2007年5月12日土曜日

フランソワーズ・ジルーのアルマ・マーラーに関する小説に出てくる、作品創作に関するマーラーの言葉

フランソワーズ・ジルーのアルマ・マーラーに関する小説に出てくる、作品創作に関するマーラーの言葉(原書p.71, ドイツ語版p.56, 邦訳『アルマ・マーラー ウィーン式恋愛術』, 山口昌子訳, 河出書房新社, 1989, p.77)
Mahler est un homme de foi. Interrogé, plus tard, dans le cadre d'une enquête sur la question : « Pourquoi créez-vous ? » il aura cette belle réponse : « Tisser la vêtement vivant de Dieu, ce serait au moins quelque chose ... »

( Mahler war zeitlebens ein gläubiger Mensch. Später einmal stellte man ihm im Rahmen einer Umfrage die Frage » Warum glauben Sie? « und er gab darauf folgende poetische Antwort : » An Gottes lebendigen Kleid mitzuweben, das wäre doch immerhin etwas ... « )

マーラーは信仰の人である。後にアンケート調査で「なぜ創作するのか?」という設問に立派な回答を寄せる。「神の生き生きとした衣を織ることは、それだけで何かである…」 

注:問いや地の文についていえば、ドイツ語訳は必ずしも忠実な翻訳ではないようだが、これは翻訳(それも、もしかしたら誤訳に近い)なのか、 それとも、地の文はともかく、問いと答えの方はこちらがオリジナルなのか? そもそも、この質問と答えは一体、何時行われたものなのだろうか?  (アメリカで、とかいうことは如何にもありそうな感じだが、だとしたら元は英語かも知れない? そもそもこの件が全部ジルーの「創作」ということは まさかないとは思うが、、、) de La Grangeの伝記をきちんと読めばどこかにあるのかも知れないが、まだ探せていない。 ご存知の方がいらしたら教えていただきたくお願いしたい。(2007.5.12)

上記の問いは、その後、マーラーの書簡集を確認していく中で解決した。1924年版書簡集原書198番, pp.216-7。1996年版書簡集では163番, pp.167-8(邦訳pp.152-3)。 1979年版のマルトナーによる英語版では154番, pp.175-6。)として所収のリヒャルト・バトカ宛書簡に基づくものであり、「神の衣を織る」というのは、ゲーテの『ファウスト 第1部』の地霊の台詞に基づいたものである。以下のブログ記事を参照のこと。


なお、マーラーの言葉の、それ自体は印象的なこの引用がジルーによって行われる文脈は、この本がアルマに関する本であるから当然なのだが、アルマがマーラーと出会って後、婚約に至る部分である。従ってそれは1901年のことなのだが、引用の典拠である日付のないマルトナー宛書簡はと言えば、1896年にハンブルクにて書かれたと推測されているし、その書簡を「アンケートの回答」であると注記したアルマ自身によって編まれた1924年版書簡集以降、1996年版に至るまで、その推測は基本的には踏襲されている点を注記しておきたい。つまるところジルーの「後に」という記述は、そうした観点からすれば矛盾していることになるのである。もっとも、上記のブログ記事にも記載の通り、1996年版書簡集の編者であるヘルタ・ブラウコップフによれば、マルトナー宛書簡がもっと遅くに書かれた可能性は残されており、何らかの理由でジルーが1988年刊行の著作執筆時点で、そちらの解釈に(勘違いではなく)意図的に与した可能性も否定できないのだが…
(2021.7.12追記, 2024.7.10 邦訳を追加し、追記。)

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