« Si l'on savait comment Mahler nouait sa cravate, on apprendrait plus qu'en trois années de contrepoint au Conservatoire » : cette boutade d'Arnold Schoenberg suffira, nous l'espérons, à justifier aux yeux du lecteur la démesure de notre entreprise biographique.
「マーラーがどのようにネクタイを締めたかがわかれば、音楽院で3年間の対位法を学ぶよりも多くのことを理解できるだろう。」 アルノルト・シェーンベルクのこのジョークが、読者の目に映る我々の伝記的企ての行き過ぎを正当化するのに十分であることを願っています。マーラーの伝記的研究の金字塔とされるアンリ・ルイ・ド・ラ・グランジュの「マーラー」はまず第1巻のみ英語で1973年に出版されたが、続巻が 刊行されること無く、増補改訂版第1巻が今度はフランス語で1979年に出版される。上記はこのフランス語版の第1巻の序文の最初の一文である。
フランス語版は結局3巻本、総ページ数で3000ページを超える大著となるが1984年に一旦完結する。しかし、その後更に増補・改訂の作業が 行われ、再び英語版で全4巻のうち第3巻までが現在刊行済み、最後の1冊もすでに刊行予告はされていて、その完結が待たれている状態にある。 永らく参照されてきたフランス語版も新しい英語版の完結によりその使命を終えることになるのだろう。その膨大な分量から、マーラー文献として 必ず言及されはしても、これまで日本語訳が刊行されたことはなかったが、そうこうしているうちに結局翻訳はなされずじまいになりそうである。
この大著の冒頭、このような大部な伝記を書くことの意義を述べるために、いきなりシェーンベルクのことばが引用されるのは非常に印象深い。 今日的な冷静な視点からは、この言葉はマーラーの「神格化」の証拠扱いされるのであろうし、アンリ・ルイ・ド・ラ・グランジュ自身の時折あまりにも素朴な 伝記主義に留保がつくのもわからなくもないが、いずれにせよ、ある個人についてこれだけのドキュメントが書かれたという事実に対する驚きがそれに よって減殺されることはないだろうし、マーラーの音楽の魅力が、その生き様との密接な、そして(時として、あまりに)「誠実な」関係にあることも 否定することはできないだろう。(2007.7.7マーラーの誕生日に, 2024.8.12 邦訳を追加。)
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