      • sym_A_default_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_A_inv_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。synall_A_inv_cdnz.xlsxのsym_A_cdnz_inv_invシートと同一条件の集計結果です。
      • sym_A_tonic_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
    • synall_A_cdnz3.xlsx:単音・重音の拍は対象外。以下の3シートからなります。
      • sym_A_default_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_A_inv_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。synall_A_inv_cdnz3.xlsxのsym_A_cdnz3_inv_invシートと同一条件の集計結果です。
      • sym_A_tonic_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
    • synall_B_cdnz.xlsx:頭拍が単音・重音の小節を含む。以下の3シートからなります。
      • sym_A_default_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_A_inv_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。synall_B_inv_cdnz.xlsxのsym_B_cdnz_inv_invシートと同一条件の集計結果です。
      • sym_A_tonic_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
    • synall_B_cdnz3.xlsx:頭拍が単音・重音の小節は対象外。以下の3シートからなります。
      • sym_A_default_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別せず。
      • sym_A_inv_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。全ての和音について転回形を区別。synall_B_inv_cdnz3.xlsxのsym_B_cdnz3_inv_invシートと同一条件の集計結果です。
      • sym_A_tonic_cdnz:深さ0~5の和音・状態遷移パターン出現頻度。長短三和音のみ転回形を区別。
    各シートのフォーマットは共通で、以下の通りです。
    • A,B列:深さ=0に相当する和音(A)と頻度(B)。A列1行目は和音の種別数。
    • C~E列:深さ=1の状態遷移パターン(C~D)と頻度(E)。C列1行目はパターン数。
    • F~I列:深さ=2の状態遷移パターン(F~H)と頻度(I)。F列1行目はパターン数。
    • J~N列:深さ=3の状態遷移パターン(J~M)と頻度(N)。J列1行目はパターン数。
    • O~T列:深さ=4の状態遷移パターン(O~S)と頻度(T)。O列1行目はパターン数。
    • U~AA列:深さ=5の状態遷移パターン(U~Z)と頻度(E)。U列1行目はパターン数。





    [ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2023.8.7公開)


    2023年8月6日日曜日

    MIDIファイルを入力とした分析の準備(4):状態遷移の集計結果の公開(続き)

      1.本稿の主旨

     MIDIファイルを入力とした状態遷移プロセスの分析に着手すべく実施した状態遷移の集計手法の検討の内容および、それに基づいた集計結果について、前の記事「MIDIファイルを入力とした分析の準備(3):状態遷移の集計手法の検討と集計結果の公開」にて報告しました。

     そこでは分析の条件として、同一和音の連続および無音の拍(小節)は対象外とした上で、各小節の頭拍を対象とした場合、各拍を対象とした場合のそれぞれについて、単音・重音の拍(小節)を対象に含めた系列を入力とするかどうかに加え、状態遷移パターンの集計における転回形の区別の扱い関して以下の3パターンについて集計を行ったことを述べました。

    • 全ての和音について転回形を区別せず。(default)
    • 長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
    • 全ての和音について転回形を区別。(inv)

     従って、前回の報告では、マーラーの交響曲の各曲について、以下の4パターンを入力とし、

    • 各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外
    • 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外
    • 各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む
    • 各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む

    それぞれについて、転回形の区別に関する上記3パターンの都合12パターンの集計を行い、その結果を公開しました。

     ところで、前の記事をお読みになってお気づきになったと思いますが、転回形の区別に関する条件を、状態遷移パターンの集計のタイミングで適用するのでなく、入力となる系列を構成する際に適用することが考えられます。前回の考え方では入力の系列上は構成音(ピッチクラスの集合)、五度圏上の位置、バスの位置が区別されているものに対して、遷移パターンの計算にあたって、五度圏上の位置とバスの位置の相対関係で求めることができる転回の違いを区別して集計するかどうかを変えていたのに対し、入力系列を構成する際に、初めから構成音(ピッチクラスの集合)と五度圏上の位置の区別のみしかしないか、転回の違いを区別するかを変えて集計することも可能です。

     結果として、前回の集計においては、遷移パターンにおいて転回の違いを区別しない場合に、遷移パターンとして、同一パターンの連続が出現しうるのに対し、入力系列を構成する際に転回を区別しないのであれば、位置の異なる同一の構成音(ピッチクラスの集合)の連続は同一和音の連続を対象外とするルールに従って除外されるため、入力の系列そのものが異なった長さを持つ、異なった系列となる一方で、同一パターンの連続は入力系列構成の段階で除外されてしまうため、遷移パターンとしては出現しないことになります。

     なお入力系列を構成する際に転回の区別の条件を考慮した結果を前回公開した集計結果と比較した時、

    • 全ての和音について転回形を区別せず。(default)
    • 長短三和音のみ転回形を区別。(tonic)
    については、前回とは異なる入力系列に基づく遷移パターンの抽出となるため、異なる結果となりますが、
    • 全ての和音について転回形を区別。(inv)
    については前回と同じ入力系列となるため、遷移パターンも前回と同一の結果になります。

     以下、上記の考え方に基づく集計結果を公開します。


    2.公開した集計結果の説明

     以下、公開しているアーカイブファイルの内容について説明します。

    本記事に関連するアーカイブファイルは以下の3種類です。

    (1)対象データ

    アーカイブファイル和音状態遷移元データ_全交響曲(2).zipには状態遷移パターンの出現頻度集計の対象データを含む、以下の12ファイルが収められています。既述の通り、全ての和音について転回形を区別(inv)して構成した対象データ(以下で"*"でマーキングしています)は前回公開したものと同一の入力データですが、割愛せずに含めました。

    各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外

    • sym_A_default_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_A_tonic_seq3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_A_inv_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外

    • sym_B_default_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_B_tonic_seq3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_B_inv_seq3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む

    • sym_A_default_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_A_tonic_seq.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_A_inv_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む

    • sym_B_default_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_B_tonic_seq.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_B_inv_seq.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各ファイル共通で以下の12シートからなり、シート毎に各交響曲のデータが含まれます。

    • m1:第1交響曲
    • m2:第2交響曲
    • m3:第3交響曲
    • m4:第4交響曲
    • m5:第5交響曲
    • m6:第6交響曲
    • m7:第7交響曲
    • m8:第8交響曲
    • erde:「大地の歌」
    • m9:第9交響曲
    • m10:第10交響曲

    各シートのフォーマットも共通で、以下の通りです。

    • 各列:各楽章・部・曲毎の対象データ
    • 1行目:和音数(状態遷移の状態の数)
    • 2~9行目:未使用
    • 10行目以降:各状態における和音を上述の定義に基づき符号化したもの



    (2)状態遷移パターン集計結果

    アーカイブファイル和音状態遷移パターン出現頻度(2)_全交響曲.zipには和声の状態遷移パターンの頻度を集計した以下の12のファイルが含まれます。既述の通り、全ての和音について転回形を区別(inv)した結果(以下で"*"でマーキングしています)は、前回の集計結果と同一のものですが、割愛せずに含めました。

    各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外

    • sym_A_default_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_A_tonic_cdnz3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_A_inv_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外

    • sym_B_default_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_B_tonic_cdnz3.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_B_inv_cdnz3.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む

    • sym_A_default_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_A_tonic_cdnz.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_A_inv_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)

    各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む

    • sym_B_default_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別せず)
    • sym_B_tonic_cdnz.xlsx:集計結果(長短三和音のみ転回形を区別)
    • *sym_B_inv_cdnz.xlsx:集計結果(全ての和音について転回形を区別)
    各ファイル共通で以下の12シートからなり、シート毎に各交響曲のデータが含まれます。
    • m1:第1交響曲
    • m2:第2交響曲
    • m3:第3交響曲
    • m4:第4交響曲
    • m5:第5交響曲
    • m6:第6交響曲
    • m7:第7交響曲
    • m8:第8交響曲
    • erde:「大地の歌」
    • m9:第9交響曲
    • m10:第10交響曲
    各シートのフォーマットも共通で、以下の通りです。今回A,B列に含めた和声(ピッチクラスの集合)の頻度は、前回は別ファイル((3)和声出現頻度集計結果)として公開していたものに相当します。今回の集計では、入力の系列の生成時点で転回の区別の条件を適用してしまうため、和音(ピッチクラスの集合)の頻度の集計にあたって転回の条件を変えて集計することはそもそもできないので、状態遷移パターンとセットにしました。
    • A,B列:深さ=0に相当する和音(A)と頻度(B)。A列1行目は和音の種別数。
    • C~E列:深さ=1の状態遷移パターン(C~D)と頻度(E)。C列1行目はパターン数。
    • F~I列:深さ=2の状態遷移パターン(F~H)と頻度(I)。F列1行目はパターン数。
    • J~N列:深さ=3の状態遷移パターン(J~M)と頻度(N)。J列1行目はパターン数。
    • O~T列:深さ=4の状態遷移パターン(O~S)と頻度(T)。O列1行目はパターン数。
    • U~AA列:深さ=5の状態遷移パターン(U~Z)と頻度(E)。U列1行目はパターン数。




    (3)和音・状態遷移パターン種別

    アーカイブファイル和音状態遷移パターン種別(2)_全交響曲.zipには和音毎・状態遷移パターンの異なり數(種別)を集計した以下のファイルが収められています。
    • sym_cdnz_summary2.xlsx
    ファイルは以下の4シートからなり、シート毎に以下の条件で集計した和音・状態遷移パターンの種別の集計結果が含まれます。
    • B_cdnz3:各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節は対象外
    • B_cdnz:各小節頭拍(B)/頭拍が単音・重音の小節を含む
    • A_cdnzs3:各拍頭(A)/単音・重音の拍は対象外
    • A_cdnz:各拍頭(A)/単音・重音の拍を含む
    各シートのフォーマットは共通で、以下の通りです。

    列方向:
    • A列:集計対象の和音・状態遷移の種別
      • seq:対象拍数(Aなら拍数、Bなら小節数に概ね等しい)
      • inv_cseq:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
      • inv:和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について転回形を区別
      • tonic_cseq:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・長短三和音のみ転回形を区別
      • tonic:和音種別/状態遷移パターン・長短三和音のみ転回形を区別
      • default_cseq::対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別せず
      • default:和音種別/状態遷移パターン・全ての和音について転回形を区別せず
    • B列:深さ(0~5)の区分
      • 0:和音種別
      • 1:状態遷移パターン・前→後
      • 2:状態遷移パターン・2つ前、1つ前→後
      • 3:状態遷移パターン・3つ前、2つ前、1つ前→後
      • 4:状態遷移パターン・4つ前、3つ前、2つ前、1つ前→後
      • 5:状態遷移パターン・5つ前、4つ前、3つ前、2つ前、1つ前→後
    • C~M列:各交響曲の集計結果
      • C列(m1):第1交響曲
      • D列(m2):第2交響曲
      • E列(m3):第3交響曲
      • F列(m4):第4交響曲
      • G列(m5):第5交響曲
      • H列(m6):第6交響曲
      • I列(m7):第7交響曲
      • J列(m8):第8交響曲
      • K列(erde):「大地の歌」
      • L列(m9):第9交響曲
      • M列(m10):第10交響曲
    行方向:
    • 1行目:ヘッダー行
    • 2行目~23行目:和音・状態遷移の種別(A列)/深さ(B列)の条件毎・曲毎の集計結果
      • 2行目:seq/0:対象拍数(Aなら拍数、Bなら小節数に概ね等しい)
      • 3行目:default_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別せず
      • 4~9行目:default/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0 ~5)・全ての和音について転回形を区別せず
      • 10行目:inv_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・全ての和音について転回形を区別
      • 11~16行目:inv/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・全ての和音について転回形を区別
      • 17行目:tonic_cseq/0:対象状態数(cdnzなら単音・重音を含む、cdnz3なら単音・重音を含まない)・長短三和音のみ転回形を区別
      • 18~23行目:tonic/0~5:和音種別/状態遷移パターン(深さ0~5)・長短三和音のみ転回形を区別


    [ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。(2023.8.6公開)

    2023年7月31日月曜日

    私のマーラー受容:「嘆きの歌」(2023.7.31更新)

     「嘆きの歌」は聴く機会がずっとなかったし、あまり印象にも残っていなかった。 この曲の素晴らしさに気づいたのは最近(ここの部分の執筆当時で、改稿している2023年現在では近年とすべきだろうが)になってからで、恐らくナガノ・ハレ管弦楽団の初期稿全曲の CDを聴いたことが大きい。これは単に初稿の初めての録音だというにとどまらず、際立って優れた演奏だと思う。

     だがしかし、「嘆きの歌」の受容史一般からすれば、私の上記のような受容の経緯は、マーラー演奏の中心から隔たった極東の、更に地方都市に住んで、最新の情報に接することができなかったという情報格差の結果であるというべきなのだろう。今日ではよく知られていることだが、「嘆きの歌」は20歳になるかならないかの若きマーラーの野心作であり、マーラー自ら「作品1」と呼んでその上演に拘りを持ち続けたにも関わらず、その実現は、マーラーが功成り名遂げたウィーン宮廷歌劇場監督の時代になってからようやくであるのみならず、上演にあたっては第1部をカットして、初期稿では第2部、第3部にあたる部分のみとし、更に声楽や管弦楽の配置にも大幅に手を入れ、上演に纏わるさまざまな困難に関して大幅に軽減されるような改訂を加えた上での上演であり、程なくして出版され、永らく流布したのもこの改訂稿であった。それに対しオリジナルの形態は、まずカットされた第1部のみが1934年11月28日にブルノで放送初演(アルフレート・ロゼ指揮、チェコ語歌唱)されたが、その後は専ら改訂版での演奏が行われ、再び初期稿が陽の目を見るのは、生誕100年を経てマーラー・ルネサンスが到来して、主要な交響曲や歌曲が人口に膾炙するようになった後の1970年近くになってからのことであった。恐らくその先駆けとなったのが、イギリスで指揮活動を活発化させていたブーレーズであり、1969年に初稿第1部を、続けて1970年に改訂稿を用いて第2部・第3部を録音したレコードをリリースし、これがその後しばらく続いた、初稿第1部+改訂稿という折衷形態での上演が一般的になる契機となったものと想像される。なお、私がマーラーに出会った時期の私のリファレンスであったマイケル・ケネディの評伝の本文(邦訳p.138)および資料編(邦訳資料編p.6)では、初稿第1部のブルノでの放送初演に引き続き、初稿全曲(本文では「オリジナル版」)の演奏が翌年の1935年4月8日にウィーンで同じ指揮者により、やはり放送初演の形態で行われたとの記載があるが、その後のブーレーズの録音について、やはり「オリジナル版」と記述していることから、初稿第1部+改訂稿での全曲演奏を指して「オリジナル版=初稿全曲」としたもののように思われる。従ってこれは、初稿第1部+改訂稿という折衷形態での上演の嚆矢となるものだった一方で、編成もオーケストレーションも大きく異なる初稿第2部・第3部と併せた文字通りの初稿全曲の初演は、冒頭で言及したナガノとハレ管弦楽団のそれまで待たねばならなかった。ポスト・セリエルの前衛作曲家であったブーレーズが、指揮者としての活動を活発化させると、新ウィーン楽派やストラヴィンスキー、バルトークあるいはドビュッシーやラヴェルといったレパートリーのみならず、セリエリズムの原点であるベルクやシェーンベルクのオペラはともかくも、バイロイトでワグナーの楽劇を指揮するようになるとともに、マーラーについても再評価の文章を執筆したかと思えば、次々と交響曲を演奏していくことになるのだが、そのブーレーズのいわば「名刺代わり」となったのは「嘆きの歌」であったということができるのではなかろうか。

     のみならず日本でも、戦前のプリングスハイム、近衛秀麿、ローゼンシュトックといったパイオニアによるマーラー紹介からの中断を経て、1970年の大阪万博あたりを転機として、遅れてマーラー・ルネサンスが始まったのであるが、「嘆きの歌」はその最中の1970年に、まず改訂稿の日本初演が、その後も日本における「嘆きの歌」の受容を牽引する、秋山和慶指揮東京交響楽団のコンピにより実現しており、私がマーラーを聴くようになった1970年代の後半において未知の作品であったわけではない。山田一雄、渡邉暁雄、若杉弘といった、その後日本国内でのマーラー演奏を牽引する指揮者が次々とマーラーの交響曲をコンサートのプログラムに載せていくのもこの時期のことであり、地方都市に住み、特段音楽的でもなければ、そうした先端の情報に接する環境にあったわけでもない、平凡な子供であった私は、そうしたトレンドの先端を知ることなく、取り残されていたい過ぎないというのが客観的な展望の中での位置づけということになるだろう。

     だが客観的にどうであれ、私のマーラー受容において、最初に作品に接したのがいつで、どの演奏であったのかの記憶が曖昧な点に関して「嘆きの歌」は残念ながら唯一の例外的な作品であることは認めざるを得ない。ドナルド・ミッチェルの『さすらう若者の時代』の邦訳刊行は少し先のことになるから未読であったとはいえ、上掲のマイケル・ケネディの評伝では、作品篇第2章「歌曲と交響曲第一番」で、かなり詳細に「嘆きの歌」を取り上げられており、初期稿・改訂稿の問題から、演奏や出版の経緯といった事実関係もさることながら、作品自体についても要を得た説明がなされていて、最初期の歌曲「春に」との連関にまで言及されており、情報としては申し分ないものが手元にあった筈である。だが、そこでもきちんと触れられているブーレーズの演奏の録音に接したのは、遥かに後年、それがCD化されて以降であるのは確実である一方で、それでは当時、マーラーの音楽に接する最も手近な手段であったFM放送で接したことがあっただろうかと自問してみても、当時の番組表でも見ることができれば、或いはこれに違いないというのを思い出すかも知れないが、そもそも放送で接したという記憶がないのだ。とはいえ初期稿第1部+改訂稿の形態での演奏には確かに接していて、冒頭で触れたナガノ・ハレ管弦楽団による初期稿全曲の演奏が初めてでなかったのは(思い込みでなければ)間違いないと思うのだが…

     とはいうものの、マーラーの交響曲がコンサートのレパートリーとしてすっかり当たり前になった現時点においても、この作品は依然として稀曲の類と言って良く、実演に接する機会が限られているのもまた事実であろう。日本初演こそ1970年に行われたとはいえ(1970年9月16日、秋山和慶指揮・東京交響楽団、大川隆子、石光佐千子、砂川稔、東京アカデミー合唱団、改訂稿)、その後上演は途絶え、ようやく1980年代になって再演の機会に恵まれ、今後は初稿第1部と改訂稿による第2部、第3部という、この作品の上演史において永らく採用されてきた形態による演奏(1982年4月7日、小林研一郎指揮・東京交響楽団)が行われることになる。シノポリが残した「嘆きの歌」の録音は、フィルハーモニア管弦楽団とともに来日してのマーラー・チクルスの一環として取り上げた折のものだが、稀曲の日本初演を数多く手がけている若杉さんが同時期にサントリーホールで行っていたマーラー・ツィクルスでは「嘆きの歌」はついに取り上げられることがなかった。(ツィクルス完結の翌年(1992年11月19日)に落穂拾いのように東京都交響楽団と取り上げているが。)なお初稿版全3部の日本初演は1998年5月の秋山和慶指揮・東京交響楽団による演奏で、秋山さんはその後2013年3月24日にも東京交響楽団と初稿版を取り上げており、「嘆きの歌」のスペシャリストの面目躍如といった感がある。

     近年、交響曲の演奏についてはプロよりも寧ろ頻度が高いかも知れないアマチュアのオーケストラによる演奏も、「嘆きの歌」となるとその上演記録は極めて稀なものになってしまう。本ブログでも利用させて頂いているクラシックの演奏会情報サイト「i-amabile(アマービレ)」の記録によれば、何と2回だけ。改訂稿ですら、長田雅人指揮・東京アカデミッシェカペレの第32回演奏会(2006年11月19日)で取り上げられたのが唯一なのだが、何と初期稿全曲の演奏は既に行われていて、三澤洋史指揮・愛知祝祭管弦楽団 が「嘆きの歌」特別演奏会を2015年7月26日に愛知県芸術劇場コンサートホールで開催している。

     そうした事情もあって、交響曲ですらやっと全曲の演奏に接したというレベルの私のコンサートでの聴取の経験に「嘆きの歌」が含まれていないのは寧ろ当然というべきだろうが、願ってもないことに、マーラー祝祭オーケストラ(音楽監督・指揮:井上喜惟)が来る2023年12月24日の第22回定期演奏会で、ヤナーチェクのシンフォニエッタとともに「嘆きの歌」を取り上げるという情報に接した。初期稿第1部+改訂稿という形態の演奏のようだが、印象深いモラヴィア風の変拍子の旋律を含む「嘆きの歌」とヤナーチェクの組み合わせも興味深く(初稿第1部の初演が、ブルノで、しかもチェコ語で行われたこと、更に翌年のウィーンでの放送のための「全曲演奏」が初期稿第1部+改訂稿という形態で行われ、長らくこの形態で「嘆きの歌」が受容されてきたことを改めて思い起こすべきだろうか?)、是非ともこの貴重な機会に足を運ぼうと思っている次第である。(2023.7.31大幅加筆して再公開)

    2023年7月30日日曜日

    所蔵録音覚書:「嘆きの歌」(2023.12.28 更新)

    • 嘆きの歌(改訂稿), フェケテ, ウィーン交響楽団 / ウィーン室内合唱団 / シュタイングリューバー(Sp.) / ヴァグナー(MS.) / マイクート(Tn.), 1951, (18:06, 20:05), ウィーン, MONO, Mercury
    • 嘆きの歌(改訂稿), フリッツ・マーラー/ ペトラック(Tn) / ホズウェル(Sp) / チュークシアン(MS) / ハートフォード公共合唱団, ハートフォード交響楽団, 1959, (15:58, 17:43), ハートフォード、ブッシュネル・メモリアル・オーディオリウム, MONO, VANGUARD
    • 嘆きの歌(改訂稿), リヒター, ウィーン放送交響楽団 / オーストリア放送合唱団 /  ヤノヴィッツ(Sp.) / ドランクスラー(MS.) / パツァーク(Tn.), 1960, (16:38, 18:21), ウィーン, MONO, archipel
    • 嘆きの歌(改訂稿), モリス / レイノルズ(Tn) / ツィリス=ガラ(Sp) / カポシ(MS) / アンブロジアン・シンガーズ, ニュー・フィルハーモニア管弦楽団, 1967.4.1-2, (18:40, 20:02), ロンドン、ワトフォード・タウン・ホール, MONO, NIMBUS
    • 嘆きの歌(改訂稿), ブーレーズ, ロンドン交響楽団 / ロンドン交響合唱団 / リアー(Sp.) / バローズ(Tn.) / シュテット(Br), 1969.5.26/27, (19:37, 20:48), ロンドン、ウォルサムストウ・タウンホール, STEREO, CBS-Sony
    • 嘆きの歌(初稿第1部), ブーレーズ, ロンドン交響楽団 / ロンドン交響合唱団 / ゼーダーシュトレーム(Sp.) / ホフマン(MS.) / ヘフリガー(Tn.) / シュテット(Br), 1970.4.22, (30:08), ロンドン、ワトフォード・タウンホール, STEREO, CBS-Sony
    • 嘆きの歌(改訂稿), ブーレーズ, ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 / ウィーン国立歌劇場合唱団 / レッシュマン(Sp.) / ラーション(A.) / ボタ(Tn), 2011.7.31(Live), (5:35/5:40/5:31, 4:01/4:52/2:32/1:08/6:15), ザルツブルク、祝祭大劇場, STEREO, Deutsche Grammophon
    • 嘆きの歌(改訂稿), ヘルベルト・アーレンドルフ / イヴォ・ジーデク(Tn) / マルタ・ボハコヴァー(Sp) / ヴェラ・ソウクポヴァー(MS) / チェコ・フィルハーモニー合唱団、プラハ交響楽団, 1971.12.21-22, (16:55, 19:25), プラハ、ツォリーン・ホール, MONO, Supraphon
    • 嘆きの歌(改訂稿), ハイティンク / ヴェルナー・ホルヴェグ(Tn) / ヘザー・ハーパー(Sp) / ノーマン・プロクター(MS) / アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団, 1973.2.17-18, (18:40, 19:30), アムステルダム、コンセルトヘボウ, STEREO, Philips
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿)), ロジェストヴェンスキー, BBC交響楽団 / BBCシンガーズ、BBC交響合唱団 / カヒル(Sp.) / ベイカー(MS.) / ティアー(Tn.) / ハウエル(Bs.),  1981.7.20(Live), (28:15, 15:55, 18:37), ロンドン、アルバートホール(プロムス), STEREO, BBC radio classics
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿), ラトル, バーミンガム市交響楽団 / バーミンガム市交響合唱団 / デーゼ(Sp.) / ホジソン(MS.) / ティアー(Tn) / リー(Bs.), 1983.10.12-13/1984.6.24, (28:38, 17:38, 18:57), バーミンガム、タウン・ホール, STEREO, EMI
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿), ケーゲル, ライプチヒ放送交響楽団 / ライプチヒ放送合唱団, ハヨーショヴァー(Sp.) / ラング(A.) / コロンディ(Tn.) / クルト(Bs.), 1985.10.7 (Live), (26:56, 17:07, 18:20), ライプチヒ、ゲヴァントハウス, STEREO, querstand
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿), シャイー, ベルリン放送交響楽団 / デュッセルドルフ州立楽友協会合唱団 / ダン(Sp.) / ファスベンダー(MS.) / バウアー(Boy Alto) / ホルヴェグ(Tn) / シュミット(Bs.), 1989.3.28-30, (28:08, 17:38, 18:32), ベルリン、イエス・キリスト教会, STEREO, Decca
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿), シノーポリ, フィルハーモニア管弦楽団 / ステューダー(Sp.) / マイヤー(A.) / ゴールドベルク(Tn.) / アレン(Bs.) / 晋友会合唱団, 1990.11(Live), (27:38, 17:43, 19:32), 東京、東京藝術劇場大ホール, STEREO, Deutsche Grammophon
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿), ヒコックス, ボーンマス交響楽団 / バス祝祭合唱団、ウェインフリート合唱団 / ロジャース(Sp.) / フィンニー(A.) / ブロホヴィッツ(Tn.) / ヘイワード(Bs.), 1993.7.24-25(Live), (30:31, 18:11, 20:04), プール、ウェセックスホール, STEREO, chandos
    • 嘆きの歌(初稿第1部+改訂稿), マリーナ・シャグチ(Sp.)/ ミシェル・デ・ヤング(MS.)/ トーマス・モーザー(Tn.), セルゲイ・レイフェルクス(Br.)/ サンフランシスコ交響合唱団 / ティルソン=トーマス, サンフランシスコ交響楽団, 1996.5.29-31&6.2(Live), (30:25, 16:55, 19:39), サンフランシスコ、デイヴィス・シンフォニー・ホール, STEREO, SFSMEDIA
    • 嘆きの歌(初稿全曲), ナガノ, ハレ管弦楽団 / ハレ合唱団ウルバノヴァ(Sp.) / ラッペ(A.) / ブロコヴィッツ(Tn.) / ハーゲゴート(Bs.) / ウェイ(Boy Sp.) / ヤウス(Boy A.), 1997.10.8/12, (27:19, 16:42, 18:25), マンチェスター、ブリッジウォーター・ホール, STEREO, Erato
    「嘆きの歌」には少なくとも2つの版が存在する。1880年の3部からなる初稿とその20年後にマーラー自身の指揮で初演され、出版された2部よりなる改訂稿である。改訂稿では初稿の第1部が削除され、各部のタイトルも削除された。しかし、初稿第1部の存在はかなり前から知られており、録音においても実演においても初稿第1部に改訂稿を付け加えた折衷による演奏が永らく一般的だった。全曲通しての1880年版の演奏は、ナガノ指揮ハレ管弦楽団によって1997年に行われ、マーラー協会もラッツ時代の最終稿=決定稿主義から方針を変えて、補巻として1880年稿が出版されることになった。ナガノとハレ管弦楽団の演奏は1880年稿の全曲初演に際して収録されたものである。マーラーの交響的作品の中では圧倒的に録音記録の数が少ない作品であり、編成の大きさも相俟って、他の交響曲がすっかりコンサートのレパートリーに定着した今日でも上演の機会は少ないようで、それには同じ大編成の作品であっても、第2交響曲や第8交響曲のような、或る種の祝祭性のようなものを欠いている一方で、物語的な性格があって歌詞の理解が求められることに加え、内容が悲劇的であることも、そうした演奏頻度の少なさに与っているかも知れない。

     その一方で、マーラーの交響曲全集を完成させるような、所謂「マーラー指揮者」と呼ばれる人でも、「嘆きの歌」をレパートリーとし、録音記録があるのはごく一部に限られるように見える点も留意すべきかも知れない。まずマーラーに直接接したワルター、クレンペラーに「嘆きの歌」の録音記録はないが、その後マーラー・ルネサンスと呼ばれた時期に次々とLPレコードによるマーラー全集を録音していった指揮者の中でも、バーンスタイン、ショルティ、クーベリックは「嘆きの歌」をレパートリーとしていないようで、唯一ハイティンクのみが録音を遺している。後続の世代であるアバド、テンシュテット、インバル、ベルティーニといったマーラー指揮者も「嘆きの歌」は取り上げておらず、ブーレーズが指揮活動に力を入れ始めた頃に、初期稿第1部を録音して(それは1973年の初稿第1部の楽譜の出版にすら先立っている)、初期稿第1部と改訂稿を組合せて演奏する形態の先駆けとなって以来、明らかに重点をおいて取り上げている(後年グラモフォンで「大地の歌」を含む交響曲全集を録音した際には、今度は改訂稿のみを取り上げて録音している)他は、ティルソン=トーマス、シャイー、ラトル、シノポリが「嘆きの歌」をレパートリーとしていることが確認できるくらいだろうか。ちなみにシノポリの演奏は、フィルハーモニア管弦楽団とともに来日してのマーラー・チクルスの一環として取り上げられたものだが、稀曲の日本初演を数多く手がけた若杉は、サントリーホールでのマーラー・ツィクルスでは「嘆きの歌」を取り上げることはなく、ツィクルス完結の翌年に落穂拾いのように東京都交響楽団と取り上げている(1992年11月19日)。

    (ギーレンについて、当初私は「嘆きの歌」をレパートリーとしていない、というように書いていたが、その後、1990年6月8日にウィーンのコンツェルトハウスでウィーン放送交響楽団を指揮した公演があることを知った。これもまた、初期稿第1部と改訂稿の組合せの形態での上演であったようだ。私は未入手で、接することができていないが、2020年にはこの公演の演奏記録がCDとして出ているので、その記録に接することもできるようになっているようである。お詫びとともに訂正させていただく。)

     ちなみに「嘆きの歌」の日本初演は1970年9月16日、秋山和慶指揮東京交響楽団、大川隆子、石光佐千子、砂川稔、東京アカデミー合唱団による改訂稿によるものだが、その後上演は途絶え、ようやく1980年代になって再演の機会に恵まれ、今後は初稿第1部と改訂稿による第2部、第3部という、この作品の上演史において永らく採用されてきた形態による演奏(1982年4月7日、小林研一郎指揮東京交響楽団)が行われることになる。初稿版全3部の日本初演は1998年5月の秋山和慶指揮東京交響楽団による演奏で、秋山はその後2013年3月24日にも東京交響楽団と初稿版を取り上げているから、秋山=東京交響楽団のコンビは日本における「嘆きの歌」のスペシャリストと言ってよいように思われる。(2021.5.11追記, 2023.7.30追記, 2023.12.18ギーレンの演奏について訂正の追記)