2023年12月30日土曜日

マーラー祝祭オーケストラ第22回定期演奏会を聴いて(2023年12月24日 ミューザ川崎シンフォニーホール)

マーラー祝祭オーケストラ第22回定期演奏会
2023年12月24日 ミューザ川崎シンフォニーホール

ヤナーチェク シンフォニエッタ

マーラー カンタータ「嘆きの歌」(第1部:初期稿、第2部,第3部:最終稿)

井上喜惟(指揮)
日野祐希(ソプラノ)
蔵野蘭子(アルト)
西山詩苑(テノール)
原田光(バリトン)
東京オラトリオ研究会(合唱指揮:郡司博)
マーラー祝祭オーケストラ(ゲストコンサートマスター:岩切雅彦)

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この公演は私個人にとって特別な意味を持っていました。今回の公演のプログラムには、マーラーの作品の中でも滅多に上演されることのないカンタータ「嘆きの歌」が含まれており、私はその企図に賛同するとともに、その意義について公演プログラムへの寄稿文に自分の思うところを書かせて頂きましたので、公演を見届けることが自分にとって或る種の義務の如きものに感じられていたというのがまず最初にあります。それ故、これまでも基本的にはそうであったとはいえ、とりわけても今回は、中立的、客観的な立場で公演に接することはできませんでした。第三者的には大げさで滑稽ですらあるように映るかも知れなくとも(それは仕方ないこととして受容する他ありません)、演奏会場を訪れること自体が自分のコミットメントの確認であり、公演の最中に会場で私が経験したことの意味は、そうした文脈に強く条件づけられつつ構成されるものでしかありえません。自分の思いを述べた寄稿文は公演後、別途本ブログにて公開しています(「歌う骨」が私に語ること―「嘆きの歌」上演によせて―(2023.12.24 マーラー祝祭オーケストラ第22回定期演奏会によせて))ので、その中で述べたことを繰り返すことはせず、以下では基本的に公演会場を訪れて感じたことのみについて記録しておきたいと思います。

とはいうものの今回の公演が2020年の新型コロナウィルス感染症の流行以降、初めてコンサートホールに足を運ぶ機会であったことについてはやはり触れておくべきかと思います。既に今年(2023年)のゴールデンウィークを境に(正確には5月8日以降)、新型コロナウィルス感染症の感染症法(正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)上の分類は5類に変更され、コンサートの開催についても既に制限がなくなって久しいとはいえ、そのことは新型コロナウィルス感染症の流行が収束したことを意味せず、実際その後も職場や教育の現場では少なからぬ、否、時として感染対策に万全を期していた時期と比べて寧ろ多くの感染が確認されましたし、少なくとも私が知る限り、医療や介護の現場では分類変更以前と変わらない対応を継続したところも少なくありませんでした。そのうちにインフルエンザ等の新型コロナウィルス感染症以外の感染症が流行の中心となり、結果として今回の公演は様々な感染症の流行に対する警戒が続く中での開催となりました。そうした状況を踏まえるならば、これまでであれば慎重を期して訪問を控えることを検討するところで、実際過去には、新型コロナウィルス感染症の流行によって幾度か公演が延期された後、ようやく流行の合間での公演が実現した2021年5月8日の第18回定期演奏会における第3交響曲の演奏だけではなく、既にポスト・コロナ禍の状況下での、いわば再出発の公演となった2022年9月11日の第20回定期演奏会での第2交響曲の演奏についても再び、直前まで訪問を予定していながら、間際になって避け難い事情により演奏会場に赴くことを断念せざるを得なくなったりということもありました。これら両公演についても企画に賛同し、公演プログラムに寄稿させて頂いた点は同じで、公演に立ち会うことを或る種の義務の如きものと感じていた点も変わらず、それ故に已む無く欠席せざるを得なかったことは少なからぬショックでした。幸いにして、避けがたい用件に割り込まれ、またしても公演に立ち会うことができなくなるのではという懸念は今回について杞憂に終わり、結果として、もしかしたら今後二度と経験することができないかも知れない「嘆きの歌」の実演という稀有な機会に立ち会うことができたことの幸運を噛みしめています。寄稿文の末尾で記したように「マーラー自身の行為を、場所を変え、時を変えて記憶し、反復し、継承することによってマーラーその人に応答すること」が、このように実現されたのを目の当たりにして深く感動するとともに、演奏したことのない作品、一般に演奏頻度の低い作品を取り上げられることに伴う苦労は、いわゆる定番の作品を演奏する場合と比較にならず、様々な困難を伴うことを思えば、公演に接した感想を記すにあたってまず最初に、この日の公演での達成に対して、公演に携わった全ての方に対して敬意を表したく思います。

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今回の定期公演のプログラムはヤナーチェクのシンフォニエッタとマーラーの「嘆きの歌」で構成されています。既によく知られているように「嘆きの歌」にはマーラーが20歳の時に完成した3部からなる初期稿と、それから20年以上の歳月を経てマーラー自身が初演を行った際の形態で、初演に先立って出版もされた改訂稿があり、大まかには改訂稿が初期稿の第1部をカットして第2部・第3部を残したという関係にあることから、20世紀も終わり近くになって初期稿の全貌が明らかになるまでは初期稿の第1部と改訂稿を組み合わせる形態での演奏が普通でした。現時点では1880年版もマーラー協会全集の補巻として出版されていることから、上演する形態の選択がまず問題になるところですが、今回の公演で最終的に採用された形態は初期稿の第1部と改訂稿を組み合わせたものでした。

一方ヤナーチェクとマーラーの組み合わせについて言えば、一般的にマーラーはオーストリアの交響曲創作の伝統の中に位置づけられるが故に等閑視されがちではありますが、生誕の地はボヘミアであり、生後間もなく移住した街はドイツ語の「言語島」である一方でボヘミアとモラヴィアの境にあったことから、少年期のマーラーはモラヴィアの民謡を日常的に耳にしていたであろうことを思い起こすならば、そうした作品が生まれる土壌の如きものに関して自然なものに感じられます。実際マーラーの音楽の特徴の一つとして、拍節が自在で所謂変拍子が頻出することが挙げられるのではないかと思いますが、それはボヘミア系の音楽よりも寧ろモラヴィア系の音楽の特徴に通じるものと考えられますし、実際「嘆きの歌」にもモラヴィア風のメリスマを伴った変拍子の旋律が要所で登場し、その抑揚は聴き手に鮮烈な印象を与えずには置きません。

更にそうした音楽の基層にあたる部分での繋がりに関連して言えば、指揮者・音楽監督の井上喜惟さんの正式デビューがモラヴィアの中心都市であるブルノでの1992年のチェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会だったことも思い起こされます。以前、第10交響曲のクック版の演奏に接した際に、特に第2楽章に現れる変拍子の扱いが非常に自然なものに感じられたことを記したことがありますし、マーラーを離れれば、アルメニアのオーケストラとの共同作業に長きに亘って取り組まれていることも思い浮かびますが、今回の演奏においても、そうした拍節の自在さが、ヤナーチェクとマーラーの両方に共通して、何よりもまず身体的な感覚のような水準で自然に達成されているように私には感じられたことを述べておきたいと思います。(勿論、シンフォニエッタも「嘆きの歌」も編成上、バンダが用いられ、それぞれ重要や役割を果たすという共通点があることで、プログラム構成上合理性があるという現場の事情も当然考慮されている訳ですが。)

ちなみに1934年に「嘆きの歌」の初稿第1部の初演が行われたのがまさにブルノであり、しかもそれはチェコ語で行われたこと、更にその初演の翌年のウィーンでの放送のための「全曲演奏」が今回同様の初期稿第1部+改訂稿という形態で行われたことも指摘しておくに値することかも知れません。勿論、今回の稿態の選択にあたっては、とりわけこの極東の地での演奏の伝統がほとんどない作品を取り上げることに伴う様々な技術的な困難をクリアするといった側面が第一義的であったかも知れませんが、理由はどうであれ、結果的にそうしたこの作品の持つ来歴に今回の公演が関連づけられることは興味深く、既に述べたように、実際の演奏において、ヤナーチェクにしてもマーラーにしても、その自在な拍節感が、エッジの効いたスリリングでアクロバティックな名人芸の如きものとしてではなく、ごく自然な間合いと抑揚をもってリアライズされたことは決して偶然ではないと思われます。とはいうものの、私はヤナーチェクの作品については、その演奏について語ることができる程には知識も経験もないため、シンフォニエッタの演奏に関してはその資格をお持ちの方々に委ねることとして、以下では専ら「嘆きの歌」の演奏に限定して述べさせて頂きます。

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録音によってでさえ「嘆きの歌」を聴いて驚かされるのは、若書きのナイーブさの応酬としての表現のストレートさとその雰囲気の濃密さですが、演奏が始まって直ちに「森のメルヒェン」に相応しく、まずホルンが呼び交わし、弦のトレモロが高潮するとともにハープが煌めくと、会場があっという間に物語の世界の神秘的な森の中に変貌してしまうとともに、今から繰り広げられる物語が恐怖と戦慄にいろどられた悲劇であることが直ちに明らかになります。オーケストラの響きはいつものマーラー祝祭オーケストラの中身の詰まったしっかりとした手応えのある響きで、その響きに数年の空白を経て接してなお、記憶していたものが思い起こされるような思いがします。その一方で、今回の演奏は全体として、いつもの「既に手の内に入った」他の有名なマーラーの交響曲作品の場合とは稍々異なって、じっくりと音の立ち上がりを確かめるようなゆったりとした経過よりも寧ろ推進力に勝った、それだけに一層切迫して緊張感の高い演奏で、特に他の作品にも増して直接的な効果を備えた頂点の盛り上がりでは、常になく会場の聴き手を興奮させ、圧倒する力に満ちたものであったように思います。

勿論、演奏に傷があったことは否定できませんし、特に木管楽器にはっきりとわかる事故があって聴いている私もひやっとした瞬間があったことは事実で、結果として奏者にとって、もう一度演奏することができればというような心残りの部分があったとすれば、それは残念なことではありますが、マーラーの管弦楽作品の中で最も上演機会に恵まれないこの作品を取り上げ、並外れた集中力をもって強い緊張感を備えた演奏が行われ、聴き手を圧倒したことの価値は測り知れず、実現された音楽の持つ比類のない充実感からすれば、多少の傷は大きな問題ではないと感じられました。また特に今回の形態では第3部で重要な役割を果たすオフステージのバンダ(今回の上演では舞台裏の楽屋で演奏され、楽屋に通じる扉の開閉を調節してホールに聴こえてくるようにリアライズされました)も素晴らしく、意図された通りのものであったと感じました。

上演に会場で接して特に強く感じたのは、オーケストラは勿論なのですが、マーラーの他の声楽を伴う作品にも増して、「嘆きの歌」は合唱、独唱の声楽パートが重要であるということで、独唱、合唱のいずれも素晴らしく、感動的な歌唱であったと思います。特に合唱の効果は素晴らしく、合唱が歌い始めた瞬間に忽ちのうちに緊張感が高まって聴き手を物語の世界に引きずり込む場面に事欠かず、一再ならず感極まるものがあり、その印象は、名手を地頭とする能の地謡を思わせるものがあったように感じます。独唱も皆さん好調で、集中力に富んだ雄弁な歌唱であったと思いますが、特に個別に印象深かったところとなると、どうしても作品の核心の部分を担うアルトの深い感情に満ちた声がまず印象に残ります。特に「歌う骨」の声を代理する、変拍子で歌われる箇所には鬼気迫るものさえ感じました。ソプラノは何といっても特に第3部の最後のクライマックスの殺された弟の告発の語りの部分、マーラーにおいて「嘆き」の形象そのものであるメリスマの節回しが深く印象に残っています。一方でいわば物語の地の語りの役割を果たすことの多いテノールは、能楽でのワキの位置づけに相当すると感じられたのですが、まさにワキの名手の謡が場の雰囲気を見事に設定するのを目の当たりにするような印象を受けました。バリトンは第1部だけの登場で、これまた能楽ではワキツレのような役割を担いますが、テノールとの重唱も素晴らしく第1部の濃密な雰囲気を醸成していたと感じました。

能楽を引き合いに出すことは聊か突飛なものに思われるかも知れませんが、「嘆きの歌」は内容的にも、古作の能に見られるような、素朴ではあるけれど激しくて深い悲しみに貫かれた作品に内容・雰囲気ともども通じるものがあり、その上演は娯楽や教養としてのコンサートのレパートリーであるよりも、寧ろ祭祀における追悼や鎮魂のための奉納に近いものがあると私には感じられます。西洋の伝統に則せば、寧ろギリシア悲劇を先に思い浮かべるべきなのでしょうが(実際、後で参照するナターリエ・バウアー=レヒナーの回想における「嘆きの歌」の初演に関する節ではギリシア悲劇への言及がなされます)、私の乏しい経験の中で近い印象のものを探した時に真っ先に思い浮かぶのは外ならぬ能楽なのです。更に言えば、「嘆きの歌」の歌唱パートの配分は通常のより演劇的な作品(例えば受難曲やオラトリオを思い浮かべて頂ければと思います)で良くあるような、各独唱者に原則として固定的に登場人物を割り当て、合唱が集団の声を代弁するように劇の進行を注釈したり、場面を補足説明したりするといった形態からはかなり外れており、こちらも能楽において、ワキの謡やシテの謡を地謡が途中から引き継いだり、シテが主人公の役割を逸脱して、第三者的な描写をしたかと思えば、ひととき他の登場人物になりかわるといったことが起きるのに近い印象が私にはあります。「嘆き」のルフランもまた、合唱が場面を注釈するように歌うだけではなく、独唱や重唱が担うこともあれば、独唱から合唱へと受け渡されることもあったりしますし、常に固定的な旋律で歌われるわけでもなくて融通無碍なところがあるのは寄稿文でも指摘したところですが、それだけに独唱と合唱が一体となった今回の上演は、作品のそうした特質に適い、その効果を遺憾なく発揮したものと感じられました。

この曲は、特に改訂稿の部分は実演で目覚ましい効果をもたらすべく、巧みにデザインされた部分もあるとはいえ、全般としては20歳になるかならないかのマーラーの、ナイーブと言っても良いようなストレートな感情に満たされていて(質的に近いのは、やはり「さすらう若者の歌」と第1交響曲)、そのまどろみの中で夢見るような箇所(実際それは「さすらう若者の歌」の終曲の中間部、第1交響曲のあの「森の葬式」のカノンに挟まれた中間部で聴かれるものと同じです)と、身を切るような強烈な感情に満たされた悲劇的な箇所との強烈なコントラストは、聴き手の心を掻き乱し心の底から聴き手を揺さぶる、鬼気迫るような側面がありますが、そうした点についてこの公演での演奏は申し分ないどころか、あまり数の多いとはいえない他の演奏に勝る、この作品の本質を闡明する「真正な」という形容が相応しい質を湛えていたと感じられました。

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「嘆きの歌」の上演を巡っては、ナターリエ・バウアー=レヒナーの回想録の「音楽シーズン 1900年ー1901年」の章の「≪嘆きの歌≫ 1901年2月17日の演奏」と題された節があり、そこでは上演に纏わる紆余曲折が記録されています(高野茂訳・音楽之友社刊の邦訳『グスタフ・マーラーの思い出』ではpp.406~8)。それを読むと、作品に対する献身という点で今回の上演が如何に恵まれた理想的なものであったかが却って確認できるわけですが、作品そのものについてのバウアー=レヒナーの印象は書き留められても、マーラー自身の作品に対する思いというのは直接には記録されていないようです。一方でマーラーはその早すぎる晩年に(だが、まさに晩年と呼ぶに相応しい状況下にあって)、ニューヨークからのワルター宛の書簡(1996年版書簡集では429番、1909年12月18日ないし19日に書かれたと推測される日付のない書簡、以下に引用させて頂く、須永恒雄訳・法政大学出版局刊の邦訳『マーラー書簡集』ではpp.389~392)で、自分の第1交響曲を演奏したときに感じたことを以下のように記しています。

「(…)おとといはここで私の≪第一≫をやりました。みたところ、さしたる反応なし、それにひきかえ私はこの若書きに心から満足しました。こうした作品はどれも、指揮するといつでも、妙な気分になる。燃えるような痛切な感情を結晶化している。すなわち、こんな響きと形姿を鏡像として投げかけるとは、これはいったいなんという世界なのか。葬送行進曲とそれにつづいて勃発する嵐のようなものが、私には、あたかも造物主への嘆願のように立ち現れるのです。そして私が新作を作るたびごとに(少なくともある時期までは)この嘆願の叫びが毎回湧き起こるのです――「汝は彼らの父に非ず、汝は彼らの暴君なり!」――(…)」

勿論これはあくまでも第一交響曲についての言及であって、「嘆きの歌」についてのものではありません。ではありますが、同時により広く自分の若書きの作品について述べたものでもあって、私には、それに先立って作曲され、だが上演の方は遥かに遅れて、そのキャリアの絶頂にあってようやく実現に漕ぎ着けた「嘆きの歌」についても、マーラーは同じようなことを感じたのでは、それが故にマーラーは「嘆きの歌」を「作品1」としたのでは、というようなことを、今回の演奏に接することで思わずにはいられませんでした。要するにそれは今回の上演が、「マーラーは、これを音にしたかったのだ」というかけがえのない「何か」が伝わって来る演奏であったということなのだと思います。それはあまりに強烈で、特にその頂点では感情の強烈な波が次々と押し寄せてくるので、少なくとも私に関しては、聴き手としてそれを充分に受け止められたかどうかについては、甚だ心許無いのですが。

そしてそれは単に演奏会場で演奏された作品を、その場で聴取するという条件では尽くせない、ライブ・パフォーマンスの可能性を明らかにするような経験であったと確かに言えると思います。かつてジャパン・グスタフマーラー・オーケストラと名乗っていたオーケストラは現在はその名称に「祝祭」という語を冠していますが、この語はまさに今回のような公演にこそ相応しいと感じられます。このような静謐で悲しみに満たされた、悲劇的で陰惨でさえある作品が祝祭とは、という反応は祝祭という言葉の意味を取り違えているのであって、それならば古代ギリシアの悲劇の上演はどうであったか、否、地球の反対側のことを持ち出さずとも、我々自身の伝統の中にあって、やはり静謐でありながら強い悲劇的な感情に満たされた数多くの作品を持つ能楽の上演はどうなのかに思いを致せば、それこそが「ライブ」の可能性そのものとまでは言わないまでも、その可能性の中心にあるものだということが得心されるのでは、と思います。マーラーの作品であれば、第6交響曲や第9交響曲、「大地の歌」や第10交響曲、更には連作歌曲集といったものも、その上演は単なる娯楽・教養のための消費の場ではなく、まさに「祝祭」の場で上演されるべきものではないかと考えます。

そうした、まさに「ライブ」ならではの経験をさせて頂いたことに対して、演奏者全てに重ねて御礼申し上げたく思います。そしてさまざまな制約から、もう一度というのは大きな困難を伴うことは重々承知しているものの、今回のような機会が再度繰り返して実現し、奏者が十全と感じられる演奏が行われたら、ということを思わずにはいられません。少なくとも今回の上演がそうした「伝統」を形作る、後世に向けての一歩であればということを願わずにはいられません。

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冒頭述べたように、新型コロナウィルス感染症の影響が終息しつつあり、コンサートも含めて世の中が「正常化」する一方で、私は相変わらず自分の身の回りの卑近なことで手一杯な状況ですが、それ故にか「ポスト・コロナ」の世の中が、旧に復するどころか、寧ろ一層、どこか逼塞している雰囲気が強まっていることは否応なく感じ取れるように思います。そうした中、マーラー祝祭オーケストラの活動に接して、不十分な仕方でしかなくとも微力ながらお手伝いできたことは、そうした状況を何とかやり過ごすための心の拠り所のように感じられます。とりわけでも今回、その実現に大きな困難が伴う「嘆きの歌」の上演に身近に接することで、私個人の感慨としては自分の卑小な存在を超えて、世の中に働きかけられたという実感のようなものがあります。このような経験をさせて頂けたことに対して、井上喜惟さんを始めとする公演に携わられた全ての方に改めて御礼申し上げて、この拙い感想の結びとさせて頂きます。(2023.12.30初稿公開)

2023年12月17日日曜日

[お知らせ] マーラー祝祭オーケストラ(音楽監督・井上喜惟)第22回定期演奏会(2023年12月24日)

マーラー祝祭オーケストラ(音楽監督・井上喜惟)第22回定期演奏会が2023年12月24日にミューザ川崎 シンフォニーホールにて開催されます。詳細は以下の、マーラー祝祭オーケストラの公式ページをご覧ください。

Mahler Festival Orchestra Offcial Site (https://www.mahlerfestivalorchestra.com/)




プログラムには、マーラーのカンタータ『嘆きの歌』がヤナーチェクのシンフォニエッタとともに含まれます。『嘆きの歌』は、マーラーが自ら作品1と位置付けた作品ですが、洋の東西、プロ・アマ問わず上演機会に恵まれているとは言い難く、特に日本でその上演に接する機会は限られており、今回の演奏会は貴重な機会だと思います。

本ブログの管理人も、その企図に賛同し、当日会場で配布されるプログラムノートに寄稿させて頂いております。是非ともご一読頂ければ幸いです。また、本ブログでは『嘆きの歌』に関連して以下のような記事を執筆・公開していますので、併せてご覧頂ければ幸いです。

[追記] マーラー祝祭オーケストラ第22回定期演奏会は無事終演しました。稀曲である「嘆きの歌」の上演にあたっては多くのご苦労があったことと推察致します。井上喜惟先生をはじめとする、公演に携わって来られた全ての方々に敬意と感謝の意を表します。公演プログラムノートへの寄稿文と、公演に接した感想は別途記事として公開の予定です。

(2023.12.17 公開, 12.18 公演のフライヤー画像を追加, 2023.12.28 追記)

2023年12月6日水曜日

マイケル・ケネディの「マーラー」の結尾近くの文章より

マイケル・ケネディの「マーラー」の結尾近くの文章より:(原書2000年版, p.179; 中河原理訳、芸術現代社、1978年、pp.235~6)
It is true that there is an element of the actor in Mahler, that he strikes attitudes not from conviction but as a spritual experiment. But the result is never insincere. To some temperaments he will always be anathema because it is felt that he did not subject his musical thought-processes to enough refining self-criticism, that he was too much the suffering human and not sufficiently the detached artist. There is something in this, though study of his scores reveals a musical headwork, as Shaw would have described it, of a peculiarly intricate nature.

マーラーに演技者の要素があること、つまり確信からではなく、精神的な実験として態度を構えたことは確かである。しかし結果は偽善的なものではなかった。ある気質のひとにとってマーラーは常に禁物だろう。なぜならマーラーは自分の音楽の思考過程を、対象を充分に練磨する自己批判に従わせることがなく、またあまりにも悩める人間であり、充分に客観的芸術家ではなかったと感じられるからである。マーラーのスコアを調べると、際立って複雑な性格の(とショウならいったと思われる)音楽的な頭脳作業があるにしても、この感じ方は無視できない。

私事になるが、私が最初に接したマーラーの評伝はこのケネディのものだった。それは単なる偶然によるものだったと思うが、参考書籍のところにも書いたように、 この本はその慎ましい体裁にも関わらず、とても優れた視点と、数多くの興味深い情報を備えた書籍であり、最初にこの本に接することができたことをとても 幸運なことだったと思っている。
引用したのは、1976年版では最後から2つ目のパラグラフである。(その後の改訂で、この後にAfterthoughtsの章が追加されたので、現在では第15章の 末尾ということになる。)この文章は、マーラーの音楽の持っている特質を的確に言い当てていると私には感じられる。批判的なわけではなく、 決してマーラーを偶像視しない冷静な視点を持っていて、寧ろ、そこにマーラーに対する深い愛情を感じずにはいられない。実際、マーラーの音楽を 一人の人間の営みとして聴いたときに、その軌跡の技術的な展開の一貫性と速度に驚嘆する(わずか30年でここまで進むことができるのだ!)一方で、 その内容上の振幅の激しさにたじろがざるを得ないように思われる。多くの人がそうしているように、思わず「矛盾」と呼びたくなるような、 そしてついつい伝記的事実を持ち出してその説明をしたくなるような亀裂が確かに、そこかしこにあるのだ。マーラーの音楽に関心がない人間なら、そもそも そうした問いの前提自体が疑わしいことだろうし、それゆえ、上記のケネディの文章もまた、なぜそんなことを問題にしないといけないのか理解しがたい だろうが、まさにそれが「問題」になるのがマーラーの特殊性なのだ。それゆえ、そうした「矛盾」をあたかもなかったかの如くに、マーラーがそこから出発した素材を 一部をあたかもマーラーの音楽を理解する統一的な視座であるかのように語ったり、あるいはどんなに控えめに考えてもマーラーの音楽そのものに対しては 外的な基準に基づいて、そのうちのあるものを否定してしまうことなくして、マーラーの作品全体をどのように考えるかは、その音楽に魅せられた人間が、 それぞれ自分なりの答えを探さなければならない課題であるように感じられる。(2007.5.26公開、2023.12.6参照箇所の邦訳を追記)

2023年12月4日月曜日

MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較(3)マーラーの交響曲間の比較(続報)

 1.はじめに

 記事:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較において、マーラーの交響曲全体の状態遷移パターンの出現確率分布と、各作品の状態遷移パターンの出現確率分布との比較を行った結果を報告しました。2つの確率分布の比較の方法としては、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量の2つを用い、更に参考として、状態遷移パターンの出現確率のエントロピーについて全体と各作品とを比較した結果も報告した他、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量を計算するために用意した状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトル自体を特徴量としてクラスタリングを行った結果を併せて報告しました。ここでは上記記事の続報として、上記記事では深さ0および1(つまり和音(ピッチクラスの集合)単独の出願確率および和音の遷移(和音(ピッチクラスの集合)の単純な前・後の2つ組)の出現確率)のみを報告したのに対して、深さ2~5までを含めた全体を報告します。本記事でこれまで一連の記事で報告してきた和音の状態遷移パターンについての集計・分析の報告は一区切りとなるため、参考として、既に報告済の内容の再掲になりますが、状態遷移確率分布のエントロピー、マルコフ過程としてみた場合のエントロピーの計算結果、前回記事で報告した内容も含めて再掲し、本記事のみで一覧できるようにします。一方、計算結果に対するコメントはこれまでの報告同様行わずに、集計・分析条件の説明と結果の報告のみを行うこととし、別にこれまでの一連の集計・分析を通じてわかったことや、やってみて気づいたこと、感じたことに関する記事を起こす予定です。

2.集計・分析の条件

2.1. カルバック・ライブラー・ダイバージェンスおよび相互情報量の計算(追加あり)

 上掲記事におけるのと同様、単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別しない(pcl)条件で、今回は各拍(A)毎に抽出した和音パターンの系列のみを対象としました。計算対象となる状態は、既報の深さ0(和音=ピッチクラスの集合のパターン)と深さ1(和音=ピッチクラスの集合の状態遷移パターン、単純マルコフ過程の状態遷移パターンに相当)に加え、深さ2~5も含めました。

 計算にあたっては上掲記事におけるのと同様、従来から用いてきたR言語にあるエントロピー計算用のライブラリ(entropy)をRstudio上で使用しました。R言語のバージョンは4.3.1です。entropyライブラリにはカルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量を計算するプラグインが用意されています(それぞれKL.pluginとmi.plugin)ので、それを利用して計算を行いました。既述の通り、特にカルバック・ライブラー・ダイバージェンスは、所謂「距離」の公理を満たしておらず非可換ですが、ここでは個別の作品における確率分布を分子側、交響曲全体における確率分布を分母側として計算を行っています。つまりKLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:全体です。(交響曲全体で出現するパターン(Q側)が個別の作品(P側)で出現しない、つまり確率0であることはありえるが、その逆はないため。逆向きの計算では分母が0になり、値が無限大になってしまいます。)なお、交差エントロピーは今回の報告内容では割愛しましたが、これは各曲のエントロピーとカルバック・ライブラー・ダイバージェンスから求めることができます。(即ち、H(P, Q) = H(P) + KLD(P||Q))

2.2. 各交響曲の状態パターンの出現確率のエントロピー・交響曲全体の状態パターンの出現確率のエントロピーとの差分・マルコフ過程としてのエントロピー(再掲)

 冒頭述べたように、前回の記事で報告済の個別の作品における状態パターンの出現確率のエントロピーと交響曲全体の状態パターンの出現確率のエントロピーとの差分の計算結果(深さ0~5)を再掲します。交響曲全体の状態パターンの出現確率のエントロピーが各交響曲の状態パターンの出現確率のエントロピーよりも大きければプラス、小さければマイナスの値を取るように計算しています。今回の報告では差分だけではなく、元データである状態パターンの出現確率のエントロピーの計算結果(各交響曲と交響曲全体)も参考までに示します。同様にマルコフ過程としてのエントロピーの計算結果も再掲しますが、これは既に過去の記事で報告済の通り、状態遷移マトリクスから計算される定常状態が、深さが大きくなると収束してしまう傾向が見うけられたことから、単純マルコフ過程(深さ1に相当)、二重マルコフ過程(深さ2に相当)のみの計算結果です。

2.3. 状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング(追加あり)

 従来から用いてきたR言語を用い、R言語の階層クラスタリング関数hclustで、complete法により計算を行いました。今回の分析の特徴として、各作品の状態遷移パターンの出現確率分布のベクトル(m1~m10)に加えて、交響曲全体の状態遷移パターンの出現確率分布のベクトル(all)も含めてクラスタリングを行うことで、全体と各作品の距離が視覚的に確認できるようにしてみました。既報の深さ0と深さに加え、深さ2~5も含めました。


3.集計・分析結果

3.1.カルバック・ライブラー・ダイバージェンスおよび相互情報量の計算結果(KLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:全体)

(A)カルバック・ライブラー・ダイバージェンス(各交響曲、対・交響曲全体)


(B)相互情報量(各交響曲、対・交響曲全体)

(参考1)出現確率エントロピー(各交響曲および交響曲全体)

(参考2)出現確率エントロピーの差分(Q-P、但しP:各交響曲、Q:交響曲全体)
※後期作品の深さ0の差分がマイナスになっている点に注意。第8交響曲はわずかにプラスだがほぼ0でした。

(参考3)マルコフ過程としてのエントロピー(各交響曲および交響曲全体、深さ=0:単純マルコフ過程、深さ=1:二重マルコフ過程のみ)
※交響曲全体(all)の二重マルコフ過程の状態遷移マトリクスから定常状態を計算すると収束するため、交響曲全体(all)の二重マルコフ過程エントロピーは1になっています。


3.2. 状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(各交響曲および交響曲全体)

(A)深さ=0

(B)深さ=1

(C)深さ=2

(D)深さ=3

(E)深さ=4

(F)深さ=5


[付録]ダウンロード可能なアーカイブファイルgm_sym_A_KLD_MI_cdnz3_pcl_v2.zipの中には以下のファイルが含まれます。

  • 入力ファイル(各交響曲および交響曲全体について)
    • gm_A_prob_all.csv:和音パターン出現確率(深さ0):値のみ
    • gm_A_prob2_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ1):値のみ
    • gm_A_prob3_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ2):値のみ
    • gm_A_prob4_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ3):値のみ
    • gm_A_prob5_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ4):値のみ
    • gm_A_prob6_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ5):値のみ
    • gm_A_frq_all.csv:和音パターン出現頻度(深さ0):パターンラベル付き
    • gm_A_frq2_all.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ1):パターンラベル付き
    • gm_A_frq3_all.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ2):パターンラベル付き
    • gm_A_frq4_all.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ3):パターンラベル付き
    • gm_A_frq5_all.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ4):パターンラベル付き
    • gm_A_frq6_all.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ5):パターンラベル付き
  • 結果ファイル(各交響曲および交響曲全体について)
    • hist.txt:R言語の実行ログ
    • 画像ファイル
      • KLD.jpg:カルバック・ライブラー・ダイバージェンス(対・全体)
      • MI.jpg:相互情報量(対・全体)
      • pattern-entropy.jpg:状態遷移確率のエントロピー
      • pattern-entropy_diff.jpg:状態遷移確率のエントロピーの差分(対・全体)
      • hclust_complete_prob_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=0)
      • hclust_complete_prob2_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=1)
      • hclust_complete_prob3_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=2)
      • hclust_complete_prob4_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=3)
      • hclust_complete_prob5_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=4)
      • hclust_complete_prob6_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=5)
    • gm_A_pcl_KL_MI_summary.xlsx
      • 状態(パターン)の出現確率(深さ0~5)
      • 対全交響曲の出現確率エントロピー差分(深さ0~5):(Q-P、但しP:各曲、Q:全体)
      • 単純マルコフ過程、二重マルコフ過程としてのエントロピー
      • 対全交響曲のカルバック・ライブラー・ダイバージェンス(深さ0~5):(KLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:全体)
      • 対全交響曲の相互情報量(深さ0~5)

(2023.12.4)

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。


2023年11月20日月曜日

フリッツ・レーア宛1885年1月1日付けカッセル発の書簡にある「ゼッキンゲンのラッパ手」についての言葉(2023.11.20更新)

フリッツ・レーア宛1885年1月1日付けカッセル発の書簡にある「ゼッキンゲンのラッパ手」についての言葉(1924年版書簡集原書23番, p.33。1979年版のマルトナーによる英語版では29番, p.81, 1996年版に基づく法政大学出版局版・須永恒雄邦訳では32番, p.37)
(...)
Meine "Trompetermusik" ist in Mannheim aufgeführt worden und wird demnächst in Wiesbaden und Karlsruhe aufgeführt werden. Alles natürlich ohne das geringste Zutun von meiner Seite. Denn Du weißt, wie wenig mich gerade dieses Werk in Anspruch nimmt.(...)

(…)僕の≪トランペット吹きの音楽≫はマンハイムで演奏されたが、続いてヴィースバーデンとカールスルーエでも演奏されることになっている。万事がもちろん、一切僕の関与なしにだ。だって、君もご存じのとおり、この作品はまったく僕にとっては物の数には入らないのだ。(…) 

この手紙をここに引いたのは「ゼッキンゲンのラッパ手」の再演に関する言葉が含まれるためだが、実はこの新年に書かれた手紙は「さすらう若者の歌」の 創作に関連して引用されることの方が遙かに多い。実際、この手紙の主題はそちらにあって、引用した部分はまるで「ついで」のように触れられているに 過ぎないのだ。というわけで、上記の引用の前後に記述されている「さすらう若者の歌」に関係する部分は、別の機会に是非紹介したい。
ここでは半年前には「大変に満足」していた筈の「ゼッキンゲンのラッパ手」に対する冷めた態度が印象的だが、それが「さすらう若者の歌」創作にまつわる 状況と心境の変化とともに語られていることが私には興味深く感じられる。それでもマーラーはこの後交響詩「巨人」において一旦は、その両者を「引用」する。 最終的には第1交響曲に改訂する際に「花の章」を削除することで、「ゼッキンゲンのラッパ手」を抹殺してしまうのであるが。
なお、言及されているマンハイム、ヴィースバーデン、カールスルーエのうち再演が確認されているのは、ラ・グランジュによればカールスルーエのみとのことである。 ちなみに英語版書簡集には、カールスルーエでの演奏の予告が収録されている。それによれば日付は1885年6月5日なのだが、これはラ・グランジュの1973年の 英語版の記述(6月6日)とも、フランス語版第1巻の記述(6月16日)とも一致しない。後者は恐らく誤植だろうが、前者もまた、その可能性がある。 ラ・グランジュが上演を確認した資料がマルトナーが書簡集で紹介した演奏予告とは別のものなのかどうか確認する術がないので、誤植なのか 予告より遅れて上演されたのかは判断できない。ラ・グランジュの著作は大部なせいか、この類の誤植は少なくなく、資料として使おうとすると 他の文献との矛盾が見つかることがしばしばで厄介である。(2007.12.26, 2023.11.20邦訳の情報を追加)

イダ・デーメル(詩人のリヒャルト・デーメル夫人)の日記に出てくるマーラーの言葉(2023.11.20更新)

イダ・デーメル(詩人のリヒャルト・デーメル夫人)の日記に出てくるマーラーの言葉(アルマの「回想と手紙」、1971年版原書p.121, 白水社版酒田健一訳p.112)
Es käme ihm auch immer wie Barbarei vor, wenn Musiker es unternähmen, vollendet schöne Gedichte in Musik zu setzen. Das sei so, als wenn ein Meister eine Marmorstatue gemeißelt habe und irgend ein Maler wollte Farbe darauf setzen. Er, Mahler, habe sich nur einiges aus dem Wunderhorn zu eigen gemacht ; zu diesem Buch stehe er seit frühester Kindheit in einem besonderen Verhältnis. Das seien keine vollendeten Gedichte, sondern Felsblöcke, aus denen jeder das Seine formen dürfe.

音楽家が完璧な詩に作曲しようと試みるのは、野蛮な行為としか思えない。それはまるで彫刻の大家が彫りあげた大理石の立像に、そこいらの絵描きが色をぬりたくろうとするようなものだ。だから自分は『子供の魔法の角笛』のなかからほんの少しばかり頂戴するにとどめた。この本とは幼いころから特別な因縁があったからだ。それは完成された詩ではなくて、だれもが思いのままに鑿をふるえる岩の塊なのだ。 

マーラーが自分の作品における歌詞の選択についての考えを述べた言葉。 マーラーは作曲にあたって原詩に手を入れることを躊躇しなかったが、その姿勢を裏付ける言葉だと思われる。 これを例えばデュパルクの言葉と比較するのは興味深い。 最初の1文については同じだが、その後は異なって、デュパルクは不可能事に挑んだのに対して、マーラーは終生、ずっと現実的だったと言えそうだ。 なお、比喩として彫刻家や画家を持ち出しているが、画家は丁度マーラーの姓との語呂合わせになっている(Maler / Mahler)のが意識してのことだとしたら、 機転のきいた言葉ではなかろうか。(機転があるのは記録者のデーメル夫人の方である可能性も否定できないが。)

ちなみに、ここでは割愛したが、この文章の前には戯曲に音楽をつけることについての発言があるが、それが暗に自分がオペラの作曲を放棄したことの 説明になっているようで、ここで引用した部分と両方あわせて第8交響曲第2部のゲーテ「ファウスト」第2部終幕への作曲のことを考えてみること同様、 興味深いものがある。

なお、原書のページは私が所蔵しているミッチェルによるドイツ語新版(1971)のものである。デーメル夫人の日記からの引用は Splendid Isolation 1905 の 章の最後に置かれているから、それを手がかりに探せば他の版でも同定は難しくないだろう。(2007.5.15, 2023.11.20邦訳を追加)

2023年11月13日月曜日

MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較(2) 他の作曲家の作品との比較

1.はじめに

 記事:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較では、マーラーの交響曲全体の状態遷移パターンの出現確率分布と、各作品の状態遷移パターンの出現確率分布との比較を行った結果を報告しました。一方、他の作曲家の作品との比較については、マーラーの同時代以降の作品との比較を企て、一旦公開まで漕ぎ着けたものの、未分析の和音が占める割合が高いことに気付き、意味のある集計・分析にならないと判断し、記事を撤回しました。その経緯は記事:MIDIファイルを入力とした分析:未分析の和音の出現頻度―エントロピー計算結果の同時代以降の作品との比較の記事撤回についてに記載した通りです。そして同記事ではマーラーの同時代以降の作品との比較の替わりに、比較対象としてきた他の作曲家の作品における未分析の和音の出現頻度を報告しました。その結果を踏まえ、本記事では、他の作品との比較をしようとした場合に、未分析の和音の割合が比較的小さくて、マーラーの作品に出現する和音および和音の遷移のパターンの範囲に収まり、その頻度の分布の比較をすることが概ね可能な作品を選択して比較を行った結果を報告します。以下、これまでの記事同様、計算結果に対するコメントはせずに、集計・分析条件の説明と結果の報告のみを行います。

 但し、これまで本ブログで行ってきた、MIDIファイルを入力としたマーラーの作品の分析を通して見た場合、MIDIファイルから自作のプログラムで抽出した拍毎・小節頭拍毎の和音(ピッチクラスの集合)の連なりを分析しようと試みて、最も初期には和音の系列データそのものを時系列データと見做して、時系列データの比較手法を用いたクラスタリングを検討したものの、和音の系列データの各要素は或る次元を持った量ではなく、ピッチクラスの集合をある規則で符号化して数値化したものであるためにうまく行かず、その後は一定の限定した和音の集合に範囲を限定して、その出現頻度に注目した分析を行ってきたのに対して、状態遷移パターンの出現確率分布を用いて、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスのような特徴量を用いた比較を行ったり、出現確率分布のベクトル全体を特徴ベクトルと見做したクラスタリングを行うことによって、漸く和音(ピッチクラスの集合)の系列の全体を表す特徴量を用いた分析が可能になったと言えるのではないかと思います。また、個別の作品間の比較や、それらと他の作曲家の作品との比較に留まらず、マーラーの交響曲全体についての特徴量を計算して、それと個別の作品とを比較することが可能になったこともあって、その一部の次元のみを取り出しているに過ぎないとは言え、漸く「マーラー・オートマトン」の出力の全体を捉えた分析に辿り着いたように感じます。


2.集計・分析の方法

これまでに用いてきた以下の特徴量を集計することとします。各項目それぞれの詳細については各特徴量の集計や分析の結果を報告した過去の記事を参照頂きたく、ここでの説明は割愛させて頂きます。

  • 単純マルコフ過程としてみた場合のエントロピー
  • 和音パターン・状態遷移パターンの出現確率のエントロピー
  • 状態数と系列長の比率
  • カルバック・ライブラー・ダイバージェンス
  • 相互情報量
  • 状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング(階層クラスタ分析:complete法)
 このうちカルバック・ライブラー・ダイバージェンスおよび相互情報量については、マーラーの交響曲全曲についての和音パターンおよび状態遷移パターンの出現確率分布を比較対象とした作品のものと比較しますが、比較対象の作品における確率分布を分子側、マーラーの交響曲全体における確率分布を分母側として計算を行うのは、マーラーの各交響曲との比較の場合と同じで、KLD(P||Q)とした時、P:比較対象の作品、Q:マーラーの交響曲全体です。但しマーラーの各交響曲の場合には、交響曲全体で出現するパターン(Q側)が個別の作品(P側)で出現しない、つまり確率0であることはありえるが、その逆はないという条件が成り立ちますが、今回は他の作曲家の作品との比較のため。必ずしも成り立ちません。この時、比較対象の他の作曲家の作品には出現するがマーラーの交響曲には出現しないパターンを含めて出現確率のベクトルを構成すると、計算上、分母が0になり値が無限大になってしまいます。そこでマーラーの全交響曲に出現するパターンのみを対象にして出現確率のベクトルを構成することになりますが、そうすると今度は比較対象の作品に出現するパターンで集計対象にならないパターンが出てきてしまいます。
 今回比較対象の候補とした作品は、記事:MIDIファイルを入力とした分析:未分析の和音の出現頻度―エントロピー計算結果の同時代以降の作品との比較の記事撤回について記載の確認結果を踏まえ、未分析の和音が無いか、あっても極僅かな作品としましたが、その中でも、実際に計算をしてみると、マーラーの交響曲には出現しないパターンを数多く持った作品が出てきてしまいます。また、その割合は当然ですが、和音のパターンについての場合と、状態遷移パターン(ここでは深さ1のみ)についての場合とでは大きく異なります。A、Bという和音が出現しても、A→Bという状態遷移が生じるとは限りませんし、B→Aについても同じことが言えます。従ってある比較対象の作品に出現する和音のパターンが全てマーラーの全交響曲に含まれる場合でも、それら和音の組み合わせである状態遷移パターンについては、その比較対象の作品に出現するパターンがマーラーの全交響曲に出現するとは限りません。そこで本記事の分析にあたっては、そのような未集計のパターンがどれくらい出現するかの集計も同時に行い、結果を報告する対象に含めるかどうかを判断することにしました。
 具体的には、マーラーの全交響曲(gm_all)との比較対象とする作品の候補として、以下を選択しました。
  • ブルックナー:第5,7,8,9交響曲(ab5,7,8,9)
  • ブラームス:第1~4交響曲(jb1,2,3,4)
  • シベリウス:第2,7交響曲、「タピオラ」(js2,7, jsTapiola)
  • フランク:交響曲、交響的変奏曲、弦楽四重奏曲、ヴァイオリン・ソナタ(cfsym, cfsymvar, cfsq, cfvp)
  • ヤナーチェク:シンフォニエッタ(lj)
  • タクタキシヴィリ:ピアノ協奏曲第1番(ot)
  • ラヴェル:左手のための協奏曲、ピアノ協奏曲、優雅で感傷的な円舞曲、「ダフニスとクロエ」第2組曲(mr1, mr2, mr3, mr4)
 これらについて、まず上述のように未集計のパターンののべ数を確認します。まずは単独和音パターン(深さ=0に相当)についての集計結果を示します。

一見して、ラヴェルの作品における未集計和音の数が多いことがわかります。(他の作曲家は全くないか、あっても1曲につき数個。)ラヴェルの作品の系列長は他の作曲家の作品に比べれば相対的に短めですから、系列長の中で占める割合は更に大きいことになります。
 同様に、前後の和音の対からなる状態遷移パターン(深さ=1に相当)について、未集計パターンを見ますが、こちらはのべ数そのものではなく、対象となる系列長の中で、未集計のものが占める割合を以下に示します。

こちらでもラヴェルの作品の未集計パターンの割合の多さは明らかです。シベリウスの作品も「タピオラ」はラヴェルの作品と同等の割合であり、第7交響曲も高めですが、ラヴェルにおけるように半分前後の割合に達する作品はありません。また、深さ0の集計結果も併せて考えると、ラヴェルについては系列のうちのかなりの割合が実質的に分析の対象から外れてしまうことになり、結果の意味合いについて留保がつくことになります。
 そこで本記事の分析においては、ラヴェルの作品は対象外とすることにしました。一方、同様にして、深さ=2,3,4,5の状態遷移パターンについても集計を行った時にどのような結果になるのかについても確認してみたくなりますが、本稿では深さ0,1に限定し、それ以上の深さについての集計・分析は後日を期することとします。


3.集計・分析結果

3.1.エントロピーおよび多様性の計算結果(比較対象の作品およびマーラーの全交響曲(右端))

(A)単純マルコフ過程として見た場合のエントロピーおよび状態遷移パターンの出現確率のエントロピー(深さ0~5)

(B)パターン数/系列長比(深さ0~5)


3.2.カルバック・ライブラー・ダイバージェンスおよび相互情報量の計算結果(KLD(P||Q)とした時、P:比較対象の作品、Q:マーラーの全交響曲)
(A)深さ=0

(B)深さ=1

(参考)出現確率エントロピーの差分(Q-P、但しP:各曲、Q:全体)

未集計のパターン数が多いシベリウスの第7交響曲、「タピオラ」では深さ0の差分がマイナスになっており、マーラーの全交響曲よりもエントロピーが大きいことが確認できる。


3.3. 状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果

(A)深さ=0


(B)深さ=1



[付録]ダウンロード可能なアーカイブファイルcontrol_cdnz3_pcls.zip の中には以下のファイルが含まれます。

  • 入力ファイル(比較対象の作品およびマーラーの全交響曲について)
    • gm_control_A_prob_all.csv:和音パターン出現確率(深さ0):マーラーの全交響曲の列を含む。ラヴェルの作品は含まず。クラスタ分析の入力。
    • gm_control_A_prob2_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ1):マーラーの全交響曲の列を含む。ラヴェルの作品は含まず。クラスタ分析の入力。
    • control_A_prob_all.csv:和音パターン出現確率(深さ0):比較対象作品のみ。ラヴェルの作品は含まず。gm_control_A_prob_all.csvのサブセット。
    • control_A_prob2_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ1):比較対象作品のみ。ラヴェルの作品は含まず。gm_control_A_prob2_all.csvのサブセット。
    • *_A_cdnz3_pcl.csv:比較対象の各作品(ラヴェルの作品も含む)の状態遷移パターン出現頻度(深さ0~5)
    • *_A_cdnz3_pcl_transition.csv:比較対象の各作品(ラヴェルの作品も含む)の状態遷移マトリクス
  • 結果・中間結果ファイル(比較対象の作品およびマーラーの交響曲全体について)
    • hclust_complete_prob_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=0)
    • hclust_complete_prob2_all.jpg:状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果(深さ=1)
    • control_A_pcl_KLD_MI.xlsx
      • Sheet1シート:比較対象の作品およびマーラーの交響曲全体について
        • 総拍数
        • 状態数(深さ0~5)
        • 系列長(深さ0~5)
        • パターン数/系列長比(深さ0~5)
        • 単純マルコフ過程としてのエントロピー
        • 状態(パターン)の出現確率(深さ0~5)のエントロピー
        • 対マーラー全交響曲の出現確率エントロピー差分(深さ0~5):(Q-P、但しP:各曲、Q:マーラー全交響曲)
        • 対マーラー全交響曲のカルバック・ライブラー・ダイバージェンス(深さ0,1):(KLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:マーラー全交響曲)
        • 対マーラー全交響曲の相互情報量(深さ0,1)
        • 対マーラー全交響曲の交差エントロピー(深さ0,1)
        • 未集計系列数・深さ0:未集計和音パターンののべ数
        • 未集計系列数・深さ1:未集計状態遷移パターンののべ数
        • 未集計系列比率・深さ1:未集計状態遷移パターンののべ数の系列長に対する割合
      • d0シート:和音パターン出現頻度(深さ0):比較対象作品のみ。ラヴェルの作品を含む。
      • d0pシート:和音パターン出現確率(深さ0):比較対象作品のみ。ラヴェルの作品を含む。
      • d1シート:状態遷移パターン出現頻度(深さ1):比較対象作品のみ。ラヴェルの作品を含む。
      • d1pシート:状態遷移パターン出現確率(深さ1):比較対象作品のみ。ラヴェルの作品を含む。
(2023.11.13)

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。

2023年11月10日金曜日

MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの出現確率分布の比較

 1.はじめに

 記事:MIDIファイルを入力とした分析:マルコフ過程としてのエントロピー計算結果(補遺)創作時期別集計において、マーラーの作品を創作時期別に見た場合に、全般的な多様性や状態遷移の深さと多様性の関係において、創作時期によって傾向が変化していく点について、各作品毎ではなく、創作時期別に、更にマーラーの交響曲全体で、単純マルコフ過程として見た場合のエントロピー、深さ0~5の状態遷移パターン出現確率のエントロピー、或いは状態遷移パターン数と系列長の比といった特徴量を集計した結果を報告しました。その結果は、、創作時期によって傾向が変化していくというそれまでの集計・分析に基づく観察と一致するものであったのですが、そこでの比較は数値の単純な比較とそのグラフによる可視化によるもので、定量的に差異を測定した訳ではありません。

 そこで本記事では、マーラーの交響曲全体の状態遷移パターンの出現確率分布と、各作品の状態遷移パターンの出現確率分布との比較を行った結果を報告します。2つの確率分布の比較の方法としては、幾つかの方法が直ちに思い浮かびますが、ここではカルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量の2つを用いました。更に参考として、状態遷移パターンの出現確率のエントロピーについて全体と各作品とを比較した結果も報告します。最後の点は、出現確率分布の比較が、所謂「距離」の定義を満たしているといないとに関わらず(実際にはカルバック・ライブラー・ダイバージェンスは満たしていない訳ですが)、計算して求まる値は両方の差の絶対値であって、非負の量であることから、どちらが多様性がより大きい・小さいといった情報が落ちてしまうのを補うためです。

 更に、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量を計算するために用意した状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトル自体を特徴量としてクラスタリングを行ってみましたので、その結果も併せて報告します。なおこれは、以前に行った和音の出現頻度に基づく分類で用いた特徴量と基本的には同じですが、以前の分析では、幾つかの「名前のある」(つまり音楽理論上、機能を持つとされる)和音に対応するパターンに限定して行っていたものを、交響曲全体で出現する全ての和音に対応するパターンを対象として行ったという位置づけになります。直前の記事MIDIファイルを入力とした分析:未分析の和音の出現頻度―エントロピー計算結果の同時代以降の作品との比較の記事撤回についてで取り上げたように、マーラーの作品については未分析の和音はないので、このような分析が可能となっています。

 以下、計算結果に対するコメントはせずに、集計・分析条件の説明と結果の報告のみを行います。また、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量の定義などについての説明も割愛させて頂きます。両方とも特に近年の機械学習で用いられていることもあってか、Web上で様々な説明・解説があるようですので、必要に応じてそれらを参照頂けますようお願いします。


2.集計・分析の条件

2.1. カルバック・ライブラー・ダイバージェンスおよび相互情報量の計算

 上掲の創作時期別集計の記事におけるのと同様、単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別しない(pcl)条件で、今回は各拍(A)毎に抽出した和音パターンの系列のみを対象としました。(A/B系列で大きく見た場合には著しい差異がないと判断し、計算資源の制約に抵触しない限りでは、よりサンプルの多いA系列をもって代表させるのが適当と考えました。)計算対象となる状態は、深さ0(和音=ピッチクラスの集合のパターン)と深さ1(和音=ピッチクラスの集合の状態遷移パターン、単純マルコフ過程の状態遷移パターンに相当)です。

 計算にあたっては従来から用いてきたR言語にあるエントロピー計算用のライブラリ(entropy)をRstudio上で使用しました。R言語のバージョンは4.3.1です。entropyライブラリにはカルバック・ライブラー・ダイバージェンスと相互情報量を計算するプラグインが用意されています(それぞれKL.pluginとmi.plugin)ので、それを利用して計算を行いました。既述の通り、特にカルバック・ライブラー・ダイバージェンスは、所謂「距離」の公理を満たしておらず非可換ですが、ここでは個別の作品における確率分布を分子側、交響曲全体における確率分布を分母側として計算を行っています。つまりKLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:全体です。(交響曲全体で出現するパターン(Q側)が個別の作品(P側)で出現しない、つまり確率0であることはありえるが、その逆はないため。逆向きの計算では分母が0になり、値が無限大になってしまいます。)なお、公開した計算結果には交差エントロピーも含めていますが、これは各曲のエントロピーとカルバック・ライブラー・ダイバージェンスから求めることができます。(即ち、H(P, Q) = H(P) + KLD(P||Q))

 冒頭述べた通り、参考として個別の作品における状態パターンの出現確率のエントロピーと交響曲全体の状態パターンの出現確率のエントロピーとの差分の計算も行いましたが、こちらについては、後者が前者よりも大きければプラス、小さければマイナスの値を取るように計算しました。これは深さ0~5の全てについて計算を行いました。

2.2. 状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング

 従来から用いてきたR言語を用い、R言語の階層クラスタリング関数hclustで、complete法により計算を行いました。今回の分析の特徴として、各作品の状態遷移パターンの出現確率分布のベクトル(m1~m10)に加えて、交響曲全体の状態遷移パターンの出現確率分布のベクトル(all)も含めてクラスタリングを行うことで、全体と各作品の距離が視覚的に確認できるようにしてみました。


3.集計・分析結果

3.1.カルバック・ライブラー・ダイバージェンスおよび相互情報量の計算結果(KLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:全体)

(A)深さ=0


(B)深さ=1

(参考)出現確率エントロピーの差分(Q-P、但しP:各曲、Q:全体)
※後期作品の深さ0の差分がマイナスになっている点に注意。第8交響曲はわずかにプラスだがほぼ0でした。

3.2. 状態遷移パターンの出現確率分布を表すベクトルによるクラスタリング結果

(A)深さ=0

(B)深さ=1

※深さ0と1では、all(全交響曲)とm6(第6交響曲)の位置が異なりますが、後期作品3曲が概ね同じクラスタに属する点では共通しています。


[付録]ダウンロード可能なアーカイブファイルgm_sym_A_KLD_MI_cdnz3_pcl.zip の中には以下のファイルが含まれます。

  • 入力ファイル(各交響曲および交響曲全体について)
    • gm_A_prob_all.csv:和音パターン出現確率(深さ0):値のみ
    • gm_A_prob2_all.csv:状態遷移パターン出現確率(深さ1):値のみ
    • gm_A_frq_all.csv:和音パターン出現頻度(深さ0):パターンラベル付き
    • gm_A_frq2_all.csv:状態遷移パターン出現頻度(深さ1):パターンラベル付き
  • 結果ファイル(各交響曲および交響曲全体について)
    • hist.txt:R言語の実行ログ
    • gm_sym_A_KLD_MI_cdnz3R_pcl.xlsx
      • 状態(パターン)の出現確率(深さ0~5)
      • 対全交響曲の出現確率エントロピー差分(深さ0~5):(Q-P、但しP:各曲、Q:全体)
      • 単純マルコフ過程、二重マルコフ過程としてのエントロピー
      • 対全交響曲のカルバック・ライブラー・ダイバージェンス(深さ0,1):(KLD(P||Q)とした時、P:各曲、Q:全体)
      • 対全交響曲の相互情報量(深さ0,1)
      • 対全交響曲の交差エントロピー(深さ0,1)

(2023.11.10)

[ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。


2023年10月29日日曜日

[お知らせ]『配信芸術論』刊行について

 三輪眞弘:監修、岡田暁生:編『配信芸術論』がアルテスパブリッシングより、2023年10月25日に刊行されました。詳細は以下の出版社の公式ページをご覧ください。

https://artespublishing.com/shop/books/86559-282-5/

 


 本ブログ管理者も、2019年4月~2022年3月に実施された京都大学人文科学研究所の共同研究「「システム内存在としての世界」についてのアートを媒介とする文理融合的研究」に参加させて頂いた経緯より、論考「二分心崩壊以後・シンギュラリティ以前の展望から見たライブの可能性」を寄稿させて頂いており、その中でマーラーの音楽についても触れています。更に参考文献に本ブログを含めている他、注において個別に参照している本ブログの記事として、「デイヴィッド・コープのEMI(Experiments in Musical Intelligence)によるマーラー作品の模倣についての覚え書」 および「音楽を一人きりで聴くこと:マーラーの場合」の2つがあり、本ブログの内容とも多くの接点がある内容となっていますので、ご一読頂ければ幸いです。なお三輪眞弘さんの活動については、本ブログの姉妹ブログ、『山崎与次兵衛アーカイブ:三輪眞弘』をご覧ください。(2023.10.19, 20公開, 10.26更新)

MIDIファイルを入力とした分析:マルコフ過程としてのエントロピー計算結果(補遺)創作時期別集計

1.はじめに

 これまで数回に亘って、マーラーの交響曲の各作品毎の和音の状態遷移について、和音ないし和音の遷移パターンの異なり数、パターンの出現確率のエントロピー、マルコフ過程として見た場合のエントロピーの計算を行い、その結果を公開するとともに、計算結果に基づくクラスタ分析や主成分分析を行い、その結果を報告してきました。これまでの集計結果で明らかになったこととして、以下のように創作時期別に傾向に差がある点が挙げられます。

  • 全般的な多様性:後期になると多様性が増大する傾向がある。
  • 状態遷移の深さと多様性の関係:初期作品では深さが深くなるにつれて多様性が増大していくが、後期作品になると浅い状態遷移パターンが既に多様であり、深さに応じた多様性の増大は頭打ちになる傾向にある。
  •  マーラーの作品は決して均質ではなく、更に創作時期によって傾向が変化していくことが明らかになったと思います。そこで本稿では各作品毎ではなく、創作時期別に集計した結果、更にマーラーの交響曲全体での集計結果を報告します。今回の集計結果に対する関心として、複数の作品間でどれくらい和音の状態遷移パターンに重複があるかというのがあります。また交響曲全体での集計を行うことで、謂わばマーラーという作曲家を一つの状態遷移機械(「マーラー・オートマトン」)と見做した場合の振る舞いを把握することにもなると思います。複数の作品間での重複は、例えばパターン/系列長比について見れば、系列長は作品が3つあれば3曲分の単純合計に概ねなるのに対して、パターンが仮に全く同一であるとしたならば、パターン/系列長比は1/3に低下することになります。一方、エントロピーについて言えば、出現するパターンが同一でそれぞれの出現確率も同一であればエントロピーは変わらないので、それらを基準に結果を確認していくことになります。一方で、各作品毎に系列長が異なり、それがエントロピーの値に影響するように、創作時期別にグルーピングをした場合についても、各グループの系列長は同一ではないことがエントロピーの値に影響することを踏まえて結果を確認する必要があります。また各拍毎にパターンを抽出した場合(A)と各小節毎に先頭の拍のパターンを抽出した場合(B)については、(B)の系列長が小節数の累計になるのに対して(A)の系列長は総拍数の累計で、系列長は(A)の方が(B)よりも数倍長くなることが(A)(B)のエントロピーの値の違いに影響することについても同様です。なお、これまでの報告では、エントロピーの計算に際して、吸収的状態を含む等の理由から、そもそも状態遷移マトリクスが構成できない場合も含め、定常状態で収束が起きてエントロピーが0になってしまうケースがしばしば起きて問題になりましたが、今回のように個別の作品毎ではなく、複数の作品の重ね合わせに対して計算を行う場合には、吸収的状態が生じにくくなることが想定されます。(各作品毎の集計の場合には、基本的に各作品がウニカートな存在と見做されるのに対し、今回の場合には、各作品はグルーピングされた集団におけるサンプルに相当することになります。但し、エルゴード性が成立していると見做すことは相変わらずできません。そもそも創作時期によって傾向が変わるということ自体、マーラーの作品についてエルゴード性を仮定できないことを告げており、「マーラー・オートマトン」の挙動はエルゴード的ではありません。)実際に単純マルコフ過程としてのエントロピー計算では、吸収的状態は起きませんでした。一方、以下の報告には含めていませんが、各拍毎のパターンの系列を二重マルコフ過程として計算した場合には、交響曲全体についてエントロピーが0になることを確認しています。

     以下、計算結果に対するコメントはせずに、結果の報告のみを行い、これまでの一連の集計・分析の補遺とさせて頂きます。

    2.分析条件

     単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別しない(pcl)条件で各拍(A)/各小節頭拍(B)毎に抽出した和音パターンの系列を対象とし、集計は以下のように個別の交響曲ではなく、創作時期別のグループおよび交響曲全体について行いました。
    • 初期作品:第1~4交響曲
    • 中期作品:第5~8交響曲
    • 後期作品:「大地の歌」、第9,10交響曲
    • 交響曲全体:第1~10交響曲、「大地の歌」

     また集計は以下の項目について行いました。

    • 単純マルコフ・エントロピー
    • 深さ0~5の状態遷移パターン出現確率のエントロピー
    • 深さ0~5の状態遷移パターン数
    • 深さ0~5の系列長
    • 深さ0~5の状態遷移パターン数/系列長比

    3.分析結果

    (1)エントロピー

    (A)各拍

    (B)各小節頭拍

    (2)パターン/系列長比

    (A)各拍

    (B)各小節頭拍 


    [付録]アーカイブファイル和音状態遷移_マルコフ過程_エントロピー_マーラー交響曲_時期別.zipの中には以下のファイルが含まれます。

    (A)計算の入力データ

    交響曲全曲(第1~10交響曲、「大地の歌」)

    • all_A_pcl3_frq3.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • all_A_pcl3_transition.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    • all_B_pcl3_frq.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • all_B_pcl3_transition.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    初期交響曲(第1~4交響曲)
    • gm_symA_A_pcl3_frq3.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • gm_symA_A_transition.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    • gm_symA_B_frq.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • gm_symA_B_transition.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    中期交響曲(第5~8交響曲)
    • gm_symB_A_pcl3_frq3.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • gm_symB_A_transition.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    • gm_symB_B_frq.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • gm_symB_B_transition.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    後期交響曲(「大地の歌」、第9,10交響曲)
    • gm_symC_A_pcl3_frq3.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • gm_symC_A_transition.csv:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    • gm_symC_B_frq.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果
    • gm_symC_B_transition.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス
    (B)計算結果
    • gm_sym_entropy.xlsx:計算結果(初期/中期/後期/交響曲全曲)
      • シートA:各拍(A)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に関する計算結果
        • 単純マルコフ・エントロピー
        • 深さ0~5の状態遷移パターン出現確率のエントロピー
        • 深さ0~5の状態遷移パターン数
        • 深さ0~5の系列長
        • 深さ0~5の状態遷移パターン数/系列長比
      • シートB:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず/移置・転回を区別しない条件の和音パターン系列に関する計算結果
        • 単純マルコフ・エントロピー
        • 深さ0~5の状態遷移パターン出現確率のエントロピー
        • 深さ0~5の状態遷移パターン数
        • 深さ0~5の系列長
        • 深さ0~5の状態遷移パターン数/系列長比

    [ご利用にあたっての注意] 公開するデータは自由に利用頂いて構いません。あくまでも実験的な試みを公開するものであり、作成者は結果の正しさは保証しません。このデータを用いることによって発生する如何なるトラブルに対しても、作成者は責任を負いません。入力として利用させて頂いたMIDIファイルに起因する間違い、分析プログラムの不具合に起因する間違いなど、各種の間違いが含まれる可能性があることをご了承の上、ご利用ください。

    (2023.10.29公開)

    2023年10月26日木曜日

    MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移のエントロピーに基づく分析

    1.はじめに

     これまで幾つかの記事で状態遷移の集計方法の検討、検討内容に基づいた集計結果を公開を行い、次いでまず状態遷移パターンの出現確率に基づくエントロピーを計算した後、マルコフ過程と見做した場合のエントロピーの計算を行い、結果を報告してきました。

     一方、集計結果に基づく分析としては、まず状態遷移パターンの多様性に基づき、従来和音の出現頻度に基づいて実施してきた各種の分析(クラスタ分析・主成分分析)を適用してマーラーの交響曲間・マーラーと他の作曲家の作品間の比較・分類を行った結果を記事:後期マーラーの「挑戦」?:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの多様性に注目した予備分析において報告しています。

     そこで本記事では、和音の状態遷移の系列をマルコフ過程と見做した場合のエントロピーの計算結果を用いて、マーラーの交響曲間の比較・分類を行った結果を報告します。その際、比較対照のために、パターン数/系列長の比率の計算結果を用いた分析も並行して実施しました。パターン数/系列長の比率の計算結果を用いた分析は上記の通り既に実施・報告済ですが、ここではエントロピーの計算結果に基づく分析との比較対照を目的として、エントロピーの計算に用いたのと同一の抽出条件を用いて作成した和音パターンの遷移系列についてパターン数/系列長の比率の計算を行い、その結果に基づいて、エントロピーの計算結果に対してと同じ分析を実施したので、その結果も併せて報告します。(後述のパターン数/系列長の比率に基づく分析結果と、記事:後期マーラーの「挑戦」?:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの多様性に注目した予備分析の分析結果を比較して頂ければわかる通り、結果的には両者に大きな違いはなく、特に後期作品(「大地の歌」、第9、第10交響曲)が1グループを形成するという点は共通であることが確認できたことから、予備分析でも確認できた傾向は和音パターンの系列の抽出条件の細かい違いには依らず、比較的安定した特徴であると言えると思います。)

    2.分析条件

    • 入力データ:記事:MIDIファイルを入力とした分析:マルコフ過程としてのエントロピー計算結果で報告した、以下の条件で抽出した和音の系列をマルコフ過程と見做した場合のエントロピーの計算結果およびパターン数/系列長の比率の計算結果を用いました。
      • エントロピー
        • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic)。二重マルコフ・エントロピーは計算結果には含めてありますが、ほとんどの場合で0だったため、分析の入力には含めていません。
          • 単純マルコフ・エントロピー(markov3_tonic1)
          • 深さ0~4の状態遷移パターン・エントロピー(frq3_tonic0~4)
        • 各拍(A)/単音・重音を含む(cdnz)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic).。二重マルコフ・エントロピーは計算結果には含めてありますが、ほとんどの場合で0だったため、分析の入力には含めていません。
          • 単純マルコフ・エントロピー(markov_tonic1)
          • 深さ0~4の状態遷移パターン・エントロピー(frq_tonic0~4)
        • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別せず(pcl)
          • 単純マルコフ・エントロピー(markov3_pcl1)
          • 二重マルコフ・エントロピー(markov3_pcl2)
          • 深さ0~4の状態遷移パターン・エントロピー(frq_pcl0~5)
      • パターン数/系列長比
        • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic)。
          • 深さ0~4のパターン数/系列長比(3_tonic0~4)
        • 各拍(A)/単音・重音を含む(cdnz)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic).。
          • 深さ0~4のパターン数/系列長比(tonic0~4)
        • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別せず(pcl)
          • 深さ0~5のパターン数/系列長比(pcl_d0~5)
    • 分析手法:前回の状態遷移パターンの出現頻度を用いた分析と同様に、階層的クラスタ分析、非階層的クラスタ分析、主成分分析を行いました。階層的クラスタ分析としては、今回はcomplete法とward法の2種類、非階層クラスタ分析はk-means法を用い、Gap統計量に基づいてクラスタ数を指定しました。主成分分析に際しては、今回対象とする特徴量は全て同じ種類ですが、状態遷移の深さが増すと増大する性質を持つため、標準化を行わないと深さの大きいパターンの寄与が大きくなってしまうことが予め予想されたため、標準化を行うモードで分析を行いました。分析はR言語のバージョン 4.3.1をR Studio上で利用して実施しました。
    • 分析対象のデータ:今回はマーラーの交響曲のみ(第1~10交響曲、大地の歌(m1~10, erde):括弧内は以下に示す分析結果におけるラベルを表します。)を対象としました。集計・分析は基本的には曲単位で行いました。

    3.分析結果

    3.1.エントロピーに基づく分析の結果

    (A)クラスタ―分析

    以下に示す通り、complete法、ward法とも同じ分類結果を返しており、更にk-means法での3クラスタへの分割も階層クラスタ―分析の枝の分岐(上位の2つ)に対応しており、分類は安定しているものと考えられます。

    階層クラスタ―分析:complete法


    階層クラスタ―分析:ward法


    非階層クラスタ―分析:k-means法

    クラスタ数はGap統計のシミュレーション結果に基づき決定

    • 第1グループ:第1,第4交響曲
    • 第2グループ:第2,3,5,6,7,8交響曲
    • 第3グループ:大地の歌、第9,10交響曲

              1 2 3

     symA 2 0 2:初期(第1~4交響曲)
     symB 0 0 3:中期(第5~7交響曲)
     symC 0 0 1:第8交響曲
     symD 0 3 0:後期(大地の歌、第9,10交響曲)


     m1   m2   m3   m4   m5   m6   m7   m8 erde   m9  m10 
      1      3      3      1      3      3      3      3      2      2      2 

    (B)主成分分析

    主成分分析のサマリーを確認すると、第3主成分までで累積がほぼ97%であり、それ以下の成分の寄与は実質的にほとんどないことから、第1~3主成分までの結果を取得していますが、全体の2/3が第1主成分、3割弱が第2主成分で残りは数%に過ぎないので、以下では第1、第2主成分のみに絞って見ていくことにします。

                                    PC1    PC2     PC3     PC4     PC5
    Standard deviation     3.6140 2.3668 0.85460 0.55164 0.47722
    Proportion of Variance 0.6531 0.2801 0.03652 0.01522 0.01139
    Cumulative Proportion  0.6531 0.9331 0.96965 0.98487 0.99626

     2種のプロットを見ると、クラスター分析で分割された、第1,4交響曲、後期作品(「大地の歌」、第9,10交響曲)とそれ以外という3つのグループを確認することができます。そこで第1主成分・第2主成分それぞれについて、各グループの特徴を確認していくことにします。

    ggbiplotによる第1・2主成分軸でのプロット

     第1主成分については、第1、第4交響曲がマイナス(-)、後期(「大地の歌」、第9、第10交響曲)が中立(0)、それ以外がプラス(+)という傾向にあると言って良いでしょう。負荷を確認すると、全ての成分がプラスのときにプラスであることから、相対的にエントロピーが大きいかどうかによる分類と考えることができそうです。更に負荷を細かくみると、状態遷移パターンのエントロピーについては、深さが浅い場合の得点に寄与が小さく、深さが深くなった時に得点が高くなる場合に特に第1主成分得点が大きくなることがわかります。そしてこの特徴が該当するのは特に中期の作品であるということが言えそうです。

    第1主成分得点

    第1主成分負荷

    続けて第2主成分ですが、これは後期作品がプラス(+)でそれ以外が第6交響曲がややプラスであることを除くと、概ねマイナス(ー)であることがわかります。負荷を確認すると、これは興味深い特徴を持っています。つまり状態遷移パターンのエントロピー、マルコフ過程としてのエントロピーのいずれについても、深さが浅いものがプラスで深くなるにつれてマイナスになっていく傾向があるものが、この成分の得点が高いことになります。これは予備分析において、遷移パターン数と系列長の比について見た時に、後期作品は浅いところから割合が高くなってしまって、深くなっても頭打ちになるのに対して、特に初期作品では浅いところでの割合は低いのに対して、深くなるにつれて系列数が増えていく傾向にあるという点が確認できましたが、それと類似した傾向であると考えられます。であるとすれば、本分析において、この後結果を報告するパターン数/系列長比に基づく分析でも同様の結果がでることが予想されます。更に第2主成分について興味深いのは、マルコフ・エントロピーが小さい程得点が高くなる傾向に対して、後期作品の得点が高くなっていることで、特に移置・転回を考慮しない系列での二重マルコフ・エントロピーと、特に移置・転回を考慮した系列でのマルコフ・エントロピーについて大きなマイナスの負荷を持っている点が注目されます。この点については、最後の考察で取り上げたいと思います。

    第2主成分得点



    第2主成分負荷


    3.2.パターン数/系列長比に基づく分析の結果

    エントロピーに基づく分析の結果を踏まえて、パターン数/系列長比に基づく分析の結果について見ていきます。

    (A)クラスター分析

    まずクラスタ―分析ですが、2つの階層クラスタ―分析の結果について、後期作品がグループ化される点はエントロピーに基づく分析と共通ですが、それ以外の作品のグルーピングについては入れ替わりが見られること、またcomplete法とward法では第1交響曲の枝分かれの位置が異なることから、やや分類が不安定であることが窺えます。それは非階層クラスタ分析の結果についても言えて、後期作品とそれ以外の2つに分割するのが比較的安定しているようです。とはいえ、後期作品以外のグループでは第1交響曲が稍々孤立気味でありつつ、その他の作品についての枝分かれは共通していて、一定の傾向によって並んでいることが想定されますので、その点を主成分分析によって確認してみることにします。

    階層クラスタ―分析:complete法


    階層クラスタ―分析:ward法




    非階層クラスタ―分析:k-means法

    クラスタ数はGap統計のシミュレーション結果に基づき決定

  • 第1グループ:第1~8交響曲
  • 第2グループ:大地の歌,第9,10交響曲
  •           2 3

     symA 0 4:初期(第1~4交響曲)
     symB 0 3:中期(第5~7交響曲)
     symC 0 1:第8交響曲
     symD 3 0:後期(大地の歌、第9,10交響曲)


     m1   m2   m3   m4   m5   m6   m7   m8 erde   m9  m10 
      2      2      2      2      2      2      2      2      1      1      1 

    (B)主成分分析

    主成分分析のサマリーを確認すると、第1主成分で3/4、第2主成分が2割を占めて、上位2つだけで累積で約95%に達しています。第3主成分まででほぼ99%となり、残りの寄与は1%を切ることから、第3主成分まで得点や負荷のデータを取りましたが、以下では第1主成分・第2主成分のみについて見ていきます。

                                    PC1    PC2     PC3     PC4     PC5

    Standard deviation     3.441 1.8254 0.76159 0.36048 0.25050
    Proportion of Variance 0.740 0.2083 0.03625 0.00812 0.00392
    Cumulative Proportion  0.740 0.9483 0.98455 0.99267 0.99660

    まず2種のプロットを確認すると、左上の象限に後期作品が固まり、原点を挟んで概ね反対側のにその他の作品が広がっている傾向が読み取れます。最も左上には第1交響曲が位置し、次いで第6交響曲が来て、最も右には第4が位置し、その間に第2,第3のグループ、第5,第7,第8のグループが位置しています。主成分毎の軸方向でみた場合には、特に第2主成分については、第1交響曲と第6交響曲が上半分に入っているため、後期作品以外のグループの中でも第2主成分でもって区別することができそうです。

    ggbiplotによる第1・2主成分軸でのプロット

    第1主成分は、第6交響曲が若干外れているものの、巨視的には時代区分に沿って、後期になればなるほど得点が小さくなるという傾向を持っていると言えそうです。負荷を確認すると全ての成分がマイナスですから、第1主成分については、パターン数/系列長比について見た場合、初期から後期にかけて、その比が増大していく傾向にあることが読み取れます。そしてこれは、予備分析においても確認できた点でした。それでは本分析のエントロピーに基づく分析でも確認でき、予備分析でも確認できたもう一つの傾向、状態遷移パターンの深さ方向に沿った変化はどうなっているのでしょうか?以下に見るように、それは第2主成分に明確に現れていることが確認できます。

    第1主成分得点

    第1主成分負荷

    第2主成分得点は、既に二次元プロットで確認した通り、後期3作品以外では、第1、第6交響曲がプラスで、残りの作品はマイナスの得点となっているが、負荷を確認すると、本分析で入力とした3種類の系列抽出条件のそれぞれについて、深さが浅いものの得点が大きく、深さが深いものの得点が小さい程、第二主成分の得点が大きくなるという傾向が鮮明に現れていることが確認できます。従って、予備分析で確認できた傾向および本分析のエントロピーに基づく分析で確認できた傾向は、パターン数/系列長比に基づく分析の結果でも明らかであり、かつそれが、状態遷移パターンの深さに沿ったものであることが明瞭になったように思われます。

    第2主成分得点

    第2主成分負荷


    4.まとめにかえてー予備分析結果との比較ー

     本稿では、状態遷移エントロピーに基づいてマーラーの交響曲の分類や特徴の分析を試みましたが、比較対象のために行ったパターン数/系列長比に基づく分析も含めて、記事:後期マーラーの「挑戦」?:MIDIファイルを入力とした分析:状態遷移パターンの多様性に注目した予備分析の分析において確認できた点が再確認できたように思えます。(尚、具体的な主成分分析結果においては、正負の符号は逆転することがありますが、ここではそのいち一方に固定して記述します。)即ち、
    • 第1主成分:全般的な多様性(+:多様/-:多様でない)
    • 第2主成分:状態遷移の深さと多様性の関係(+:深さに応じて多様性拡大/-:浅いところで既に極限近くまで多様なため、深くなっても多様性が大きくする余地がない)
    この傾向は全ての分析において共通していることが今回の分析の結果によって裏付けられています。そしてこの点をマーラーの交響曲について見た時に、以下の点についても、本分析の結果はそれを裏付けるものであると考えられます。その意味では、多様性を手掛かりにした「後期マーラーの挑戦」は本分析でも確認できたように思います。
    • 全般的な多様性:後期になると多様性が増大する傾向がある。
    • 状態遷移の深さと多様性の関係:後期作品は和音のパターンや浅い状態遷移パターンが多様であり、状態遷移パターンが深くなっても多様性が更に拡大することはないのに対して、その他の交響曲では深くなるのに応じて多様性が拡大する傾向にある。
     それでは本分析固有の結果というのは無く、予備分析の結果の確認に留まるのでしょうか?或る意味ではそうであって、予備分析では分析対象とならなかったエントロピーに基づく分析でも、確認できた傾向は同じものであるには違いありません。その一方で、エントロピーに基づく分析結果の中で指摘したこととして、第2主成分においてマルコフ・エントロピーが小さい程得点が高くなる傾向に対して、後期作品の得点が高くなっていることがあります。特に移置・転回を考慮しない系列での二重マルコフ・エントロピーと、特に移置・転回を考慮した系列でのマルコフ・エントロピーについて大きなマイナスの負荷を持っている点が注目されます。これは状態遷移パターンのエントロピーの傾向とは向きが逆であり、パターン数/系列長比の傾向とも逆になっています。この点について実際にエントロピーの計算結果がどうであったかを確認してみると、実際、後期作品のマルコフ・エントロピーは小さいことがわかります。このことはどのように考えればいいでしょうか?
     予備分析で確認できたことは、特に後期作品ではパターン数/系列長比が深さが浅いところでも非常に高く、9割を超えていること、そのために深さが深くなっても、それに応じて比が更に高くなることが出来ず、寧ろ頭打ちになる傾向が見られるということでした。そこで極端な場合として、出現する全ての状態遷移パターンが1回しか発生しない場合を考えてみます。このとき状態遷移の系列は、いわば一筆書きとなり、最後に出現するパターンが吸収的状態となるだけでなく、途中の系列も実は確定的であり、状態遷移マトリクスの各行を見た場合に、最後に出現する状態が全ての列において0になる以外、他の全ての行について、ある列の確率が1で他の列は0になっている筈です。更にもう一つ、全ての状態を1回ずつ通って最初に戻り無限に循環するパターンを考えてみると、この状態遷移マトリクスは全ての行である列の確率が1、それ以外の列の確率は0となり、エントロピーの計算結果は0になります(経路が一意に決まっているので、これは当然です)。一方、この場合の状態遷移パターンのエントロピーはある系列長で取りうる最大の値になります。
     このようにして出現するパターンは出現しうる極限まで多様になる一方で、状態遷移プロセスは寧ろ確定的になり、ある状態から他の複数の状態に分岐することがなくなっていくことがわかります。またマルコフ過程として見た場合のエントロピーと状態遷移パターンの出現頻度のエントロピーのギャップも明らかになります。そしてこれは人為的な想定ではなく、実際の集計結果を見ても、マーラーの作品の場合、特にその後期作品の場合には、深さが浅い部分でも寧ろこの極限状態に近い状況であることを既に確認しているわけですから、マーラーの後期作品において状態遷移パターンの出現頻度のエントロピーが大きいにも関わらず、マルコフ過程としてのエントロピーが寧ろ小さくなることも説明がつくように思われます。(2023.10.26)


    [付録]アーカイブファイル和音状態遷移_マルコフ過程_エントロピー_マーラー交響曲_拍毎.zip の中には以下のファイルが含まれます。

    (A)計算の入力データ

    サブフォルダ cdnz_tonic_transition

    • *_A_cdnz_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含む(cdnz)/移置・転回(長短三和音のみ)を区別する(tonic)条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス

    サブフォルダ cdnz_tonic_transition2

    • *_A_cdnz_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含む(cdnz)/移置・転回(長短三和音のみ)を区別する(tonic)条件の和音パターン系列を二重マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス

    サブフォルダ cdnz_tonic_frq

    • *_A_frq_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含む(cdnz)/移置・転回(長短三和音のみ)を区別する(tonic)条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果

    サブフォルダ cdnz3_tonic_transition 

    • *_A_cdnz3_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず(cdnz3)/移置・転回(長短三和音のみ)を区別する(tonic)条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス

    サブフォルダ cdnz3_tonic_transition2 

    • *_A_cdnz3_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず(cdnz3)/移置・転回(長短三和音のみ)を区別する(tonic)条件の和音パターン系列を二重マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス

    サブフォルダ cdnz3_tonic_frq

    • *_A_frq3_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず(cdnz3)/移置・転回(長短三和音のみ)を区別する(tonic)条件の和音パターン系列に出現する和音パターンの出現頻度の集計結果

    サブフォルダ cdnz3_pcls_transition

    • *_A_cdnz_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず(cdnz3/移置・転回を区別しない(pcl)条件の和音パターン系列を単純マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス

    サブフォルダ cdnz3_pcls_transition2

    • *_A_cdnz3_pcl2.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず(cdnz3/移置・転回を区別しない(pcl)条件の和音パターン系列を二重マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクス

    サブフォルダ cdnz3_pcl_frq

    • *_A_frq_tonic.csv:各小節頭拍(B)/単音・重音を含まず(cdnz3/移置・転回を区別しない(pcl)条件の和音パターン系列をに出現する和音パターンの出現頻度の集計結果

    (B)計算結果・分析の入力データ

    サブフォルダ entropy

    • entropy_A_tonic.xlsx:マルコフ過程として見た場合の状態遷移マトリクスに基づくエントロピー計算結果(本分析の入力)
      • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic)。
        • 単純マルコフ・エントロピー(markov3_tonic1)
        • 二重マルコフ・エントロピー(markov3_tonic2)
        • 深さ0~4の状態遷移パターン・エントロピー(frq3_tonic0~4)
      • 各拍(A)/単音・重音を含む(cdnz)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic).。
        • 単純マルコフ・エントロピー(markov_tonic1)
        • 二重マルコフ・エントロピー(markov_tonic2)
        • 深さ0~4の状態遷移パターン・エントロピー(frq_tonic0~4)
      • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別せず(pcl)
        • 単純マルコフ・エントロピー(markov3_pcl1)
        • 二重マルコフ・エントロピー(markov3_pcl2)
        • 深さ0~4の状態遷移パターン・エントロピー(frq_pcl0~5)

    サブフォルダ ratio

    • ratio_tonic_A.xlsx:和音パターンの出現頻度の集計結果に基づくパターンと系列長の比率の集計結果(本分析の入力)
      • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic)。
        • 深さ0~4のパターン数/系列長比(3_tonic0~4)
      • 各拍(A)/単音・重音を含む(cdnz)/移置を区別・転回は長短三和音のみ区別(tonic).。
        • 深さ0~4のパターン数/系列長比(tonic0~4)
      • 各拍(A)/単音・重音は対象外(cdnz3)/移置・転回を区別せず(pcl)
        • 深さ0~5のパターン数/系列長比(pcl_d0~5)
    (C)分析結果

    サブフォルダ ratio_A:エントロピーに基づく分析結果

    • 入力データ
      •  entropy_tonic_A.csv:分析対象の作品毎の和音パターンのエントロピー
      •  gm_sym_col.csv:対象作品の創作時期に対応した色(主成分得点グラフで使用)
      •  gm_sym_label.csv:対象作品の作品名ラベル
    • 主成分分析結果
      •  eigen.jpeg:固有値のグラフ
      •  prcomp_T.jpeg:主成分分析(scale=T)結果のbiplotグラフ
      •  ggbiplot12.jpeg:主成分分析結果(第1,第2成分)のggbiplotグラフ
      •  ggbiplot23.jpeg:主成分分析結果(第2,第3成分)のggbiplotグラフ
      •  pr_score-[1-3]T.jpeg:主成分得点のbarplotグラフ
      •  prcomp_PC[1-3].jpeg:主成分負荷量のbarplotグラフ
    • 階層クラスタ分析結果
      •  hclust_complete.jpeg:complete法での分類結果
      •  hclust_wardD2.jpeg:ward法での分類結果
    • 非階層クラスタ分析結果
      •  clusGap.jpeg:ギャップ統計量のシミュレーション結果サンプル
      •  kmeans3.csv:kmeans法(クラスタ数=3)での分類結果
      •  kmeans3.jpeg:kmeans法(クラスタ数=3)での分類結果のclusplotグラフ
    • 分析履歴
      •  hist.txt:R言語を用いた分析履歴(Windows版R言語 ver.4.3.1をR studio上で実行)。
      •  主成分分析結果サマリを含む。

    サブフォルダ ratio_A:パターン/系列長比に基づく分析結果
    • 入力データ
      •  ratio_tonic_A.csv:分析対象の和音パターンの作品毎の出現頻度(深さ0~5)
      •  gm_sym_col.csv:対象作品の創作時期に対応した色(主成分得点グラフで使用)
      •  gm_sym_label.csv:対象作品の作品名ラベル
    • 主成分分析結果
      •  eigen.jpeg:固有値のグラフ
      •  prcomp_T.jpeg:主成分分析(scale=T)結果のbiplotグラフ
      •  ggbiplot12.jpeg:主成分分析結果(第1,第2成分)のggbiplotグラフ
      •  ggbiplot23.jpeg:主成分分析結果(第2,第3成分)のggbiplotグラフ
      •  pr_score-[1-3]T.jpeg:主成分得点のbarplotグラフ
      •  prcomp_PC[1-3]T.jpeg:主成分負荷量のbarplotグラフ
    • 階層クラスタ分析結果
      •  hclust_complete.jpeg:complete法での分類結果
      •  hclust_wardD2.jpeg:ward法での分類結果
    • 非階層クラスタ分析結果
      •  clusGap.jpeg:ギャップ統計量のシミュレーション結果サンプル
      •  kmeans2.csv:kmeans法(クラスタ数=6)での分類結果
      •  kmeans2.jpeg:kmeans法(クラスタ数=6)での分類結果のclusplotグラフ
    • 分析履歴
      •  hist.txt:R言語を用いた分析履歴(Windows版R言語 ver.4.3.1をR studio上で実行)。 主成分分析結果サマリを含む。
    • 共通補助データ
      •  gm_sym_col.csv:対象作品の創作時期に対応した色(主成分得点グラフで使用)
      •  gm_sym_label.csv:対象作品の作品名ラベル

    (2023.10.26公開)

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